犬猿


 今日はレンタカーで石垣島を周遊、というのがKさんの計画である。正直言って、あまり気が進まないんだけど…彼のことだ、きっと“底地ビーチ”や“川平湾”、そして“平久保崎”には絶対行くに違いない。「一体何度目だ!?」とツッコミを入れなくてはならない状況は必至であろう。で、必ず西回り(石垣市街→西海岸→米原→平久保→東海岸沿いに市街)のルートを取るだろう。さらに言えば、きっと平久保崎から石垣市街までノンストップで戻ることになるだろう。…もう、このKなる人物の行動パターンは大体予測がつくし、その予測が大きく違(たが)うことは無い。せいぜい“サビチ洞”か“玉取崎展望台”に寄るかどうか、ぐらいの違いでしか無かろう。そんな変化の無い旅って…
 そこで、僕は徒労に終わる予感に苛(さいな)まれながらも、まず起きぬけにKへ釘を刺しておく。
 「いいですか、Kさん。とにかくサメ・ドライブだけはしないでくれよ。ささきからのお願いです」
 「…サメ・ドライブってねぇ…大丈夫だよ、今回はちゃんとあちこち寄ってくから…」
 あ、念のため“サメ・ドライブ”の語彙説明を。サメ・ドライブとは!→泳ぎを止めると死んでしまう遊泳性のサメの如く、どこにも立ち寄らず延々ドライブし続けるKさんの運転っぷりを表す造語。同義語に“ノンストップ走行”や“ダラダラ惰性ドライブ”がある。過去の範例として「那覇空港→道の駅・許田→那覇市街に丸一日費やす」「平良市(現・宮古島市)→池間島→東平安名崎まで一度も車を停車させずに走行」などが挙げられる。
 …と、つまりそういうことです。ね?こんなのに付き合わされるのはイヤでしょ?普通。
 
 僕は不安な気持ちを抱えつつ、一方Kは意気揚々と、いつも利用する『石垣島レンタカー』で車を借りて、早々に石垣ドライブへ出発する。
 出発するや否や、いきなり事故現場に遭遇。レンタカーとバイクの接触事故のようで、ちょうどバイクの運転手が救急車に搬送されるところだった。レンタカーから降りて、その様子を心配そうに見つめる若い男女。楽しい旅行が一瞬にして暗転するような、この光景。…怖いねぇ。我々も充分に気をつけないと。
 って言うか、何だか幸先悪い感じ…こんな光景を目の当たりにするなんて、ひょっとすると僕らの行く手にも、何某かの不幸が待ち受けているのでは…?
 「まぁ、Kさんの運転で石垣ドライブ、という時点である意味すでに不幸が始まっていると言っても過言では無いかもしれませんけど」
 「ひでぇなぁ、その言い方。大丈夫だって。任せてくれよ」
 はい、じゃあお任せしますよ。
 

今日もギラギラの太陽が朝から…
見ただけで何だかクラクラして来るような。
今日はレンタカーで石垣島周遊の予定。

  


まだ人も車も少ない美崎町界隈。
静かな一日の始まりです。
さぁ、それじゃあサメドライブに出発!

 

…と思ったら、いきなり出くわした事故現場。
バイクと乗用車の接触事故のようでした。
大事に至ってなければ良いんだけど…

 

気を引き締めて運転していこう。
…しかし、僕には別の不安が…
そう、Kさんの悪癖・サメドライブ&定点巡回…

 

