“ニッポン”
 

 この日は朝から天気がすごく良くて、僕はいつになく「どこかに出掛けたい!」という欲求に駆られた。
 と、なぜか頭に浮かんだのが“神田神保町”だった。
 神保町には、高校〜大学の頃に、足繁く通ったものだった。古本屋が建ち並ぶ靖国通りを、古本をひやかしながら宛てもなくフラフラと歩いているだけで、何だかとても楽しかった。
 …そう言えば、就職して東京に出て来てからは一度も行っていないよなぁ。
 よし!ひさしぶりに行ってみよう、神保町へ。
 
 東西線の“九段下”の駅に着いて、神保町方面に向かってのんびり歩いて行こうかと思ったのだが、少し気が変わった。
 神保町に行く前に、『靖国神社』に寄ってみようと思ったのだ。
 青い空をバックに聳える大鳥居と、参道に連なる初夏のような鮮やかな緑の並木を見て、何となくそうしたくなった。

 『靖国神社』と言うと、公人の参拝が何かと問題になる場所だ。
 この神社には、“天皇に忠誠を誓い、そのために戦争で命を落とした人々”が“神様”として祀られている(病死など一部の戦没者を除いて)。
 このことに関しての僕個人の意見は…ちょっとここで書くのが難しい。なかなかそう簡単に白黒つけられるようなことでは無いと思うしね。
 でも、ただひとつ言えることは、もしも宗教上差し障りが無いのだったら、一度は訪れてみると良いんじゃないか、と。
 この神社の境内に入ると、神社の佇まいがどうのこうのと言うよりも、そこに参拝に来ている人たちの放つ独特の雰囲気に気づくだろうと思う。
 鳥居をくぐるたびに深深と頭を下げ、拝殿の前に立ち尽くし、何度も何度もお辞儀を繰り返すおじいさんの姿を見ると、なんともせつないような、怖いような気持ちに襲われる。
 彼らは、一体“何に”向かって、これほどまでに深深と最敬礼をしているのか。死んでいった戦友のためなのか。それともそのさらに向こう側にあった、もっと“大きなもの”に対してなのか…
 とにかく、ここに来ると、“戦争”とか“天皇制”とか云う普段忘れているものが、実はまだ身近でくすぶっているのだということを強く感じる。
 いつもは水の底でドロリと沈殿している“何か”が、波打ちながらゆらゆらと蠢き始めるような感覚。
 ここは、“国家”とか“戦争”とか、それに纏わりつくメンタリティを実感させる場所だ。それを良しとするか否かに関わらず。
 
 昔、学生のときにここへ来たときのことを、僕はたぶん一生忘れない。
 その日はたまたま何かの祭事があったらしく、境内にはきちんと正装をした老人がたくさん参拝に訪れていた。
 中には軍服を着ている人まで居た。
 周囲には右翼団体の街宣車が殺到し、大音量で軍歌を流している。その軍歌を聴き、一緒に口ずさんだり、涙を流したりする老人たち。
 ―― 僕は、そこに居るのがとても怖くなって、逃げるように立ち去った。
 あのとき感じた恐怖感が一体何だったのか。それが僕には未だに分からない。…分からなかったから、怖かったのかもしれない。

 でも、この『靖国神社』は、都会のど真ん中にポッコリと出没した、緑の多い“憩いの場”でもあったりする。
 ちょうど昼時だったので、参道や境内にある休憩所やベンチは、そのほとんどがサラリーマンやOLに占拠されていた。
 …何だか、オープンエアの社員食堂状態。上に書いたようなヘビーな気持ちがバカバカしくなってくるぐらいに、ムチャクチャくつろぎモード入ってる感じ。
 一方では、かつての戦争の空気を重く背負ったままの人々が、その一方ではそんなことはお構い無しで昼休みをのんびりと過ごす人々が、ひとつの空間に居る。…なんだか面白いなぁ、と思う。
 僕も、境内の裏手にある“神池”という池のほとりで、ベンチに腰掛けて少しの間ボケ〜ッと池を眺めた。
 ときどき、すぐ近くにある法政大学のほうから、「ウオ〜ッ!」というような声と、「ドンドンドンドン」という太鼓の音が聞こえてくる。…何やってるんだろう?法政大学。応援団の練習か?それとも何かの試合でもやってるんだろうか?
 その謎の歓声&太鼓の音、それから車の音などの街の音が少々騒がしかったが、何だかとても落ち着いた気持ちになる。
 う〜ん、サラリーマンの人たちが、ここで憩ってるのも分かるよなぁ。東京って、こういう“雑踏の中のオアシス”っぽい場所が意外と多い。
 周囲がガチャガチャと鬱陶しいぶん、余計にこんな空間があることに安らぎを感じるのかもしれないよね。
 …ここが『靖国神社』だということも半ば忘れて、僕はぼんやりと池や樹木や空を見る。ハ〜ッ、ずっとこうして日向ぼっこしていたいなぁ…
 あ!そうじゃない!僕は“神保町”に行く予定だったんじゃんか。
 『靖国神社』を後にして、神保町方面に向かって靖国通りを下っていくことにする。
 

“靖国神社”の参道入り口。
第一鳥居。すごくデカくて立派な鳥居。
ちょっと圧倒されるほどです。

  

鳥居をくぐって参道を進む。
整然とした参道。
並木の両脇にはベンチなどもあります。

  

これは“慰霊の泉”。参道の脇にある。
戦地で水不足に苦しんだ戦没者のために、
作られたんだそうだ。

  

都内の名物(?)・カラス。
とにかく東京と云う街はカラスが多い。
まさにカラス天国。食べ物には苦労しない。

    

参道のど真ん中に立つ銅像。
大村益次郎という人の像です。
近代日本陸軍の創始者だそうです。

  

“第二鳥居”とその奥に見える“神門”。
左には手水舎(手を清める所)もあります。
…神社だからね。

  

“神門”の扉にある巨大な菊のご紋。
直径1.5mあるんだって。インパクト大。
外国人が記念写真撮ってた…(^_^;)

  

これが東京の桜の開花の目安になる“標準木”。
今はもうすっかり葉桜になっちゃってます。
花見のときは大盛況らしい。

  

白い鳩。
普通の土鳩はあまり居ません。
ここで飼ってるんだろうか?

