たわわ


 島の外周道路から、集落の中に入る。波照間島最大の魅力は、やはり“海”なのだろうとは思うが、集落の佇まいもなかなかどうして侮れない魅力を放っている。同じ八重山の竹富島の、あの均整の取れた家並みは素晴らしいし僕は大好きだけれど、ここ波照間の集落の持つ離島独特の風情は、また一味違う。石垣と防風林に囲まれた、小さな集落。時間の流れ方の違いが、はっきりと分かる。静かでゆったりとした時間に包まれた家並みのそこここに、僕の心を溶かす何かが在る。
 …などとすっかり自分の世界に浸り切っている僕のことなどお構い無しで、友人Kは飄々とした様子で、「何だかビールが飲みたいね。暑くて喉が渇いたよ」と言い、さっさと集落内の共同売店を目指して自転車を漕ぎ始めた。…もう口が酸っぱくなるほど同じことを繰り返してしまう自分がイヤなんだけど、やっぱりこう綴らざるを得ない。「Kよ、キミには風情とか情緒とかを味わおうという気持ちは無いのか?」と。
 そんなKさんの後を追って、僕も共同売店に向かう。辿り着いた『名石商店』で買物を済ませ、店の前の木陰で、Kは缶ビールを、僕は氷菓子をそれぞれ口にしながら、しばらくぼんやりと周囲の様子を眺める。時折、涼しい風が吹いて来て、何となくホッとする。こうやって木陰に入ると、沖縄の猛暑もそれほど苦にならない。地元の人が「東京の暑さと違って、沖縄の暑さは直射日光さえ避ければ、意外と涼しい」というようなことを言ったりするが、なるほどそれも間違ってはいないのかも…
 僕らがそうやって涼を取っていると、真っ黒に日焼けした島の男の子が、自転車に乗ってこちらの方に向かって走って来た。「こんにちは」と僕が挨拶をすると、少年は自転車を停め、何やら早口で話をして来た。あまりよく聞き取れなかったのだが、どうやら「これから公園(学校の校庭かも?)に、友達と一緒に遊びに行く」というような自分の予定を語ったようだった。見知らぬ観光客に若干の好奇心を持っているようでもあるし、それでいてヘンに媚びた感じも無い。こういう島に住む彼は、きっとある程度観光客慣れしてる部分もあるんだろうとは思うけれど、まるで近所の大人に話をするかのようなその口調に、ちょっとほのぼのとした気分になる。
 そこへ、観光客の若い女性3人組がやって来た。彼女たちも少年に「こんにちは〜」と声を掛ける。すると、彼はまた、彼女たちに向かって自分の行動予定を話す。その様子を見て、彼女たちは「カワイイ〜」を連発。彼はそれに少し照れたようにして、自転車で輪を描くようにその場をグルグルと回り出す。それを見てまた「カワイイ〜」…おいおい、他に何か言えよ、とツッコミを入れたくなるのを堪(こら)え、僕らは少年に別れを告げて売店を後にする。と、少年もス〜ッと自転車でその場を去って行った。やっぱり「カワイイ〜」の連呼に照れてしまったようだ。
 「あ、行っちゃうの〜?バイバ〜イ!」と陽気な声を掛ける女性陣に、少年は振り返って手を振る。それを見てまたまた「カワイイ〜!」…死ぬまで言ってろ!
 

