鼠色の楽天地
 

 さて、浅草である。もうこの街はこのコーナーでも何度か登場しているが、今回は“仲見世”や“浅草寺”は外し、路地裏を中心に歩いてみることにする。
 浅草といえば、やっぱり江戸情緒ということになるんだろうけど、僕はむしろそれよりも、浅草寺の周辺にちょこまかと伸びる路地に心惹かれる。遺物のように残され廃れたモルタル建築、商店長屋、呑み屋街…物悲しくもあり、艶かしくもあり、懐かしくもあるこの佇まい。その昔は日本一の繁華街だった浅草六区界隈の光と影、その影の部分が街のそこかしこに名残っている。

 『花やしき』の裏手、“初音小路”や“西参道商店街”の裏側、“六区ブロードウェイ”の裏路地…裏へ裏へ。色とりどりの看板や幟(のぼり)が華やかな表通りとはまったく違う、色見の乏しい路地を歩いていると、素の浅草が見えて来るような、都合の良い錯覚に陥る。勘違いも甚だしいとは分かっているが、この勘違いがまた快い。不意に出くわした野良猫に話し掛けてみたくなるぐらいに。
 立ち飲み屋では昼日中から酒を呑むおじさん達、ビルの地下駐車場の入り口で寝転がる労務者風の男、デカい外車で“五重塔通り”の靴屋に乗りつけるその筋の人っぽい客、縁石に腰掛けて一言も会話を交わさないカップル、『木馬亭』の楽屋口には祝花が寄せ集められ、食堂の裏では板前が空を見上げながら煙草を一服、老婆は丸まった腰で杖を突きながら路地の角に消えて行く。路地裏の数だけ、人の数だけある様々な時間と思いの流れ。その手触り。
 …などと、少々感傷的な気分でほっつき歩けば、いつしか『浅草寺』の境内に入り込んでいた。相変わらず訪れる人で賑やかな寺と“仲見世”を通り抜け、そのまま地下鉄銀座線に乗る。
 地下鉄の車内で向かい側のシートに座っていたのは、観光でやって来たのであろう外国人の熟年カップル。彼らの目に浅草は一体どんなふうに映ったんだろう。
 


遊園地『花やしき』の裏手に在る通用口。
あまりに素っ気無くて寂寥なるままに、って感じ。
もちろん表側は幾らか華やいでますが。

  

どうやら外国人向けの宿泊所みたいです。
“SLEEP INN ASAKUSA”なんて書いてあったし。
現在営業してるのかどうかは不明でしたけど。

  


路地裏にはやっぱりモルタルが良く似合う。
剥離の具合も琴線に触れますなぁ。
いつか無くなっていく風景だとは思うけれども。

  

木造の門に苔の生えた通路。
自転車と鉢植えも。
どこか懐かしい匂い。

  

左に銭湯“ひさご湯”の煙突。
右に『花やしき』の“Beeタワー”。
浅草には銭湯もまだ何軒か残ってます。

  

何故か浅草にはラブホ&連れ込み旅館が多い。
人気店(?)だと昼間でも“満室”の表示が…
浅草寺って縁結びの神様だったっけ?

  


“ひさご通り”はアーケードになってる。
洒落た店も結構多いです。
『東莫』のネオンが何となく気に入ったので。

  

“花やしき通り”。
文字通り『花やしき』の前に伸びてます。
人通りもそこそこあるんですが…

  

閉まってる店が多くてかなり寂しい。
奥に聳える宮殿風建物との対比がまた侘しい。
遊園地の歓声は激しく聞こえてくるけど。

  

週末には競馬好きなおじさんの溜まり場に。
シーズンになると店頭でかき氷も売り出します。
店の佇まい自体が可愛らしくも懐かしげ。

    

この呑み屋街も週末にはおじさん天国と化す。
おでんと酒の匂いがあちこちからプ〜ンと…
ま、すぐそばに場外馬券場が在るからねぇ。

  

この“初音小路”に彩りを添える藤棚。
丁度ぼつぼつ藤が咲き始めていました。
何だか妙にしっとりとした気分に。

  

『浅草観音温泉』。
蔦の絡まる趣きたっぷりな外観。
…って、写真が暗くて良さが伝わってない!

 


地元の比較的高齢な方に人気があるみたい。
風呂上りには唄って踊ろう!
「男は黙ってサッポロビール」…世界の三船!

