糸満スカイライン・ファントム


 『アウトレットモールあしびなー』の在る豊見城から、331号線を南下する僕ら。早速次の行く宛てを決めあぐねている友人Kの様子を見て、「このままでは早くも無目的ダラダラドライブ(=サメ・ドライブ)が始まってしまう。何とかせねば…」と気が焦る僕だったが、基本的に沖縄本島南部は、こうしてただドライブをしてるだけでも案外気持ち良かったりするので、「これはこれでイイかな」という気分にもなって来る。
 「そうだ、“喜屋武岬”に行ってみようか」と、Kが言い出した。
 「喜屋武岬?ああ、イイけど…そう言えば、Kさんは行ったことが無かったんだっけ?喜屋武岬に」
 「うん、行ったこと無い。ささきは行ったことあるんだっけ?」
 「随分前だったけどね。たぶん、4年ぐらい前だったかなぁ…」
 
 331号線から逸れて喜屋武の集落に入ると、周囲には畑が広がる長閑な雰囲気。…が、いつの間にか僕らのレンタカーの背後にピタッと付いて来る一台の車。バックミラー越しに確認してみると、運転しているのは、まるで氣志團のメンバーのようなヘアスタイルをした、地元のヤンキー二人組み。「今どき居るんだ、こういうの…」とある種の感動にほんの一瞬だけ包まれたのだが、後車が明らかに僕らのレンタカーを煽っているのに気づくと、どうにもこうにも燃え滾(たぎ)ってしまう闘魂。俺ってホントにこういうのにすぐカッカ来ちゃうタイプなのである。
 「おい、K。後ろから氣志團もどきが煽って来てるぞ。ムカッ腹立つから振り返って中指突き立ててもよろしいでしょうか?」
 「やめろよ〜、そういうの…俺まで巻き添えを食っちゃうだろ〜」
 「じゃあ、嫌がらせに蛇行運転しろ」
 「ホントにキミは気が短いなぁ…大人気(おとなげ)無いよ、そういうの」
 「……確かに」
 でもさぁ!ナメられちゃ俺様の名が廃(すた)るじゃないか!(←どんな名だというのか?)あ゛〜っ!一泡吹かせてやりたい!
 という僕の極めて幼い衝動など何処吹く風って感じで、マイペースな運転を貫徹するKさん。…もしかすると、これはこれで「チンタラ走ってんじゃねぇよ!」と氣志團もどきを刺激し兼ねないほどのスロー運転。案の定、氣志團もどき二人組みは、後方でこれ見よがしの蛇行運転を何度か繰り返し始める。
 「…そう言えば、かなり昔にもこんなことがあったねぇ」と僕は12年前のことを思い出す。
 12年前、僕とKは“辺戸岬”からの帰り道の県道70号線で、やはり地元の車に煽られたことがある。このときも、Kの低速走行によってかえって事態は悪化、国頭村から東村まで延々と煽られ続けてしまった。
 「ああ、あの辺戸岬事件ね。懐かしいなぁ。ささきはホントにヘンなことをよ〜く憶えてるよね」
 「懐かしさに浸ってる場合じゃ無いような気もするんだけど…まぁイイか」
 そうこうしているうちに、煽られたまま喜屋武岬に到着。僕は軽い臨戦態勢で車を降り、後から着いた氣志團もどきにガンを飛ばす。が、彼らはまるでさっきまでのことなど無かったかのように、僕らのことなど一切無視して岬の展望台に向かって行く。う〜む、ちょっと拍子抜け&ちょっと安心(^_^;)。しかし、彼らは喜屋武岬に一体何をしに来たんだろう?展望台のベンチに腰掛けて、とくに眺めを楽しむふうでも無く、ヤンキーポーズめいた格好で固まっている。…謎だ。ひょっとして、氣志團のコスプレ?「化石風味のヤンキーコスチュームに身を包んだ俺たちをとくとご覧あれ!」みたいな?
 …まぁいい。ポーズを取って固まったヤンキーなぞに、もう用は無い。僕らは喜屋武岬からの眺望を暫(しばら)く眺めた。この日の喜屋武岬には、団体旅行客だろうか、かなり多くの見物客がわらわらと居た。ガイドさんの説明などを聞きながら、写真を撮ったり景色に目を遣っている。この岬で起こった、沖縄戦の最中での悲惨な出来事。…それを思えば、僕がヤンキーに気色ばんでいること自体が冒涜に近いことだったのかもしれない。反省します。
 

