理 由


 沖縄二日目。昨晩の深酒が祟(たた)って、僕らが目覚めたのは午前10時過ぎ。しかし、なかなか気分良く朝を迎えた。
 「う〜ん、“夏休み”って感じだねぇ。仕事のことだの会社のことだの、そういうのを気にせずに朝寝坊したり遅くまで飲んだりしながら6日間も過ごせるなんて…夢みたいだね」
 Kはそう言って、デイゴホテルでの快い目覚めに悦に入っている様子である。…確かにそうだな、と思う一方で、「それだけのことで“夢みたいだね”と言えてしまうキミって…しかも、それがイコール夏休みの醍醐味ってのは、些(いささ)か虚し過ぎないか?」という気がしないでも無い。
 デイゴホテルを発って、僕らはレンタカーでコザから離れる。嗚呼、このままサメ・ドライブが始まってしまうのか…と若干鬱の入る僕に、Kから「泡瀬に行こう」という提案が。おお!Kさん、なんて珍しい!…雨でも降らなきゃ良いけれど…
 Kが泡瀬に向かった理由は、まぁ例によって例の如く「メディアで話題になっている場所だから」という、ややミーハーなものだったと思われるのだが、それはそれで良かろう。実際、僕も話題になっていた2001年に一度泡瀬を訪れているし。…あれから3年、泡瀬は一体どんなふうになっているのか、僕もちょっと興味があった。

 泡瀬の干潟――埋め立て事業が計画され、推進派と反対派との間で揺れていることが大々的に報道されたのが2001年頃。その頃は、泡瀬の周辺には推進派・反対派それぞれが立てた立看板があちこちで見られ、この場所が渦中に在ることをいやがうえにも実感させられたものだったが、この日僕とKが訪れた際には、そんな切迫感はほとんど感じられなくなっていた。国道329号線から泡瀬の集落へ向かう道すがらには、大型の娯楽施設やレストランが点在していて、泡瀬の街の開発がかなり早いピッチで進んでいるのが分かる。
 そうこうしているうちに、泡瀬の干潟に到着。僕らは防波堤からしばらく干潟越しに海を観た。干潟の周りには僕ら以外には人影も無く、静まり返っていた。
 「…今はどうなってるんだろうね、埋め立て計画は」
 「さぁ…中止になったって話は聞いてないから、一応進んでるんじゃないかとは思うけど…」
 「埋め立ててリゾート施設を作るっていう計画もあったよね」
 「ああ、あったね。でもさぁ、こんな所にリゾート施設を作っても、たぶん大して客なんか来ないような気がするけどね…沖縄のこの手の開発って、ちょっとピントが外れてる気がするなぁ」
 「そうだね…」
 「まぁ、地元の人が決めるべきことだと思うから、結果は結果で仕方無いとは思うけどね」
 しかし、このとき僕らの目を奪ったのは、干潟よりも、泡瀬の集落そのものの変化だった。干潟沿いにはマンションやビルがバンバン建設されていた。それに呼応するように、あちこちに「高層マンション建設反対!」という要旨のアジ看板が立てられている。う〜む、この建設ラッシュもまた、干潟埋め立てと何らかの因果関係があるんだろうか。…しかし、こんなふうに周辺住民が建設に反対しているマンションに住みたいと思う?僕だったら、何だか肩身が狭くて暮らし難い気がするんだけど…
 「…さて、そろそろ他の場所に移動しようか」と、Kが言う。続けて「次は“沖縄国際大学”に行ってもいい?」と訊いてきた。
 「大学?…ああ、あの米軍ヘリが墜落した所か」
 「そう。あの現場を見たいんだよねぇ」
 「へぇ…泡瀬の次は沖縄国際大学ですか。Kさん、今日は随分と社会派な感じですね」
 「そうでしょ?ジャーナリストみたいだろ?」
 え〜っと…ジャーナリストと云うよりは、ミーハーって感じでしょうかねぇ。あ、ジャーナリストもミーハーも似たようなもんか(←語弊あり?)
 

