ローリング


 Kさんのリクエストにお応えして、『栄町市場』に向かうことに。それにしても、この小さな市場の存在が我々のような観光客の一部にも認識され始めたのって、一体いつ頃からなんだろうか。…まぁ、この手の場所って大概「知る人ぞ知る通好みなスポット」だとか「地元の人御用達のディープなスポット」みたいな扱いで紹介されるケースがほとんどなわけで、野次馬的な好奇心だとか「そんじょそこらの観光旅行とはちょっと違うんだぞ」というような優越感をくすぐる、なかなか上手い戦略であったりするんだとは思うけど。ただし、沖縄の場合、こういうディープと称する場所ってある意味“デカダンス”と同義だったりするので注意が必要かも…「只々ボロボロに寂びれてりゃイイってもんじゃねぇぞ!」みたいな。
 で、この栄町市場の界隈はと言うと…これは文字通りディープと言ってしまっても宜しいのではないかと。いやね、市場そのものはどちらかと言うと結構まったりした雰囲気の「ちょっとレトロなフツーのアーケード街」だったりするんですけど、その市場を取り巻く環境と併せて捉えると、これが実にユニークな存在で…
 前ページで“裏風俗系”という不穏な表現をしてしまったが、市場の南側の一帯には“旅館”だの“サロン”だのという看板を掲げた店がズラリと建ち並んでいて、ここが所謂(いわゆる)“ちょんの間”になっているわけね(“ちょんの間”の詳しい解説は…ネットで調べてみてください)。
 僕が2001年12月にこの界隈を歩いたときは、昼間から客引き(というよりも直接交渉?)するおばちゃんが数人居たのだが、今回僕とKが歩いたときには、そういう人は一人も居なかった。これはたまたまなのか、或いは当局の規制が厳しくなったのか。かといってこれらの店が営業をしていないわけではないらしく、時折店内からカラオケを歌うおじさんの声が聞こえてきたり、アンニュイなオーラを漂わせる熟年女性が店の前で意味有り気に微笑みながら佇んでいたりする。でもまぁ、特別意識をしないで通ってしまえば、ただのスナック街として遣り過ごしてしまいそうな雰囲気ではある。
 「なんだ、全然平気じゃん」と言うKに、「う〜ん、前に来たときはかなり激しく客引きされたんだけど…」と返しつつ、ちょっとホッとしたような、拍子抜けするような。

 『栄町市場』の中に入ってみると、ほとんど店のシャッターが降りた状態で、人影もほぼ皆無だった。
 「前に来たときはそこそこ活気があったのになぁ…あ、そういえば今日は日曜だったね。きっとこの市場の店は日曜定休が多いんだな」と僕が言う。
 Kは「何だよ〜、残念だなぁ。次回は平日に来なくちゃダメだね」と少しガッカリした様子だった。(…って、次回があるのか?)
 閑散としたアーケード内をひとしきり歩き、再び国際通りへと抜け出る。大した距離では無かったが、かなりののんびりペースで約3時間強に渡って那覇の中心部を徘徊したことに、Kはすっかりご満悦のようだった。
 「久しぶりにこんなに歩いたよ。これはあの竹富島以来だな」
 「竹富島ねぇ…あのときみたいに後で“足が痛い”なんてことにならなきゃいいけど…」
 「実はもうすでにちょっと足が痛いかも…」
 「…キミはサロンパスもしくはバンテリン持参で沖縄に来たほうがイイんじゃないか?」
 「まだ飛行機まで少し時間があるし、どこかで飯でも食わない?」
 「そうだね、ついでにKの足を休ませないと。初日から足が痛いんじゃ、この先ちょっと不安だし…」
 というわけで、僕らは『パレットくもじ』へ入り、9階に在る『みの家』という沖縄料理の店で一服することにした。思えば、僕らが揃って『パレットくもじ』内で食事をするのはこれが初めてのこと(僕個人は前に一度経験あり)。ここでKは“沖縄そば定食”を、僕は“煮付け定食”を注文。ギンギンに効いたクーラーで店内は少々寒かったが、料理はなかなか美味かった。
 