糸満の辺りで何気無く見掛けたアパート。
素敵なネーミングです、7(セブン)。
ブラピが出て来てこんにちは。

 


喜屋武の集落を進みます。
この辺りは畑が広がる長閑な景色。
このまま“喜屋武岬”に向かいます。

 

 そんな喜屋武岬を離れ、集落に戻りがてら、Kさんが目敏(さと)く“喜屋武城跡”の石碑に気づいた。以前僕が一人で訪れたときは、「一体どこが城跡なんだろう?」と思ってしまうような佇まいだったのだが、何だかすっかり整備されている様子だ。
 「ちょっと寄ってみよう」というKの提案に従い、城跡に近づいてみることにした。
 城跡の入口付近では、10人前後の地元のアンマー(おばちゃん)集団が、地面に座って一休みしていた。皆さん、帽子と頬被りをしている。そして、その手元には草刈鎌。僕らが城跡に近づく様子を、談笑しながら繁々と見ている。ちょっとこっ恥ずかしい感じ…
 「こんにちは〜」と、とりあえず挨拶をしてみる。と、アンマーたちも「こんにちは〜」と挨拶を返してくれた。
 「お兄さんたち、どこから来たか?」
 「あ?はい、東京です」
 「やっぱり〜。色が白いからさぁ、きっと都会から来たんじゃないかって思ってたよ〜」
 確かに真っ黒に日焼けしたアンマー達に比べたら、僕らはかなり色白だ。
 「とくにそっちのお兄さんは、白くて綺麗な肌をしてるさぁ。うらやましいねぇ」
 “そっちのお兄さん”とは、明らかに僕のことだった。…う〜む、男の僕を捕まえて「白くて綺麗な肌」ってねぇ…喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか…
 「そんなに綺麗じゃないんだよ〜。ほら、よく見てみてよ」と、僕はアンマーに近づく。
 「充分よ〜。若いし白いし、(私と)取り替えて欲しいぐらいよ〜」
 「若いって言われるような歳じゃ無いんだけどねぇ。もう34だから」
 「まだまだ若い若い。アハハハハ」
 …こんな具合でアンマー集団との美白(?)談義に少しばかり付き合わされ、やがてアンマーは徐に立ち上がり、「じゃあ、さよなら〜」と言いながら、草刈作業を再開し始めた。
 「…ささき、すっかり溶け込んでましたけど、おばちゃんトークに。いつの間にかタメ口(ぐち)になってるし」
 「おばちゃんの心を掴むには、まずタメ口。これは鉄則です」
 「ホントかよ…って言うか、おばちゃんの心を掴んでどうする気なんだ?」
 「…さぁ…」
 Kの的確なツッコミに首を傾げつつ、城跡へと入る。
 どうやらこの城跡はまだまだ整備中のようで、遊歩道も石垣も、すべてが真新しい感じだった。発掘調査も続いているらしく、あちこちに「調査中につき立ち入りはご遠慮ください」などの但し書きがあったり、実際に調査をしている人達の姿も見られた。
 城跡そのものは、今ひとつまだよく分からない印象だったのだが、ここからの眺望はかなり凄かった。眼下に広がるのは巨岩がゴロゴロと転がる浜と、その先に披(ひら)ける大海原と水平線。やっぱり海はイイねぇ。小さいことなんかどうでも良く思えて来るもんなぁ。
 これが、年一回の沖縄長期旅行の醍醐味。日頃の憂さをスカッと置き去りにして、トロトロとした緩い時間を過ごす。さすがに一泊二日じゃこうは行かないからね。
 「あ〜あ、帰りたくないなぁ」などと、早くも現実逃避モードへまっしぐらに突入しつつある僕ら。この寛大な心でKさんのサメ・ドライブやマンネリズムも許してあげたい気持ちに…いや、それとこれとは別。油断は禁物だ。僕は飽くまでも“沖縄での一週間”を楽しむためにここへ来ているのであって、Kのダラダラドライブに付き合うために来たわけじゃ無いのだ。
 「…さて、そろそろ行くか。次は“新原(みーばる)ビーチ”に行こうか」と、Kが言う。
 「お、珍しく行き先を早々に決めましたね。さすがにKさんも進歩したね」
 「え?…だって、この近くで他の場所が思い浮かばなかったから…」
 …前言撤回。 
 

