夏は来ぬ

 すっかり陽が上って、かなり暑くなってきた。何となくうれしい。僕は個人的に、東京の古い街は夏が一番似合うように思う。簾(すだれ)、風鈴、打ち水、蝉の声、強い陽射しに照り返す路地、くっきりと浮き立つ寺社の屋根瓦、木立の緑…無性に駆り立てられる懐かしさ。こういう光景と出くわすのは、今ではなかなか難しい。
 千駄木の駅の辺りから三崎坂(さんさきざか)を緩々と上り、谷中霊園や『朝倉彫塑館』などを脇に見ながら“夕焼けだんだん”“谷中ぎんざ”へ抜ける。途中、あちこちの路地を気の向くままに曲がり折れ、石段や坂道を気の向くままに上り、そんなことを繰り返しているうちに、フッと心が持っていかれるような何気ない風景に辿り着いたり。日陰でややくたびれたふうにまどろむ野良猫も居れば、地図のようなものを片手に散策する外国人も居る。もちろん、僕のようにこの街の佇まいを見に来ている人たちの姿もある。地元の人々もさりげなく居る。この、さして広くは無い街の中に実はかなり多くの人々が居るのだが、ごみごみとした印象はまったく無い。
 気さくにお客と世間話をする“谷中ぎんざ”の商売人にも、小路で挨拶を交わす人々にも、小さな寺の墓地を参る人々にも、胸がじんとするような感慨を抱いてしまうのは、些(いささ)か僕が背負(しょ)いすぎてるのかもしれない。

 実は、東京ってあちこちに懐かしさが残る街だと僕は思う。「大都会」のイメージが具現化したような場所もそれはそれで面白いと思うし、ゴチャゴチャとした得体の知れないパワーが漲った場所も僕は嫌いじゃ無い(新宿なんかはわりと好きだし)。でも、それだけ人が集まって暮らす場所には、暮らしの匂いがしっかりと染み込んだ場所も必ずあるはず。その多様性が“街”の真っ当な姿なんだろうと思う。どちらか一方に偏っても、それはあまり健全な姿じゃ無いような、ね。
 
 変わっていくことを余儀無く迫られるのは、人が暮らす上で止むを得ないこと。取り巻く環境を絶え間無く変えていくことが“人”の存在意義なのだとしたら(その良し悪しは別として)、それをとやかく言うのはきっと不粋なんだろう。僕がこうして谷中だ浅草だと嬉々として歩き廻っているのも、都合良く上っ面だけをなぞっているに過ぎないのは重々承知。だけど、いつの日か、そんな都合の良い自己満足でさえ許されない時代が来てしまうのかもしれない、という漠然とした切なさ。
 僕がこうしてホームページなんかをちまちまと作って、果たして読んでくれる人がそれだけ居るのかも分からないような駄文をつらつらと晒しているのも、「こんな不安な気持ちを誰かに伝えたい」という、極めて自分勝手な思いからなんだと思う。…すみませんねぇ、しみったれたヤツで(^_^;)
 


簾(すだれ)に風鈴。
嗚呼美しき哉日本情緒。
そして谷中に夏は来ぬ。

  

千代紙の店、『いせ辰』。
有無を言わせぬ和のテイスト。
男の僕にはちょっと敷居の高い店かな(^_^;)

  

喫茶店『乱歩°』。
店主が江戸川乱歩のファンなのだとか。
ちょっと先には“D坂”こと団子坂も在るしね。

  


谷中は寺町。お寺があちこちに在ります。
このまま上野へ抜けて行くのも良し。
本郷へ向かって行くのもまた良し。

  

路地を往く日傘。
陽射しが照ると蝉が鳴き出す。
今年初めて聴いた蝉の声。

  

何気ない階段にも不思議な味わい有り。
実際に上ってみると行き止まりだったりするけど。
坂と階段が多いのも谷中。

  

年季の入った木製の塵箱。
ポリバケツじゃこうはいかないやねぇ。
清掃業者さんはそのほうが都合が良いんだろうが。

  

路地裏で遊ぶお子様たち。
子供が自由に遊べる町って意外と少ない。
ましてやこの世知辛い世の中だし。

  

とある左官屋さん。
戸袋に彫刻と“自力更生”。
…なぜ戸袋にそんなメッセージが…?

