トランジット


 9日間連続出勤&出発前日は仕事が徹夜になってしまい結局一睡も出来ないままという最悪のコンディションの末、朝6時15分羽田発那覇行きの飛行機に乗って、午前9時に那覇に到着。37という年齢でこのハードスケジュールってどうなの?と少々不安に思っていたのだが、案外大丈夫みたいなので、「俺ってまだまだ若いねぇ」などとすっかり気を良くしていたのもつかの間、那覇から石垣島行きの飛行機が15時台まですべて満席という事態になってしまい、僕と友人Kはちょっとばかり途方に暮れてしまった。
 
 友人Kとの毎年恒例の沖縄旅行も今回で15回目。よくもまぁこれだけ長い期間に渡って続いて来たもんだ、と感慨深かったり呆れたり…だが、今回の旅行は今までとは些(いささ)か状況が違っていた。
 まず、Kさんが今年4月に長野に転勤になった。一時は「これでKとの腐れ縁旅行もピリオドかな…」と思っていたのだが、Kさんの沖縄旅行に賭ける意気込みは僕の想像を遥かに超えてかなり強固なものだったようで、8月中旬になって「今年も絶対に沖縄に行く!何が何でも休みを取ってやる!」という妙に力の入った連絡があり、僕を軽く驚愕させた。
 そこでお互いに急遽飛行機の手配やら夏休みの取得やらバタバタと準備を始め、9月1日〜6日の日程で沖縄に行くことになった。が、出発5日前にKの休暇予定が仕事の都合で1日繰り下がったため慌てて9月2日出発に変更(航空券のキャンセル料がぁ!)、さらに出発直前になって「台風9号が6日辺りに関東を直撃するかもしれない」という事態になり、これまた帰りの日程を1日前倒しすることにしたので(またしてもキャンセル料がぁ〜!)、結局今回の旅行は9月2日〜5日の4日間になってしまった。
 挙句の果てに、出発前日に僕は仕事のトラブルに巻き込まれ(べつに俺が悪いわけじゃないのに〜!)、危うく今回の旅行はおじゃんになるところだった。とにかく猛烈な勢いで仕事を片付け、何とか目途が立ったのが出発当日の午前3時。ダッシュで帰宅して着替えと荷造りを30分で終わらせ、友人Kに自家用車で自宅まで迎えに来てもらって羽田に向かった、というドタバタ劇。旅行に行く前からこんなにハードだなんて、この先大丈夫なんだろうか?という不安――ってのが、冒頭の文章に繋がるわけです。
 
 で、那覇空港から石垣空港へ乗り継ぎしようと発券カウンターに行くと、15時45分発の便まで飛行機はすべて満席。仕方なく15時45分発の便のチケットを買い、とりあえずターミナルビル4階の『風月レストラン』で朝食を摂ることにした。
 「さて、これからどうしようか…」とKが言う。
 「今まだ10時ちょい過ぎだからねぇ…飛行機の時間まで5時間あるし…国際通りでもブラブラするか」と僕が提案すると、Kもそれに同意。食事&一服を済ませた後、ゆいレールで『県庁前駅』へ移動した。
 …しかし、ブラブラするったって5時間ですよ、5時間。果たしてそんなにブラブラして居られるんだろうか?
 『県庁前駅』で下車し、『パレットくもじ』を横目にして国際通りに向かって歩くと、沖縄独特の湿った暑さが全身を包む。ちょっと歩くだけで汗が噴き出して来る。こりゃ5時間もブラブラするのは無理なんじゃないか?しかも俺は徹夜明けだぞ…
 この日、国際通りはいつになく通行人も疎(まば)らで、暑さに慣れてくるとなかなか爽やかな感じだった。何やら車道も通行止めになっているらしく、車もほとんど走っていない。う〜ん、確かにこれって爽やかなんだけど、ここまで静かだと少し寂しいような…やっぱり国際通りはゴミゴミしてるほうが雰囲気が出てイイかなぁ。
 国際通りを安里方面に向かって歩くKと僕。「ここを歩いてると“沖縄に来た!”って感じがするよね」などとノンキなことを言いながら歩を進めていると、Kが不意に「あのさ、『沖縄そば博物館』って知ってる?」と訊いて来た。
 「え?『沖縄そば博物館』?何それ?」
 「那覇タワーの下に出来たんだって。ネットで見たよ。ささきは知らないの?」
 「うん、知らない…でもそれってあれでしょ?横浜の『ラーメン博物館』とか池袋の『ナンジャタウン』とかのパクリみたいなヤツでしょ?」
 「そう、そんな感じみたい。…行ってみようか?」
 「でもなぁ、さっき空港でメシ食ったばっかりだし…まぁ、見るだけならイイか。じゃあ行ってみよう」
 

