うむいぬたきゆ

 
 僕もKも腹が減っていたので『明石食堂』へ向かったのだが、あいにく明石食堂の前には行列が出来ていたので、進路を急遽変更し、『新垣食堂』に行くことにした。
 『新垣食堂』といえば、やはり“牛そば”でしょ〜。何でも牧場直営のお店なので、牛さんは豊富に使用できるらしい。僕は「店の傍で牛がのんびり放牧されているのを眺めながら、牛そばを食う」的な、ちょっぴり地獄の黙示録チックな展開を薄っすら想像していたのだが、さすがにそれは無かったので一安心。
 こじんまりとした店構えの食堂の中は、これまた予想以上にこじんまりとしていた。四畳程度の座敷と、テーブルが4つぐらいのものだったろうか。隣の『新垣商店』ともほとんどシームレスな状態で、レジは食堂・商店兼用といった感じだった。
 僕らが入店したときには、座敷に先客が居た。こんがり小麦色の肌のチャラチャラした感じの30代男と、若いおねーちゃんが3人。小麦色30代男は、どうやら石垣で観光絡みの仕事をしている人のようで、旅行で来ていると思しき3人娘に、あれやこれやと石垣島の観光スポットの話を語っていた。それがねぇ…何て言うか、気に障る語り口って言うの?強いて例えるならば“泥臭い及川光博風”って言うか、“ホスト化した花輪くん(fromちびまる子ちゃん)風”って言うか…妙にナルな感じが鼻に付く。ビールのジョッキを右手に持ち、左手をヒラヒラさせながら“俺様トーク”を展開させている。
 「俺ってさぁ、やっぱり自然が身近に無いとダメなタイプなのよ。石垣っつ〜か八重山の空気が肌に合うっつ〜の?フツーの観光客ってさ、ありきたりな観光スポットにしか行かないでしょ?あれじゃ八重山の良さなんか全然分からないと思うんだよねぇ〜。この店(=新垣食堂)だって、フツーの観光客は素通りしちゃうような店だよねぇ。俺はもう最初っからピンと来たけどね、この店」
 …新垣食堂に対して失礼な物言い。それにわりと有名だと思うよ、この店の牛そばって…
 「あ、そうだ、これから久宇良の海に行かない?あんまり観光客に知られてないから、静かだし綺麗だし、あのビーチはサイコーだよ〜」
 ケッ!って感じ。久宇良でも路地裏でも何処へでも行ってしまえ!
 …ハッ!ナルな30男に気を取られてなど居られない。せっかく『新垣食堂』に来たんだから、さっそく牛そばをオーダーしなくては。でも、一応メニューを見てみようかな。…牛そば、牛汁、ビーフカレー…おお、メニューはこの3品のみ。これまた至極シンプルな。結局、僕らは素直に牛そばを注文することにした。
 さて、僕らが牛そばの完成を待つ間、ナル男&3人娘はダラダラとくだらない話をし倒し、漸く席を立った。彼らは会計を済ませて店の前に停めてあった車に乗り込み、恐らく久宇良に向けて走り去って行った。…あれ?ちょっとキミたち、さっきビール飲んでたよね?これってつまり飲酒運転ってこと?大丈夫かよ…久宇良に着く前にお巡りさんに捕まったりして…ま、それはそれでイイ気味って気もするけど。
 Kも彼らの存在を疎ましく思っていたらしく、「よかったね、出て行ってくれて」とホッとした様子で言った。ホントにうざったかったんだから、あのナル男。
 そうこうしているうちに、牛そばがやって来た。う〜む…なかなかインパクトのある外見だ。味噌ラーメンのように若干濁ったスープに浸る八重山そばの細めの麺の上に、牛肉・大根(瓜?)・人参・葉野菜の類がドカッと乗っかっている。なんていうか、“八重山そばmeetsワイルドなおでん”とでも言おうか、ってな具合の。立ち上って来る牛独特の風味は、まさにビーフシチューを彷彿とさせるような…
 「こりゃまたスゴイね」 「うん、八重山そばとは思えない見た目だよね」
 で、お味のほうはと言うと、これがまた不思議な味だった。牛のエキスでかなりのコクが出ているのに、味付けそのものは比較的あっさり目。僕は結構好きな味なのだが、Kさんの表情は今ひとつ冴えない。「う〜ん、俺はちょっと苦手かも…」と首をひねるK。Kさんはどちらかと言うとあっさり味のそばを好む傾向にあるので、確かにこのそばは彼の口には合わないだろうなぁ。このそばは、いわゆる“八重山そば”とはまったく別の食べ物だと思ったほうが良いだろう。
 
