双方向型


 『牧志公設市場』と、それを中心にした商店街の数々――市場本通り、むつみ橋通り、平和通り、市場中央通り、えびす通り、サンライズ通り、浮島通りなどを、僕らは一体何度歩いただろう?でも、ここには何度も足を運ばせてしまう何かが間違い無く在る。ときどき「牧志の市場なんてただの観光スポットじゃないか」と言う人も居るけど、そういう人とは友達になれそうにありません。…いや、確かに市場のおばちゃん達の、観光客に対する果敢な呼び込みは正直言って「ウザいなぁ」と思うことも多いし、ここで売られている商品の値段も決して安くは無い。しかし、沖縄でも最大級のパワーと活気を湛えているこの空間を素通りするなんて、そりゃあ勿体無い話だ。
 まぁ、公設市場そのものはともかく、その周囲を取り囲む商店街には地元の人御用達の店も多く軒を連ねていて、市場内とは少し違ったのんびりとした空気が流れている。ちょうど昼時前の時間帯だったので、昼ご飯の買物に来ているアンマーやオバァもかなり見かける。地元の人達と観光客が入り乱れるこの界隈。複雑に入り組んだ商店街の構造、そこで取り扱われている商品の雑多さ加減も相まって、ワクワクするような猥雑さに溢れている。
 僕とKは、まず公設市場の中に入る。Kはここで必ずお土産として伊勢海老だのアサヒガニだのといった魚介類を購入する。それも、かなり豪快なショッピングだったりする。恐らく彼は、1時間弱の短時間に数万円の買物をしているはずだ。端で見ていると「おいおい、大丈夫なのかよ…」と少し心配になるぐらい。
 「相変わらずスゴイ買物してますね、Kさん…」
 「そう?それほどスゴクも無いと思うけど…って言うか、ささきは逆に買わな過ぎなんじゃないの?」
 「だって、べつにこれといって欲しいものも無いし…」
 「買物もロクにしないくせに、ささきは市場に来たがるよね。失礼な客だよね」
 「…うるさい!ほっといてくれ!」
 確かにKさんの言うことには一理ある。僕は市場では滅多に買物をしないのだ。どうも僕は激しい客引きに猛烈な拒否反応を示してしまう癖がある。客引きがしつこければしつこいほど、僕は俄然張り切って(?)完全無視を貫く。そりゃあもうムチャクチャ冷徹なヤツってな勢いで。で、結局は何ひとつ買うことも無く市場を巡るだけに終始するわけね。
 …そんな、市場にとってはちっとも有難く無い客=僕と、極めて有難い客=Kは、それぞれの思惑で市場内とその周辺をウロチョロとする。Kが買物をしている隙に、僕はカメラを構えて売り物をバシバシ撮りまくる。ほら、だってさ、買物もしないで写真ばっかり撮ってるのはさすがに気が引けるでしょ?だから、連れのKさんが買物をしていれば「ほら、連れがこんなに買物してるんだから、写真ぐらい撮ってもイイよね?」的なエクスキューズが出来るでしょ〜。…我ながら妙な論理。
 とにかく、僕らはこうして今年も市場を彷徨する。アーケードの中をくぐって行けば、次第にその空気に馴染んでいく。雑踏に紛れてユラユラと歩くうちに、僕らは“開南通り”へと出ていた。
 

どうしても、ついつい来てしまう“マチグヮー”。
行き交う人と、街の喧噪が心地良し。
よし、じっくり市場散策だ!

  

ある意味、沖縄土産でNo.1の支持率を誇るのが、
この健康食品の類。
ウコン、ハブ、ヨモギ、もろみ酢、ノニ…

  

『牧志公設市場』に入ります。
市場で目立つのは逞しいオバァやアンマー。
結構、商魂も逞しかったり(^_^;)

  

アバサー(ハリセンボン)吊り下げの図。
これは商品?それともただのディスプレイ?
…どうやら後者のようですね。

  

賑やかな色が溢れる魚屋さん。
やっぱりこういうのを見ると「沖縄!」って感じがする。
…実際に買うかどうかは別として。

  

赤い海老、青い海老。いずれも伊勢海老さんですね。
セミエビなんかも普通に売ってたりする。
何気に高級魚です、セミエビ。

  

婦人服屋が軒を連ねる一角。
品揃え的にはかなりハイミセス向け。
…やはり市場はアンマー&オバァのものなのか?