波照間の集落。
竹富島とはまた違う素朴な佇まい。
流れる空気がとてつもなく緩やかです。

 

赤瓦屋根の家屋も多く残ってます。
簾がとても涼やかな感じでイイです。
石垣と樹木のコントラストにもウットリ。

 

それにしても集落は静かです。
時折擦れ違う島の人と交わす何気無い挨拶。
心がほんわかして来ます。

 

こちらはかなり年季の入った家のようです。
もしかすると空家だったのかも…
屋根も壁も微妙に歪んでます。

 


2日後に迫った運動会で食堂&惣菜屋さんが休業。
運動会に参加するから?運動会用の仕出をするから?
いずれにせよ、何とも長閑な感じです。

 

この頃、ちょうどこの番組が放映されてました。
それにしても、これほど続く番組になろうとは…
病気ネタはあまり引っ張って欲しくないんですが、個人的に。

 

『波照間発電所』の風車。
近づくと「フォンフォンフォン」という回転音が聞こえる。
島のランドマークだったりもする。

 


以前も同じような写真を載せたような…
波照間のマンホールの蓋。
なかなか可愛い画風です。

 

…?
これは石垣⇔波照間の航空便を指すんでしょうか?
新たな観光の目玉商品、ってことは無いだろうし…

 

どうやら波照間航路の存続を訴えている?
確かに使い勝手が良くないんだよね、飛行機って。
船での移動のほうが気軽だし、便数も多いし。

 

『波照間小・中学校』の塀。
あの“星になった子供たち”の詩が書かれてます。
初めて読んだときは思わず絶句しました。

 

『名石商店』の前から集落を見る。
防風林が島の集落を囲んでいます。
鮮やかな緑が目に染みます。

 


その名石商店の缶詰コーナー(?)。
ポークにコンデンスミルクに鶉の卵…
筍の水煮缶も外国製です。

 

で、僕はこれを購入しました。チューペットみたいなヤツ。
ちょっとQoo似のシークヮーサーが素敵です。
なかなか美味しかったけど、実はほとんど無果汁だったり(^_^;)

  

9月の八重山の太陽は容赦無く照り付ける。
日向でジッとしてると、それだけで極めてデンジャー。
日蔭が何よりありがたい。

 


『波照間公民館』の前の広場では、島の人々が草刈中。
こう暑いと草刈も大変な作業だろうなぁ。
もっとも、島の人は暑さには慣れっこかもしれないけど。

 

観光客に気さくに話し掛ける少年。
「カワイイ〜」を連発する内地女性に少々テレ気味。
それにしても、イイ色に日焼けしてます。

 