 僕の予測どおり、西回りルートを走り始めるK。この人、どこの島でもこうなんだよね。本島でも宮古でも、大概西側から周りたがる。これだけ来てるんだから「たまには逆側から周ってみようかな」ぐらいの好奇心が湧いたりしないものだろうか?
 そんなKさんに、新鮮な気分を取り戻してもらうべく、僕は「はじめて石垣島に来たときの話」を振ってみる。
 「あのときは、確か真っ先に“川平湾”に行ったんだよね」
 「そうそう。で、その後“底地ビーチ”で泳いで。あのときは砂浜に置いた荷物をカラスに襲撃されたんだよな」
 「あったね、そんなことが。懐かしいなぁ。次の日はどこに行ったんだっけ?」
 「え〜っとねぇ、確か平久保崎に行って…平久保崎…平久保崎…それ以外にどこか行ったっけ?」
 「う〜ん…憶えてないなぁ。それだけしか行ってなかったような…」
 「今思えば、当時からKの行動パターンはちっとも変化してないってことだな」
 「ハハハ、確かに…」
 「あ!そういえば確か『八重山民俗園』に行ったよ。ほら、サルが放し飼いになってたところ」
 「ああ、行ったね、そういえば。まだ在るんだっけ?」
 「在るはずだよ。道沿いに看板が立ってたはずだし」
 「じゃあ、行ってみようか、八重山民俗園に」
 というわけで、『八重山民俗園』に立ち寄ることになった。この園に入ったのは、今から約10年前。古民家が何軒か移築されている“プチ琉球村”風な施設だったのだが、それよりもインパクトが強かったのが、“トロピカルモンキーガーデン”と銘打たれたコーナー。これは、言ってみれば“サファリパーク・猿バージョン”みたいな展開になっていて、放し飼い状態の猿の中を歩いて移動する、という、なかなかスリリングなガーデンだった。ガーデン入口の柵の向こうで、人間の気配を察知し物欲しそうな顔で近づいてくる猿たち。少々ビビりながら柵を開けて中に入ると、餌を求めて付いて来る猿、遠方で威嚇している猿、そ知らぬ顔で毛繕いをする猿、様々な猿猿猿…正直言って、かなり怖かった。たった100m前後の距離なのだが、いつどこから猿の襲撃に遭うかも知れない、という恐怖感が絶えず湧き上がって来て、気が気じゃないのだ。
 「今も在るのかね、あのガーデンは…」
 「どうだろう。でも、在ったらぜひ入りたいね。あのドキドキ感をワンスモア!って感じ?」
 
 久々の『八重山民俗園』。だがしかし、とにかく“モンキーガーデン”の記憶ばかりが鮮明で、他の記憶がすっかり欠落していた。どうやらこのテーマパークの運営主が変わったらしいのだが、10年前と現在の違いがあまり良く分からない。心なしか園内が綺麗になっている気はするのだが…
 エントランス&お土産物屋の建物をくぐって園内に入ると、団体ツアーの人々が先客として入園していた。その団体の中に、こんな時間(午前10時頃)からすっかり出来上がっちゃったオヤジが居て、やたらと奇声を発したり、暴言を吐いたりしている。…どっか行けよ、オッサン!
 そのオッサン、“牧志邸”という島唄&三線を聴ける古民家で、奏者に対し「おい!あれやってくれよ、あれ!え〜っと、なんていう唄だっけ〜…」と大声で話しかける。奏者が「…『花』ですか?」と訊くと、「いやいや、そんなんじゃねぇんだ、ええ〜と…」「…『島唄』ですか?」「違うんだよ!そうじゃなくて…え〜っと…あれだよあれ!」「…『安里屋ユンタ』?」「違うんだよ!あのさ、ほら…」「…『十九の春』?」「違う違う!あ〜!もうイイや!忘れちゃったよ!ガハハハハ!」と、周囲の迷惑を顧みない遣り取りを。…ウザい!!
 僕らはオッサンから離れて行動しようと、さっさと牧志邸を後にして、先へと進む。べつに朝から酒を飲むのは構わないけど、周りに迷惑は掛けて欲しくないよなぁ。って言うか、こんな時間から酒を飲む人って、大概こういう人だったりするんだけどさ。
 その後、僕らは“遠見台”、“海人の家”、“上地家の家小”と順路に従って歩を進める。…だんだん蘇って来る記憶。そうだ、確かに“海人の家”のサバニと“上地家”の巨大なサトウキビ絞り機は見た憶えがある!ということは、あのガーデンも近いはず…
 ああ!在った〜!上地家のすぐ脇に、燦然と輝く“トロピカルモンキーガーデン”の看板と、入口のゲージ。そう、これだよ、これ。
 「懐かしいなぁ。これは俺もハッキリ憶えてるよ」とKもほんの少しだけ盛り上がっている様子。よし!早速中に入ってみよう!
 …あれ?何だか様子が違うような…入口のゲージに貼られた注意書きを見てみると、「お客様各位 リスザルが小物を盗っていくことがあります云々」とある。…リスザル?そういえば、確かに10年前にもリスザルは居たような…でも、あのときは確かリスザルは小さな温室のようなブースに隔離されていたはず…このガーデン内に居たのは、もっと大きな猿だったでしょ?
 「どうやら、ここはリスザルだけのガーデンになってしまったみたいだね…」
 なんだ〜、ちょっとガッカリ。あの“猿のサファリパーク”的なシュールな空間は、もうここには無いのか…
 ガーデン内の一角に、数十匹のリスザルが居た。実は、僕はリスザルにはちょっとしたトラウマがある。小学4年の夏休みに、千葉に在る『マザー牧場』に行ったのだが、そこのリスザル園でリスザルの大群に襲撃されて、ズボンのポケットは引き裂かれるわ腕や足は引っ掻かれるわ帽子は奪われるわで、係員の人に救出される騒ぎになったのだ(その様子を『リスザルに襲われて』という作文にしたためて発表。内容は「鋸山の百羅漢に、亡き祖父の面影を探す」という涙を誘う前半と、リスザルとの格闘を描いた後半の二部構成。「僕を襲ったリスザルの群れの中に、おじいちゃんに似た猿は居ませんでした」という〆で終わる。我ながら名文だったと思う。あ、余談が長過ぎですね)。
 そんなトラウマのせいで、リスザルには少なからず恐怖心を持つ僕。また襲われたらどうしよう…そのときは、渾身の力を込めてクレイジーダンス!全身を猛烈な勢いで振り回し、リスザルどもを払い落とせ!
 警戒心をサルに悟られぬよう、平常心を装いつつリスザル園に足を踏み入れる。と、予想以上にリスザル達は大人しかった。てっきり人間(の持った餌)目掛けて突進してくると思っていたのだが、リスザルの面々は、あまり興味が無いご様子。こうなってくると、ちょっとは構ってもらいたいと思うのが心情。僕らは園内に設置されたリスザルの餌の自動販売機で、丸いカプセルに入った餌を購入。それを持ってリスザルに接近してみる。
 リスザルは、僕らの持つ餌にとりあえず関心を示すものの、然(さ)して欲しがる様子も見せない。う〜む…恐らく腹が空いてないんでしょう。僕らの他にも家族連れの観光客が何組か居たのだが、どの人にも同じような反応の薄さで、少々拍子抜け。20数年ぶりにリスザルとの遺恨を晴らそうと思っていたのに…ま、イイけど。
 結局、やはりモンキーガーデンに居たのはこのリスザル達だけで、他の猿たちは綺麗さっぱり消えていた。リスザルが群れている一角を過ぎてしまうと、後は芝生で暢気に草を食む山羊が数頭居る程度。一体、あの猿たちは何処へ?動物園か何かに引き取られて行ったんだろうか…?
 