  

惣菜や果物のワゴンも並びます。
会話を交えたお買い物タイム。
なんてことない日常なのに、何だかジンと来ます。

  

店の脇で島野菜の根を毟(むし)るオバァ。
市場の時間は人込みや喧噪の中でも、ゆっくりと過ぎて行く。
だから好きなんだよね、ここが。

 

 「そうだ。『農連市場』に行ってみようよ」と僕が提案した。開南通りを渡り、そのまま樋川の方へと進むと、そこには『農連市場』が在る。
 …実は、Kさんはこのときまで農連市場の存在を知らなかったらしい。初めて農連市場を訪れたKは、しきりに「へぇ〜」と関心してるんだか何だかよく分からない声を上げていた。
 「何だか、もの凄く地域密着型っぽい市場だねぇ」とKが言う。「牧志の市場に比べれば、確かにそうだね」と僕も頷く。
 「でも、お客がぜんぜん居ないねぇ」とKが言う。「ああ、ここって明け方から早朝が一番活気付くらしいからね」と僕が言う。
 「何だか野菜を売ってる店が多いよねぇ」とKが言う。「そりゃあ“農連市場”だからね。魚がメインなら“漁連市場”になるんじゃないの?」と僕が茶化す。
 ほとんど買い物客の姿も無く、閉まっている店も多い、静まり返った農連市場。最初は興味津々で見回していたKだったが、やがて興味を失ってしまったようだ。
 「腹が減ったね。どこかで昼飯でも食おうか」とKが言う。「そうだね、じゃあ、牧志の方に戻ろうか」と僕も同意する。
 「あ、俺さ、ちょっと入ってみたい店があるんだよね」とKが言う。「へぇ、珍しいねぇ。それは何処の店なんだ?」と僕が訊く。
 その店は…
 

緩々と歩いて『農連市場』へ。
Kさんは初めての農連体験。
かなり楽しみにしていたようです。

  

バイクの荷台+酒ケースの簡易ベッドで眠るおじさん。
ちょっと遅めのお昼寝タイム、といったところかな?
寝返りは打てそうにありませんが。

  

この時間の農連市場はかなり静か。
何しろ一番活気付くのは明け方〜朝ですのでね。
市場もお昼寝タイム、って感じでしょうか。

  


“ガープ川”に沿うように連なる市場。
それを繋ぐ橋の上で、おじさんは何を見、何を思う?
もしかすると魚か何かを見てるだけかも…

  

こちらの市場でもやっぱりオバァとアンマーが目立つ。
お客が少ない時間帯なので、店番しながら世間話。
言葉の間をすり抜けるようにして、店先をひやかしてみる。

  

「農連」だから、メインは野菜や果物。
もちろんそれ以外の物を扱うお店もちゃんと在るけど。
当然、島野菜もどっさりです。

  

そんな農連市場にも、大規模な改築計画が。
やがてこういう姿が見られなくなる日も来るんだよねぇ…
寂しいけど、それはそれで仕方無いことですよね。

  