 そろそろ島を発つ時間だ。僕とKはレンタサイクル屋に自転車を返し、港へと向かう。
 「やっぱり波照間はイイね〜」とつぶやくK。果たしてKさんが波照間のどこに心惹かれているのかは、これだけ長い付き合いなのに僕にはさっぱり分かりませんけど、とにかく「イイ」と思ってることだけは確かなようだ。
 「あ〜そう、それはよかったね…」 
 「また〜。何でささきはそういうふうに冷めたことを言うんだ?」
 「…べつに冷めてなんかいないけどさ。Kさんこそ、島を回っている間は何だか淡白な感じでしたよ、毎度のことながら」
 「そう?俺は俺なりに島の空気を満喫したんだけど…」
 「島の空気ねぇ…ずいぶん洒落たことを言うじゃないか、柄にも無く」
 「一言余計だよ、“柄にも無く”って…何だか帰るのが惜しいね」
 「じゃあ、波照間で一泊しようか?」
 「え?う〜ん…それはちょっと…やっぱり夜は石垣の方がイイよね。店もいっぱい在るし」
 「そういうと思って、わざと訊いてみただけです。はいはい、帰りましょう、石垣に」
 などと話しつつ、波照間港に到着。まだ船の時間まで少し間があったので、とりあえず待合所の中に入る。待合所にはたくさんの人が居た。…そこで、忘れかけていた不安が再び頭をもたげて来た。
 「ホントに観光客が多いね、今回は」
 「この人たち、みんな“ニューはてるま”の最終便に乗るお客さんなのかなぁ?」
 「“ニューはてるま”って、定員は何人ぐらいなんだっけ?」
 「さぁ…でも100人は乗れないんじゃないの?」
 「そうだよね、たぶん…この人数があの船に収容し切れるんだろうか?」
 「定員オーバーで乗れない、なんてのもちょっと困るなぁ…」
 「そうだね…まぁ、最悪波照間で一泊しても構わないけどね」
 「え〜、それはちょっと…夜は石垣で過ごしたいなぁ」
 「(また言うのか!)とにかく、桟橋の方に移動しておいたほうがいいかもね」
 僕らはそそくさと待合所を離れ、少し離れた桟橋に移動を開始。しかし、すでに桟橋には黒山の人だかりが…
 「うわっ!いつの間に!スゴイぞ!あんなに波照間の港に人が居るなんて、初めて見たよ」
 「う〜ん、これはもしかすると乗れないかも…」
 僕らはやや焦り気味に桟橋に行き、船を待つ幾十の人々の群れの最後尾に立った。その僕らの後ろにも、続々と観光客がやって来る。…これ、ホントに乗れないんじゃないか?まさか波照間島でこんな状況に出くわすことになるなんて…9月半ばでこの状況ということは、シーズン真っ盛りの8月頃は、一体どんな状況だったんだろうか?増便したり、臨時便を就航したりしたんだろうか?あの超マイペースな波照間海運(関係者の方、ごめんなさい)が、そんな気の利いた対応をしてくれたのだろうか?そして、今日はどうなってしまうのだろうか?
 かくして、運命の“ニューはてるま”が桟橋に着岸する。船から降りてきた船長も、この状況を見て苦笑いを浮かべたのを、僕は見逃さなかった。それを見て、僕は確信する。「やっぱり、増便することなんて、彼らは想定していないな。乗り損ねた客の運命や如何に?!」
 いよいよ乗船が始まる。次々に船内に収容されていく人々を見ながら、僕とKは同じことを考える。
 「もしも俺たちの前で“はい、今日はここまで〜。後の皆さんはごめんなさいねぇ〜”ってなことになったら…」
 「それってすごくイヤだよね。ここまで来たら、なんとしても滑り込みたいよね」
 いよいよ僕らの乗船の瞬間が。…ヨシ!どうやら乗れそうだぞ!…乗れた〜!!バンザ〜イ!
 船室は最早満席&立ち乗りのお客でごった返していたので、僕らは甲板で立ち往生する。その後も、客は続々と乗船。結局、桟橋に溢れんばかり居た人々を、すべて収容してしまった。…これって、明らかに定員オーバーなのでは…?
 乗客の安全を確認して周る船員さんは、この様子を見てまたしても苦笑い。その表情を見て、いささか不安になる僕ら。
 「大丈夫なのか?こんなに客を乗せても…」
 そんな僕らの不安を余所に、船は桟橋を離れて、石垣港に向けて海上をかっ飛んで行く。往路とは違い、復路の船は結構揺れた。立っていた客の中には、その揺れに耐え切れずにしゃがみ込む人も多かった。僕らの場合、幸い丁度好いところに手ごろな手摺りがあったので、それにつかまりながら揺れと足の疲労に耐えた。が、そんな状態での約1時間弱の船旅は、さすがに堪(こた)える。漸(ようや)く石垣港に着いたときには、何だか酷く疲れてしまっていた。
 「いやいや、疲れたねぇ。風呂に入って一休みしたいねぇ」
 「そうだね。ちょっと休んでから飲みに行こうか」
 …俺達、もう若くは無いんですよね、きっと。嗚呼、歳は取りたくないですなぁ…(この当時、僕らは34歳でした)
 

連絡船の待合所にある食堂(?)『海畑(イーノー)』。
例の“泡波”が飲める店、というのでもちょっと有名。
手前のワンちゃん、人懐こくて結構可愛かった。

 


最終便に乗ろうと桟橋に群がる人々。
「これで全員乗船できるんだろうか?」と不安になる。
波照間港にこんなに人が居るの、初めて見ました。

  

恐らく定員オーバーの高速艇は、一路石垣島を目指す。
立ちっ放しの船旅は意外とキツかった…
汗と潮風で全身ベタベタです。風呂に入りたい!

