電気とミント


 集落から西桟橋に出てみる。曇りがちの天気だったので、海の色はいまいち冴えなかったけれど、それでもやはり海水の透明度は非常に高く、僕らは桟橋の上からしばらく海をぼんやりと眺めた。
 桟橋にはそこそこ人が居たが、辺りは極めて静かだった。波と風の音しか聞こえて来ない。イヤァ、穏やかだねぇ…
 「まだ東京を出てから半日も経ってないのに、ホントにまったく別世界って感じだよね」と、Kさんがしみじみ言う。そのとおりだな、と僕も相槌を打つ。たぶん、Kが八重山に惹かれている最大の理由もそこにあるんだろうと思う。僕にとっては苦痛以外の何物でも無いサメ・ドライブも、Kにとっては自分のペースで動ける安らぎの時間なんだろう。…まぁ、それに人を付き合わせるのはどうかと思うけど。とにかく彼は沖縄に来ると“のんびり”とか“ゆったり”とか、まるで何処かのホテルの謳い文句さながらの言葉をよく口にする。座敷のある居酒屋に拘(こだわ)るのも、行き先を決めずにウロウロするのも、きっとこの“のんびり・ゆったり”を尊重するが故のことなんだ、と解釈しておこう。
 西桟橋からコンドイビーチまで、海岸伝いに歩いて行くことにする。思えば、いつもは自転車で移動することがほとんどなので、こうして浜を伝って行くのは今回がはじめて。途中、石碑が建っていたり、波打ち際でサギが小魚を啄ばんでいる姿を見掛けたりしながら、ダラダラと歩く。西桟橋とコンドイビーチはかなり近い。少し歩けばビーチの様子がハッキリ見えて来る。
 


西桟橋のある砂浜の入り口。
ここ、僕はかなり好きな場所です。
ついつい足が向いてしまう。

 

西桟橋には何人か先客が居りました。
皆さん、ジッと海を見つめてます。
僕らも一緒に海を見つめたり。

  

天気が良くないせいで、海の色はいまひとつ…
でも、やっぱり八重山の海はホッとするなぁ。
何だかやさしい気持ちになります。

  

桟橋の先から砂浜を振り返って見たところ。
…結局、今回もここで夕陽を見ることは出来ず。
まぁ、それはまた別の機会にでも。

  


西桟橋からコンドイビーチまでは海伝いで行かれる。
天気が良ければもっと快適な散策だろうけど…
こればっかりは致し方無いので。

  

アダン。実はヤシガニにとって御馳走。
芽は石垣島の居酒屋でもよく見掛けます。
フニャフニャした筍みたいな食感です。

  

カニ。…の脱皮した跡。
中身は空っぽでした。
こんなのがあちこちにありました。

  

石島英文さんという人の歌碑。
学校の先生だったみたいです。
詳しいことは分かりませんけども…

  

これは…一体何だろう?
ちょっとした拝所のようにも見えるんですけどね。
もしかするとただの岩?

 

とか何とか言ってるうちにコンドイビーチに到着。
生憎の天気にも関わらず、海水浴客が結構居る。
せっかく来たんだから泳がなくちゃ、って感じかな。

  