岬から戻って来ると、頬被りをしたアンマー軍団と遭遇。
“喜屋武城跡”の草毟りをしていた様子。
実に大らかなアンマーの皆さんでした。

 

“喜屋武城跡”。
わりと最近整備され始めたばかりの城跡。
芝生もまだ生え揃ってない感じ。

 

何やら調査中みたいです。
この城跡、以前はこんなだったっけ?
何か雑木林に埋もれてたような気が…

 


この石垣も新しく築かれたものっぽいような…
公園か何かになるのかなぁ?
新しい観光スポットになるかも(?)。

 

ここからの眺望はなかなか雄大です。
巨岩がゴロゴロと転がっているワイルドな光景。
南部の海岸らしい眺めではあります。

 

こちらも同じく喜屋武城跡からの眺め。
この辺りは沖縄戦の激戦地。
崖から海に投身する人も多かった。

 

 新原(みーばる)ビーチ。僕はこの年の1月にも一人で立ち寄ったし、これまでにも何度か来ているのだが、Kと一緒に来るのはかなり久し振りのことだったらしい。新原ビーチのバス停を見ては「懐かしい」と言い、ビーチ近くの集落を通過すればまた「懐かしい」をしきりに連発する。
 「そんなに久し振りだったっけ?どれぐらい前だったっけ、Kがここに来たのは…」
 「う〜ん…よく憶えてないけど。もしかして、そんなに昔のことじゃ無いのかも…ハハハハ」
 「ハハハハ…」
 でも、確かにKと一緒にこのビーチに来るのは、結構久し振りのことだと思う。沖縄に通い始めた頃は、いつもこのビーチに泳ぎに来たものだった。最初に本島に来た年(93年)なんて、タクシー&路線バスで遥々ここまで2度もやって来たからねぇ。
 「あの頃は、このビーチを見ただけで“おお〜っ!”なんて感激してたからなぁ」
 「そうだよね、今はもう離島の海も見ちゃったりしてるから、それほど感激もしなくなっちゃったけど」
 「そういう意味じゃ、ちょっと寂しいような気もするね。目は肥えたけど、感動の度合いがどんどん薄れちゃってるような…」
 とは言え、このビーチは所謂(いわゆる)リゾートビーチや離島の浜辺とは一味違う魅力も兼ね備えている。何しろ、海の家の類や貸しボートなどのオプション(?)の充実度はかなりのものだ。家族連れで気軽に海水浴in沖縄を満喫するには、持って来いなビーチかもしれない。まぁ、その分風情に欠ける気もするけどね。あ、でもさ、泳いだりした後で焼きそばとかカキ氷とか食うのって、かなり気持ちイイんだよなぁ。そういうコテコテの海水浴場テイストを味わいたいなら、やっぱりこのビーチは外せないだろう。
 「ハァ〜、泳ぎたいなぁ…よし!決めた!今年はしっかり泳ぐぞ!何だかいつも沖縄のビーチに来てるのに、俺達って滅多に泳がないだろ?今年はしっかり泳ぐぞ!」
 「え?ここで?」
 「いや、ここではちょっと…やっぱり八重山の海でしょ、泳ぐとしたら」
 “上を見たらキリが無い”とは良く言ったもので、離島の海を一度体験してしまうと、どうしても本島の海で泳ぐ気になれなくなってしまう。悲しい人間の性(さが)である。ゴメンね、新原ビーチ。
 

新原ビーチ。
天気がイイとかなり気持ちイイ。
グラスボートの呼び込みは鬱陶しいけどね。

 

リゾートとは一味違う、庶民的なビーチ。
海の家やシャワーも完備。
まさしく「海水浴場」って感じのビーチですね。

 

