利休鼠

 『ペンションスター』に一旦戻り、チェックアウトしようとロビーに行くと、フロントの前で宿泊客らしき女の子二人組がソワソワとしている。どうやら宿主が不在のようで、フロントの中はもぬけのカラだ。
 「どうしよう、こんなことしてたら飛行機の時間に間に合わなくなっちゃうよ」
 「もうこうなったらお金置いて出て行っちゃおうか」
 二人組は内線電話で何度も宿主を呼び出したりしているが、一向に連絡がつかない。僕が彼女らの宿泊代を預かって、後で宿主に渡してあげてもイイかな、とも考えたが、果たして宿主がいつ戻ってくるのかまったく分からなかったし、「そんなこと言って、私達の宿泊代を持ち逃げしない?この人…」とあらぬ猜疑心を抱かれても困るし、などと迷っていると、アルバイトさん風な女性がやって来た。
 「あれ?ご出発ですか?オーナー(宿主)居ないんですか?」
 「はい、さっきから電話で呼び出してるんですけど…私達、もう行かないと飛行機に乗り遅れちゃうんですけど」
 「あ、すみません。ちょっと今連絡してみますから」
 と、アルバイト風の女性は宿主に連絡してみるのだが、どうやら連絡がつかないようで、「まったく、どこに行ってるんだろう」などと少々困惑しているようだった。
 「あの〜…」二人組が待ちきれない様子で声を掛ける。
 「あ、ごめんなさい。じゃあ、一応私のほうでチェックアウトしますので」
 ひょっとすると、このアルバイト風の女性、実は宿の関係者でも何でも無かったりして(^_^;)。だとしたら、内心かなり困ってたと思うなぁ。
 二人組はチェックアウトを済ませ、そのまま大きな荷物を担いでさっさとロビーを去って行った。相当焦っている。無事飛行機の時間に間に合ったんだろうか。少し心配ではある。
 「そちらのお客様もご出発ですか?」と訊ねられたので、僕もついでにチェックアウトしてもらった。
 
 外に出ると、早朝とは比べものにならないぐらいに雨脚が強くなっていた。風も出てきてかなり酷い降りだ。やっぱり昨日のうちにビーチ巡りをしておいてよかった。こんな天気じゃビーチに行っても海の色を堪能するどころの騒ぎじゃないよな。
 レンタカーで市街地を抜けると、雨はますます強く降りはじめる。時折、まるで局地的集中豪雨という勢いでドカドカと大粒の雨が叩きつけてきて、周囲の景色はすっかり黒く霞み、対向車でさえ確認できなくなる。脇道を走ると所々冠水していて、自分のレンタカーの車高と同じぐらいの大きな飛沫が上がる。車、壊れそう…
 記憶の限りでは、たぶん僕の沖縄旅行歴の中でも一番激しい雨だろうと思う。台風が近づいているときでも、風こそ強くてもこれだけ大量の降雨に見舞われたことは無かった。多少の雨だったら構わずウロウロするところなんだけど、このときばかりはさすがに車の外に出るのが躊躇われたし。って言うか、外に出られるような生易しい降り方じゃなかった。
 こうなったら、やっぱり屋内型スポットに入ろう。というわけで、僕が向かったのは『平良市総合博物館』。3度目の宮古訪問にして、初めてここに入ることになった。…もしも雨が降っていなかったら、たぶん寄らなかったと思うんだけどね。
 入館料\300を払って館内に入ると、見学者は僕ひとりきり。警備員のおじさんがひとり居るだけで、館内は水を打ったように静まり返っている。う〜む…
 展示物は、宮古の自然や民俗などの紹介が中心だった(当然だろうが)。ヤケに手造り感が炸裂したプラネタリウムなんかも在ったりしたけど。で、展示物のあちこちに音声案内が流れる装置が設置されていて、それを何気なく「ポチッとな!」なんてスイッチオンにすると、静まり返ったフロア中に解説の音声が朗朗と響き渡る。大して関心の無い解説を最後まで聞く気になれず、次のコーナーに移動する。そこにも音声案内装置が在るので、そこでもまたスイッチを押してみる。で、また次のコーナーに行って音声案内装置を…と、まるで音声案内の輪唱のような状態に。さっきまでの静けさが嘘のように、俄かに賑やかになった平良市総合博物館。流暢な抑揚のある女性の声が音声多重で聞こえてくる。これで寂しくないね!って、博物館の人にとっては非常に迷惑な行為だよねぇ。良い子のみんなはマネしないようにね!
 で、そんな博物館の展示物の中でも、僕が一番興味深く拝見させていただいたのが、宮古諸島の各地域に伝わる祭りや祀事を記録したビデオ。そこには10を超える祭祀が収録されていて、かなり見応えがある。祭りの準備の様子から、祭りの由来、祭りの流れなどを映像と音声でたっぷり鑑賞することが出来るので、こういったものに関心のある方はかなり楽しめるはず。僕は「このビデオ無茶苦茶欲しい!」と心の中で咆えてしまった。製作元(だったかな?)にS○NYの名が入っていたんだけど、S○NYに問い合わせたら入手できるんでしょ〜か?
 