 食事を終え、ゆいレールで空港に戻る。さて、いよいよ石垣島である。石垣行きのJTAの機内で『Coralway』をパラパラと捲っているうちに、僕はすっかり熟睡してしまっていた。さすがに前夜の不眠が応えたのだろう。こりゃ今晩はぐっすり眠れそうだな…
 

栄町市場に向かう道に立ち並ぶ店々。
そのほとんどが“わけあり”のお店です。
今日は客引きが居ないみたいですけど。

 

栄町市場・南口。
牧志に比べると地域密着型の色が濃い市場です。
って言うかある意味牧志の市場が特殊なんだろうけど。

 

まさに「懐かしのアーケード街」的な趣きムンムンです。
それにしても、日曜の午後に誰も歩いてない…
この市場ってこんなに静かだったっけ?

 

シャッターが目立つのは日曜日だからなのか?
以前ここを歩いたときはもう少し活気があったような…
ここには「ひめゆり同窓会館」なんてのも在りました。

 

左上の看板には“汗水節”の一節&お説教が。
「何事もコツコツ積み重ねて行きましょう」みたいな。
「お客様の貯蓄に栄町市場が応援します」だそうです。

 

やっぱり日曜日に来たのが失敗でした。
どこもかしこも休業しちゃってる様子。
「ハンバーグの店 ひまわり」、なんかカワイイ。

 

で、西口に出てきました。
「さわでぃー」ってのは栄町に在る料理屋の店名です。
べつにタイ人観光客への挨拶では無い(たぶん)。

  

通行止めの国際通りで踊るロカビリーな人たち。
ロカビリーな人ってあちこちで見掛けますよね。
根強い人気を持ってるんですかね、ロカビリー。

 

『パレットくもじ』9階に在る『みの家』で煮付け定食を食べ、
再び那覇空港へ戻ります。
いよいよ石垣入り!

 

 石垣空港に到着して、僕らはまず2泊出来る宿を探すことにした。空港カウンターに置かれた各宿のカタログや、持参した『やえやまガイドブック』で目ぼしい宿をチェックしていると、Kが『なりわホテル』を指名した。
 「ここって美崎町の飲み屋街に面した通りにあるホテルだよね。だいぶ前から気になってたんだよね」
 確かに、美崎町の飲み屋街にはいくつかの宿がある。僕の記憶では、例えば『ホテル福島』とか『藤原観光ホテル』とか…いずれも立地的にはかなりの好条件にも関わらず、何処と無く街に埋没してしまっているような小さな宿だった。僕らの認識ではそんな宿の中に『なりわホテル』も含まれていたのだが、どうやらこのホテルが今夏にリニューアルオープンしたらしい。とりあえず電話で空室状況を確認したら、OKとの返事。今回の宿はここに決めることにした。

 空港からタクシーでホテルへ向かう。タクシーの車窓からの眺めに「石垣島に来た」という高揚感がひしひしと。もう石垣には何度も来てるんだけど、それでもやっぱり来る度にワクワクする。ましてや今回はたった2日間の八重山である。この2日間をしっかり堪能するぞ!という決意の漲(みなぎ)りも一入(ひとしお)である。
 そんなふうに無駄に気持ちを漲らせている間に、タクシーはサクッと『なりわホテル』に着いた。早速チェックインをして、部屋でしばらくダラダラと寛(くつろ)ぐ。
 ふと、「明日はどこに行こうか」とKが訊いて来た。明日ねぇ…そうだなぁ…
 「波照間には行きたいよね。最後に波照間に行ったのっていつだったっけ?」とKが言う。
 「え〜っと…去年は行かなかったし…その前の年は宮古だったし…ってことは3年前かな」
 「そうだっけ?もっと昔みたいな気がしたけど…」
 「ちょうど沖縄国際大学に米軍のヘリが墜落した年だったはずだよ」
 「う〜ん…ピンと来ないなぁ」
 「ほら、あの年はKが○○の部署に居てさ、ケータイに△△さんから仕事のトラブルで電話が掛かってきたじゃん。Kが○○の部署に居たってことは、ちょうど3年前でしょ」
 「ああ、そうだそうだ。思い出したよ。あのときだったんだ、波照間に行ったのは…」
 …自分達の記憶を辿る術が“仕事絡み”になってしまうなんて、ちょっと悲しいような気がする。それだけ時間が仕事中心に周ってしまっているということなのか。人生におけるトピックが仕事中心なんてのは願い下げなのだが…
 
