乱気流
 

 雨の止む気配がこれっぽっちも無いので、もうそろそろ空港に移動しよう。が、その前に腹ごしらえを。というわけで、空港に向かう途中で見つけた『ファミリーレストラン・ばっしらいん』なる店で食事をすることにした。
 ばっしらいん…BassiLine。英語なんでしょうか?と思ったのだが、どうやらこれは「忘れられない」を意味する宮古の方言らしい。言われてみれば、何となく納得できる語感かもしれない。
 ちょうど昼時ということもあって、駐車場も店内もほぼ満車満席状態。まずは入り口の自動販売機で食券を買い、それをカウンターに渡す。と、“48”と書かれた番号札を渡された。…これって48番目ってこと?だとしたら相当待たされそうな予感…ちょうどタイミング良く2人掛けの小さなテーブルが空いたので、そこに座って料理が出来るのを待つ。
 と、僕の隣りの席に、地元のオジィふたりが何やら大声で語らいながら座った。昨日伊良部島で出くわしたオジィたち同様、話の内容はさっぱり分からない。しばらくカウンターのほうをチラチラと窺いながらオジィたちはワイワイとトークしていたが、そのうちのひとりがカウンターのほうに向かって「あい!ちょっと!」などと呼びかけた。その声に気づいてカウンターの中から女性店員がオジィたちの基へやって来る。
 「あのさ、そばちょうだい、そば!」
 「あ、そばですか?え〜っと、そこ(の自販機)で食券を買って…」
 「いいからいいから。そば、ふたつね」
 「…そば、おふたつですね…」
 店員はオジィたちに食券のシステムを了承してもらうのをあきらめ、そのままカウンターへと戻って行った。まぁねぇ、そのほうが結局は手っ取り早いんだろうけど。
 それ以外にも、何やらカウンターで喧嘩腰になってる工事現場で働いてる風の作業着姿のおじさんや、ギャーギャーと泣き喚くお子さんなど、ガヤガヤと騒がしい昼下がり。なるほど、これぞ“ファミリーレストラン”。…しかし、よくよく考えてみると今やすっかり市民権を得たファミレスなる言葉。だけど、これってかなり意味不明なカタカナ英語だよねぇ。ファミリーとレストランがくっついてるのもヘンな感じだし。
 そんなことをぼんやり思いながら、実に30分も待たされて(待たせ過ぎ!)ようやく料理が運ばれて来た。それとほぼ同時に先程のオジィたちのそばも給仕された。食べている間も何やら賑やかに語り合っているふたりのオジィ。…ワイワイガヤガヤとした昼飯をさっさと済ませ、僕はレストランを出た。
 

『ファミリーレストラン・ばっしらいん』。
忘れられない→忘れられん→ばっしらいん…
たぶんそういう変化を辿っているんだろうと思う。

 

主に地元のお客さんで賑わう店内。
メニューがあまりにも豊富。
豊富すぎて迷っちゃうぐらいに。

  

食券を買って番号札をもらいます。
かなり長い時間待たされました(^_^;)
沖縄の食べ物屋さんは結構待たされるんだよねぇ。

  


宮古そばととんかつセット。\750です。
これがなかなかボリュームあり。
そばも美味かったし。

  

 ちょっとだけ雨が弱くなっていたので、僕は進路を再び平良市街方面に戻す。このまま海を見ないで宮古を去るのが何となく寂しかったので、“パイナガマビーチ”に行ってみることにしたのだ。
 パイナガマビーチは、当然いつものような綺麗な青い海では無かったが、それでも空の暗さには染まらずに、しっかりと青さの名残を見せていた。何だかちょっとうれしい。うれしいんだけど…何なんだ?この強風は!
 沖の方から生温い風がビュービューと吹きつけて来る。風に煽られて雨だか波飛沫だか判別がつなかい水滴がバチバチと身を打つ。何だかちょっと台風を思わせるぐらいに…実際、この日は一時風速15m近い風が宮古に吹いていたようで、天気はかなり荒れ模様だった。僕はビーチで海を眺めながら、一昨年の多良間島のときの悪夢を思い出していた。…ちゃんと飛行機が飛ぶんだろうか?たぶん大丈夫だろうとは思うんだけど…
 しかし、やっぱり案の定、この後飛行機は悪天候に翻弄されることとなるのです。
 

