海に近い場所


 さて、Kさんはどうやら北限の“平久保崎”を目指しているようだ。…なんか、毎年行ってない?と思ったが、まぁイイだろう。と、途中で道端の電柱に括り付けられた『←海』という小さな看板を見掛けた。そのハンドメイドな看板に手薬煉(てぐすね)引かれるように、僕らは脇道に逸れた。
 看板の矢印の方向に進んで行くと、そこは静かな久宇良という集落だった。軒下で歓談するオバァやアンマーがこちらに視線を投げて来る。何となく他人の生活圏にズカズカと踏み入ってるような後ろめたさに苛まれ、意味も無く車内から笑顔を振り撒く僕。「…ホントにこんなところに入って来ちゃって大丈夫なのか?」とかなり不安になる。が、集落の外れに『←海』はちゃんと在った。良かったぁ。
 この海は、“久宇良の浜”というビーチらしい。あまり広くは無いが、これまた静かでなかなか宜しい。ビーチではシーカヤックが体験出来るようで、一組のカップルが砂浜に並んで仁王立ちし、インストラクターの指導の下、パドルを∞の字にグイングイン回していた。う〜む、マリンスポーツかぁ…僕には縁遠い感じ。
 「カップルでシーカヤック…ある意味“男の度量”を試される、危険な挑戦って気もするなぁ…」
 「え?なんで?」
 「だってさ、上手く漕げなくて沖で転覆なんてことになると…いや、それ以前に沖にすら進めないとかいうと…“こいつ、情けないヤツね”なんて愛想尽かされちゃったり…」
 「…ささきは考え過ぎなんじゃないか?」
 「成田離婚ならぬ、シーカヤック離婚とか。“八重山の海の藻屑と消えた恋”とか。“そのまま沈んでしまえ!”とか…」
 「…イヤな話だなぁ…」
 「もしカップルでここに来ても、俺は絶対シーカヤックなんてやらないぞ!」
 「……」
 などと、まったく間抜けな決意を滾(たぎ)らせる僕だったが、とりあえず今のところ、そんな状況になる予定はぜんぜん無い。
 

幹線道路沿いに設置された素朴な看板。
その素朴さが逆に目を惹きます。
…誰が作ったんだろう?

  

矢印の方向に向かって行くと…
畑が広がる牧歌的な風景が。
小さな集落もあって、長閑な雰囲気。

  


集落を抜けると、轍が伸びて行く。
この先にホントに海があるの?
ちょっと不安になったりしたんだけど…

  

適当な空き地に車を停めて、
さらに先へと進みます。
このケモノ道チックな道の先に…

  

ありました!久宇良の浜が!
ひょっとすると穴場なビーチかもしれない。
ムチャクチャ静かですし。

  

…と思ったら、シーカヤックの体験講習が。
カップルの男性が熱心に学習中。
女性の方は只今木蔭で一休み中(^_^;)

  

 “平久保崎”に到着。ここからの眺望は実に気持ち良い。のだが、このときは空模様が芳(かんば)しくなくて、ちょっと今ひとつだった。岬には数人の観光客や、地元の人たちの姿があった。記念写真を撮る人、スケッチする人、ただひたすらにボ〜ッと海を眺める人、様々な時間の過ごし方をしている人々を余所に、僕らは「あ〜、残念だねぇ、天気が悪くて」などと口走りながら、ものの数分でさっさと切り上げてしまった。何度も訪れていると、どうも感慨が薄れてしまうのは寂しいことではある。
 「あ、そう言えば、この前やってた沖縄戦のドラマ、見た?」
 「何だっけ、…『さとうきび畑のうた』とかいうやつ?見たよ」
 「あのドラマでここ(平久保崎)が出て来たよね。艦隊が攻めてくる場面か何かで」
 「そうそう、本島の話のはずなのに。分かっちゃうとちょっと興醒めしちゃうよなぁ」
 「って言うか、あの那覇のオープンセットは…特撮も…」
 いきなり痛烈なドラマ批評になってしまうあたり、ドラマの本質を無視してるっちゅーか、罰当たりっちゅーか。おまけに♪ざわわ ざわわ ざわわ〜、などと、エンドレスでおどけて口ずさむ僕らに、あのドラマを語る資格なんて露程もございません。
 

平久保崎灯台。
天気が今ひとつでかなり残念。
晴れていれば感動的に綺麗な眺めなのになぁ。

  

このアングル、見覚えがある方もいらっしゃるのでは?
あのドラマでは米軍の攻撃を受けてましたねぇ。
かなり強引なCG合成で。

  

雲間から差し込む一筋の光。
ちょっと神々しい感じがする。
…って、単に曇ってるだけ、って気もするが。

  

石垣島ってわりと山が印象的な島。
こんもりとした小振りな山が目に付きます。
他の離島って平らな場合が多いし。

  

