Dialog


 御神崎から“底地ビーチ”へ移動。この辺り以降は、とにかく友人Kお得意の定点巡回型ドライブが続くこととなる。Kにとって、沖縄旅行で最優先されるのは“安心感”或いは“安定感”なのだそうだ。
 「初めて行く場所って、勝手が分からなくてちょっと不安でしょ?だからあんまり好きじゃないんだよね」
 「…そういうわりには、変な脇道なんかに車で入り込んで立ち往生したりするじゃないか」
 「まぁ、そういうこともあるけどね。ハハハハ」
 「それに、未知の場所に行くってのも旅の面白さなんじゃないの?」
 「う〜ん…でも俺は、沖縄旅行にそういうものは期待してないからね。だってのんびりとしたいでしょ?」
 「のんびり=マンネリってわけじゃないと思うけど…そもそもキミは基本的に飽きっぽい性格だろ?それなのに、沖縄に来るとどうしてこうも毎年同じような場所に行きたがるのかが不思議なんですけど…」
 「…それが“沖縄マジック”っていうの?」
 「いわない!そんなマジック聞いたことがない!そんなマジックは願い下げ!」
 「だってさぁ〜、大体行くところなんてそんなにたくさんあるわけじゃないじゃんか?毎年来てるわけだし、行く場所なんて大体決まって来ちゃうもんでしょ」
 「それにしたって、Kの場合は偏りが激し過ぎるよ。せっかく一週間近く沖縄に居られるんだから、もっといろんな時間の使い方があるだろうに…例えば、与那国島とか新城島とか鳩間島とか本島周辺の離島みたいに日程に余裕が無いと行かれない島に行ってみようとかさ、そういう気は全然無いの?」
 「う〜ん…無くはないけど…ちょっとめんどくさいかなぁ。それに、そういう小さな島って飲み屋も無さそうだし…」
 「結局飲み屋の少なさが理由なのかい!」

 …そんな会話をしながら底地ビーチをうろついていると、だんだん上空には雲が垂れ込めはじめ、どんよりとした空模様に…
 

“底地ビーチ”です。何だか急に曇ってきたんですけど…
どうも川平界隈に来ると天候が怪しくなる。
ひょっとして、俺と相性悪いの?

 

そんな底地ビーチの東側にあるマングローブ林。
Kさんは何故かここがお気に入りらしい。
例によって、その理由は不明ですが。

 