小雨降る“パイナガマビーチ”。
遊歩道が冠水してて歩きづらかったけどね。
おまけに潮風がビュービューと…

  

曇り空でも海は仄かに青い。
写真で見ると静かそうに見えますけど、
実際には結構波が荒かったんです。

  

砂浜に下りると水飛沫がかかってくる。
雨なのか波飛沫なのかがよく分からない。
とにかく風が強いのなんのって…

  

一部晴れ間も覗いてるんだけどなぁ。
雲がスゴイ勢いでグングン飛んで行く。
飛行機、ちゃんと飛ぶのか?

  

 空港に着いて搭乗ロビーの椅子に腰掛けていると、ひとりのおじさんが僕の隣りに座って「こんにちは」と話し掛けて来た。一瞬誰だか分からなかったが、すぐにあの“伊良部・下地を自転車で周っていたおじさん”だと分かった。
 「お帰りですか?」とおじさん。「はい、一旦那覇に寄って、それから羽田に…」と僕。
 話によると、このおじさんは東京の人で、勤続30年だかの長期休暇を利用して宮古にやって来たのだそうな。一人旅が好きで、あちこちに出掛けているらしい。宮古島には以前からぜひ一度行ってみたいと思っていて、ようやく念願叶って今回の旅をすることになったのだとか。その他にも宮古で世話になった民宿の話など、いろいろな話を聞かせてもらっていた僕だったのだが、そんな話を断ち切るようなアナウンスがロビーに響き渡る。
 「JTA、日本トランスオーシャン航空○×便で沖縄那覇空港にご出発の皆様…」
 …イヤな予感。
 「○×便は天候不順のため、出発時間を30分ほど遅らせていただきます。また、那覇空港上空に乱気流が発生しており、宮古空港を出発しましても、那覇空港に着陸出来ない恐れがございます。その場合は、やむを得ず宮古空港に引き返すこともございます…」
 おいおい、ちょっと勘弁してよぉ…どうして僕が宮古に来るとこんなふうに飛行機がらみのトラブルが多発するわけ?ひょっとすると僕は宮古と相性が悪いんだろうか?必ず何かしらトラブルが発生するんですけど!
 自転車おじさんも「こりゃまいったなぁ〜」と言って、苦笑いをする。が、おじさんは「まぁ、今日がダメなら明日乗ればイイんだけどさ」と余裕の表情。う〜む、ますます多良間島の悪夢が…
 アナウンスどおり、定刻より30分遅れで飛行機への搭乗が始まった。僕は何だか期待と不安が入り混じった複雑な心境で乗り込む。どうか無事に那覇空港に降り立てますように!!
 だが、そんな僕の淡い期待を嘲笑うかの如く、飛行機はもの凄い振動に絶えず揉まれ続けた。底の方からドコン!ドコン!という衝撃が断続的に、そして横揺れまでも加わって、乗客の中からは小さな悲鳴や子供の泣き声が起こり、ちょっとした航空パニック映画のワンシーンを思い起こさせる状況。…って、ちょっと大袈裟な気もするけど。でも、機内で悲鳴を聴くことなんて今まで無かった経験なので、僕はかなり不安だった。さすがに「墜落するかも…」とまでは思わなかったけど、「これは那覇空港に着陸するのは無理かも…」と思わせるには充分のシチュエーションではあった。
 で、いよいよ飛行機は着陸態勢に。「この飛行機は約10分後に那覇空港に着陸します…」という機内アナウンスが流れ、飛行機が着陸態勢に入る。高度を下げ、旋回を始める飛行機なのだが、それから数分後に機長のアナウンスが…
 「只今、那覇空港上空に大きな乱気流が発生しており、一旦着陸態勢を解除いたしまして、しばらく上空を旋回しつつ、様子をみることにします」というような機長の現状報告。乗客が一瞬ザワッとする。参ったなぁ…このまま宮古に逆戻りすることになるかもしれない。果たして今日中に東京に戻れるんだろうか?ますますもって、多良間島の悪夢が再び現実のものとなる可能性が…
 それから10分近く、飛行機は一定の高度を保ちながら旋回し続けていたのだが、いよいよ再着陸を試みることになった。
 「この飛行機は約10分後に…」という機内アナウンスがまたまた流れ、飛行機が高度を下げ始める。お願い!どうか今度こそ那覇空港に着陸してくれ!!
 ドコン!ドコン!というかなり激しい衝撃が突き上げて来て、一際大きな悲鳴が上がる。これじゃホントにパニック映画みたいじゃんか。僕は、そんな状況に自分が置かれているのが何だか無性に可笑しくなって、不謹慎にも笑いそうになってしまった。そんな状態が10分弱続いた後、とうとう飛行機は那覇空港に着陸した。着陸した瞬間、一部の乗客から歓声が上がり拍手が起こる。…あのぉ…気持ちは分かるけどね…
 
