落 日


 Kは“西辺安名崎”から一気に“東辺安名崎”へと移動する。その間、どこにも立ち寄らない。僕がどんなに「新城海岸とか吉野海岸も海が綺麗なんだよ」などと言おうが、「ふ〜ん」の一言で片づけられてしまう。…やっぱりこの男、己(おのれ)のサメ・ドライブぶりを悔い改める気は更々無いらしい。

 東辺安名崎には、思いの他多くの観光客が訪れていた。さすがは宮古島でも一二を争う観光名所だ。駐車場には大型観光バスも数台停まっていて、老若男女が岬の突端へと伸びる一本道を行き来している。僕らもそれに混ざって、突端へと歩を進める。
 Kはしきりに「懐かしいなぁ」などとつぶやきながら、周囲をキョロキョロと見回している。前回ここにKとやって来たときも、大体同じような時刻だった。そろそろ陽が翳り出してきて、岬を囲む海の色も濃くなり、吹いて来る風も少し涼しく感じられた。…って言うか、今日はかなり風が強いんですけど。どうも時間が経つにつれて、だんだんと風が強くなって来ているような…頭を掠める一抹の不安。
 「どうも宮古島に来ると、風に悩まされることが多いんだよなぁ…イヤな予感がする…」と不安がる僕。
 「明日は伊良部島に行くつもりなんだけど、フェリーはちゃんと出るのかなぁ」と、僕につられて不安がるK。ひょっとすると、宮古島と相性が悪いのは、Kじゃなくて僕のほうなのかもしれない。やれ飛行機が飛ばないだの、飛んだは良いが乱気流で揉みくちゃ状態だの、豪雨に見舞われたりだの、必ず何かしら起こる。まったく歓迎出来ないイヤなジンクスではある。
 「…ところで、明日伊良部島に行くって、今はじめて聞いた話なんですけど…」
 「え?そうだっけ?言ってなかったっけ?」
 「はい、明日行く、っていうのは初耳ですねぇ…何だかキミは自分の中だけで勝手にプランを練ってませんか?」
 話が逸れた。東辺安名崎だ。岬の突端に聳えている白亜の灯台に向かって歩いて行くと、灯台が一般公開されていて、入場料を払えば内部に入れるようになっていた。今までここを訪れたときには一般公開していなかった気がするのだが…
 「これも台風被害復興支援の一環なのかな?ここで得た収益を復興支援金として活用するとか」
 「さぁ、どうかねぇ。ちょっと入ってみようか?」とKが言う。
 「う〜ん…灯台の中なんて、どこも似たようなもんじゃないの?」
 「せっかく開いてるんだから、入ってみようよ」
 「…ま、イイけどさ…」
 とにかく、とりあえず灯台の中に入ってみることにする。入り口付近にある海上保安関連の資料や、全国のめぼしい灯台との比較立体模型のような物に一通り目を通し、さっそく灯台の上へと続く螺旋階段を上ろうとすると、急にKが難色を示した。
 「これ、ホントに上るの?俺、あんまり気が進まないんだけど…」
 「え?だってせっかく入場料を払ったのに、上に上がらないんじゃ勿体無いじゃんか」
 「初日に竹富島で歩き過ぎちゃったからさ、足がまだ痛いんだよね…」
 「えぇ?!だってあれからもう丸二日経つぞ?!それなのに、まだ痛いのか?」
 「いや、痛くて歩けない、ってほどじゃないけどさ、出来れば歩きたくないな、って言うか…」
 「ずいぶんと足腰にガタが来てる33歳だなぁ…高々100段弱の階段じゃないか。さ、気張って上り切るんだ!大体、灯台に入ろうと言い出したのはKじゃないか。上がらないんじゃ入場料がもったいないじゃんか。」
 「……」
 渋るKを叱咤し、螺旋階段を上って行く。階段は思ったよりも狭く、上方から降りてくる人と擦れ違うのがやっとな状態だった。で、そんな階段を上り切って展望スペースに着くと、猛烈な風がビュービューと吹き荒んでいた。
 「うわっ、これじゃ景色を楽しむどころの騒ぎじゃ無いよ〜。だから言ったじゃんか、上るのは止そう、って」と、Kは強風に煽られながら文句を言う。
 「じゃあ、何で灯台の中に入ろうなんて言ったんだ?ここまで来なけりゃ、内部に入った意味が無いじゃん」
 「…そりゃそうかもしれないけど」
 「とにかく、360度の大パノラマを堪能しよう。風になんぞ負けちゃいかん!」
 とは言ったものの、さすがにこの強風の中ではゆっくり景色を眺めるのは無理っぽい。それに海風独特の冷たさ&湿り気で、体が冷えるわベタつくわで、正直言って居心地が悪い。僕らはそこに2分程度留まっただけで、そそくさと螺旋階段を下ることにした。
 