周辺の集落の雰囲気もなかなか良かったりして。
でも、住人の皆さんは大変かもねぇ。
シーズン中は海水浴客がウヨウヨ歩いてるし。

 

グラスボート乗り場に人影が。
僕も12年前には乗りました、ここで。
…あまり記憶に残ってないんだけどね(^_^;)

  

 新原ビーチを後にすると、いきなりKは「じゃあ、そろそろコザに向かうとするか!」と気合の入った決意表明をした。
 「…え?もうコザに行くの?今、まだ午後3時を少し過ぎたぐらいですよ。しかも、ここは南部ですよ。コザに向かうのは良いけれど、その途中で何処かに寄って行こうとかいう発想は、まったく生まれて来ないんですか?」
 「え?だって、ささきはどこか寄りたい所があるの?」
 「いや、べつにそういうことじゃ無くて…」
 「とりあえずコザに向かって行って、途中で何か寄りたい所が見つかったら寄ればイイんじゃない?」
 そりゃごもっともな意見ではある。が、僕は分かっているのだ。こういう場合、Kは絶対ノンストップでコザまで行くに決まっている。「那覇に帰ろうか」と言うが最後、名護から那覇までノンストップで走り続けるような男なのだ。普段無目的で走っている反動なのか、単にそういう性格なのか、彼は一旦目的地を決めてしまうと、そこへ脇目も呉れず一気に到達してしまう。“旅行”とか“観光”とか“寄り道”という概念が、どうも彼の中に欠如しているような気がするのだが…
 結局、僕が予測したとおり、Kは南部から329号線でコザまで一気に突っ走ってしまった。あまりに予測どおりの結果だったので、何だかツッコむ気にもなれない。約1時間半のノンストップ走行で、午後5時前に『デイゴホテル』に到着。
 「いよいよデイゴホテルだねぇ」と、やや興奮気味でホテルの駐車場に入るK。
 「…そんなに強い思い入れがあるのか?デイゴホテルに」
 「いや、べつに…でも、本島で那覇以外の所で一泊するのって初めてだし、デイゴホテルって有名だし、それにこのホテルのレストランに嘉手苅林昌がよく来てたんでしょ?そのレストランも見てみたいし…」
 はっ!そうだった!すっかり忘れていたが、Kという人物には、サメ・ドライブ及びマンネリストの他に、もうひとつの肩書きがあったのだった。それは“意外とミーハー”。彼はこの旅行の直前に『沖縄ナンクル読本』という本を読んでいたらしく、そこに件(くだん)の“嘉手苅林昌とデイゴホテル”の話が書かれていたのだ。この本は僕も以前に読んだことがあったので、林昌さんのエピソードも記憶の中に在ったのだが…どうやらKは、このエピソードの舞台となったデイゴホテルに、かなりミーハーな関心をそそられているようなのだ。
 「いや、でもさ、Kさんの関心に水を差すようで悪いけど、確かデイゴホテルって、去年改装してるはずだよ(改装工事中のホテルの前を、去年僕らは通過しております…)。そのレストランってのが、嘉手苅林昌が存命だった当時と同じままなのかどうか…」
 という僕の言葉などまったく耳に入っていない模様のKさん。意気揚々とホテルに入って行くKの背中を目で追いつつ、僕は思う。「ともかく、ホテルでゴロゴロ→そのまま爆睡、という展開だけは避けねば!ホテルで一服したら、とにかく街に繰り出さなくちゃな。…まぁ、万が一Kが寝ちゃったら、俺が一人で外に出ればイイんだけど。そもそも街歩きは一人のほうが何かと気楽だし…でもなぁ、せっかくKと来てるっていうのに、それじゃあ普段の一人旅と変わらないような…」
 …さて、どうなるんだ。コザでの夜は。
 


南部からコザへと一気に北上。
今夜はKさん初のコザ宿泊です。
いつになく、Kさんも張り切っている模様。

 

…急に雲が多くなって来て、仄暗くなるコザ界隈。
ちょっと不安定な天気って感じ。
一瞬、通り雨も降ったりしてね。

 

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