 とにかく、どうにかこうにか那覇に到着した。当初は那覇から羽田に発つ飛行機の出発時間まで2時間ちょっとの余裕が出来る予定だったのだが、乱気流のおかげで正味1時間程度になってしまった。このまま空港内で時間を潰そうかとも思ったのだが、ちょっとだけでも那覇の街を歩きたくて、すぐさま空港から路線バスに飛び乗って、国際通りに向かうことにした。
 国際通りは、小雨が降っていたせいもあってか、闊歩する人も非常に少なかった。観光客の姿もめっきり少なく、通りで目立つのは修学旅行の学生の団体ばかりだった。…それにしても、最近冬に沖縄へ修学旅行にやって来る学校って多くない?個人的にはやっぱり沖縄旅行は初夏〜初秋に掛けてのシーズンのほうがしっくり来ると思うんだけど。冬のほうがツアー料金が安いからなんですかねぇ?せっかく沖縄に来たのに海で遊べないってのも気の毒な気もするんだが…あ、そのほうが海難事故とかが無くて学校側は安心なのかも。…って、そんなことはべつにどうでもいいことですね。
 僕は国際通りとその界隈を、まったく何の宛ても持たずにフラフラとほっつき歩く。時間が無いので市場には行かず(こんなことは今まで無かった!)、結局メチャクチャ中途半端な那覇市街散策になってしまったんだけど。

 “宮古島の海を堪能する旅”という今回の目的は一応ちゃんと達成できたはずなのに、どうも土壇場のドタバタにすっかり霞んでしまったような気がするのは、返す返すも残念なんですが。でも、やっぱり宮古の海は格別だった。今が真冬だということを忘れさせてくれるほどに。…事実、東京に着いて自分の吐く息が白くなってるのを見るまでは、冬だということをすっかり忘れてたし。
 またね、いつか宮古には行こうと思ってます。だけどねぇ、僕が宮古に行く→航空関係のトラブルが発生、というジンクスが次回もまた現実のものとなったりしたら…それも怖いなぁ。
 

やっとの思いで着いた沖縄本島。
路線バスで那覇市街に移動します。
相変わらず観光バス風な内装ですよね。

  

小雨模様の国際通り。
通る人影もまばらです。
目立つのは修学旅行生たちばかり。

  

実は例によって路地裏探索もしたんだけど…
くどいのでここでは大幅にカットします(^_^;)
同じような写真ばっかりだし。

  

またまた雨が強くなってきました。
RACは欠航しちゃったりしてます。
…多良間の悪夢を思い出す…

  

無事東京に戻れるかちょっと不安でしたけど、
問題無く飛行機は離陸いたしました。
ホッとしました。

  

というわけで、帰京。
オマケ画像・新宿の夜景。
寒い!やっぱり冬だったんだね、12月って。

  

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