“東平安名崎”のすぐ手前にある“保良漁港”。
…って、昔からこんなに整備されてたっけ?
ちょっと記憶に無いんですけど(^_^;)

  

東平安名の海もなかなか綺麗です。
岩がゴロゴロしてるのも相変わらずの眺め。
風があって、波はやや高め。

  


東平安名崎の灯台へ続く一直線。
左に見える丸い岩は“マムヤの墓”。
いろいろ事情があって、投身自殺しちゃったマムヤさん。

  

“東平安名崎灯台”。
『日本の灯台100選』にも選ばれてます。
しかし、ホントに多いな、『日本の○○100選』っての…

  

灯台の中に入れるらしい。
…え?!この灯台、西暦900年から在るの?!
公開時間が9時〜16時30分という意味らしい(^_^;)

  

アザラシorオットセイorラッコの敬礼に見送られつつ、
灯台の中に入ります。
ちょっとした展示コーナーを横目に階段を上がると…

  

わお!96段もあんの?!
「96段」の後に書かれた小さな「?」が微妙な…
ちゃんと数えてないのか?

  

灯台の上からの眺望。
こうして見ると、まさに「岬」って感じがする。
ホントに宮古島って平らなんだなぁ。

  

同じく灯台の上から。
宮古でも一二を争う景勝地・東平安名崎。
その面目躍如といった感じか。

  


これも同じく灯台の上から見た海。
灯台の上だと風の強さがかなり強力。
吹っ飛ばされそうなぐらいの風圧です。ちと怖い。

  

 さて、Kは東辺安名を後にして、一路“来間島”を目指しているようだ。思えば8年前、僕らは今回の行程とまったく同じ順路でドライブをした。砂山ビーチ→池間島→西辺安名→東辺安名→来間島。丸っきり8年前と同じ道程で観光地巡りを繰り広げるKさん。これは果たして意図的なものなのか、それとも単なる偶然なのか?
 「…Kよ、これは意図的なものなのか?」
 「…え?いや、べつにそういうわけじゃないよ。大体、8年前にどこをどんな順番で周ったかなんて、ほとんど憶えてないし…」
 「…ふ〜ん…」
 途中、ちょうど“七又海岸”の辺りに在る『風力・太陽光発電施設』では、風力発電用の風車が完全に横倒しになった無残な姿を晒していた。しかも、この風車が思い切り太陽電池(ソーラーパネル)の上に倒れちゃっているもんだから、太陽電池もとばっちりを受ける形でぶち壊されている。これらの発電設備が、宮古島の電力のどの程度を担っているのかは分からないが、西辺安名の風力発電所とこちらの両方を再建するだけでも、きっとかなりの費用が掛かるに違いない。
 「何か、台風の過ぎた後、と言うよりは、ゴジラか何かが通り過ぎた後、って感じだねぇ」
 「う〜ん、何だかもの凄いことになっちゃってるよなぁ」
 「でも、こういう光景を見ると、台風で亡くなった人が居なかった、って言うのは、ある意味ラッキーだったような気もしてくるよ」
 「これが東京とかだったら、きっと更に大事(おおごと)になっちゃってるよね。都会は天災に脆(もろ)いからなぁ…」
 とは言え、幾ら台風には慣れている宮古島であったとしても、今回の台風の被害はきっと大きな傷跡であるに違いない。サトウキビなどの農産物だって壊滅的な打撃を受けた、という話だし…
 


七又海岸の近くにある風力発電施設。
…あれ?風車が横倒しになってるぞ!
おいおい、マジですか?

  

もう一基のほうも翼がもぎ取られちゃってます。
これじゃあ風車の役目を果たせないよなぁ。
修復されるのはいつのことになるのか…

  

下に敷かれたパネルは太陽光発電のソーラーパネル。
なぎ倒された風車の下敷きになって滅茶苦茶になってるものも在り。
自然を活用した施設が、自然に破壊されてしまうというのも、何となく皮肉な話。

  