 底地ビーチから程近い“川平湾”へ。相変わらずここの駐車場は混んでいる。ほぼ満車状態だ。僕らは駐車場に車を入れるのを諦めて、少し離れた場所に路駐させてもらうことにした。石垣島随一の観光スポットなので、来訪者が多いのは仕方が無いこととして、駐車場を拡げるなり他所に設けるなりの対策を講じたほうが宜しいんじゃないかなぁ?などと老婆心ながら思ってしまうんですけどね。
 この日の川平湾上空の天気は何だかとても不安定で、急にパ〜ッと晴れ間が射したかと思うと、あっという間に曇ってしまう、という状況だった。どうも僕らがここに来るときは、天気に恵まれないことが多いような気がする。“スッキリ晴れた川平湾”を観た記憶がほとんど無い。
 湾に面した砂浜に向かうと、浜は例年に無くとても賑やかだった。浜の入口付近には、小さな売店のようなブースが設置されていて、そこからは沖縄民謡がかなり大きな音量で流れて来るし、水辺ではグラスボートの呼び込みの声が観光客に発せられる。この砂浜に来ると何故かいつも犬を連れた人を見掛けるんだけど、このときもやはり犬を連れた人が数人居て、プチわんにゃん村状態。じゃれ合うワンちゃん、キャーキャー言ってる観光ガールズ、「グラスボートの受付はこちらでございま〜す!」という拡声器の声、安里屋ユンタ…ちょっとうるさいんですけど。
 砂浜でのんびり湾を鑑賞するのを諦めた僕らは、とりあえず隣接する(?)“川平湾公園”の高台に移動する。僕とKが高台の撮影スポットで各々カメラを構えようとすると(僕はデジカメ、Kさんは使い切りカメラ)、不意に背後から見知らぬおじさんが声を掛けて来た。
 「今写真を撮っても綺麗に撮れないよ。もう少し待ちなさい」
 年の頃なら60代前半といった感じのそのおじさんは、僕らの間に割って入り、少々面食らっている僕らの様子などお構いナシで、“川平湾撮影講座”を展開しはじめた。
 「ほら、今ちょうど太陽が雲に隠れてるでしょ?あの雲はすぐに切れるから、それを待ったほうが良いよ。川平湾はね、陽が射さないと本当の美しさが分からんからねぇ。せっかく川平湾の写真を撮るんだっから、最高に綺麗な写真を撮ってほしいんだよ、僕は」
 「はぁ…どうもありがとうございます」
 「グラスボートにはもう乗った?まだならこの後にでも乗ってみると良いよ。海の中も綺麗よ〜、ここは」
 「あのぉ…そちらさんはガイドさんですか?それともグラスボート関係者の方ですか?」
 「え?ああ、僕はね、ボランティアのガイドですよ。川平湾に来てくれる旅行者の皆さんに、いろいろとお話したり、カメラマンになってあげたりしてるの」
 「ああ、そうなんですかぁ。じゃあ、地元の方なんですね?」
 「そう。…なかなか雲が切れないねぇ。写真を撮るのはもう少しだけ待ったほうが良いよ」
 「僕はてっきり新手のグラスボートの呼び込みの方かと…」
 「あはは、そうじゃないそうじゃない。お兄さんたちは、川平湾は初めて?」
 「もう何度か来てるんですよ。かれこれ10年ちょっと前から」
 「ああそうなの〜。じゃあ、ベテランさんだねぇ。じゃあ、石垣島が気に入ったんだね」
 「はい、好きです、石垣島」
 おじさんは、この僕らの言葉を聞いてすっかり気を善くしたらしく、ニコニコしながら川平湾に寄せる熱い思いをあれこれと語りはじめた。話題は川平湾に留まらず、石垣島の観光スポットの解説へと発展していく。自分の郷土に対する熱い思い。それをストレートに迸(ほとばし)らせるおじさんの姿は、とても誇らしげだった。
 「ああ、ちょっと余計な話をし過ぎちゃったねぇ。ほら、雲が切れてきた!今だよ!写真を撮るなら今だよ!」
 おじさんの勢いに圧されるように、僕らは湾に向かってカメラを構え、シャッターを切る。
 「どう?綺麗だったでしょ?あ〜あ、また雲が掛かって来たなぁ。またもう少し待とうねぇ」
 え?これで終わりじゃないの?
 「お兄さんたち、二人で旅行に来てるの?幾つなの?何処から来たの?」などと、畳み掛けるように質問してくるおじさんに答えていると、シャッターチャンス第二弾がやって来たようだ。
 「はい、今だ!写真撮って!」 「え?あ、はい!」
 僕らは完全におじさんのペースに嵌り、約30分に渡って“川平湾撮影会&おじさんの郷土愛講演会”の参加者になってしまった。このままだといつまで経ってもこの場を立ち去れないのでは…という気がしてきたので、キリの好いところで、
 「今日はいろいろとありがとうございました。ガイドのボランティア、頑張ってくださいね」と切り出した。
 「ああ、もう行くねぇ?じゃあ、どうもありがとうねぇ」
 そういうや否や、おじさんは早くも次のターゲットを見つけたらしく、中年の夫婦の方へとさっさと近づいて行く。う〜む…何だかスゴイ。
 「いやぁ、すっかりおじさんに飲まれちゃったね。こんなに長居することになろうとは…」
 「俺、今だけで14枚も写真撮っちゃった…フィルムが無くなっちゃったよ。また(使い切り)カメラを買わなきゃ。ささきはイイね、デジカメだから」
 「Kもデジカメを買えばいいのに」
 「そうなんだよね。でも、俺は沖縄旅行のときしか写真を撮らないから、なんとなく勿体無いかなぁって」
 「確かになぁ。俺も似たようなもんだけどね」
 「よし!俺もデジカメを買おう!」
 …と決意するKだったが、この1年半後である2006年2月現在、未だにデジカメを買ったという話は聞いておりません。
 

“川平湾”にやって来ました。
珍しく晴れてる!嬉しい!
…快晴とは行かないのが返す返すも残念ですけど。

 

それでもたぶん今までで一番綺麗に見えたと思う。
それにしても、グラスボートの類が年々増えてるような…
気のせいでしょうか?