  

またまた鳥居が…
その奥にあるのが“拝殿”。
さらに奥には“本殿”があります。

  

本殿のまたさらに奥に“霊爾簿奉安殿”が。
つまり、戦没者名簿が納められているわけです。
深深と頭を垂れる参拝者…

    

“昇殿参拝”という特別な参拝のスケジュール。
当然と言えば当然なんだけど…
未だに続いている戦争の記憶。

  

境内の脇にある“能楽堂”。
ここには相撲の土俵まであります。
どこまでも“日本”であります。

  

奥にある建物は“就遊館”。遺品などを展示。
右にある馬の像は“戦没馬慰霊像”。
軍馬・伝書鳩・軍犬を供養してます。

  

これも“就遊館”のすぐそば。
右にあるのは“戦艦大和”の大砲(?)の玉。
おじさんと同じぐらいの大きさ。

  

展示されてると何気なく見ちゃうけど…
こういうものがウヨウヨとある“戦場”って…
やっぱり怖いやねぇ。

  


境内の裏側にある“神池”。
ほとりには茶室なんかもあります。
みんなベンチでくつろいでいます。

  

周囲を取り囲むビル群。
でも、この神社は実に静か。
ちょっとしたエアポケットのように。

  

“九段坂上”のバス停。
場所柄(?)右翼系の張り紙が柱いっぱいに。
「張り紙禁止」の注意書きも虚しく…

  

九段下の歩道橋から大手町方面を見る。
この周辺はまさにオフィス街。
大学も多いんだよね。

  

 『靖国神社』から出ると、すぐ隣りにあるのが『日本武道館』。
 『日本武道館』と言えば、そりゃ〜やっぱりミュージシャンの憧れでしょ〜。「いつか俺も武道館をファンでいっぱいにするぐらいのスターになっちゃる!」と、みんな心に誓うでしょ〜、絶対。(…ホントか?)
 今でこそドームだアリーナだと巨大なキャパを擁する場所があちこちにあるけれど、それでもやっぱり武道館には特別なステータスがある。…俺はミュージシャンか?
 でも、実は僕、武道館でライブを観たことがないんだよねぇ。何しろ横須賀から九段下まで出て来るのって、かなり大変だったし。って言うか、そもそもライブそのものにあまり行かなかったからなぁ。
 
 『武道館』で真っ先に思い出すのが、爆風スランプの『大きな玉ねぎの下で』という曲。
 この曲がヒットしていた当時、僕はこの曲が死ぬほどキライで、カラオケなんかで誰かがこれを歌い出そうものなら、トイレに行く振りをしてその場から避難するほどだった。「しみったれた歌を歌いやがって〜!」と心の中で毒づいたものだ。
 “しみったれ系”と僕が勝手にカテゴライズした音楽―― 例:槙原○之、オフ○ース、K○N、など―― に、一時期猛烈な嫌悪感を抱いていたのは、たぶん僕自身がしみったれていて、でもそれを認めたくなかったからだろうと思う。今では、それほどイヤでもないんだけど。かと言って、進んで聴くことも無いが。
 それでも、はじめて『武道館』の前を通り掛ったときに屋根の上のタマネギ状のオブジェを発見したときには「あ〜、これがあの歌の…」と思ったりした。ようするにミーハーなんだよね、きっと。
 
 この『日本武道館』は、『皇居』とほとんど隣り合わせみたいな状況で建っている。
 『皇居』って周囲を“お濠”で囲まれているわけだけど、『武道館』の辺りのお濠は“千鳥ヶ淵”と呼ばれていて、桜の名所で有名。
 残念ながらもうすっかり花は終わってしまっていたけど、ここが満開になるとそりゃあもう素晴らしい眺めなのだ。
 「オ〜!これぞニホンのサクラですねぇ!ワンダフル!」と、なぜか外人状態になっちゃうぐらい、見事な景色が拝める。
 …しかし、『靖国神社』といい、『日本武道館』といい、『皇居』といい…おまけに桜でしょ?
 何だかすご〜く“濃ゆい”気がする。これでもか!と言わんばかりに“日本”な街だよね、ここって。
 とか何とか思っていると、僕の目の前を紫色の髪&青いカラーコンタクトでバッチリ決めた女子が通り過ぎて行った。
 …僕は決して国粋主義ではないけれど、そのいでたちはどうかと思うぞ。「アンタ何人(なにじん)?」って感じ…
 

“千鳥ヶ淵”。
都内屈指の桜の名所としても有名。
ここの桜はホントにスゴイよ〜♪

  


この濠の向こうに皇居がある。
僕は一度だけ入ったことがあります。
…でも、あんまり覚えてない(^_^;)

  

分かりにくいかもしれないけど…
奥に見えるのが『日本武道館』。
てっぺんに“光るタマネギ”が(by爆風スランプ)。

    

左の写真の場所から中へ進むと“田安門”が出現。
ここをくぐると武道館が…
コンサートとかのときにもここをくぐるの?

  

これが武道館だ!
この日は専門学校の入学式が執り行われていた。
この学校、僕の友達も何人か通ってました。
   

手前に菜の花、奥にはスミレ(?)。
黄色と薄紫が目に沁みます。
写真を撮ってる人もたくさんいました。