 そんなこんなで『八重山民俗園』を後にする。結局、民俗園にも関わらず、どうしても気になってしまうのは猿だった、という、施設本来の目的からいったらかなり不本意であろう記憶の残り方。
 「ちょっと『東南植物楽園』と“鯉”の関係に似てるよね…」
 「ああ、あれね。熱帯植物よりも鯉の大群のほうがインパクトが強い、っていう」
 ただ単に、僕らが邪道なだけかも知れないが。
 

『八重山民俗園』。実に10年ぶりの訪問です。
エントランスが綺麗になってるような…
実はあまり記憶が鮮明じゃないのだ(^_^;)

 

エントランスを通過すると、真正面に在るのが“牧志邸”。
唄や踊りが楽しめるブースです。
「家遊び(やーあしび)」って言うんだって。

 

それにしても、なかなか整備された空間ではある。
規模の小さい『琉球村』って感じ?
と、さっきの牧志邸から三線の音色が…戻ってみるか。

 

牧志邸に飾られていた祭のお面。
ダートゥダーは鼻の高さといい、髪の色といい、外人っぽい。
オホホは結構有名だよね。

  

牧志邸で沖縄の楽器のミニ講習会実施中。
左端のおじさん、朝から酒気帯びのご様子。
大声で茶化したりして、ちょっと迷惑な感じ…

 

“遠見台”から見た名蔵アンパル周辺の様子。
海が青い!緑が緑!(←気持ちを汲んで読むように)
向こうに見えるのは屋良部岳。

  

こちらは“海人の家”。
漁に使った道具の他に、サメの顎や海亀の剥製も…
家の横にはサバニ(木の小船)も置いてありました。

 

“森田家”(だったと思う)の赤瓦家とブーゲンと青空。
まさしく“沖縄”を彷彿とさせるこの取り合わせ。
典型的すぎる気もするけど、気分がアガるのは確か。

 

森田家(だったと思う)は、赤瓦屋根の補修工事中でした。
思わず、しばらく観察してしまった。
しかし、この炎天下で屋根の上での作業はキツそう…

 

その傍らに鎮座していたシーサー。
結構武骨な印象のシーサーです。
赤い舌がチャームポイント。

 