 コンドイビーチには、かなり多くの人が居た。砂浜でも東屋(休憩所)でも、皆が思い思いにビーチでの時間を楽しんでいる。僕らは東屋に入って、ボケ〜ッと海と砂浜を眺めた。
 「…そう言えば、海パン持ってきたんだよね、一応…」「そうだね、でも今日は(泳がなくても)イイよね…」
 まぁ、いつも僕らはこんな感じなんですけどね。「おまえらは一体何しにビーチに来てるんだ?!」と疑問に思う方も多いでしょうけどねぇ。基本的に海を見ながらボケッとするのが好きなんです。
 海を眺めながらも、Kはしきりに足の裏をマッサージしていた。よほど足が疲れているようだ。
 「大して歩いてないのに、情けない!」と僕が罵ると、Kは「普段ぜんぜん歩いてないからなぁ。足がかなり痛いよ」と苦笑した。確かに、専(もっぱ)ら車で移動してばかりの仕事だし、運動不足になるのも無理は無い。僕だって、運動不足なのはKと同じだ。それにしてもKの脚力の衰えは、他人事ながらちょっと心配ではある。…ま、しばらくはここで休むことにするか。
 そんなふうに僕らがボケッとしている東屋に、数人の若者たちがやって来て、何やら姦(かしま)しく喋り始めた。言葉を聞くとどうやら沖縄の若者たちのようなのだが、地元竹富の人々では無いみたいだ。恐らくどこか他の島から来たのだろう。彼らはまず、自分たちの携帯電話の着メロについてああだこうだと語り合い、やがてどういう経緯でそうなったのか、レントゲンの話題に移っていった。
 「でもさ、レントゲンって人の名前だ、って知ってた?」
 「へぇ〜(トリビアの泉チックに)」
 「何で人の名前がついてるの?」
 「さぁ、知らない。レントゲンって人が作ったんじゃないの?」
 「じゃあ、ギターのレスポールみたいなもんかぁ」
 「あ、そう言えばさぁ、“フラミンゴの法則”ってあったさぁ」
 「フラミンゴの法則ぅ?何それ?」
 「う〜ん、何なのかは分からんけど、ほら、指3本で…学校で習わんかった?ベクトルがどうのこうのって…」
 「ベクトルって何?面積の単位か何か?」
 …それを言うなら“フラミンゴの法則”じゃなくて“フレミングの法則”だろ〜が!ベクトルが面積の単位?…もう一度学校に入り直せ!
 僕らは若者たちの会話が鬱陶しくなって、東屋を後にした。まったく…せっかくのんびりと寛いでいたというのに…Kも自分の足の疲労が回復しないうちに出発せざるを得ないことに、少々憤慨していた。「あの馬鹿にーちゃんどもめ!」とブツブツ言いながら、砂浜沿いをカイジ浜に向って歩く。
 コンドイビーチとカイジ浜は、ほぼ境無しで隣接している。カイジ浜にも数人の観光客が居て、恐らく星砂を探しているのであろう、ほとんどの人が波打ち際辺りを見下ろしていた。が、僕らは星砂にはあまり関心が無いので、ちょっと足を止めた程度ですぐに浜から出てしまった。ゴメンね、カイジ浜。
 


ほんのちょっとだけ空が明るくなって来た♪
とは言ってもまだ晴天には程遠いですけども。
走る子供、座る大人たち、横切る猫。

  

この猫、腹を空かしているらしい。
食べ物をもらおうと人に擦り寄って来る。
人懐っこいと言うか、何と言うか。可愛いけど。

  

今日のコンドイビーチは結構賑やか。
10月でもしっかり泳げます。
でも、陽が翳るとちょっと肌寒いかも知れないなぁ。

  

砂浜に落ちたアダンの実。
砂の白さと細かさも素晴らしいです。
何だかとても沖縄らしい光景、って気がしない?

  

コンドイビーチを南下。
カイジ浜に繋がります。
これはカイジ浜側からみたコンドイビーチ。

  

カイジ浜。
波打ち際で星砂を探しているらしい人影も見られる。
この浜に来たのはたぶん10年振り…

  

星砂浜・カイジ浜。
西表の“星砂の浜”ほど見つけ易く無いけどね。
そこがまたイイのかもしれないけど。

  


その浜辺で営業しているみやげ物屋。
何故か店員さんはみんなうつむき加減…
お疲れモード?それとも何か悲しいことでも?

  

 カイジ浜のすぐそばにある“蔵元跡”を見たりしながら、再び集落の方へと進む。集落までの道程は、雑木林や草叢や畑などに縁取られていて、バッタやら蝶やら牛やらがあちこちに見られる。道沿いに生える草も東京では見掛けないものばかりで、僕らはそれらに一々気を捕られる。…いや、厳密に言うと、たぶんKさんはそれどころじゃ無かったのかも知れない。足が痛くて。やっぱり、人間歩かなきゃダメだねぇ。僕も気をつけないといけない。これでも休みの日は意識して歩くようにしてるんだけどね。この前も那覇で無駄にほっつき歩いたし…改めて思い返してみれば、僕らは沖縄に来てもあまり歩いていないのかも知れない。沖縄本島や石垣島などではほとんどレンタカーでの移動だし、離島に来ても大概レンタサイクルを借りてしまう。これは心を入れ替えて、もっと自分の足を使わないとなぁ…
 「ちょっと何処かで一休みしたいなぁ。早く集落に行こうよ」とKが言う。…もしも今後もKさんと離島を歩くことがあったとしたら、湿布薬持参じゃないとダメかも…
 

ハイビスカス。
見飽きるぐらいに咲きまくりです。
大好きですけどね、ハイビスカス。

  


これは…何の花なんだろう?
濃紫の実をつけていました。
これって南国特有の植物なのかなぁ?

  

…植物に疎いくせに、植物そのものは好きだったりする。
好きなわりに知識は一向に増える気配ナシ。
で、この草も何の草なのかはさっぱり分からず(^_^;)

  


そうこうしていると集落に到着。
轍のような道の先に集落。
何だかホロッとくる光景。

  

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