存在意義を問ふ人
 
 
 『玉泉洞王国村』から、一気に北部・部瀬名を目指すK。
 このとき、僕はつくづく「コイツとはホントに付き合いきれんわ!」と思っていた。
 それほど『万国津梁館』に行きたければ、はじめっから部瀬名を目指せばいいものを…正直言って、僕はKの思考回路をかなり怪しんだ。
 この男の“ただひたすらドライブ、しかも非効率的過ぎ”な素行に関しては、昨日今日に始まったことではないので、多少のことなら大目に見よう…という余裕ぐらいは持ち合わせていたつもりだったんだが――
 今回のこのサメ・ドライブのタチの悪さは、ヘタにKが目的意識を持っている点にある。
 「…『万国津梁館』ねぇ…ハァ〜」
 「何ため息ついてんの?」
 
 途中、玉城村の海の色がとてもキレイだったので、僕らは“知念海洋レジャーセンター”に立ち寄った。ここにある桟橋からは、“コマカ島”という小さな無人島に行く船が出ている。
 「“コマカ島”に行ったのって、もうだいぶ昔だよなぁ」
 「そうだな、え〜っと、5年前だったっけ?確か宮古島に行ったあとだったよ」
 「そうそう、ささきが日射病で死にそうになったときだ」
 「…そんなことは憶えてなくてもいいんだけどさ…はじめて沖縄に来たときは、南部ばっかり回ってたんだよなぁ、新原とかね」
 「う〜ん、今じゃ北に向かうことが多いけどね」
 …そうだね。たった今も北に向かってるし…“北紀行”って感じだな。う〜ん、演歌チックな響き。
 
 しばらく知念で海を眺めたあと、僕らは再び北上。ひたすら北上。鬼のように北上!
 

K、サメ・ドライブ中。
玉城の海が見えてきた。
いかにも「沖縄の海!」っていう色。

   

『知念海洋レジャーセンター』からの眺め。
今回の本島旅行では一番キレイな海だった。
遠くに“久高島”も見えます。

  

“コマカ島”に行く船の桟橋。
コマカ島は、とにかく小さい島。
海もなかなかキレイなのでオススメ。

   


しばらく見惚れてしまった…
僕は内心、
「津梁館よりコマカ島のほうがいいなぁ…」と。

  

 も〜ええっちゅ〜ぐらいに北上!! 
 途中でKが道を間違え、“恩納岳”のふもと付近でウロウロしてしまうハプニングに見舞われたりしながらも、何とか“ブセナビーチリゾート”に到着した。結局、ここに着いた頃には、すでに午後3時半をゆうに過ぎていた。
 昨日の教訓を活かして、僕らはビーチをわき目に、一路『万国津梁館』へと直行。
 
 『万国津梁館』には、僕らの予想に反して20人近い見物客がいた。案外人気の観光スポットなのかもしれない。
 「ほらね、お客だっていっぱいいるじゃん。ささきが言うほどショボい場所じゃないんだよ」
 「俺はべつに“ショボい”なんて言ってないじゃん。ただ、2日掛かりでわざわざ来るところなのか?って疑問に思ってただけ。…さ、とっとと片付けちまおう!」
 「よし!じゃあ総理大臣気分で!」
 …森?まぁ、そう遠くないところにいると思うけどね、キミは。と言ってやろうかと思ったが、それは言わないでおくことにした。

 さて、この『万国津梁館』、外観はそうでもないのだが、一歩中に足を踏み入れると、「ここはリゾートホテル、もしくは美術館ですか?」と訊いてみたくなるような、鼻持ちならない高級感に溢れていた。何だかムカつく。
 「おい、K!あの中途半端に和風なシャンデリアをぶち壊してこい!」
 「何でキミはそう反社会的な発言をするの?」
 「この取ってつけたような高級会議室の建設費用の一部が俺の血税だぞ!カム・バック!マイ・タック〜〜ス!」
 「…あ、あっちに椅子があるよ、運転疲れを癒すのにいいよ〜」
 そう言って、Kはオーシャンビューのテラス(ムカッ!)に整然と並べられているソファに近づいた。
 「…“会議用備品につき、着席を禁止します。”だって…」 そう言って、力なく笑うK。
 「座れない椅子をいつまでも置いておくなよ…って言うか、この椅子、そんなに丁重に扱うほど高級な感じがしないんだけど…」と、周囲を見回すと、この中に置かれている椅子すべてに、この“会議用備品につき…”の張り紙がしてあった。
 いちいちムカつくんですけど。カルシウムが足りないのかも…
 