 牛そばを食べ終えて、僕らは再び北限を目指す。…くどいようですが、厳密に言うと「僕ら」じゃなくて「友人Kは」なんだけどね。
 

伊原間に在る有名店、『新垣食堂』。
幟(のぼり)の“牛そば”の文字も目に鮮やか。
で、やっぱりここで食べたいのが…

 


これです、牛そば。500円也。
このボリュームで500円は安いと思う。
味は好みが分かれるかも…

 

島の北限目指してレンタカーはひた走る。
…って言うか、ひた走ってるのは友人Kなんだけどね。
それにしてもホントに天気がイイなぁ。

 

空と海、沿道を流れるさとうきび畑。
何とも爽やかな気分です。
Kがドライブしたがるのも少し分かる気がするかな…

 
 
 突端マニア、もしくは最果てフェチのKさんは、石垣島に来ると必ず“石垣島最北端・平久保崎”を訪れる。本島では辺戸岬、波照間では最南端の碑、そしてここ平久保崎。…スゴイよ、ホント。とくに平久保崎は皆勤賞ものである。
 でも、僕も平久保崎は大好きな場所のひとつなので、ここでは敢えて文句を言わない。
 この日の平久保崎はまた格別に良かった。晴れ渡る空と、目の醒めるような海の色。そこに白亜の灯台がすっきりと映える。まさに風光明媚といった感じだ。壮大なスケールで広がる水平線も、珊瑚礁の作るグラデーションも、キラキラと光る波頭の連なりも、すべてが感動的だ。…って、ちょっと誉め過ぎ?
 岬に立って海と灯台を見遣ると、涼しい海風がさ〜っと吹いて来る。聞こえるのは風の音、草木のさざめき、そして微(かす)かな潮鳴り。
 僕らはかなり長い時間、平久保崎からの景色をぼんやりと眺めた。たぶん小1時間ぐらいボケ〜ッと。普段は一所にジッとしていられない移り気なKさんも、このときはなかなか岬から離れようとは言い出さなかった。きっと彼もこの心地好さを長く味わって居たかったのだろう。
 「…そろそろ市街に戻ろうか」とKが言う。ふと携帯電話の時刻表示を見ると、何と!4時を回っているではないか。こんなに太陽が燦燦と降り注いでるので、こんな時間になっていたとは思いもしなかった。…う〜む、沖縄の昼は長い。
 

これで一体何度目だ?の“平久保崎”です。
石垣に来て、ここを訪れないことは無いような…
まぁ、僕も好きなんだけどね、ここは。

  

やっぱり絵になる景色だよねぇ、この灯台は。
目の前に広がる大海原にもホロリと来ます。
海が真っ青です。

 

岬から平野の集落方面を見渡してみる。
雲の影が島肌をゆっくりと撫でて行きます。
時間もゆっくり流れて行きます。

 

こちらは岬の西側の海原。
写真じゃ分からないけど、波がキラキラ光ってる。
しばらく見蕩れてしまった。

 

Kさんのマンネリズムには辟易ですけど、
平久保崎に関しては僕も何度来てもイイ!と思える。
この景色をそのまま持って帰れたらなぁ…

 

ところで、この岬周辺も微妙に整備されてるよね?
遊歩道が出来てたり、手摺りが設置されてたり。
昔はもう少し「成すがまま」な状況だったような…?

 
 
