宮古ブルーのはじまり
 

 “佐和田の浜”から集落を抜けて南に下って行くと、“渡口の浜”に辿り着く。浜の入り口に建っている軽食などを扱う小さな店を横に見ながら進むと、目の前に海と砂浜が現れる。
 その海の色。午前中の柔らかい陽の光を受けて、やさしい碧色に染まっている。砂は白く、まだ足跡ひとつ付いていない。空には雲もほとんど無く、風も非常に穏やか。まったく申し分の無い、とても心地良いビーチ、“渡口の浜”。誰も居ない静かな浜辺で、海とそれを取り巻くあらゆるものを僕はしばらくぼんやりと眺めた。…やっぱりこれが沖縄旅行の最大の贅沢だなぁ、と痛感する。何も考えず、ただただ海と向かい合う時間。暑くも無く寒くも無い程好い温度と、ゆっくりとした波の音のリズムで、何だかこのまま眠りたい気分になる。眠たくなるほど綺麗でやさしい海。う〜む、まさに至福!
 …ホントはもっとここでこうして居たいんだけど…今日は他にも行っておきたいビーチがたくさんあるのだ。
 まぁ、いつものことではあるけれど、どうも僕は性格的にあっちもこっちもと欲張って見所を駆け足で巡ってしまうことが多い。って言うか、そもそも一泊二日で二つも三つも島を周ろうということ自体に無理があるんですけどね。だって仕方ないじゃん、長い休みが取れないんだもんよ…
 …さ、気を取り直して次の目的地にゴ〜!
 

“渡口の浜”に到着。
浜への入り口には売店兼軽食屋もあります。
7年前にここでちょっとしたことがあったっけなぁ…

   

軽食屋から緩い坂を下ると浜に出ます。
素朴で静かなこのビーチ。
しかもまだ午前中の早い時間で誰も居ません。

  

まだ誰の足跡もついていないまっさらな砂浜!
何だか歩くのが勿体無い気さえする。
潮風も穏やか。

  

波の音しか聴こえない。
こんな贅沢な時間は滅多に味わえないよなぁ。
暫し海を見つめる。

  

陽光に煌く眩しい波頭。
海水が砂にス〜ッと吸い込まれていきます。
出来ればここでずっとこうして居たいぐらい。

  

昼になればもっと海の色が濃くなるんだろうなぁ。
沖縄の島の海は刻々と色を変えます。
見ていて飽きない。

  

…でも、そうジッとしているわけにもいかないのです。
何しろ見たい海は他にもたくさん在るので。
先を急ぐことにします。

  

 “渡口の浜”のすぐ横に在る“伊良部丸遭難の碑”に立ち寄りつつ、そのまま伊良部の南側の沿岸をドライブ。“長山港”や“牧山展望台”の下などを走り抜け、再び“渡口の浜”方面に戻り、橋を渡って下地島へ入る。伊良部と下地を隔てている海峡は、海峡というよりほとんど川のような狭さ。うっかりすると単なる川と勘違いして通り過ぎちゃいそうな感じだ。しかし、水は極めて澄んでいて青緑色に光っている。そんな狭い海峡に5〜6本の橋が架かっているんだけど、どの橋もそれほど大きくは無い。中には車が通れるかどうかも怪しいような小さな橋も在る。
 島の人たちは、伊良部と下地の境界を意識しているんだろうか。もともと、伊良部の北に在る佐良浜の集落は宮古島から移って来た人たちがルーツで、一方の南側の集落(伊良部、仲地、国仲、長浜、佐和田)の祖先は池間島から移って来た人たちらしいんだけどね。これだけ近い島でしかも橋で繋がっているとなれば、もしかすると地元の人も伊良部と下地を別個のものと捉え難いんじゃないか、などと思ったりする。…実際のところは分かりませんが。
 