 エントランスから廊下で繋がっている各部屋を見て回る。どこもかしこもなんちゃってリゾートホテル風。ここ、会議するための施設なんでしょ?何もこんなにまでしなくても…
 部屋ばかりじゃない。棟と棟の間には、これまたエレガントな庭園もどきが設けられていて、噴水は上がってるは、滝は流れてるはの大盤振る舞い。各国首脳がこの噴水やら滝を見て、「オ〜!何テ素敵ナガーデンネェ!心ガ洗ワレマスデ〜ス!」などと歓談する余裕が果たしてあったのだろうか?
 「こういうの、“無駄金”っていうような気がしないか?」と言う僕に、
 「そうだよね、これ、ムチャクチャ無駄だよねぇ…」と、さすがにKもあきれているようだった。
 ここにこんなモン造るぐらいなら、俺ん家に造れ!…って実際に造られたら迷惑だけどさ…
 

『万国津梁館』ですね。
昨日も来ましたね、ここ。
でも、今日は何とか中に入れそうです…

   

向かって左側の建物。
各棟が廊下で繋がってます。
…案外地味な印象ですが…

   

中に入ると、いやいやどうして。
高級感溢れる施設であります。
見学者も結構いました。

  

このだだっ広い空間は何に使われたんだ?
ただのロビーってヤツでしょうか?
床だってピッカピカ。映り込んじゃってますし。

  

美しい海を眺めつつ、一服。
な〜んて優雅なことをしてたんだろうか?
じゃあ、俺様もちょっと椅子に腰掛けて…

  

ってオイ!ダメなのかい!
「禁止します」って言い方も気に入らない。
「ご遠慮下さい」ぐらいにしとけよな!

  

よく煙草の空き箱でこんなの造る人、いたよね?
これは和紙なのかもしれないけど。
…熱で燃えない?

  

芝生が張ってあるけど…
この芝の一本分もあるかな?俺の税金…
虚しい…

  

館内の椅子は全部座るの禁止。
一個ぐらいいいじゃない、ねぇ。
ケチ。

  

ここがメインの会議室?
テレビとかも置いてあって、応接間風。
設備に会議の中身が伴っていたかどうか…

         

渡り廊下からの眺め。
…これ、ホントに会議場?
池の中にはタイルが敷き詰めてある…

  

こっちにも!
何だか大金持ちの豪邸みたい。
ボンドガールとか出て来そうな…

     

隅々までしっかりリッチな感じ。
力の入りようがビシビシ伝わってきます。
もう笑っちゃうぐらいに。

    

滝もどきまで!絶句!
…べつにボロクソ言いたいワケじゃないけどさ、
疑問が多く残るよね、このゴージャスぶり。

  

 という感じで、僕とKが開いた口が塞がらない状態で、ただただボケ〜ッと館内を見ていると、ふいに警備員の若いニーチャンに何か説明を受けている中高年観光客のグループと出くわした。
 警備員「………ということなんです」
 おじさん「ほ〜、なるほど」
 おばちゃん「なぁ、ここに安室ちゃん来たんやろ?」
 警備員「は?いえ、安室奈美江はここには来てないですねぇ」
 おばちゃん「テレビで見たよぉ。安室ちゃんと総理大臣が会って話してるとこ〜」
 おじさん「ちゃう、あれは首相官邸かなにかだったやろ〜」
 おばちゃん「あれ?そうやったん?…でも、ここで安室ちゃん歌ったんやろ?」
 警備員「え?ああ、あれはここじゃないんですよ」
 おばちゃん「あれよ?あの偉い人たちの前で歌ったときよ?踊ったりしてたやないの〜」
 警備員「あ、あれはここじゃなくて、那覇のホテルなんです」
 おばちゃん「へぇ〜 ……だったら、ここは偉い人たちが来て、泊まっただけなんかぁ〜」
 警備員「(苦笑)首脳はここには泊まってません。ちゃんとホテルに泊まってましたから」
 おばちゃん「ええ〜?!そうなん?…ほな、この建物は何のために造ったもんやの?」
 警備員「え〜、ここでは各国首脳が会議をするためにですねぇ」
 おばちゃん「会議するためだけに造ったんか?…ハハハ、アホらし」

 このやり取りを聞いていて、僕はその場で大笑いしたい気持ちをグッとこらえた。ほら見ろ、誰だってそう思うんだよ。
 と同時に、警備員のニーチャンが少し気の毒だとも思った。彼は事実を話しただけなのに、「アホらし」という捨てゼリフを浴びせ掛けられてしまったのだから。
 この「アホらし」を、そのままサミット執行部にダイレクトに食らわせてやりたい。そう思った。
 ひたすら苦笑しながらも、観光客の質問に真摯に答えている彼に、国民栄誉賞でも授与してやってほしい。ついでに、日本の国運を掛けたこの会議場を「アホらし」のひとことで巧みに表現して見せたおばちゃんにも。
 

警備員vs質問おばちゃんの図。
ある意味、サミットを象徴する問答。
…今さらサミット云々言うのも何だけど。

   

いやぁ〜、すごいものを見せてもらったぁ。
「これ、リゾートホテルの写真だよ」と言っても、
立派に通用するよね、ほぼ100%。

  

「これ、美術館の写真だよ」と言っても、
きっと通用するよね、100%。
美術館で会議、するワケね〜だろ!