本降りになってきた宮古市街。
陽射しが無いのでちょっと肌寒い。
昨日の暖かさは何処へやら。

  

雨に霞む宮古の畑。
…なんて悠長なこと言ってますけど。
かなり酷い降り方してやがります。

  

時折ワイパーが利かないぐらいのどしゃ降りに…
怖くなって車を停めたりしました(^_^;)
だって対向車が霞んで見えないんだよ〜!

  

でも、島にとっては恵みの雨なんだろうなぁ。
あまり文句を言うのも悪い気がする。
とは言ってもねぇ。

  

『平良市総合博物館』。
はじめて入館してみました。
ちなみに、入館料は\300です。

   

館内の展示物は撮影禁止らしい。
なので、男子トイレから外の様子を撮ってみました。
…無意味。

  

こっそり撮っちゃいました。ごめんなさい。
宮古島の祭祀を収めたビデオの画像。
各地域のさまざまな祭祀がたっぷり堪能できます。

   

このビデオ、俺は猛烈に欲しい!
どこかで売って無いの?売ってたら絶対買うのに!
どこに注文したらいいんだ?!

  

 博物館を出ると、雨が幾らか小降りになっていたので、次は思い切って『平良市熱帯植物園』へ。ここには7年前にも一度だけ訪れたことがある。のだが、そのときの記憶がほとんど無い。もともと植物園にあまり関心が無い俺様なので、この手の施設には極めて頼りない印象しか抱けないのだ(あ、『東南植物楽園』はべつね)。そういう意味では非常に新鮮な気持ちで再び訪れることが出来るので、得した気分とも言えなくも無いような…
 この植物園は入園無料。天気が良かったらきっともう少し楽しいんだろうけど、小雨がぱらつく中で鑑賞するには少々寂しい佇まい。「無料だから仕方無いかもなぁ…」などと平良市に失礼な感想を抱きつつ、ウジャウジャと生い茂る樹木のアーチをほっつき歩いていると、“新婚の森”と書かれた看板に出くわした。新婚の森ねぇ…微妙な…
 その“新婚の森”なる空間は、真っ直ぐに伸びた100m程度の道沿いに、結婚記念に植樹された椰子の木が並んでいる、というもの。記念樹の下には新婚夫婦の名前と年月日(結婚記念日なのか植樹した日付なのかは不明)が書かれたプラカードが刺してある。そのほとんどが昭和の年号なのを見ると、どうやら最近は記念植樹もしていないような…ここに植樹をしたカップルたちも、きっと今頃は子供を持ち、年を重ね、もしかすると自分たちが植えた椰子の木を見に何度かこの森を訪れているのかも…中には残念にも離婚しちゃってる夫婦も居たりして…いやいや、あまり不粋なことを考えちゃダメだよね。
 ところでこの植物園、どこからどこまでが敷地なのかがいまひとつハッキリしない。遊歩道がどんどん樹林の奥まで伸びているのだが、これが果たしてどこまで続いているのかが分からないので、どうも先に進むのが不安。おまけに今日は雨も降ってるし、僕の他に客も居ないしで、ますます先に進むのに気が引ける。

