despondency


 「すでに心は首里城へ」といったふうのKさんではあったが、ゆいレールの“おもろまち駅”に差し掛かると、急にKが「ちょっと降りてみようか」と言い出した。僕もそれに同意する。おもろまち自体にそれほど関心は無かったのだが、このままストレートに首里城へ行っちゃうよりもまだマシだ。
 おもろまち駅周辺は、何だか随分と開発が進んでいた。2001年12月の時点では、まだまだ街の形を成していない状態だったが、3年経った今(=2004年9月)では、だいぶ街らしい様子に変わっていた。どうもこういう人工的な街に対して必要以上の偏見を抱いてしまうのが僕の悪癖ではあるのだが、ここには沖縄最大規模の大型ショッピングセンター『サンエー那覇メインプレイス』が在るし、2005年には大型免税店『DFSギャラリア』の那覇店もオープンする(もちろんもうすでにオープンしてます)。きっとどんどん商業地として成長していくんだろうなぁ…
 僕らは駅から『サンエー那覇メインプレイス』に移動し、店内を少しうろついてみる。ちょっと意外だったのが、ここって1階と2階しかフロアが無かったんですね(^_^;)。“沖縄最大級”ってのが前面に出てたので、もっとバカデカいものを勝手に想像していました…でも、シネコンも入ってるしフードコートめいたブースもあるし、その気になればここで一日過ごすことも可能なのかな、と。
 Kが「“沖縄タイムス”の新社屋が見たい」というので、ちょっとだけ立ち寄ったりしながら、おもろまち駅に戻る。どうやら僕もKもおもろまちにはあまり興味が無いようで…
 「じゃあ、次は首里に行こう」とKが言うので、「途中の古島とか市立病院前とか儀保とかで途中下車しないの?せっかく一日乗車券を買ったんだから、ちょっと降りてみない?」と返すと、「だって、何もなさそうじゃん、その駅で降りても。それに、そんなことしてたら首里城に行く時間が無くなっちゃうし」だと。
 「そんなに行きたいのか?首里城へ…」
 「べつにそんなに行きたいってわけじゃないけど…」
 じゃあ一体どういうわけなんだ!?と訊きたいところだが、また例によって例の如くの返事しか返って来ないのは明白なので、それ以上首里城の話をするのをやめた。まぁイイさ。ここまで来たら仕方が無い、大人しく首里城詣でに付き合うことにしよう。
 

おもろまち駅で下車してみました。
天久に出没した、新しい街・おもろまち。
開発当初を思うと、隔世の観ありですね。

 

2004年9月現在、まだまだ開発途上のこの界隈。
工事中の場所や空地が点在し、少し殺風景。
新しい街が形成されていく過程を垣間見る思い。

 


『サンエー那覇メインプレイス』。
沖縄最大(だよね?)の大型複合商業施設。
店内(とくに2階)は意外と庶民的な趣き…

 

なんか爽やかでしょ?南国リゾートっぽいでしょ?
でも、写ってるのはパチンコ屋だったりして(^_^;)
もの凄く大規模なパチンコ屋です…

  

この日のメインプレイスは、かなり空いてました。
日曜日だったのになぁ…
午後からが勝負!って感じでしょうか。

 

おもろまち駅に戻って来ました。
そして、Kさんお得意の首里城へ…
この時点で、僕は軽く鬱な状態。

 

