紅い魚


 時間が経つに連れて、空模様は不安定になって来た。ちょうど『トリイ通信基地』の辺りに差し掛かったところで、小雨がぱらついたかと思えば、急にパーッと陽がさして来たり。
 …って言うか、Kさんは一体どこに行こうとしているのか?58号線を北谷から読谷村に入り、そこからさらに県道6号線に入るKさんに、ちょっと質問してみよう。
 「あのさ、どこに行くつもりなんだ?…答えにあまり期待はしないけど」
 「え?…いや、べつに…何となくこっちに行ってみようかな、と思っただけで…」
 「…やっぱりね」
 と、視界に入って来たのが、『楚辺通信所』。“象の檻”という通称のほうが有名かもしれない。円形を描く不思議なゲージの中にこじんまりと通信施設が納まっている様子は、何だかそこだけが完全に隔離された空間のようにも見える。Kは「もっと近くで見よう」と言って、象の檻のすぐ傍まで車を走らせた。
 思えば、ここに来たのは96年以来のこと。その当時、この象の檻の存在はテレビのニュースなどですっかり世間に広まってしまった。軍用地の使用期限切れに伴う契約更新を拒否し、「米軍の不法占拠」を訴えたのが、象の檻の一部の土地の持ち主だった知花昌一さん。そのときに僕ははじめて“反戦地主”と呼ばれる人の存在を知った。一時だけ自分の土地に入ることを許可され、そこで家族や友人たちと祝宴を行なった様子も、テレビのニュース映像として流された。
 今更ながら振り返ってみれば、ホントに沖縄は米軍の所為によって様々な苦汁を飲まされて来たのだなぁ、と思う。もちろん、米軍によって恩恵を受けている部分があることも、完全には否定出来ないのだけれど。知花さんの行動がクローズアップされた背景には、その前年に起こった米兵3人による少女拉致強姦事件の衝撃があったと思うし、その後も米兵絡みの事件や事故は後を絶たない。
 米軍施設が沖縄から無くなる日が来るのか?…正直言って難しいだろうな、とは思う。じゃあ、米軍と沖縄が共存していく上での最善の道を探して行くしか無いのか?…それもきっと難しいだろうなぁ。何だかんだ言っても“戦争”のために存在するものと、普通の人々の普通の日常が背中合わせになっていること自体が不自然で不均衡なのだから。
 …だけど、そのことにつべこべ言える資格が僕には無い。何しろ僕は、コザや辺野古に漂うチープな異国情緒を単純に面白がったりしているわけだから。僕自身の中にある、この矛盾。象の檻の前に立って、少しの間考え込んでしまう。
 「…何だか気持ち悪い建物だよね」と、Kが呟く。「そうだね」と僕は答える。
 
 象の檻から再び県道に戻る。途中、狭い道路に路上駐車している車が目立つようになった。
 「何かあるのかな?こんなところにこんなに車が停まってるなんてさ」
 その激しい路上駐車の原因は、どうやら近くに在る『読谷高校』の学園祭だったらしい。
 「あ〜、そうかぁ、そういうシーズンなんだよね、考えてみれば。何だかこっち(僕ら)は夏休み気分で沖縄に来てるから、ピンと来ないけど」
 「そうだよな、もう10月だもんね」
 読谷高校だけじゃなく、近所に在る小学校でも運動会が開催されていて、周辺はとても賑やかな雰囲気。さっきまでの沈んだ気持ちが少しだけ軽くなって、僕はホッとした。
 「ちょっと覗いて行こうか、学園祭を」と僕。
 「え〜?関係者でも無いのに?」とK。
 「学園祭は関係者じゃなくたって入れるだろう?さすがに小学校の運動会に入るのは気が引けるからさぁ」
 「何で?」
 「だって、ブルマ姿の小学生に向かってカメラを構えたりすると…“この男、ひょっとしてロリコン?!”なんていう、あらぬ嫌疑をかけられちゃうかもしれないじゃん」
 「あ〜、なるほどねぇ。ささきはホントにそういうどうでもイイことには、良く気が回るよね」
 などという会話を交わしているうちに、Kさんはさっさと学校周辺を離れて行く。…まぁ、どっちみちKが学園祭なんかに立ち寄る気がサラサラ無いのは分かってたんですけど。
 

『トリイ通信基地』の辺りを走行中。
果たしてKさんに行く宛てはあるのか?!
一抹の不安が胸をよぎる…

 

『楚辺通信所』。通称“象の檻”。
ここに来るのは今回で2度目。
知花さん、今はどうしてるんでしょうか?

