ダーク・クリスタル


 ニシ浜を発って、そのまま島の外周道路を西周りでサイクリングする。それにしても、どうして僕はこういう場面でついつい『北国の春』を口ずさんでしまうのだろうか?しかも、この最南端の島で…八重山に来ると、どうも僕は千昌夫化してしまうらしい。今まで少なくとも石垣島・西表島・小浜島・黒島の4島で、この唄を口ずさんでいる。沖縄本島や宮古島でこの唄を口ずさんだ記憶が無いので、やはり八重山の空気には“ささき千昌夫化作用”が潜んでいるに違いない。…あ、伊良部島でも口ずさんだような…
 そんなことはどうでも宜しいのだが、とにかくそんな唄も出て来る程、離島を自転車で走るのは心地好いのだ。周囲には青々と茂る雑木林と風に揺れるさとうきびの畑、その隙間から時折チラチラと覗く海、空の色はすこぶる冴え渡り、それらを繋ぐように土の道が現れる。こうしてただ自転車でダラダラ走るだけで、猛烈な幸福感に包まれちゃうなんて、そりゃあもう最高の気分だったりするわけである。
 外周道路から海へと抜ける脇道に反れ、“浜シタン群落”に立ち寄る。実はKさん、今までこの場所に来たことが無かったりする。…キミは今まで何度この島を訪れているんだ?と訊きたくなるような事実ではあるが、それがKらしいと言えばKらしい。
 浜シタン群落は、“ペー浜”という海岸のすぐ隣に在る。潮が引いていると、浜シタン群落の岩場を越えて海伝いにペー浜に移動出来るし、先程のニシ浜とも繋がっているのだが、このペー浜にはほとんど人が居ない。一際静まり返った砂浜は、ここが離島の海だということを痛感させてくれる。
 海から吹いて来る風に、僕がすっかり絆(ほだ)されている傍(かたわ)らで、Kさんはあっちをウロウロこっちをウロウロと、何だか落ち着きが無い。この人、とてもマイペースなんだけど、意外とどっしりしてない部分があって、こういう場所に長く居られない性分なんだよなぁ。
 案の定、「そろそろ(次の場所へ)行かない?」と切り出して来る。はいはい、イイですよ。次に行きましょうか。
 

ハイビスカスが栄える青空。
この花は南国の空にピッタリです。
豪雪地帯で咲いてたら、ちょっとヘンです。

 

さとうきび畑も沖縄の名物(?)ですよね。
離島の風情を醸すのに一役も二役も貢献してます。
単に島の基幹産業だったりもするけど。

 

“浜シタン群落”へ。
鬱蒼と茂る樹のアーチをくぐって行くと、
そこに広がるのは…

  

波照間の青い海。
何だかドキドキします。
ちょっとした隠れビーチっぽい感覚って言うか。

 

こちらの海岸には誰も居ませんでした。
聴こえて来るのは波音と風音のみ。
海面に空が映り込んでます。

 


この辺りには浜シタンが群生してます。
厳しい陽射しを遮ってくれて、なかなか涼しい。
海を観ながらのんびり一休み…

 

…と、いきたいところですが、
Kさんは周囲をウロウロと落ち着く気配がまったく無し!
まぁ、べつにイイんだけどさ。

 

あちらに見えるのがペー浜。
天気もイイし、海も綺麗だし、言うこと無いです。
こうしてるだけで何だかとても幸せな気分…

  

…と、僕がほのぼのした気分に浸っている傍らで、
Kさんは岩をひっくり返して海辺の生物を捜索中。
情緒ってものがキミにはないのかね?!