 

ともかく、波照間よさらば。
また会う日まで、暫しのお別れです。
…って、今すぐにでも飛んで戻りたい気分ですけど(^_^;)

 

 ホテルに帰ってシャワーを浴び、ベッドで少し仮眠を取る。と、携帯電話の着信音で目が覚めた。会社からの電話だった。何か仕事のトラブルか?と慌てて電話に出てみると、聞き慣れた上司の声が聞こえて来た。
 「もしもし〜?どう?バカンスを楽しんでる?」
 「え?あ、はい、そこそこ…何かありました?」
 「ん?いや、べつに問題は無いよ。ただ、どうしてるかなぁ、と思って」
 …あのぉ…それでわざわざ電話を?…まぁ、イイですけど。ちょうどそろそろ起きても良い頃合だったし。
 僕と上司の電話の遣り取りを尻目に、Kはとっとと服を着替え、部屋を出て行こうとする。僕は慌てて電話を終わらせて、Kの後を追う。
 「おい!何で俺を置いて先に行く?!」
 「え?違うよ。俺はフロントに降りて、新聞を読もうかと思っただけだよ」
 「何だよ〜。一言言ってからにしてくれよ〜。もう出掛けるのかと思って焦っちゃったじゃないか」
 「だって、ささき電話してたから…」
 「まぁ、イイけどさ。それじゃあそろそろ美崎町に行くか」
 「そうだね。あ、でも、ちょっと新聞読んでもイイ?」
 「新聞?…べつにイイけど…」
 いつもマイペースなKさん。フロントのソファーに腰掛けて、新聞を捲り始めた。待つこと10分。漸くKは徐(おもむろ)に席を立ち、出掛ける気になったようだ。
 僕らが向かったのは、いつも行く離島桟橋近くの『山海亭』。今日はさすがに少々疲れていたので、店をあちこち探して周る気になれなかったし、この店は何となく落ち着くので、どちらとも無く足が勝手に向かっていた。
 座敷に座ろうとすると、足が猛烈に痛い。いや、厳密に言うと「足の皮膚が猛烈に痛い」だろうか。波照間の強い陽射しの威力によって、知らず知らずのうちに露出していた部分がかなり日焼けしていて、座ったりすると皮膚が攣(つ)れてビリビリと痛むのだ。
 「イテテテ!イテテテ!」と呻きながら、ソロソロと腰を下ろす僕らの様子は、まるで腰痛に悩まされる老人の様そのものであったろうと思う。我ながら情けなくて笑ってしまった。
 「うわぁ、足とか手とかが真っ赤だよ。おまけにものすごく熱くなってる」
 「ホントだ、俺も。べつに泳いだりしたわけじゃないのになぁ。やっぱりスゴイね、八重山の陽射しは」
 料理と酒が胃に入ると、途端に血行が良くなって来て、皮膚のピリピリ感は更に強くなり、やがて痛痒い感覚に変化し始めた。僕らは手足をボリボリと掻きながら、沖縄料理と泡盛を消費して行く。思えば、今日は朝からほとんど何も食べていなかったので、その消費量はいつに無く凄かった。たくさんの料理と、かなりのアルコール摂取で、身も心もヘロヘロ状態と化してしまった。
 『山海亭』からホテルに帰る道すがら、僕らはフラフラになりながら、明日のことを話す。
 「明日はどうしようか…」
 「そうだね…明日はレンタカーで石垣島を周ろうか」
 「…う〜ん…それはちょっと気が進まないっていうか…」
 「何で?」
 「だって、それはつまり“またしてもKさんのサメ・ドライブに付き合わされる”ってことだろ?もうイイよ〜、キミのサメ・ドライブの犠牲になるのは…」
 「またささきはそういうことを…大丈夫、今回はそんなことにはならないように気をつけるから」
 ………ホントなんでしょうねぇ、Kさん。その言葉、ホントに信じてよろしいんですね?絶対ですね?
 

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