  

『読谷高校』は学園祭みたいです。
後で知ったんだけど、ここってKiroroの母校らしい。
♪ほ〜らぁ〜足元を見〜てごらん〜〜

  

こちらはたぶん『喜名小学校』。
運動会が開催されているみたいです。
う〜ん、秋の風物詩目白押しですね。

  

 で、Kさんが向かったのは“読谷・やちむんの里”。ここはかつて『嘉手納弾薬庫』だった場所。那覇市壺屋から諸事情で退去して来た陶芸家たちが、この地に集まって窯を置き、それが現在に至っているわけね。
 何かと焼物や陶器の類に関心を示したがるKさんではあるが、正直言って彼にその良さを見抜く審美眼があるのかどうか、僕は大いに疑っている。一方、僕の感想は…
 「…沖縄の焼物は、あんまり僕の好みじゃ無いかも…」
 沖縄の陶芸家の皆さん、ホントにごめんなさい。僕はもうちょっと渋くて質素な感じのほうが好きだな、と思ったりして。
 それにしても、ここはどうやら結構人気のある観光スポットらしく、駐車場には大型バスが4台も停まっていて、どの窯の直売所にも観光客の姿があった。人間国宝の金城次郎の窯の前で、「は〜、これがあの金城次郎の…」と見入っている観光客の皆さんの傍らで、「金城次郎ってまだ生きてるのかな?(本当にごめんなさい、失礼なことを…)」とか「あの『テーマパーク・琉球の風(現・むら咲きむら)』のみやげ物ゾーンで椅子に座って居眠りしてたおじいさんでしょ?(←たぶん別人)」などと甚だ不謹慎なトークを繰り出す我々。これを関係者の方が知ったら、きっと「オマエらは“やちむんの里”に出入り禁止!」と言うに違いない。
 「ところで、陶器好きのKさん。お気に召した陶器はありましたか?」
 「う〜ん…あるにはあるんだけど、ちょっと値段がね…」
 名工による名器は、やはりお値段もそれなりに、ってことですかね。
 …何だか失礼なことばっかり言ってますね。どうもすみません。
 


“読谷・やちむんの里”を初訪問。
これは『読谷山窯』。読谷山と書いてゆんたんざと読む。
保栄茂と書いてびんと読む、みたいな。(←無意味)

  

人間国宝・金城次郎さん等の窯。
…僕はその良さがあまり分からないんだけど(^_^;)
スゴイ人なのは間違い無いんだけど。

   

登り窯がド〜ンと登場します。目を引くね、これは。
赤瓦が否が応にも沖縄を主張する。
観光客の姿も多く見られました。

   

登り窯ってのは、非常に熱効率の良い焼き窯。
釉薬と灰との窯変美が特徴なんだそうな。
…よく分からないけど(^_^;)
 

で、各窯には直売の売店が併設。
焼物が所狭しと犇(ひしめ)き合う。
どれも結構イイ値段だったりするんだよねぇ(^_^;)

  

こういうの、沖縄の焼物っぽい(≒金城次郎っぽい)。
大らかな感じって言うの?
魚の図柄が多いし。

  

シーサー。
顔と躰のバランスがヘンに見えるのは気のせい?
「白タイツを履いたシーサー」と勝手に命名。

  


気持ち良さ気に眠る猫。
観光客が撫でてもまったく動じず。
…あの〜、ここはレジ(精算所)の上ですけど…

  