 …もうそろそろ市街地に戻ろうか。那覇に帰る飛行機の時間もあることだし。
 植物園からの帰り際、すぐ近くに『太平美術博物館』なるものが在った(確か7年前にも同じような建物が立っていたようなおぼろげな記憶はあるのだが…)。茶・青・黄のストライプで彩られた珍奇な趣きたっぷりのこの博物館、僕は非常に気になって中の様子を窺おうと狭い入り口を見遣るんだけど…一体どこで勘付いたのか、中から和服を着たおばさんがササッと現れ、「いらっしゃいませ〜、どうぞ中に入ってご覧くださ〜い」と僕を呼び込む。う〜む、どうもその姿の奥に商魂が見え隠れするような…。僕は曖昧な笑顔を返しつつ、その場をそそくさと立ち去った。実際に館内に入ったわけじゃないので、これは僕の勝手な勘繰りに過ぎないのだけれど、おそらくここは骨董品や工芸品などの類を展示即売する店なんじゃないかな?入り口から仁王像らしきものがチラッと垣間見えたし。ひとりきりでここに入ったりすると、さっきの和服女性にマン・ツー・マンであれやこれやと商品説明をされちゃいそうな気がする。それはちょっと困る。
 

『平良市熱帯植物園』です。
入園無料!太っ腹!
…って言うか、有料だったら客が来ない気も…

  

7年前にも一度来たことがあったんだけど…
ほとんど記憶が無いんですよねぇ(^_^;)
宮古馬が居たことは憶えてるんですけど。

  

ガジュマル。だと思う。
ひょっとすると同じ種類の違う樹木かも。
…ね、植物に対する関心の無さが露呈しちゃうでしょ?

  

そんな植物園の中の一角にこんなものが…
“新婚の森”。ってどんな森?
迂闊に踏み込むと迷って出られなくなるという暗喩?

  

これが“新婚の森”の様子。
何でも、心霊スポットだったりするらしいよ〜。
新婚と霊魂の因果関係がよく分かんないけど。

  

要するに結婚記念の植樹が出来るみたい。
でも、どの記念樹もやや年季が入ってるような…
今はもう受け付けて無いのかも知れません。

  

と、またしても雨脚が強くなってきた。
木蔭に一時避難して遣り過ごす。
傘を持ってなかったので全身ずぶ濡れ。

  

草木の手入れをする職員(?)の方。
この広大な敷地に居たのは数人の職員さんと僕だけ。
雨だし、平日の午前中だし、仕方無いかもね。

  


え〜っとですねぇ…何の木だろう?
赤と緑のコントラストが何となく12月っぽいかと。
もうすぐクリスマスという時期だったし。

  

やっぱり椰子の木のシルエットは南国っぽい。
棕櫚と椰子の違いもあやふやですけどね。
植物に疎いので、そろそろお暇(いとま)致します。

  

730。石垣島にも在ったね、730の記念碑が。
730が一体何を意味するのか。
御存じ無い方は…自分で調べてみましょう。

  


実に怪しげな『太平美術博物館』。
ひとりで入る勇気はありませんでした(^_^;)
何かヘンなもの買わされたりしそうだし…

  

 一旦、再び平良市街に戻る。一時的に小降りになっていた雨が、また激しくなって来た。傘をささずに“西里通り”界隈を歩いていたのだが、慌てて軒下に避難する。雨が弱くなるのを待っていたんだけど…一向に弱くならない。それどころか雨脚はどんどん強力になる一方。困ったなぁ…
 

新聞受け。これは沖タイですね。
もちろん琉球新報バージョンも在ります。
こういうのって購読者全戸に配布されたりするの?

  

“西里通り”の裏路地。
またまた雨が激しくなってきたのでちょっと雨宿り。
さすがにもう耐え切れず傘を購入しました。

『大衆食堂』という名のそば屋さん(^_^;)
7年前はここの2階の民宿を利用しました。
う〜む、懐かしい…

  



美容院、『ビューティーサロン サン』。
打ち掛け姿の女性が看板に…
ちょっと怖いです。

  

花ブロックって最近あまり見かけなくなったよね?
沖縄では存分に堪能できます♪
…べつに「♪」とはしゃぐほどのことでは…

  

とにかくあちこちで道路工事をやってた。
なので雨が降ると車がドロドロになっちゃう。
レンタカー屋さんも大変だろうなぁ。

  

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