  

警備員もご苦労様って感じがする。
サミット後の『津梁館』を支えるのはアンタらだ!
努々油断めさるるな!

  

 『万国津梁館』をひと通り見終え、僕とKは車に戻った。
 「Kさん、ご満足していただけましたか?」
 「うん、満足。…って言わないと引っ込みがつかないじゃん、この場合。ハハハハ」
 「いや、俺も案外楽しめたよ。違う意味で。来てよかったかもしれない」
 「…何か、根本的に楽しみ方が間違ってると思うよ、ささきの場合…」
 「ほっとけ!俺がどう楽しもうと俺の勝手だ」
 
 僕らはそのまま58号線を那覇に向かって走り、すっかり日が暮れた頃に那覇に着いた。
 そのままレンタカーを返しホテルに戻ると、僕もKもすっかり疲れてしまって、部屋でしばらくゴロゴロとテレビを見ていた。
 と、ちょうどテレビでは『奇跡体験!アンビリバボー!』という番組が流れていて、“ヒョウモンダコ”とかいう手のひらサイズの可愛いタコに刺されて死亡した人たちのことが取り上げられていた。
 僕らはただ何となくそれを観ていたのだが、この“ヒョウモンダコ”が沖縄・先島諸島に分布しているというのを聞いて、一瞬ゾ〜ッとした。
 さらに、この番組の中では、他の海中生物による死亡事故の例を挙げていた。当然、“イラブー”や“ハブクラゲ”なども登場した。とにかく、“日本で棲息が確認されている、死の危険を孕んだ海中生物”のほとんどが、見事に沖縄にいるようだ。
 …ちょうど、僕らが沖縄に来る数日前に、宮古島の砂山ビーチで、若者がサーフィン中にサメに襲われて亡くなった、というショッキングな事故が起こったばかりだ。
 「…沖縄の海は、結構怖いんだよね…」
 「イラブーには、昔、石垣島でニアミスしたしね…」
 「宮古の砂山ビーチでも、イラブーの脱皮した皮を拾ったしね…」
 「砂山ビーチと言えば、少し前にもサメが出たって大騒ぎになったこともあるし…」
 「そうだよなぁ…“もうパラダイス〜♪”なんて浮かれてばかりもいられないんだよねぇ、沖縄の海って…」
 改めて、海の恐ろしさを認識させられてしまった僕ら。―― このテレビを観たのがが初日じゃなくて、ホントによかった。もし初っ端にこれを観てしまっていたら、たぶん波照間島で海に入ることをためらっていたことだろう…
 
 そんなふうに部屋でゴロゴロしてしまうと、夜の街へ繰り出してウロウロとするのが億劫になってきてしまう。
 そこで、僕らは今泊まっているホテル“国際プラザ”の中にある、『ふるさと万歳』という居酒屋で、今夜は手頃に済ませることにした。
 エレベーターで2階に下りれば、もうそこは『ふるさと万歳』。部屋から徒歩50歩、といったところか。これはこれで気楽でなかなかイイではないか。これだったら、しこたま飲んでもすぐにベッドにバタンキュ〜でもOK!それこそアンビリバボーなほどに効率的だ。
 僕らは、「沖縄最後の夜だぁ〜!」と意気込んで、とにかくビールと泡盛をガンガン飲み、出てくる料理をバンバンたいらげた。
 最初の頃に居た、職場の打ち上げのグループもすぐにいなくなってしまい、その後は僕らだけで貸し切り状態。これで心置きなくバカ話も出来る。
 
 …本当に、心置きなく閉店まで、僕らは愚にもつかない話題をしつづけた。一体どんな話をしたのかぜんぜん思い出せないので、間違いなくどうでもいい話しかしなかったんだろうと思う。
 その夜は、僕のほうが先にすっかり酔っ払って着替えもしないで眠ってしまったので、Kのイビキに悩まされることもなく、しっかり熟睡できた。
 

座敷はやっぱり和む〜。
クーラーの効き方も程よいのでいい。
沖縄はクーラー効き過ぎの店が多いし。

         

船盛りを奮発!(案外安い)
沖縄の刺身はやっぱり微妙に本土と違う。
とくに“イカ”。異様に柔らかい。味も…

   

この提灯がイイ味出してるでしょ?
窓の外は“国際通り”。
僕らの沖縄は“国際通り”に始まり、“国際通り”に終わる。

  

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