“伊良部丸遭難慰霊碑”。
昭和15年、70人もの犠牲者を出してしまった事故。
綺麗だけど、やっぱり海は怖い一面も持ってるんだねぇ。

  


さっきの“渡口の浜”のすぐ横に慰霊碑は在ります。
畏怖と畏敬。
その海と密接にある島の暮らし。

  

伊良部島も他の離島の多くと同様、畑作が盛ん。
さとうきびなどの畑が広がります。
海の青と陸の緑が目に沁みる。

   

“牧山展望台”。サシバを模った白い建物。
かなりデフォルメされた佇まいですけども。
ちなみにサシバってのは渡り鳥の一種。

     


このまま“下地島”まで移動します。
伊良部とは橋で繋がってるので気軽に行き来できる。
一気に観光モードに突入!

  

これは…サギの仲間だと思うんだけど…
道端をのんびりと歩いてました。
あんまり警戒心が無かったです、コイツ。

  

伊良部と下地の境に入り込む海水。
青味掛かった薄緑、何だか不思議な色です。
橋の上からちょっと見入ってしまった。

  

やや淀んだ水なのに、これだけ透明度があるのは驚き。
小魚もチョロチョロと泳いでるし。
上空の雲までしっかり映り込んでる。

  

 そんな海峡を渡って、僕が真っ先に目指したのは『下地訓練飛行場』。ここはその名のとおり、パイロット養成のための飛行訓練をするために作られた飛行場。ガイドブックの類にもよく「タッチ&ゴーが間近で見られる」なんて書いてある場所だ。が、僕は飛行機にもタッチ&ゴーにもあまり関心が無い。飛行場を目指している理由、それは、この飛行場の北側と西側に広がる海を見るためなのだ。
 7年前、観光タクシーの運転手をしているアンマー(かなり後で知ったのだが、この人は宮良さんという伊良部&下地では結構有名な観光タクシードライバーなのだそうな)にこの飛行場を案内されたときのこと、あいにくの曇り空でアンマーは「残念ねぇ!晴れていればこの辺りの海はとっても綺麗なのに!」とそれはそれは残念そうに言った。それ以来、ちょっとばかり心に引っ掛かっていたのだった。
 飛行場をぐるりと囲む道路を回り込むようにして北側に進んで行くと、道路沿いに広がったのは息を飲むほどクリアに光り輝く青い海!僕は思わずひとり歓声を上げて、車から降りて海の色に目を奪われる。
 この海はちょうど滑走路の延長線上に当たるので、海上には赤く塗られた誘導灯の鉄骨が伸びている。その赤い色が、海の青さを一層際立たせているように見える。飛行場から飛び立つ飛行機や、沖合いで旋回して戻って来る飛行機の機体が海の青さを映し込んで、エメラルドに光る。「スゴイ!」を連発してしまうこの光景に、僕はひたすら興奮した。さっきの“渡口の浜”での穏やかな気分とは少し違う、胸が躍るような感覚。たぶんそれは高く上がった太陽の光を受けて、海が益々眩しさを増して来たせいだろう。
 飛行場沿いの道をさらに西側へと回り込んで行くと、テトラポットが積み上げられた防波堤の下には、これまた透き通った海原が広がっていた。かなり遠くの方まで海底が透けて見えるほどに明るい海に、僕は感嘆のため息を吐(つ)く。
 やっぱり宮古の海は一味違うと思う。もちろん僕は沖縄本島(とくに西海岸)の海も、八重山の海も大好きだけど、宮古の海の青さは他の島々の海の色とはちょっと違う。色味が濃い、というか、深い、というか、くっきりとしている、というか…ぜんぜん上手く説明できませんけどね。青、水色、緑、それらが微妙に混じり合った色、さまざまな色のひとつひとつが明るく強く輝いている、という感じか。
 テトラポットの上に立ってしばらくこの海を見つめていると、1台のタクシーがゆっくりと走って来た。そのタクシーは僕の傍らをスーッと通り過ぎ、少し先に行ったところで停まった。と、空かさず中から運転手と二人の乗客が一緒に降りた。乗客は初老のご夫婦だった。お客と運転手はテトラポットの縁へ行き、僕と同じように海を眺め出す。運転手が何やら海を指して説明しているのを聞きながら、夫婦は笑顔を浮かべながら海に釘付けになっている。…たぶん、この場に来れば誰もがこんな表情になるんだろうなぁ。
 