 来間大橋を渡って、来間島へ。8年前にこの島を訪れたときには“風葬跡”なんていう、なかなかショッキングなスポットも在ったんだが(しかもご丁寧に案内表示つきで…)、たぶん今は見つけることすら困難だろうと思う。って、どうでもイイことですけどね。
 そろそろ午後6時近く。太陽もだいぶ傾いて来て、陽射しもグッと弱まっている。僕らは島の中を宛ても無くグルグルと巡回する。それにしても、この島の道路はかなり整備されている。以前はまだ整備途上といった感じで、あちこちで工事を激しく行なっていたのだが…どの道路も似たような感じで、Kも僕も、果たして自分たちが島のどの辺りを移動しているのか、次第に分からなくなっていた。
 そんな折、道の片隅に「長間浜」や「ムスヌン浜」などと書かれた案内表示が見えた。その表示に従って、僕らはそれぞれの浜へ下りる。
 長間浜にもムスヌン浜にも人影はまったく無く、ただただ海原と、暮れ行く空と、波の音だけが辺りを包む。静けさの中で、時間がゆっくりと流れていることを肌で感じる瞬間。…そう、この“ゆっくりと流れる時間”ってヤツを目の当たりにする、という幸福。夕暮れ時の感傷的な気分と相まって、僕は少しだけ涙腺が緩みそうになる。沖縄に来ると、そんな気分になることがホントに多い。ただぼんやりと海や空を眺めているだけで、こんなに満たされた気持ちになれる。生きてて良かった〜!…って大袈裟?
 僕が一人悦に入っている傍らで、Kさんは徐(おもむろ)に砂浜の脇にある茂みに入って行く。…オマエ、もしや…僕のイヤな予感は的中。Kはあろうことかそこで立ちションをしはじめやがった。おい!俺様のこのすこぶる情緒的な気分を木っ端微塵にブチ壊しやがって!!島の神様の天罰が下るぞ!

 ビーチを後にして、『竜宮城展望台』や集落に立ち寄ったりしながら来間島の中を徘徊しする。やはりここにも台風の爪痕がしっかりと残っていた。ひっくり返ったまま放置された軽トラックまで在った。ここまで来ると、不謹慎にも思わず笑ってしまう。「何じゃこりゃ?!」ってな具合に。もう、僕の中にある“台風”の概念が根底から覆される感じ、って言うの?「台風じゃなくて、実は竜巻か何かだったのでは?」と思ってしまうような…
 
 来間島から橋を渡って、宮古島に戻る。その来間大橋のたもとには、東洋一と謳われる“前浜ビーチ”が。このビーチには、十数人ほどの人影があって、皆思い思いに砂浜に腰掛け、海を眺めていた。僕らも砂浜に座り、しばらく海を見る。陽が落ちる前の海は、銀色と淡いオレンジ色を波と一緒に揺らしていた。
 「…そう言えば、俺達って沖縄に来ても、夕方の海をしみじみ見ること、滅多に無いよね?」とKが言う。
 「そうなんだよなぁ。陽が暮れる頃は大体市街地に居ることが多いんだよなぁ。“今晩飲む店はどこにしようか?”なんて街をウロチョロしてることが圧倒的に多いから…」
 沖縄は日が長いが、一旦陽が暮れ出すと、あっという間に宵闇がやって来る。前浜ビーチを後にして、平良市街に戻る道すがら、辺りはすっかり夜になってしまった。
 


来間大橋を渡って“来間島”へ。
もうすっかり夕方になってしまった。
時刻は大体午後6時頃。

  

夕闇迫る“長間浜”。
人の気配もまるで無く、極めて静か。
波の音だけしか聞こえません。

  


これは“ムスヌン(虫払い)浜”。
こちらも全く人影無し。
さながらプライベートビーチ状態。

  

今日はホントに天気が良かった。
宮古は海が綺麗な島だから、
天気が良いのが何より嬉しいのだ。

  

『竜宮城展望台』。
屋根の部分にネットが被さってますけど…
これまた台風の影響ですね。

  


で、屋根瓦崩落の危険があるので「立入禁止」。
しかし、ロープをくぐって中に入る人もちらほら…
何かあっても知らんぞ!みたいな。

  

来間島の集落にて。
カーブミラーだけじゃなく、軽トラックも横転してたり。
成すがまま状態で放置されてました。

    

来間島の高台から大橋を見る。
農道橋としては日本一の長さ、1690m。
古宇利大橋が完成すると、第2位になっちゃうけど。

  


“前浜ビーチ”の黄昏。
だいぶ涼しくなって来て、まさに夕涼み。
10月なのに日中は30℃近い気温の宮古島。

   

波が夕陽を映し込んで、オレンジ色に光る。
思わず見入ってしまう。
「夕陽は人を振り返らせる」(某映画から引用)

 


『サニツ浜ふれあい広場』。
巨大な宮古馬のオブジェ。
本来ならこれだけでもインパクトがあるのだが…

  

そのオブジェのすぐ脇の街灯が「クキッ」と…
そりゃまぁ、風車が倒壊するぐらいだからなぁ。
凄まじき台風の猛威。

  

♪夕焼け〜海の夕焼け〜(ザ・スパイダース。古っ!)
ちょっと曇って来てます。
明日の天気が少々不安だなぁ。

  

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