    

“夕焼けだんだん”から見た“谷中ぎんざ”。
活気ある商店街は歩いていてとても楽しい。
何だか良い匂いもするし。

  

蔦に覆われた小さな下宿。
こういう物件がまだ残ってるのが凄い。
ご近所に東大も在るからねぇ。

  

水入りペットボトルが未だ現役(^_^;)
これって谷中に猫が多いせいかな?
しかし、この日は猫の姿はまったく見えず。

  

有名(?)な『谷中せんべい』。
モルタルの看板建築がまた良い感じです。
お店の中を覗いてみると…

  

これまた良い具合に懐かしい陳列で。
ついつい品川巻を買っちゃいました。
普段は滅多に食べないんだけどね。

  


大正時代に建てられた長屋住宅。
軒が歪んでいるのも歴史の重み故か。
大好きです、この建物。

  

で、その脇には何故かハイビスカス。
この他にも数箇所で咲いているのを見掛けた。
黄色いのやら、薄紫のやら。

  

日暮里駅の近くに在る『本行寺』。
“月見寺”とも呼ばれているそうな。
月見寺…風情のある別名だよねぇ。

  

凛とした趣きのある門構え。
恐らく普通のお宅だろうと思うんだけど…
実は由緒あるお家なのかもしれません。

    


この路地には古い家が何軒か並んでいる。
これもたぶんかなり古い建物だと思う。
格子戸が良いねぇ。

  

道路に落書き。
それだけで掻き立てられる懐かしい感覚。
ロウセキなんて、今の子は知らないだろうなぁ。

  

和器を扱う『韋駄天』という店。
たぶん比較的最近出来た店だろうと思う。
この手の店がしっくり来るのも谷中らしい。

  

なかなか雰囲気のある『韋駄天』入り口。
…ちょっと狙い過ぎであざとい気もするけどね。
地下にはギャラリーも在るみたいです。

  


ここは…以前このコーナーでも載せましたね。
個人的にお気に入りの路地裏のひとつです。
全体的な雰囲気も素晴らしいんですが…

  

細部にも琴線に触れるものがたくさんある。
例えば、雨どいの水を受けるこの水槽。
こういうの、子供の頃にはよく見掛けたけどねぇ。

  


何とも言えず艶かしい建物です。
窓の飾り格子もモルタルの色味も。
しっかり現役なのも嬉しかったり。

  

アパートとアパートを繋ぐ蔓草。
狭い路地の梯(かけはし)?
路地裏には惹かれるものがたくさんあるよな〜(^.^)

  

『谷中学校』って何?
谷中の町づくりを支援するNPOらしい。
この建物はその“寄り合い処”。

  


『朝倉彫塑館』。かなり見応えあり。
彫刻そのもの以上に(←失礼?)建物が魅力的。
ぜひ一度入ってみてください。イイ感じですよ。

  


錻力店。ブリキと書かないあたりが心憎い(?)。
とくに二階部分が好きなんです、この建物。
エアコンの室外機が気になりますけどね(^_^;)

  

『大使館』。このセンス、わりと好きです。
スナックでもあり中華でもあり喫茶でもあり…
素晴らしいですね、大使館。

  

古い家屋には何故蔦が絡まるんだろう?
それにしても、やっぱりモルタル物件は妙に艶かしい。
ついつい目が引かれる。

  

こういう建物もどんどん消えていくんだろうなぁ。
噂によるとあの『本郷館』も無くなるとか…
仕方無いのだと思いはすれど。

  

たぶん柘榴(ざくろ)だろうと思う。
薄黄の壁に映える赤と緑。
…何かさっきから野暮なコメントしか書けなくてすみません。

  
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