 白保の集落に寄ったのは、僕の強い希望からだった。今から9年前に一度だけやって来たことがあったのだが、そのときはろくに集落を見ず、さっさと海岸に出てしまった。そもそも白保と言えば珊瑚礁。世界有数の美しい珊瑚礁が最大の呼び物であるにも関わらず、僕らはそれを見ることも無く、防波堤から海を眺めて「ふ〜ん…」と冴えない感想を抱いただけで終わらせてしまった。
 今回の旅行の前に、たまたまKさんはケーブルTVか何かで『うみ・そら・さんごのいいつたえ』という映画を観たらしく、僕の白保行きの提案に二つ返事で賛同してくれた。やっぱりKはミーハーな男である。
 が、僕の認識が甘かった。僕が再三「珊瑚礁、珊瑚礁」と言っているのに、Kは『しらほサンゴ村』の駐車場にレンタカーを停めたにも関わらずその『さんご村』には寄りもせず、さらにはグラスボートに乗ろうという僕の提案をやんわりと拒否する始末。…もう、罵声を浴びせる気力さえ失せた。
 「あ!あの石垣で出来た港、映画にも出て来たね」などと、砂浜から海を眺めて悦に入ってるKを尻目に、僕は集落の中を歩く。珊瑚がダメなら集落だ。
 素朴な石垣や古い民家がところどころに残っている白保の集落は、竹富島や伊是名のような“護られた家並み”とは一味違う、独特の空気を湛(たた)えていた。何処と無く懐かしいような気がするのは、きっと新しい住宅と古い家々が混在している気安さから来るものなんだろう。フクギの林に御嶽、舗装路、石垣、コンクリートの家、それらが自然と一緒になっている小さな集落。不思議と居心地良し。
 …と、僕がしみじみしながら歩いているのに、Kは集落には大した関心を示さず、「そろそろ戻ろうか」とさらりと言い、車に戻って行った。…べつにいいんですけどね。端(はな)からこういう展開になることは多少予測してましたので。
 やっぱりね、じっくりと町歩きをするつもりならば、一人のほうが勝手が良い。とくに風情だの情緒だのというようなものを解しないKさんと一緒の場合、割り切ってしまうのが得策だ。個人的な嗜好に付き合わせるのも、ちょっと気が引けるし。
 白保から石垣市街に向かう道すがら、Kさんが言う。
 「明日はもう宮古なんだよねぇ。久しぶりだからなぁ、宮古は。楽しみだね」
 …そうなんだよなぁ、ひょっとすると、ちょくちょく暇さえあれば沖縄諸島に通い詰めている僕よりも、年に一回の沖縄旅行をしているKのほうが、この旅をずっと大事に思っているのかも知れない。そう考えると、僕がKのことをつべこべ言うのは良くないことかもな…と、少し反省モード。
 「そうだね、Kさんにとっては約8年ぶりの宮古島だからね」
 「俺、宮古の記憶ってあんまり無いんだよね。砂山ビーチと池間大橋のことは憶えてるんだけど…」
 「え?じゃあ、伊良部島に渡ったことも憶えてないのか?」
 「ああ、そうか、伊良部にも行ったね。…伊良部…うん、そう言えば…行ったよね、確かに…」
 …大丈夫なんだろうか?この人…
 

白保と言えば、やっぱり珊瑚でしょ〜。
というわけで、魚の指差す『しらほさんご村』へ。
ところで、魚を描くと頭が左になっちゃうのは何故?

  

ババ〜ン!『しらほさんご村』!
白保の珊瑚の研究センター&資料館。
しかし、Kさんはこの施設を完全無視!いいのか?!

  

白保の集落には幾つかの御嶽が在る。
やっぱり漁の無事を祈る場所だったりするんだろうか。
拝所はいつ見ても身が引き締まる思いがする。

  

うん、確かにそうだと思う。
これはきっとすべての人にとって宝。
…だと信じたいよねぇ。

  

ホントはこの海の先に珊瑚礁が…
見てみたかったんだけどね。
今回は(も?)海岸で終わり。

  

なかなか綺麗な海の色です。
浜には珊瑚の欠片がゴロゴロしてます。
でも、泳いでる人は居ませんねぇ。

  

海の家?
成すがまま状態ですが。
まぁ、シーズンオフってことで。

  

港…だと思うんだけど。
石垣のような囲いがなかなかイイ味出してます。
『うみ・そら・さんごの…』にも出てきてましたね。

  

集落の中に幾つか在る御嶽のひとつ。
静々とした空気に包まれている。
やっぱり拝所には独特の雰囲気がある。

  

道路は舗装されてるけど、石垣が取り囲む。
趣きのある白保の集落。
古いものと新しいものが混在する佇まい。

  

珊瑚の石垣。
これはやはり地元産の珊瑚なのかな?
フクギも良い感じです。

  


もちろんブーゲンも。
目に鮮やかなピンク色。
青空に映えますなぁ。

  

これは、文字通り“石垣”ですね。
赤瓦と漆喰の屋根(?)がこれまた良いです。
…さっきからこんなことしか言ってませんけど

  

…と、僕が一々じみじみしてるのに、
同行者Kさんは素知らぬ顔でスタスタと先を行く。
この人に“情緒”ってものは無いんでしょうか。

  

想像以上に白保の集落は素敵でした。
また次回、じっくり周りたいものです。
…出来ればひとりで(^_^;)

  

バイクの二人乗り、ならぬ一人&一匹乗り。
大人しくしてるもんですねぇ。
ところで、この方はワンちゃんと一緒に仕事場へ?

  

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