 


ここは潮流の関係で、基本的に海水浴は禁止です。
ガタイの好いお兄さん、まさか泳ごうって気じゃ…
(↑ただのダイビング関係者かもしれない)

  

やたら高く育っているハイビスカス。
この花を「見上げる」機会ってそうそう無いですよね。
青空がバックだと赤が一層引き立ちます。

 

さんざん「天気待ち」して撮りました。
実際の海の色はこんなもんじゃないです。
青→緑のグラデーションが感動的に美しい。

 

それにしても、やっぱりグラスボートが多いなぁ。
この後、僕らが湾から離れた途端に晴れて来ました。
…どうやら嫌われてるみたいです、川平湾に。

 

 川平湾から東へと車を走らせる我々の前に、“米原ヤエヤマヤシ群生地”の看板が現れた。例年なら完全スルーのKさんなのだが、どうやら僕の“マンネリズム打破提言”がそこそこ効を奏しているらしく、珍しく「行ってみようか」と言い出した。僕は3年前に一度チラッと訪れたことがあったが、Kさんは今回が初訪問だ。
 ヤエヤマヤシ群落の入口手前に在る駐車場に車を停め、早速群落散策を開始。群落の中に延びる遊歩道を進んで行くことにする。…が、僕もKも、どうもこういう所に来ると、周囲の植物をじっくり観察しながらの歩行というよりは、ただひたすらに遊歩道をズンズン進むだけ、というスポーツ感覚な歩き方になっちゃうんだよねぇ。しかもこの遊歩道は微妙にアップダウンがあるので、尚更歩くことに集中してしまう。周囲を樹木に覆われているせいで路面の状態もあまり良くなく、所々ぬかるんでいるので、ついつい視線は足元に落ちてしまう。さらには、日頃の運動不足が祟って、この程度の軽い高低差&距離でさえ、ちょっと息が上がっちゃったりして…
 ろくにヤエヤマヤシを鑑賞することも無く、遊歩道をほぼノンストップで一周し、群落を脱出。
 「…ところで、どれがヤエヤマヤシの群落だったの?」というKの一言で、益々疲労感が募る。この疲れを癒そうと、駐車場の向かいに在る土産物屋に入ることにした。
 土産物屋でジュースを買って、ついでに車の中で聴くCDを物色してみよう。…それにしても、沖縄系の曲を寄せ集めた所謂(いわゆる)コンピレーション物が腐るほど増えたなぁ、と痛感する。収録されている曲が重複していたり、中には上々颱風や和田弘とマヒナスターズ という「それってちょっと違うような…」的な曲が含まれていたりするのだが、まぁイイでしょう。
 結局僕らは『美ら海よ-オキナワ・ベスト・ソング・セレクション』というコンピアルバムと、ジュースとアイスを購入。
 「いらっしゃいませ〜。あ、このCD、結構人気があるんですよ〜」と、店のおばちゃんが言う。
 「そうなんですか。最近こういうのが多いですよね、沖縄の曲がいろいろと入ってるようなヤツが」
 「そうそう、多いねぇ。…お兄さんたち、随分と日焼けしてるねぇ。どこかで泳いでたの?」
 「え?いや、全然泳いで無いんですよ。ずっとあっちこっちウロウロしてただけなんだけど…」
 「そうなの〜?それにしても可愛そうなぐらい焼けてるよ〜。もうこっちに長く居るの?」
 「え〜っと、4日前に本島に来て、その後石垣に来て…石垣は今日で3日目かなぁ」
 「それだけ焼けると、体にも善くないはずよ。出来るだけ陽に当たらないようにしたほうがイイさぁ。もう手遅れかもしれないけど。アハハハ」
 「アハハハ…確かに手遅れかも…」
 「とくにそっちのお兄さん(=僕)は、顔の皮が剥け始めてるよぉ」
 ゲゲッ!マジですか!?僕は思わず自分の顔を擦(さす)ってみる。…ホントだ。顔がザラザラしてる。おまけに薄皮が粉みたいになってポロポロと…マズいなぁ。
 「何か顔の皮膚に効く薬品めいた商品って置いてませんか?」僕は慌てて訊いてみた。
 「薬屋じゃないから薬品は置いてないけど…これなんかどう?」
 おばさんはスプレータイプのシーブリーズを手に取った。僕はとりあえずそれを購入した。

