ソフトランディング


 那覇の朝は、散歩ではじまる。…というのは、僕の極めて個人的な嗜好の問題であって、少なくとも友人Kには当て嵌まらない定理のようだ。老人のような猛烈な早起きをしてしまった僕は、爆睡の奥底に深く沈んでいるKさんを尻目に、ホテルを抜け出して国際通りへと歩を進める。
 早朝の国際通りは、昼間や夜の喧噪が嘘のようにがらんとしていて、何処か凛とした空気に包まれている。時折通っていく車の音と、「ピヨ、ピヨ、ピヨ」というような横断歩道の盲人用警報音ぐらいしか聞こえて来ない。
 国際通りを一通り歩いて、そのまま適当に脇道に逸れてみる。那覇の中心部には、意外な程たくさんの“墓”が在る。沖縄独特の大きな墓。脇道の先には大概こういう墓がひっそりと存在していて、その周囲には草や木が生い茂る。沖縄最大の都市・那覇の、しかもその目抜き通りのすぐ脇に、こんなふうにエアポケットのように出没するお墓の数々。不思議な光景だなぁ、と思いながら、僕は墓巡りを開始する。
 果たして、僕が沖縄の細い路地(=スージグヮー)や墓の類をこれほどまでに偏愛するに至った経緯とは何か?…自分でもさっぱり把握できてなかったりするんだけど、その症状が顕著になったのは、96年の沖縄旅行だったような気がする。このとき、僕は夕方の路地裏をほっつき歩いていたのだが、狭い路地をウネウネと彷徨っているうちに、とある民家の窓から、カレーの匂いと三線の音色が一緒にふわっと流れて来た。で、そのとき不覚にも泣いちゃったりしてね。何てこと無い路地にこそ溢れる人の暮らし。その時間の儚さと濃厚さ。根拠の無い懐かしさ。その一方で、どう頑張ってみても、きっとこの空気の中に自分が溶け込むことは不可能だ、太刀打ち出来るものじゃない、と気づいたときの、やんわりとした絶望感。「沖縄のことは結構良く知ってるよ、俺♪」的な自惚れは、そのとき一瞬にして消えてしまった。…やっぱりこれは恋に近い感情なのかもしれない。どんなに想っても、どんなに近くに居ても、どんなに時間を共有しても、決して互いがひとつには成り切れない“何か”。その決定的な“何か”が歯痒いと苛ついてみたり、それでいてその“何か”に翻弄されるのが実は最大の魅力であったり、とか。
 僕は沖縄に翻弄されているんだろうか。…間違い無くそうだろうなぁ。これまで僕が沖縄に貢いで来たものは、物質的にも精神的にもかなりの量(かさ)になるだろうし(小型の自家用車2台ぐらいは買えそうな勢いです…)。いや、でもそれはべつに沖縄のためじゃ無くて、僕自身の愉しみために払った代償であるわけで…
 ってな具合で、どうでもイイことをウダウダと考えながら歩く那覇の路地裏。もしかすると、僕にとって沖縄で一番大切な場所は、こんな何気ない路地裏なのかも知れない。…って、カッコつけ過ぎですね。
 


かつて『山形屋』が在った敷地にテナントビルが。
…ところが、このプロジェクトは2004年に完全に頓挫。
どうやらJAL系のホテルが建つ予定らしい。

 

ま、それは置いといて、那覇路地裏散策へ。
隠れたお墓スポット、那覇の路地裏。
国際通りのちょっと脇道に入ると…

  


大きなお墓が其処彼処に。
亀甲墓だけじゃなく、いろんな形状の墓が在ります。
…ちょっと雑草生え捲り状態ではありますが。

  

こちらに至っては、墓そのものが草に侵食されていて…
辺りは静まり返っています。
都市の中心部界隈とは思えない静けさ。

  

それはたぶん、主の意図とは違う姿へ。
でも、だからこそ心惹かれる可笑し味と趣きを見せて。
時間の流れを容赦無く刻み込むために。

  

路地裏“スージグヮー”への入り口はあちこちに。
雑居ビルの軒下をくぐって、奥へ奥へと。
迷路のように入り組みながら、先へ先へと。

  

Tシャツで有名な『海人』の在るビル。
その頂上に残る“小禄ビル”の冠。
店舗の上を見上げて歩くのも、なかなか楽しかったり。

  

表から見ると結構綺麗な建物なんだけど…
これもかなり古いビルだろうと思います。
すぐ横には“むつみ橋通り”が。

 