 

それにしても、この道、このさとうきび畑。
マイナスイオンさえ感じさせる(?)この爽快感。
Kさんの背中さえ絵になるこの状況。

 

 そんなKさんが、波照間に来ると必ず立ち寄るスポットがある。それは、“日本最南端の碑”。…そりゃあね、確かに波照間でも有数の観光スポットだとは思うし、波照間に来てここに寄らない人は居ないとは思うけど、毎回毎回律儀に訪問するべき場所なのかどうか…って言うか、Kはどうして“果て”を目指したがるのか?沖縄本島の辺戸岬、宮古島の東平安名崎、石垣島の平久保崎…彼はこれらのスポットを、まるでメッカの巡礼よろしく必ず訪ねている。しかも何度も繰り返して。そんなに最端が好きなんだろうか?そんなに好きなら、この際宗谷岬とか沖ノ鳥島も目指せば良いのに。いや、それよりまずは最西端の与那国島を目指しても良かろうに。僕が何度も「一度は与那国島に行ってみたい」と言ってるのに、Kは「う〜ん…あんまり気が進まないんだよね、何故か…」と言葉を濁す。最○端マニアだったら、真っ先に与那国を目指すべきだろうが。
 「いや、べつにそういうマニアじゃ無いから」
 「じゃあ何で何度もこの“最南端の碑”へ足を運ぶんだ?(…あ!訊くんじゃなかった)」
 「…ハハハ、なんとなく…」
 やっぱりね。いつだって彼は「なんとなく」なのだ。なんとなく一筋で11年。ここまで来ればそれも立派なコダワリと化す。…んでしょうか?
 なんとなく最南端にやって来てみれば、そこには多数の観光客の皆さんがいらっしゃった。中には団体ツアーの人も混じっていて、ちょっとした人口過密状態を引き起こしている。記念碑の近くに在る休憩所&展望台には、びっしりと人が群がっていて、妙に賑やかだった。
 僕とKが休憩所に入るや否や、眼下の岩場から「キャ〜〜ッ!」という女性の悲鳴が!ゲゲ!ひょっとして崖から転落か!?と一瞬息を呑み、悲鳴のした方向を見る。と、中年女性が「風で帽子が吹っ飛んでしまったわ〜」と関西訛りでエクスキューズ。何だよ、ビックリさせないでくれよ…
 とは言え、確かにこの最南端は潮風が強かった。他の場所はそんなに風が吹いてないのに…さすがは最果て。海風がド〜ンとぶち当たってくるのかも知れない。
 「…そろそろいいですか?Kさん。風も強いですし、キミはどうやら記念碑を見に来たわけでも無いみたいですし…一体何しにここへ来たんだ?(…あ、また訊いてしまった!)」
 「え?だから、なんとなく…」
 「分かりましたよ、“なんとなく”は!じゃあ、なんとなく他の場所に移動しましょうか」
 今にして思えば、「これから“なんとなく”って言った毎に1万円の罰金を処す」という決め事をしておけば良かった。きっと往復の飛行機代ぐらいは軽く徴収することが出来たのに。まったく惜しいことをしたなぁ。
 

ヤギの親子。子供がお乳を飲んでます。
この仔ヤギがムチャクチャ可愛かったのだが、
なかなかカメラの方を向いてくれませんでした。

 

誘うようなダート道があちこちに在ります。
それほど広い島ではないので、フラッと入ってみるのも良し。
迷子になっても責任は持てませんけど。

 

青と緑が目に眩しい。
土や草の匂いがする。
体の中から浄化されるような感覚。

 

牛の匂いも漂って来たりしますけどね(^_^;)
それにしても、この牛たちはかなりスマート。
ひょっとして夏痩せ?

 

沿道沿いにアダンの実。
通りすがりの観光客がこれを見て「パイナップル?」。
…確かに見えなくも無いですが。

 

ならばこちらは差し詰め“赤パイン”って感じ?
でも、あんまり美味く無いらしいよね、アダンって。
“アダンの芽”はわりと美味かったけど。

 

島の最南端へ。
北側の海(ニシ浜やペー浜)とは打って変わって濃い色味。
ゴツゴツした岩場って感じです。

 

『星空観測タワー』も見えます。
そう言えば、ここのガイドさんって引退しちゃったんだよね?
今はどうなってるんだろう?

 

それにしても、これで何度目の“日本最南端の碑”だろうか…
Kさんはどうしてこうも岬や最果てに行きたがるんだろうか…
…バカじゃないの?

 

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