 石垣市街に向けて、390号線を目指して走っていると、“玉取崎展望台”に差し掛かる。Kが立ち寄りたがったので、僕も同意した。Kは2001年に引き続き2度目の玉取崎。僕はこれで3度目かな?
 展望台に着くと、東屋の中には10人ぐらいの先客が居た。皆さん、一見して沖縄県の方々だと分かるお顔立ち。てっきり地元の人かと思って、「こんにちは〜」などと挨拶をしつつ、僕とKは展望台から「絵葉書のような写真を撮るぞ!」と意気込んで北方に向かってカメラを構えた。と、そんな僕の足元に2〜3歳ぐらいの女の子が近づいて来て、僕の太腿をペチペチと平手打ちして来た。…なに?お嬢ちゃん、俺様に何かご用ですか?
 「あ、ダメよ〜、こっちにいらっしゃい」と、お母さんらしき女性が平手打ちベビーを引き寄せた。
 「ごめんなさいねぇ」 「いえいえ、大丈夫ですよ。…あの、皆さんは地元の方ですか?」
 「いえいえ、私たちは(沖縄)本島から来たんですよ。石垣の親戚でお祝いがあって、それで来てるんです」
 「へぇ〜、そうなんですか…」
 「そちらは観光で?」
 「はい、東京から…」
 「そうですかぁ。私、石垣は初めてなんですよ〜」
 …そうか、そういうこともあるんだよなぁ。沖縄本島に住んでいる人で、石垣島に行ったことが無い人も、きっと僕らの想像以上に多いんだろうなぁ。そう言えば、僕の知り合いの糸満出身の女性なんて、石垣島はおろか本島のやんばるにさえ行ったことが無い、って言ってたし…(まぁ、これは極端な例かもしれないけど)
 
 展望台を後にして、しばらく僕らはこのことについてあれこれと話す。
 「確かに用事が無ければわざわざ本島の人が離島に行くことも無いかもしれないよね」
 「そう言えばさ、ずっと前にたまたま入った牧志の飲み屋の女将さんも、離島に行ったのは子供を連れて慶良間で海水浴をしたときだけだ、なんて言ってたよなぁ」
 「まぁ、俺たちも東京に住んでるけど、まだ行ったことが無い場所が結構あるよな」
 「そうだよね…大体、俺なんか東京都民なのに都庁に行ったことも無いし…」
 と、いきなりKの携帯電話が鳴り出す。どうやら会社からトラブル報告の電話らしい。約30分近く電話越しであれやこれやと指示を出したり「う〜ん…どうしようか…」と思案したりして、軽くパニクっているKさん。漸(ようや)く電話が終了し、すっかりテンションの下がってしまったKは、いきなり逆上して「もう会社からの電話には出ない!」と言って、携帯電話の電源をオフにした。
 「よし!Kさん、その意気だ!じゃあ、俺も…」と僕も携帯の電源を切ろうとしたそのとき、急に着信音(皮肉なことに着メロは『オジイ自慢のオリオンビール』だったり)が鳴り出した。つい反射的に電話に出てしまった。
 「はい、もしもし…」
 「ああ、佐々木?Kと一緒でしょ?ちょっと(電話を)変わってくれる?」
 失敗!ちらりとKを横目で見ると、僕の対応をジッと見守っている。
 「え〜っと、今日はKとは別行動なんですよ。今僕は一人で車を運転中で…Kは今頃…西表島辺りに居るんじゃないですかねぇ」
 適当なことを言って電話を切ると、Kは「ありがとう、助かったよ」と言った。
 「でも、西表島ってのはどこから出て来たんだ?」と訊くKに、
 「いや、何となく思いついただけ。沖縄のことを詳しく知らない人のイメージだと“西表島=秘境”みたいな感じかな、と思って」と答える僕。
 「それにしても、イヤんなるよなぁ。沖縄に居る人間にトラブル対応しろったって、無理に決まってるじゃんか」
 「そうだよなぁ、そういうのは会社で居る人間で何とかしてもらわないとね。べつにこっちがミスしたわけじゃないんだし」
 …かくして、会社の悪口で盛り上がる車内。嗚呼、こんなことでイイんでしょうか、せっかくの石垣ドライブだと云うのに…
 

“玉取崎展望台”に続く遊歩道。
こんなに天気の良い玉取崎は初めてだなぁ。
じゃあ、張り切って写真を撮りましょう!

   

…ところで、この展望台からの撮影って結構難しくない?
ポスターみたいなアングルでは撮れないんですけど。
あれは脚立か何か使ってるんでしょうか?

  


周囲に咲くとりどりのハイビスカス。
その花越しに見る石垣の海。
南国情緒たっぷりです。

 

石垣市街に戻る途中で立ち寄ったファミマ。
そこに貼ってあったのが、こちらのポスター。
一度行ってみたいなぁ、とぅばらーま大会。

 
 