家の周りには様々なハイビスカスが生垣状態で。
赤と緑のコントラストが似合うのは、クリスマスか沖縄でしょう。
…何かお座成りなコメント。

 

“上地家の家小”内部の様子。
「忠孝」の額があります。
♪忠孝忠孝、忠孝ウサキは良いウサキ〜

 

“上地家の家小”に在るサトウキビ絞り機。
水牛に周回させてサトウキビの汁を採取する農具。
巨大な臼(うす)みたいな感じ。

 

で、その水牛さんは、沼の木蔭でおくつろぎ中でした。
さすがは水牛。水に入ってるし。
角は印鑑の素材にも…って、イヤな話ですね。

 

ピンク色のハイビスカス。おしべも赤いです。
よく見ると、ハイビスカスにもいろんなタイプがある。
参考までにここを見ると、あまりの多さに驚きます。

  

出ました!“トロピカルモンキーガーデン”!
…しかし、中に居たのはリスザルのみ。残念…
あの猿たちは、一体どこへ行ってしまったんでしょうか?

  


かろうじて存在していたのがリスザル。
リスザルには、ちょっとしたトラウマが…
よし!トラウマを克服してやろうじゃないか!

  

子ザルを背負ったお母さんリスザル。
お客は皆、口を揃えて「カワイイ〜♪」
僕は、内心ちょっとヒヤヒヤしてました(^_^;)

 

…まぁ、確かにカワイイと言えなくも無いけど…
コイツら、食い意地が張ってやがるからなぁ。
油断できないぞ。気を許しちゃダメだ!

 


リスザルの餌。カリカリの小さなドッグフード風。
ちょっと齧ってみました。
…ぜんぜん美味くない…(当たり前?)

 

どうやらそれほど空腹じゃなかったようで、案外大人し目だった彼ら。
人間(=餌を持った生き物)が来ても、あまり関心を示さず。
それにしても、ウヨウヨと居ます。

 

 次にKさんがやって来たのは、“御神崎”だった。…ここ、去年も来たでしょ。おいおい、早くもマンネリストの面目躍如って感じか?
 「え?ここに来たのって去年だったっけ?もっと前かと思ってたよ」
 そうシレッと言い放つと、Kはこれまた去年と同じように、灯台の下を通って岬の突端へとフラフラ歩いて行く。…やっぱり、この男は最果てとか突端が好きなんだと思う。そうとしか思えない。何かと岬へ行きたがるのは、彼の嗜好なのだ。そういうことにしておこう。だから当然この後も“平久保崎”に行くに決まってるのだ。こうして、彼にまた新たな称号が与えられた。「サメ・ドライブをする男」「孤高のマンネリスト」「西回りトラベラー」、そして「最果てフェチ」。“辺戸岬”やら“日本最南端の碑”やら“東平安名崎”やらに何度も何度も繰り返しやって来てしまうのも、最果てフェチゆえの所業なのだ。ある意味病気みたいなものなのだ。仕方無いのだ。……虚しい。
 いや、僕だってべつに上記のスポットが嫌いってわけじゃないんですよ、念のため。それぞれ良い場所だと思うし、何度足を運んでもイイとは思うんですよ。でもねぇ…Kの場合、そういう癖(へき)が目に余るように思えるんだよなぁ。お百度参りじゃないんだからさ、ときにはもうちょっと違うルートで、違う場所を目指しても良かろうに…
 で、これまたKさんお決まりのパターンで、御神崎の滞留時間は約5分程度。「じゃあ、そろそろ行こうか」と、極めて淡白な反応。サクサクとレンタカーに引き返して行くKの後姿を眺めつつ、僕は「分からねぇ!俺にはあいつがさっぱり分からねぇ!!」と心の中で叫んでみる。
 脳髄は人間の中の迷宮であるという観点から、あえて許そう。by大槻ケンジ
 


確か、去年も来ましたね、“御神崎”…
べつにイヤってわけじゃないんだけど…
Kさん、早くも悪い癖が出て来てるような…

 

この灯台は、ずいぶんと綺麗です。
比較的新しい灯台なんだろうか?
それとも、誰かがせっせと磨いてるんでしょうか?

 

今日の石垣島は、スッキリと晴れてます。
海の色も澄み渡っていてウットリします。
沖ではダイビングをしている様子。

 

向こう側に小さなビーチらしきものが…
ああいうビーチにも行ってみたいなぁ。
辿り着けるのかどうかは分かりませんけど。

 

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