今日もまずまずの天気ですね〜♪
それじゃ、新鮮な気持ちでコザを出発。
Kさんが向かった先は…

 

泡瀬の干潟でした。
埋め立て計画、どうなっちゃうんだろう?
複雑な気分で海を眺める。

 

泡瀬周辺にはマンションやビルがニョキニョキと…
郊外型宅地&商業地化が急速に進んでます。
最近、こんな街ばっかりじゃない?沖縄って…

 

防波堤アート。お子様達の作品です。
埋め立てが始まると、このアートも消滅?
子供達はどう思っているのかなぁ?

  

何だかトラブル続きの泡瀬界隈。
我家にヒビが!
…スゴイ。って言うか、これは訴訟か何か起こしたほうが良いでしょうねぇ。

  

 国道329号線に戻り、330号線を通って宜野湾市に在る『沖縄国際大学』へ。大学の敷地を横目に走ると、テレビのニュース映像で見たままの、黒焦げのこびり付いた壁面が目の前に現れた。校舎を囲むフェンスには、「米軍ヘリ墜落事故を許しません!」とか「米軍基地は撤退せよ!」といった横断幕や壁新聞の類が掲げられ、このフェンスの前に警備員が二人ほど配備されていた。警備員が普段から居るものなのか、それともこの事故に関わって配備されているのかは不明であるけれど。フェンスの前には僕らの他にも数名の人が居て、皆これらの横断幕を繁々と見つめていた。
 それにしても、事故の痕が生々しい校舎の壁もさることながら、こんな所にヘリコプターが墜落したということ自体が、とても怖い。一歩間違えれば校舎にもろに突っ込んでいたかも知れないわけだし…もっと恐ろしいのが、この大学の周辺が住宅地だということ。ヘリがこの周辺民家に墜落でもしたら…この恐ろしさは、実際にこの現場を訪れれば、誰もが痛感するに違いない。だってホントに普通の住宅地なんだもん、この辺り。
 「ある意味奇跡だよね、これで死人が出なかったなんてさ」
 「一歩間違えれば大惨事になりかねない状況だよね。…何だか背筋が寒くなって来るなぁ、この現場…」
 沖縄に於ける、米軍基地の存在。それを単純に否定してしまうのは難しい。でも、その存在が故に沖縄の人々に命の危険が及ぶのだとすれば、やはりそれはあってはならないものなんだろうと思う。そこに米軍基地さえ無かったら、米兵さえ居なかったら、起こるはずのなかった事件や事故の数々。その度に湧き上がる沖縄と米軍の問題。…もしも沖縄から米軍基地を完全に無くすことが不可能だとすれば、せめて地元の人の安全を脅かすような行為だけはしないでもらいたい。…って、部外者の僕が偉そうに言うことじゃないけどね。
 こうして僕らが事故現場を見ている間にも、頭上を米軍の飛行機が飛んで行った。その機影を目で追いつつ、僕は何だかそそら寒くなった。
 

沖縄国際大学。
米軍ヘリ墜落事故の現場です。
こんなところに墜落するなんて…怖いです。

 

ここを訪れたときは、既に事故から1ヵ月経過。
早くも「消し去らないで!」の言葉が掲げられている。
…1年経った今は…

 


「癒しの楽園」のもうひとつの実態。
リゾートライフなんて浮かれてんじゃね〜ぞ!
…あ、失礼いたしました(^_^;)

  

一体どういう墜落の仕方をしたんだろう?
削られたような傷が真横についてますが…
黒い筋は煤と焦げでしょうかね。

 


この校舎、今は解体されちゃってるんですよね。
「残すべきだ」という声もあったようですけど。
…校舎を残しても、気に留めなくなっちゃえば同じこと。

  

ヘリ炎上の様子を物語る、炭化した樹。
これで被害者が居なかったなんて、奇跡だと思う。
この辺は住宅地だし…ホントに怖いです。

 

米軍基地の存在。その功罪。一筋縄ではいかない問題。
でも、命が脅かされるんであれば、撤退してもらったほうが…
これは部外者の個人的な意見として、ですが。

 

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