 やちむんの里を離れ、どうやらKさんはコザに向かってひた走っているらしい。…しかし、Kは何故毎年毎年こうもしつこくコザに通うのか?コザの街並みに特別強い関心を寄せているふうでも無く、かと言って買物を楽しむわけでも無く、只々“中央パークアベニュー”とその周辺の商店街をほっつき歩くだけ。毎年それの繰り返し。…一体、彼をこんな無駄な様式美に駆り立てるものは何なのか?10数年間、彼と共に旅をして来た僕だが、未だにさっぱり分かりゃしないんですけども…
 「またコザですか?K先生…良くもまぁ、毎年毎年飽きもせず…」
 「え?だって、ささきも好きだって言ってたじゃん、コザが」
 「確かに俺はコザが好きだよ。でも、Kの場合、いつも同じ商店街をウロチョロして終わりじゃんか。ゲート通りに出るわけでも無いし。行動範囲が極めて狭いんだよなぁ、Kのコザ巡りは…」
 「チッチッチッ(エースの錠のポーズで。古っ!)。今年はいつもとちょっと違うんだよ。実は、行ってみたい場所があるんだ」
 「ほ〜!そりゃまた目覚しい進歩だ。…ハッ!まさか怪しい風俗営業系の…」
 「違うよ!今までそんなところに行ったことないだろ!ま、行ってからのお楽しみ、ってことで」
 …ホントに楽しみにしててイイんだろうか?ちょっとばかり不安ではあるのだが…

 さて、コザに向かう途中、視界の中に入って来たのが、石川市に在る『ホームセンター タバタ』という、わりと大きめのショッピングセンター。Kはその姿を確認するや否や、躊躇うこと無くその駐車場に入って行った。
 「まさか、Kが言う“行ってみたい場所”って、この『ホームセンター タバタ』のこと?!」
 「いや、違う違う。ちょっと小腹が空いたから、何か食べて行こうかと思って」
 小腹が空いた?だって、ほんの数時間前に北谷でマズい丼物を食ったばかりじゃないか。
 「う〜ん、個人的にはあんまり食べたい気分じゃ無いんですけど…」と渋る僕を完全無視して、Kはさっさとホームセンターの中に在る『石川の駅』という食事処に入ってしまった。
 一旦店の中に入ってしまうと、さほど腹の空いていなかったはずの僕も、ついついメニューをあれこれ物色してしまう。それにしても、この食事処のメニューの多さたるや、並みのファミレスなら裸足で逃げ出す勢い。軽食、酒のつまみ系、甘味、定食、なんでもござれの豊富さ加減に、少々面食らってしまった。
 「迷うなぁ、どれにしようかなぁ…あ、俺、唐揚げ定食にする♪」
 「え?ささきはあんまり食べる気分じゃ無かったはずじゃあ…」
 「まぁ、イイじゃないか。唐揚げが食べたい気分になったんだよ、たった今」
 「……」
 ところが、いざ注文した唐揚げ定食が目の前に現れると、途端に後悔し始める僕。意外にもボリュームがある定食を見ると、何だか視覚だけで満腹中枢が満足しちゃったような…
 半ばヤケになって料理を咀嚼する僕を他所に、Kはそば定食を涼しい顔で食べながら、「そう言えばさ、今晩は沖縄最後の夜だよね。どこの店に飲みに行こうか?」などと、タイミングの悪い話題を振ってくる。
 「どうせKのことだから、また例によって例の如く、ホテルの近場の『ふるさと万歳』で手軽に済まそう、とか思ってるんじゃないの?」
 「…ハハハ」
 どうやら図星だったらしい。…キミの辞書には「維新」とか「変化」とか「冒険」とか、そういう文字は無いのか?と問い詰めたくなる気分なんですけど。
 
 そんな孤高のマンネリスト・Kさんは、『石川の駅』での食事を終え、これまた毎度毎度のコザへと移動を再開。
 

石川市に在る『食事処・石川の駅』に立ち寄る。
食品の売店が並ぶグルメスポット!(?)
『ホームセンタータバタ』と隣接しています。

  

やっぱり注目してしまうのは「やぎ汁」「やぎさしみ」。
それにしても、やぎ汁980円ってのはワリと安いのでは?
居酒屋なんかでも1,200円ぐらいするよね?

  

そんな『石川の駅』の食堂でちょっと食事を。
メニューの多さに軽い衝撃を受ける。しかも安い。
どれにしようか、散々迷った挙句…

  

…無難に唐揚げ定食なんぞを注文してしまう俺(^_^;)
500円前後の値段で、このボリューム。
右端にちょこっとあるのは味噌汁じゃなくて沖縄そば。

  

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