県庁前の交差点。
いよいよ来ましたね、沖縄に。
う〜む、武者震い。

 

随分と派手な店が出来てます。
国際通りは変化が激しい。
何だかんだ言っても沖縄随一の繁華街ですからね。

 

…でも、この日は通行人が少なめで妙に静か。
日曜日の午前中だったせいかな?
いつになく爽やかな国際通りの佇まい。

 

おまけに車の通行量もほとんど無いのですが…
と思ったら、どうやら車両通行止めをしていたみたい。
恐らく“トランジット・モール”だと思われます。

 

旧『國映館』跡地に新たに出来る予定の施設。
どうやら複合商業ビルになるみたいですね。
街はどんどん変わって行きます。

 

宮里藍応援カフェ
…一体どんなカフェなんでしょうか?
ゴルフ中継をみんなでTV観戦するとか?

 

 かつては『MAXY』、その後『COM*D』、現在は『ゼファー那覇タワービル』と流転の運命を辿る商業ビル。国際通りに面しているのにどうも今ひとつパッとしないこのビルの中に『沖縄そば博物館』は在った。
 博物館というよりもフードコートといった趣きなのだが…もうちょっと遊びの要素があったほうが良いと思うんだが…何か「小奇麗な学園祭の出店」状態っていうか、あまりにもフードコート過ぎるっていうか…さすがに『ラーメン博物館』のような規模と完成度を期待してはいけないのだろうが、あまりにも味気無いような…『我部祖河そば』や『御殿山』といった有名店が出店してるんだけど、どうも食指が動かないっていうか…
 でも、お客さんはそこそこ入っているようだった。確かにこういう場所だと自分好みのそばを選べるし、それはそれで楽しいのかもしれない。僕とKはフードコートをぐるりと巡回し、そのまま博物館を後にした。…すみません、大変失礼な来館者でした。
 博物館を出て、次に向かったのは牧志の市場。もうここは絶対に外せないよね。べつに何が在るってわけでも無いんだが、どうしても立ち寄りたくなってしまうのがこの界隈の不思議な中毒性(←僕らに関して言えば、だけどね)。市場本通りから『牧志第一公設市場』へ、市場内をひやかして、さらに浮島の辺りを経由して壺屋方面へと順調に散策。
 「Kさん、今日は珍しく随分と歩いてるねぇ。足は大丈夫か?」
 何しろKは歩くのが苦手な男である。それは2003年の沖縄旅行の竹富島散策ですっかり露呈してしまっているのだが、今日は自ら進んで散策をしている。
 「うん、今のところ大丈夫。やっぱり沖縄に来ると歩くのも楽しいね」などと、これまたらしくない風流な(?)発言。
 そうか、それならイイけど…確かに沖縄ほっつき歩きは楽しいし。よし、このままどんどん歩き倒そう。
 

那覇タワービルの中に在る『沖縄そば博物館』。
いわゆるフードコートみたいなものですね。
中の様子は…もうちょっと凝ってもよかったような…

 

那覇タワービル横に在る『フェルマータレコード』。
沖縄民謡の品揃えがかなり充実したお店でした。
“登川誠仁Tシャツ”なんてのも販売中(^_^;)

 

お坊さんと異人さんが何やらトーク中。
このお坊さん、牧志のあちこちでお見かけしました。
新しい名物キャラの誕生か?

 

国際通りからマチグヮー方面へ移動。
ここに来るとどうしても寄ってしまう牧志市場界隈。
この辺りをうろつくのが一番落ち着くかも…

 

市場本通り。
もう何十回と通ったこの通りも僕の大好きな場所。
気持ちがどんどん沖縄モードになっていきます。

 

マチヤーの趣きを残す商店。
牧志界隈でもこういう店はめっきり少なくなりました。
ちょっと切なくなります。

 

たぶん昔は料亭か何かだったんだろうなぁ。
洒落た丸窓に名残があります。
小豆色の塗装が不思議な存在感。

 

格子がこれまた味わいあり。
この建物もいずれ無くなっちゃうんでしょうけど。
形あるものはいつか消えてしまうのです。

 

壺屋方面へ向かってみることにします。
ところで、Kさん、今日は随分と歩いてますね。
しかも珍しく自分から積極的に…

 

どうせまた後で「歩きすぎで足が痛い」とか言うんだろうが。
ま、気にせず散策を続けることにします。
それにしても空の青さが気持ちイイです。

 