 会社の悪口も一段落し、石垣市街に入る。レンタカーの返却時間までまだ少し時間があったので、僕らはサザンゲートブリッジを渡って、『新港地区緑地公園』に行ってみることにした。
 この緑地公園は、思いの他きちんと整備された公園になっていて、子供の遊び場や遊歩道、テーブル付きの東屋なども完備されていた。遊んでいる子供達や犬の散歩をしている人、防波堤で釣りをしている人、東屋で酒盛りをしている人々など、まさに地元の人達の憩いの場となっているようだ。
 ところでこの緑地公園、名前に『新港地区』と付いているということは、この辺りはいずれ港になる予定なんだろうか?そう言えば、離島桟橋の大規模な再開発(ターミナル化)の話が持ち上がっているが、一体どこまで進んでいるのだろう?去年(2003年)に泊まった『根原荘』で聞いたあの話では、今年(2004年)には工事が始まるということだったが…今のところ、目立った変化は無さそうだ。あの再開発計画には、この緑地公園も含まれているんだろうか…
 午後6時を過ぎて、やっと少しだけ夕方らしくなってきた石垣港の界隈をほっつき歩きながら、僕らは何だかしみじみとした気持ちになる。
 「次にここへ来るときは、ひょっとするとまったく違う港になっちゃってるのかもね…」
 「それはかなり寂しいけどね…離島桟橋は、今のままのほうが風情があってイイと思うけど…」
 「再開発って言えば、石垣新空港の件はどうなってるんだろう?カラ岳の近くに作るって言ってたけど」
 「あれもなかなか上手く行ってなんじゃないの?」
 「宮古島と伊良部島も橋で結ばれるらしいし(←2006年3月に着工)、いろいろと変わっていくね、八重山も宮古も…」
 「便利になるのは地元の人にとっては良いことだけどね。でも、ちょっと…ね」
 まぁ、部外者の僕らが何だかんだと言ってみても、それはあまり意味の無いことだ。地元の人が納得して決めたことならば、それは尊重されるべきだしね。
 何だか切ないような気分を引き摺りながら、僕らはレンタカーを返却し、ホテルに戻る。

 夜。僕らは美崎町の割烹『やっこ』で石垣島の最終夜を〆ることにした。明日の朝は、8時台の飛行機で本島・那覇に移動する予定なので、あまり深酒はしないようにするつもりだったのだが、結局ラストオーダーまでダラダラと飲み食いしまくり、さらにはホットスパーでオリオンビール缶を数本買い込み、ホテルの部屋で二次会。床に就いたのは午前2時を回った頃だった。
 あ〜あ、夏休みも明日で終わりかぁ〜。だんだんと現実社会に引き戻されるようなこの憂鬱な感じ…そうか、僕もKもこの夜を少しでも長く楽しみたかったのだ。
 ――とはいうものの、朝は無常にもやって来てしまうのであった。
 

お馴染み、“サザンゲートブリッジ”。
漢字表記すると“南門橋”です。
…とくに意味はありませんが。

 

橋を渡ると“緑地公園”が在ります。
これは公園から石垣市街を見たところ。
こじんまりとした街の様子。

 

緑地公園はかなり綺麗に整備されてます。
遊ぶ子供達、バーベキューに興じる大人達。
思った以上に人が居ました。

 

この埋立地は、いずれ港にする予定なんだろうか?
公園を作るためにわざわざ埋め立てたわけじゃなかろう。
なかなか居心地の良い公園ではあるけれど…

 

こうして見るとちょっと複雑な心境になるよね。
珊瑚礁の上に埋立地が在るのが如実に…
自然環境に問題無いんだろうか?

 

橋の上から離島桟橋方向を見る。
一際高い建物が『ホテルイーストチャイナシー』。
ここ、なかなか完成しなかったよねぇ…

   

サザンゲートブリッジを渡る子供達。
この辺りは公園も多いし、子供は楽しいかもね。
まぁ、大人は大人で美崎町で楽しんでるか(^_^;)

 

サザンゲートブリッジと緑地公園を繋ぐ陸橋。
橋桁に何となくスピリチュアルな落書きが…
まぁ、それはそれでイイけどね。

 

市街に戻ります。
明日は朝の便で本島に移動。
これで石垣島ともしばらくお別れです。

 

石垣最後の夜は割烹『やっこ』でまったりと。
ラフティに添えられた謎の植物。
確かアダンの芽だったような…

  

天ぷらを肴に泡盛を…微妙にミスマッチ?
でも、この店の天ぷらはなかなか美味いのです。
伊勢海老活き造り(時価)なんてのもありまっせ〜。

 


てなわけで、美崎町の夜は更けて行きます。
美崎町ともしばしの別れ。ちょっと寂しかったり。
次にここへ来るのはいつのことになるのやら…

 

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