 牧志の公設市場のすぐ傍に在る『花笠食堂』。ここはかなり有名な店なんじゃないかと思う。その立地条件もさることながら、あらゆるメディアでも取り上げられる頻度が高い大衆食堂だ。観光客ばかりでは無く、地元の人もかなり利用しているようで、店内はいつも大賑わい。相席は当然のこと、といった状態。実際、僕は以前一度だけこの店で食事をしたことがあるのだが、そのときも地元のアンマーを相席だった。で、今回もまた地元のオバァと相席になった。
 席に着くと、Kは暫(しばら)く辺りをキョロキョロと見回していた。混雑した店内は、ワサワサとした賑やかさに包まれているのだが、その一方で何とも言えない長閑(のどか)さも漂わせている。…う〜む、どうもこの独特の空気は言葉で表現し難い。
 店員さんに料理を注文して(確か“そば定食”か何かを注文したような気がする)、僕らはぼんやりと料理が来るのを待っていた。と、一足先に僕らと相席のオバァの前に料理が運ばれて来る。その料理を見て、Kが一瞬驚きの表情を見せた。
 「…スゴいボリュームだね…」 そう、この『花笠食堂』の定食は、どれももの凄いボリュームなのだ。メインのおかず、刺身、ご飯物と沖縄そば。これが1セットになって出て来る。ハッキリ言ってこれを見ただけで「もう腹いっぱいです」チックな勢いである。
 こんなボリューム満点の定食を目の前にして、相席のオバァは苦笑いのような表情を浮かべ、軽く首を横に振った。
 「いやいや、これは大変なことだねぇ」と呟いて、僕らに向かっておどけた顔をして見せる。僕らはそれに釣られて少し笑った。オバァは果敢にスペシャルな定食にトライし始める。そんなオバァの様子をチラチラと気に掛けているうちに、僕らの料理も配膳されて来た。…こりゃまたスゴいなぁ。僕とKは思わず目を合わせてしまう。よし!喰うか!
 黙々と目前の料理を咀嚼していると、オバァが僕の肩を手で軽く叩く。
 「お兄さん、この揚げ物、食べてちょうだいよ」とオバァは言って、自分の定食の皿からおかずを一品箸で摘み、僕の皿へと置いた。
 「え?いや、そんな、悪いですから…」と戸惑う僕に、「イイから、イイから。私はこんなにたくさん食べ切れんから。残すのは勿体無いでしょ。はい、そちらのお兄さんも、ひとつ食べてねぇ」とオバァは有無を言わさずに、Kの皿にもおかずを一品箸で摘んで渡した。「あ、すみません…」とKも若干戸惑いつつ、そのおかずを受け取った。
 「量が多いですよね、この定食…」と僕が言うと、オバァはしかめっ面をして「いやいや、こんなに料理を出されても、オバァは食べ切らんさぁねぇ。すっかりビックリしてしまったよ〜」と言い、アハハと笑った。「あなた達は若いんだから、どんどん食べないと」…いや、僕らも結構辛いんです、この量を完食するのは…
 このオバァは、浦添から那覇の病院に通院しているらしい。何でも、腕を怪我してしまったとかで、左腕にはサポーターが巻かれていた。
 「病院の帰りにちょっとお昼を食べようと思って、このお店に入ったんだけど…初めて入ったのよ、このお店。まさかこんなにたくさんの料理が出て来るなんてねぇ…あ、このそば、全然手をつけてないから、良かったら二人で食べていいよ」
 「え〜、でも、それじゃあほとんど料理をもらっちゃうことに…」
 「いいの、そんなことは気にしないでも。残すのは勿体無いんだから。…さてと、それじゃ私は帰ろうかねぇ。お兄さん達、ホントに食べてイイからね、このそば」
 「はぁ…じゃあ、ありがたくいただきます…ありがとうございました」
 オバァは僕らに沖縄そばを明け渡し、ニコニコしながら精算を済ませ店を出て行った。何だかちょっと良い気分になりつつも、オバァが残して行ったそばを見ると…思わず漏れる溜息。
 「どうしようか…俺、こんなに食い切れる自信が無いんですけど…」
 「う〜ん、俺も…でも、せっかくもらったんだから、やっぱり食べないと申し訳無い気がするよね…」
 「…じゃあ、そばを振り分けるか…」
 僕らはオバァの残した沖縄そばを、銘々のそばの丼(どんぶり)に半分づつ落とし込む。こんもりと山盛りになった沖縄そばは、驚く程に食欲を殺(そ)ぐオーラを放っている。僕らは、半ば拷問めいた気分ですべての料理を腹に収めた。
 「うぐ…く、苦しい」 「もう腹パンパン!」 「何だか胃もたれが…」 「歩くのもかったるい感じ…」などと青色吐息で言い合いながら、『花笠食堂』を後にする。
 
 「…さて、これからどうしようか?まだ(帰りの飛行機までは)時間があるけど」
 「そうだねぇ、じゃあ、『首里城』に行こうか」
 「ええっ?!首里城?…Kさん、確か一昨年も行きましたよね、首里城に…僕の記憶が正しければ、これで4度目の首里城訪問になりますけど…キミはそんなに首里城が好きなんですか?」
 「いや、べつに好きってわけじゃ無いけど…だって他に手頃な場所が思いつかないし…」
 「…まぁ、イイですけど。何たって“孤高のマンネリスト”ですからね、Kさんは…」
 「何だよそれ。人聞きが悪いキャッチフレーズじゃんか」
 …我ながら実に的確なキャッチフレーズだと思いますけどね。
 


再び牧志の市場界隈に戻って、飯でも食おう♪
で、かなりベタな選択。『花笠食堂』へ。
今やディープと呼ぶには有名になり過ぎてる観あり。

  


とは言え、ここはかなり面白い店なのは確か。
まったり感と混沌さ加減の不思議な共存関係。
そして何よりスゴイのが…

  

このボリューム!これで確か600〜700円そこそこですよ!
食の細い人や女性は要注意!って感じです。
砂糖の入ってるお茶(紅茶?)もちょっと微妙に嬉しかったり。

  

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