新築のマンションの麓に緑蒸す亀甲墓。
この不思議な取り合わせ。
…さっきから墓ばっかりですね。

  


やっぱり那覇の路地裏散策は楽しい!
って、極めて個人的な嗜好で恐縮ではありますが。
“路地マニア”には絶対那覇がオススメです。

  

閉館してしまった映画館、『国映館』。
ここにもいつか新しい建物が建つんだろうなぁ。
街は絶え間無く変化していくものだし。

  


通学中の小学生。
国際通りが通学路ってのは、何だか面白いなぁ。
昼間〜夜は観光客でごった返してる通りだからねぇ。

  

路地は路地を呼び、散歩者を誘う。
とにかく、どんどん先へ進んでみる。
そして、どんどん迷ってみる。

  

あ!アフリカマイマイ!デカい!
これって当初は食用として持ち込まれたらしい。
怖〜い寄生虫のキャリアーでもある。要注意!

  

 さて、漸くお目覚めのKさんとホテルを出て、レンタカーに乗り込む。Kは那覇から南部方面に向かって進行するつもりのようだ。
 「…ごめんね、K。俺も毎日毎日同じことを詮索するのはイヤなんだけどさ…これからどこに行くつもりなんだ?」
 「え?」
 「“え?”じゃなくてさ、どこか行く宛てがあって車を走らせてるのか?って訊いてるの」
 「…べつに…」
 「ハァ〜(←溜息)…今日は沖縄最終日ですよ。頼むから無駄な時間の使い方だけはしないでください。俺からのささやかなお願いです」
 「う〜ん…そう言われてもなぁ…これといって行きたい場所が思い当たらないんだけど…」
 「ああ、そうですか。もう結構です。…ぶっ殺す!」
 「ハハハ。何も殺さなくても…」
 こんな不毛&マヌケな遣り取りをしつつ、僕ら(というかKさん)はひたすら南風原の辺りをグルグルとノンストップで走り続ける。約2時間の間、果たしてどこをどうやって走っていたのか分からないぐらいに、何のときめきも歓びも見出せないままに…挙句の果てに、Kが言った。
 「…何かもう運転も飽きちゃったね。レンタカーを返しちゃおうか」
 そりゃ飽きるだろ!2時間も街の中を走り回ってりゃあよぉ!僕は運転どころか、この状況にウンザリするほど飽き飽きしてます、とっくの昔から!
 …と罵声を浴びせたくなったが、もうそれすら無駄な労力のような気がして、「そうだね」とだけ答える。
 「車を返したら、牧志の市場に行きたいねぇ」とKが言う。それには僕も二つ返事で同意した。
 「それから、首里城にも行きたいねぇ」とKが言う。首里城?どうやらKさんは首里城が結構お気に入りのようだ。これで4回目の首里城訪問ですよ、Kさん。こんなに首里城に何度も通う観光客も少なかろうて…
 旭橋の近くに在るレンタカー屋に車を返却し、ゆいレールに乗って“牧志駅”まで移動する。あ、そうか、Kさんが首里城と言ったのは、ゆいレールを利用したかったからなのか。…でもねぇ、ゆいレールの“首里駅”と首里城の間って、微妙に距離があるんですけどね…
 「さぁ!まったく無駄だった2時間を取り戻すぞ〜♪」と張り切る僕。
 「無駄って何だよ〜。人生には無駄なんてものは無いんだぞ」と、したり顔で語るK。オマエが言うな、オマエが!
 

友人Kさん、サメ・ドライブ中(ーー;)
那覇→糸満→南風原界隈を無意味に走行。
…イイ加減にしろよ!

  

意味も無く撮ってみた『仲里スーパー』。
たぶん南風原のどこかだったような…
もう記憶すら定かじゃ無くなっちゃって…

  


これまた意味も無く『お食事の店なかよし』。
現在も営業中なのかどうか…ちと分からず。
Kさんがどういうつもりなのかも、さっぱり分からず。

  

…結局、那覇に戻って来ちゃいました。
なんか時間を無駄に費やした気分なんですけど…
おい!ど〜なってんだよ、K!

  

みんなでBegin!!犯罪のないウチナー。
……微妙。
それにしても最近のBEGINの活躍は目覚しいですなぁ。

   


そんなポスターが貼られていたりするのが、
ゆいレールの“旭橋駅”だったりして。
そのゆいレールで移動した先が…

  

…牧志の市場なのでした。
やっぱり毎度やって来てしまう“マチグヮー”。
観光化してようが何だろうが、僕はここが大好きなのだ!!

  

表紙へ            前へ              次へ