 壺屋の界隈の路地裏に差し掛かったとき、Kが「お、いい雰囲気の路地があるね」と言ってカメラを向けたのが、実にディープな味わいを湛(たた)えた細い路地。間口の狭い飲み屋が並ぶその路地は、確かに「いい雰囲気」を醸し出していた。…しかし、Kさんにこういう雰囲気を「いい」と感知する感性があるとは知らなんだ。これはかなり意外な発見であった。「これなら、俺が偏愛する“スージグヮー(路地)探検”に連れて行っても大丈夫かもなぁ」とも思ったが、路地裏散策はやっぱり一人で気ままに歩きたいものであって…ま、これは今後の課題ってことで(って、Kとの沖縄旅行に今後があるってこと?)。
 それにしてもこの路地、やたらと猫が居る。しかも、この猫たちが全然人になつかない。それどころか、人の姿を見るともの凄い勢いで路地を逃げ惑って行く。僕らの足元をダッシュで駆け抜けて行くので、危うく踏んづけそうになるのだ。そのうちの一匹などは、僕の足に激突しながら突っ走って行きやがった。これが結構痛いのだ。人間の僕が痛がるぐらいなのだから、猫だって相当痛かったに違いないのだが…
 路地に立ち並ぶスナックの類の店舗は、さすがにまだ営業はしておらず、辺りは静まり返っていた。時折、掃除機の音や小さな話し声が聞こえる。細めに開いたドアの隙間から店内の様子を窺(うかが)おうとすると、いきなり中から怖い人相のおじさんが出て来て、僕らは一瞬凍り付く。おじさんはあからさまに怪訝そうな表情を浮かべ、僕らをジロリと睨む。そりゃ無理も無い。昼間に観光客がデジカメ片手にこんなところをウロウロしていれば、睨みたくもなるだろう。僕らはそそくさとその場を去った。
 さらに壺屋の路地をあちこちウロチョロして、そのまま開南通りに出る。通りを歩きながら、僕らは改めて今回の旅行の大まかな計画を立てることにした。

 まず、今日はこの後、飛行機で石垣島へ行く。で、石垣島で2泊して、最終日に再び那覇に戻る。
 「う〜ん…やっぱり4日間は短いね。いつもの沖縄旅行は6日間だから、離島で3泊は出来たもんね」とKが悔しがる。
 確かにこの2日間の差は大きい。たったの2日間ではあるが、「旅先での2日間」は「フツーの2日間」とは月とスッポンなのである。――ところで、この場合どっちが「月」で、どっちが「スッポン」になるんだろうか?やっぱり「月」がスペシャルな方になるの?でも「スッポン」だってある意味スペシャルな生き物って気もするし――まぁ、どうでもイイですね、そんなこと。
 とにかく!この短い時間を有意義にするも不完全燃焼にするも、すべては僕らの行動如何に掛かっているのだ。充実しまくった4日間にすべく、心を奮い立たせようじゃあないか!…って、無理だろうけどね、Kさんが一緒だと。
 
 そうこうしているうちに、330号線にぶつかった。安里方面に向かって歩いていると、Kが思い出したように言う。
 「そういえば、この辺りに市場が在るんだよね?だいぶ前にテレビで平良とみが歩いてるのを観たよ」
 「ああ、それはたぶん『栄町市場』でしょ。でもなぁ…あの市場の辺りって、ちょっと歩きづらいって言うか…」
 「何で?」
 「何て言うか…所謂(いわゆる)“裏風俗系”って言うんですか?非合法な性産業を営むお店がズラ〜ッと…」
 「でも、こんな昼間だし、大丈夫でしょ?」
 「さぁ…以前歩いたときは白昼堂々と客を連れ込もうとしてましたけど…俺も客引きされたし」
 「ふうん。でも、まぁイイじゃん。そんなの無視すりゃイイんだからさ。ちょっと市場に行ってみようよ」
 …はい、了解です。それじゃあ『栄町市場』に行ってみることにしますか。
 

壺屋の界隈にはディープな雰囲気の場所が結構多い。
個人的には桜坂〜壺屋のルートがお気に入り。
昭和テイストの路地裏の魅力を堪能できます。

 

Kさんが「いい雰囲気」と立ち止まった路地。
一見さんが入れる雰囲気じゃない店が並びます。
何かタダならぬ空気が漂ってます。

 

この路地には野良猫がたくさん居ました。
人間を見るともの凄い勢いで足の間をすり抜けて行く。
何か、半野生化してる?

 

これ、普通の飲み屋街だよね?
ドアのところに丸椅子が置いてあったりするんだが…
これもやはり例のあの…ってことは無いよね?

 

もはや平成の街並みとは思えないこのテイスト。
30年ぐらい前で時間が止まってしまったような。
擦れ違ったおじさんの刺すような視線が怖かった(^_^;)

 

『スナックしーちゃん』は2度目の登場ですね。
それにしてもこの日はとにかく暑かった。
一時間も歩くと汗だくです。

 

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