 さ、気を取り直して夜の美崎町へ繰り出しますか。
 ここ最近の僕らの美崎町での行動パターンはほぼ定型化していて、良さそうな店を探すべく街をグルグル周回するのだが、結局は離島桟橋に近い『山海亭』か『ゆうな』で落ち着くことになる(かつてはこの中に『やっこ』という店が含まれていたのだが、残念ながら今は廃業してしまった)。この夜も御多聞に漏れず、ひとしきり美崎町を歩いた後、『山海亭』で腰を落ち着けることになった。
 この『山海亭』及び『ゆうな』で出される冷たいおしぼりは、外国洗剤みたいな良い匂いがするのだが(同じおしぼり業者なのかな?)、まずはその匂いを嗅いで「う〜ん、相変わらずイイ匂いだねぇ」と悦に入る。そしてオリオン生と泡盛、沖縄料理の洗礼を受け、閉店時間までお座敷でダラダラグダグダ飲み食い喋(しゃべ)る。まさに至福の時間である。K曰く「沖縄に来る目的のひとつがこの時間を過ごすこと」なんだそうな。
 一方、僕はと言うと、実は内心「昨晩の徹夜が響いて、あまり飲めないに違いない」と思っていたのだが、これが意外にも順調で、睡魔に襲われることも無く、酒も快調に進むので、「俺って案外タフな人間なのかもなぁ」などと調子に乗っていた。しかし、会計を済ませて店外に出た途端に、急に耳がキーンと鳴り出して、ちょうど立ちくらみのような状態になってしまった。直立していられないほどの倦怠感と吐き気、異常な発汗。…実は去年もここ『山海亭』で同じ症状に見舞われたことがあった。そのときはかなり慌てたのだが、今年は去年の経験を踏まえ、しばし店先でじっと猛烈な悪寒に耐える。
 「おい、大丈夫か?」と心配そうな顔をするKに、「大丈夫、たぶんすぐに治るから」と答えると、言っている傍からぐんぐんと悪寒は消えていった。
 「ほら、もう大丈夫」
 「…何だか冗談みたいに回復するね」とKが笑う。
 これは恐らく、長時間(約4時間)に渡って座敷に座っていた状態から、店を出るために立ち上がるときに起こる立ちくらみの症状に、疲労と飲酒が拍車を駆けてしまうのだろうと勝手に推察。
 「昔はこんなこと無かったのになぁ…」とつぶやきかけて、その言葉を飲み込んだ。ダメだ、こういうのが老けの第一歩。昔を懐かしむにはまだ早い!
 と、Kが「コンビニに寄ってイイ?俺、やっぱり足が痛いや。竹富のときみたいに樹液シートが売ってるとイイんだけど…」と言い放つ。嗚呼、これが30代半ばの現状ってヤツなのか…
 『コンビニ シーサー』に立ち寄ってみたが、4年前には置いてあった樹液シートは無く、Kは代用品として“足すっきりシート・休足時間”という商品を購入した。明らかにOLさん向け風味なパッケージに難色を示していたKだったが、溺れる者は藁をも掴む、足の痛みには勝てなかったようだ。

 ホテルに戻るなり“足すっきりシート”を足裏に貼り始めるKを尻目に、僕はさっさとベッドで就寝の体勢。その後のKの様子を全く憶えていないので、どうやら僕はあっという間に眠ってしまったらしい。
 

今回利用した『なりわホテル』は最近改装したばかり。
「お〜りとおり」のアーチが架かる美崎町通り沿い。
結構アットホームな雰囲気のホテルでした。

 

さて、夜になったので、早速飲みに出掛けますか。
今晩はどの店にしようかな…
あちこちほっつき歩いた挙句…

 

結局行き着いたのはいつもの『山海亭』だったり(^_^;)
だんだん新規店開拓がめんどくさくなってきまして…
知ってる店でまったり過ごすのが気楽でイイかな、と。

 

何だか石垣島は料理のタマネギ使用率が高いなぁ。
チャンプルー類には必ずタマネギが入ってるんですけど。
ネギ嫌いな人間にとって、これが悩みの種なのである。

  

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