 ゆいレール東の終着駅・首里駅に到着。そこから『首里城公園』へ。…この辺りのことは、サックリと割愛します。ただ、このときの僕のモチベーションがボトムラインぎりぎり状態だったのは言うまでも無く。唯我独尊チックに一路首里のお城へ向かって行くKの後姿を眺めつつ、「ひょっとしてコイツの前世は首里城に勤務していた使用人か何かなのかも…」とかなり本気で思ったりして。
 首里城公園内に入り、奉神門をくぐって御庭から正殿を見て、来た道を引き返す。……いつものことだけど、これだけのために遥々首里城を繰り返し訪れるわけですよ、Kさんは。ある意味ちょっとヘンでしょ?
 公園を出たところで、Kが「そういえば“金城の石畳”ってこの近くだったよね?」と訊いて来た。どうやら彼は朝の連続テレビ小説『ちゅらさん』の“古波蔵家”のロケ現場が見たいらしい。
 首里城公園に程近い金城の石畳を歩き、古波蔵家ロケ地を確認し、そのまま石畳の坂道を下ってバス通りに出た。
 この日はそりゃあもう猛烈な暑さで、ただでさえテンションの下がっている僕の心身にはとても堪(こた)えた。バス通りを国際通り方面へ歩き出すKに、「もしかして、このまま国際通りまで歩いて行くつもりなのか?」と訊ねると、Kは「う〜ん…歩きながら考えるよ」との返事。歩きながら、ねぇ…
 とにかく僕は「このまま国際通りまで歩くなんて…こんなに暑いのに…」という虚脱感でいっぱいだった。だから自ずと喋(しゃべ)る気が起こらない。一方のKも、黙々と舗道を歩いている。
 ふと、「そういえば、こういう状況で話を切り出すのは、大概(たいがい)俺のほうからなのでは?」ということに気づいた。元々口数の多いほうでは無いKは、余程のことが無い限り自分から話題を振って来ることが極端に少ない。ドライブ中も、ほとんど俺のほうが話を振る係で、Kはそれに応えるのみ、という感じ。事実、今こうして炎天下を歩いている間、Kから何か話し掛けて来ることは一度も無いではないか。…何だか自分がピエロのように思えて来て、益々虚脱感に襲われてしまう。
 「…あのさ、俺、歩くのもう疲れたよ。タクシーでも拾わない?」と、僕はKに言う。
 「え?じゃあささき一人でタクシーに乗ったら?」
 “ブチッ!!(←血管の切れる音)”
 「何だよ、その言い方。そういう言い方は無いだろ?」
 「え?何が?」
 「何が?じゃないよ。大体、Kが“首里城に行きたい”って言うから付き合ってここまで来たんじゃないか。俺は何度も“もう首里城は行かなくてもイイんじゃないか”と言ったはずだぞ。でも、Kがどういうワケだか知らないけど首里城に行きたがるから、俺は文句言いながらも付き合ったんだぞ。それなのに俺がタクシーに乗ろうと提案したら、答えは“一人で乗れば?”だと?どういう神経してんだよ!」
 「べつにそういうつもりで言ったわけじゃないよ…」
 「じゃあどういうつもりで言ったんだよ」
 「俺はタクシーに乗りたくなかっただけだよ。それに、ささきが首里城に行きたくないんだったら、俺はべつに無理に付き合ってくれなくても構わないよ。だったら別行動すればイイだけの話でしょ」
 …何だかもう言い返すのも虚しくなってしまった。そうか、そうだよな。だったら別行動すれば良かったのだ。べつにKにウダウダと文句を垂れながら首里城くんだりまで付き合う必要は無かったわけだ。
 僕とKは、そのまま国際通りまで一言も口を利かず、ただひたすらに歩いた。5km弱の道のりを歩く間、僕は怒りを通り越し、諦念というか、「もうコイツと沖縄に来ることは無いだろう」と考え始めていた。そうなのだ、Kのサメ・ドライブやマンネリズムが気に喰わないのなら、一緒に沖縄に来なけりゃイイだけの話なのだ。極めて簡単な答えだった。
 沈黙の行進が続き、やがて国際通りに辿り着く。この辺りに差し掛かると、Kは急に僕にあれこれと話し掛けて来るようになった。普段、僕がこんなに口を利かないことが無いので、恐ろしく鈍感な生き物・Kも、さすがに気になっているのだろう。本当なら完全無視を決め込みたいところだが、それも大人気(おとなげ)無いかな、と思い、努めて普通のトーンで「そうだね」とか「うん」とか、相槌を打っておく。…これって、いつもの僕らの立場が見事に逆転した状態だ。
 「…どうしようか、このまま空港に行っちゃおうか」とKが僕に訊ねる。
 「まだ飛行機の時間までかなり余裕があるから、俺は市場を見て周るよ。Kは空港に行ったら?」
 「あ、だったら俺も一緒に市場に行くよ」
 …どうやらKはKなりに反省をしているようである。僕も無駄にツンケンしているのが我ながら女々しく思えて来た。
 「もうイイよ。俺も空港に行くよ」と答える僕に、Kも少しホッとした様子だった。僕は、あんなふうにKを罵倒したことを少し後悔していた。何も自分勝手なのはKだけじゃない。僕だってKに対して不遜な態度をとり過ぎて居たような気がする。
 “県庁前駅”からゆいレールに乗って、那覇空港へ向かう。ゆいレールの車内から那覇の街を眺めつつ、僕はだんだん殊勝な気分になってきて、柄にも無くKに謝ってみることにした。何しろ人に頭を下げるのが苦手な僕である故、こんなことは滅多に無い。
 「…さっきは悪かったね」
 「え?何のこと?」
 「何のことって…さっき金城の石畳の下で言ったことだよ」
 「え?何のこと?べつに何も気にしてないけど」
 「それならイイけどさ…Kもずっと黙ったままだったろ?」
 「え?そう?べつに話すことが無かったから話さなかっただけだと思うけど…」
 「…そうだったのか?」
 「暑かったし、“思ったより国際通りが遠いなぁ”って後悔してたんだよねぇ。何だかシンドくてさ、話す気が起こらなかったよ」
 「…それだけのことだったのか?」
 「え?そうだけど。だってささきも全然喋ってなかったでしょ?たぶんささきも疲れてるんだろうなぁ、って。だから黙ってたんでしょ?」
 「…そうだね。確かに疲れてたけど…」
 「だから早くクーラーの利いてる空港に行って休みたかったんだよ。まぁ、市場の中の喫茶店でもどっちでも良かったんだけどね」
 …嗚呼、またしても失敗してしまった!そうなのだ!Kという人物を甘く見てはいけなかったのだ!他人の機微を慮(おもんぱか)るとか、その場の空気を読むとか、そういうこととは限り無く無縁の男だったのだ。参った!俺の完敗だ!
 「あ〜あ、明日から仕事かぁ…何だか気が重いねぇ」と、車窓の景色を恨めしそうに見下ろすKに、「オマエなんかこのまま東京に帰らないで沖縄のティダに晒されて干乾びてしまえ!」と思った。心底そう思った。