 ヤエヤマヤシ群落を後にして、途中、“吹通川のマングローブ林”に立ち寄ったりする間も、僕はしきりにシーブリーズを顔にシュッシュッと吹き付ける。大量に噴霧したところで、今更どうなるというものでも無いとは分かっていながらも、絶えず片手にシーブリーズ。車の中でシュッ!マングローブの前でシュッ!海を眺めながらシュッ!顔面が水浸し状態になりながらもシュッ!
 「ちょっと…ささき、それは絶対付け過ぎだよ。何だか異常にハッカ臭いんですけど…せめて車の中でスプレーするのやめてくれない?…“ハブアタック事件”を思い出すよ(こちらを参照)。車の中で異臭を出すのはやめてほしいんですけど…」
 「まぁ、そう言わずに。Kも使ったら?これ、結構スッとして気持ちイイよ。シーブリーズといえば、あのCMって波照間で撮影されたんでしょ?(註:2003年のシーブリーズのCMのこと。倉木麻衣が出演してました)昨日俺たちが行ったのも波照間、CM撮影も波照間。これって何か運命感じさせるよね?」
 「運命って…こっちまで目に沁みるんだけど、そのハッカの臭い。今日一日で一本使い切る勢いだよ、それじゃ」
 「いや、幾らなんでもそこまでは…(ちょっとボトルを振ってみる)あ、でもだいぶ減ってる…」

 Kはどうやら、一路石垣島の最北端“平久保崎”へと向かっている様子だ。ちょっとだけ「シーブリーズをKの目に噴射して、運転を中断させてやろうか」という企(たくら)みが脳裏を過(よ)ぎったが、そんなことをしたらこちらの命も危ないので、思い留まった。
 


“米原のヤエヤマヤシ群落”入口。
3年前にも来ましたが、そのときはサラリと見ただけ。
今回はしっかり見学します。

 

…見学とはいっても、基本的に椰子の木ですからね。
正直言って、10分も見てれば飽きてきます。
ごめんね、ヤエヤマヤシ。

 

でも、被写体としてはなかなか素敵です。
意味も無く椰子の木の写真を大量に撮ってました。
う〜ん、トロピカル。

 


でも、これだけワサワサ生えてると、
トロピカルと言うよりは、むしろプリミティブっていう感じ。
『地獄の黙示録』を思い出しちゃったり。

 


ヤエヤマヤシの根っこ。
左側のヤツ…謎のオレンジの物体が根にビッシリと…
気持ち悪ぅ〜!

 

遊歩道はほとんどこんな感じ。
日当りが良くないので、路面の状態はあまり良くない。
ところどころに「万年水溜り」みたいなものが…

 

遊歩道を進むと、展望台が出現。
しかし、どうやら立入禁止みたい。ロープ張ってあるし。
確かに、かなり老朽化してるような…

 

仕方無いので、展望台の横からの眺望。
浦底湾が見えます。
対岸には野底岳も見えたりします。

 

“吹通橋”の上から見た海。
この橋の袂には駐車場が在って、
マングローブ群落をゆっくり堪能できます。

 

“吹通川のマングローブ群落”。
西表と比べるとちょっとスケールが小さいですけど、
手軽にマングローブ林を楽しめる好ポイントです。

 

ここに生えてるのはたぶんヤエヤマヒルギでしょ?
それ以外の種類もあるんでしょうか?
何しろ、植物にはホントに疎(うと)いもんで…

 


不思議な木です。何だか生き物みたい。
あ、植物はどれも「生き物」ですけどね。
何て言うか…生命感が強いって言うか…

 

触手のように地中に伸びる根の形状。
陸と海の境で、その両方から恩恵を受け、恩恵を齎す。
偉い生き物です、マングローブ。

 


そのマングローブの下にたくさん居るのが、これ。
シオマネキさんですね。ハクセンシオマネキかな?
これはまだ子供?やたらと小さい。

 

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