  

何となく浅草らしい(←誤解?)ので…
「ついに登場!乱熟・凄絶・燃える タブーSEX!」
…なんじゃそりゃ。

  

仄暗い路地裏。野良猫。
静かな空気に包まれています。
仲見世や六区の賑わいが嘘のように。

  


おそらく空家だと思われる二階家。
何だか複雑な構造です。
モルタル造りの家にはこういうのが多い…

   

トタン板の壁を侵食しそうな枝。
植物が生き物だと改めて痛感するような光景。
窓を割って室内に入ってきそうな…怖っ。

  


ホームレスの男×男のカップル(?)と遭遇!
半裸状態で軒下で絡み合ってた(^_^;)
見た瞬間、心臓が止まるかと思いました。

   

立ち飲み屋があって、昼間からお客が居たりして。
『ソープ バド・ガール』に入店する人も居たり。
一気に猥雑感が高まるこの界隈。

  

こちらは“ロックフラワーロード”の脇の路地。
右手に在る『荒井屋へそ』は知る人ぞ知るお店。
結構値の張る料理が多いみたいだけど。

   

好きなんです、こういう雰囲気。
1階部分は恐らく店舗。窓が無いし。
2階は…居住スペース?

  

かつては店だったと思われる建物。
木造モルタル二階建て。
両側をビルに挟まれて、存在感はかなり強し。

  

角地にある大衆食堂。
三角の建物は都内では珍しくないけど…
タイル貼りの壁にグッと来ます。

  

その食堂のウィンドウ。
色の褪せたサンプルと、大量の招き猫。
店内の雰囲気もまた良し(←個人的に)。

    


浅草にはホッピーが似合います。
…僕は飲んだこと無いけど。
結構根強い人気だよね、ホッピーって。

  

つつじの花壇の向こうに『浅草寺』。
浅草寺も好きだけど、僕はやっぱり路地裏が好き。
浅草巡りの醍醐味、だと勝手に思ってます。

  

やっぱり商店街にはこれが無くちゃね。
正式名称は分かんないけど。ビニールの造花。
このチープな派手さがたまりません。

  

 上野に戻って来て、何となく“不忍池”に向かった。夏になると一面に蓮の花が咲く池も、この時期は枯れた茎だけが浮かぶように生えているのみ。曇天と池畔のビルを映し込んだ水面には波ひとつ立たず鼠色に凪いでいて、まるで鏡のようだった。
 池の中に在る“弁天堂”に立ち寄って、しばらく池の邉をそぞろ歩いた後、“アメヤ横丁”へ。ここはいつも人でごった返している。店先で大声を挙げる店員。「ここにあるもん、全部1000円でいいよ〜!」「はい!お買い得だよ〜!」の呼び込みに釣られ、高級魚を買い求めるお客の渦中に、先程の熟年外国人カップルの姿を見つけた。彼らは、店員と客との遣り取りを興味津々といった感じで見つめていた。そんな彼らの様子を見て、はたと思う。僕もあの外国人観光客とさして変わらないのかもしれない、と。日本で生まれ日本で今まで生きて来て、それなのに僕はまだ日本のことを本当に分かってはいないのだ、恐らく。って言うか、本当の日本って何?そもそもそんなものあるの?…そんなことをぼんやり考えながら歩いているうちに、秋葉原の電気街に出て来た。ふ〜む、ひょっとすると本当の日本って、今やここを指すことになったりはしない?それも何だか寂しいような…
 

“不忍池”。
ちょっと侘寂な感じのこの眺め。
不思議と気持ちが落ち着く気がする。

  

葦がニョキニョキと生えております。
こういう池もちょっと珍しいのでは?
周囲は賑やかだけど、池自体は寂しげな趣き。

  


不忍池は曇天が一番似合ってる。
…と思ってるのは僕だけかもしれない(^_^;)
でも、曇った日の不忍池が僕は大好きです。

    

水辺に棲む鳥の姿も多く見られます。
棒切れの先に留まったカモメ。
しばらくじっと休んでいました。

  

池の中の浮島に在る“弁天堂”。
大きな池には何故か有りがちですよね。
弁天様って池が好きなのか?

  

弁天堂ってカップルは参らないほうがイイんだよね。
別れちゃう、というジンクスがあるから。
『井の頭公園』や『江ノ島弁天』もそうだし。

  

弁天堂の境内には石碑や石塚がたくさん在る。
これは“めがね之碑”です。
謂れは…長くなるので省略。

  

こちらは“ふぐ供養之碑”。
高級魚の代名詞。でも何で供養…?
食材を一々供養してたら切りが無いと思うけど…

  

超有名な“アメ横(アメヤ横丁)”。
「飴屋が多かった」「米軍払下品店が多かった」
アメヤの語源には諸説あるようで。

  

平日だというのに人がわんさか。
この通りっていつもこんな感じで活気がある。
店員さんの威勢の良い濁声もアメ横ならでは。

  

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