 さて、ウルトラ級の敗北感&脱力感を抱えながら、羽田空港に戻った我々。Kの運転する車で一路東京多摩地区へと帰路を辿っている途中、交通渋滞に引っ掛かってしまった。そこでKが「よし、抜け道を行こう」と言い、脇道へ入った。
 「よく知ってるじゃん、抜け道なんて」と言う僕に、「え?いや、ホントはよく知らない。適当に脇道に入っただけ」と涼しい表情で答えるK。案の定、その後は道に迷うこと迷うこと。帰宅するのに必要以上の時間と気苦労が消費されることとなった。…マジでもう一緒に沖縄に行くのをやめようかなぁ…
 


ゆいレール・首里駅から“首里城”へ向かう。
真昼の陽射しが容赦なく照り付けます。
嗚呼、足取りが重い…

 

“園比屋武御嶽石門”。
ここに来たのはこれで何度目なんだろう…?
もう思い返すのもイヤになってくる。

 

首里城公園内のお土産物屋が並ぶコーナー。
とくに土産を買うこともなく、城へ進むKさん。
…何が彼をそこまで駆り立てるのか?

 

首里城は綺麗だったんですよ。天気も良かったし。
僕だって首里城が嫌いなわけじゃないんですよ。
とは言っても…ねぇ…

 

“金城の石畳”に移動します。
どうやらKさんはここに来たかったらしい。
まぁイイか。僕もここは結構好きだし。

 

ここって雨が降ると滑り易くてちょっと危ないんだよね。
…この光景、どこかで見た記憶がある方も多いのでは?
そうです、あの例のNHKの…

 

『古波蔵家』が在るという設定の路地ですね。
Kさんはこれを見たかったようです。
ミーハーな彼ならではの選択ではあります。

 

ロケ地巡りする人はきっと多いんだろうなぁ。
那覇市観光課がこんな立札を立てるぐらいだし…
この中には文ちゃんも勝子さんもオバァもゴリも居ません。

 

晴れてるとなかなか気持ちイイです、この道。
一時期は“今更な感じの観光スポット”と化してたけど、
ちゅらさん効果で息を吹き返した?

 

大喧嘩→沈黙の行進の末、漸く国際通りに到着。
たぶん、Kと本格的に揉めたのはこのときが初めて。
しかし、やはり彼には“反省”の文字は無いらしく…

 

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