“下地島空港”。
空港とは言ってもパイロットの訓練飛行場です。
僕ら一般人は搭乗できません。

  

飛行機が飛び立っていくところ。
…って、飛行機が見えないかな?
よ〜く見ると写ってるんですよ、一応。

  

このての知識って僕はまったく持ち合わせて無い。
なので、この設備の機能もさっぱり…
灯台みたいなものなのか?

  


飛行場の東側と南側はほとんど畑。
辺りが静かなぶん、飛行機の轟音が一際響きます。
しかも、ムチャクチャ間近を飛んでくし。

  

飛行場の北側の海。
目が冴えるような青い海が広がって感動!
これは絶対オススメの見どころです。

  

こんな写真の何倍も綺麗な水色と対面できる。
この海の上を飛行機が飛んで行くわけです。
で、またすぐ戻って来る。“タッチ&ゴー”ってヤツね。

  

この海の色、まさに宮古島ならではの色。
この水がしょっぱいなんて、ちょっと信じられないよなぁ。
ラムネみたいな味がしそうだよねぇ。

  

海の青さが機体を青く染めてる!
一瞬、水色の飛行機かと思ってしまうほど。
恐るべし、下地の海!

  


これは飛行場の西側の海。
まさにとろけそうなほど美しいぞ!
これを見るために下地に来ても損は無い!

  

…などとすっかり興奮してしまいましたが。
興奮し過ぎて海の写真を26枚も撮っていた(^_^;)
いや〜、眼福眼福。

  

でもさ、この海を目の前にして感激しないほうがおかしい。
…と僕は思います。
一面に広がる青い輝き。

  

離れ難いなぁ、ここから。
もっと滞在期間が長ければなぁ。
……仕方無い、次へ移動だ。

  

 そして、下地島と言えばやっぱり外せない名所である“通り池”。水底で海と繋がっているらしいので厳密には池じゃないみたいだけど、その仄暗い水面の色は、ここに纏わる伝承や伝説と相まって、なかなか神秘性を感じさせる。…などとガイドブック風なことを言いながら、僕はたまたま居合わせたワケありっぽいカップルが非常に気になり、彼らの挙動を密かに観察する(我ながら浅ましい)。
 男性は恐らく40代後半〜50代前半といった頃合、女性はどうみても20代。最初は「親子かな?」程度にしか見ていなかったのだが、親子にしてはお互いの仕草が妙に粘っこい。…不倫カップルか?そう言えば、以前波照間島に行ったときも、小浜島に行ったときにも不倫カップルっぽい男女を見かけたっけ。う〜む、沖縄ってひょっとして不倫カップル・お忍びアバンチュールのメッカなのか?
 この“アバンチュールin通り池”な雰囲気の男女は、池を見て「綺麗だね」なんて呟きながら視線をねっとりと絡ませ、ついでに腕なんかも絡ませ、デジカメで記念写真を撮ったりしている。ケッ!!べつに不倫をどうのこうの批難するつもりは無いが、もうちょっと人目を憚って欲しいもんである。同じ空間に居る僕のことをまったく気に留めていないふうなのが癪である。…これって単なる僻(ひが)み?
 まぁイイ。僕は努めて二人から距離を置くようにしながら“通り池”を見る。パッと見、全体的に暗い色味の水面だが、陽光が注いでいる辺りの水の色は不思議なほどに青く輝いている。先程、カップルが「綺麗だね」と言っていたのは、恐らくこの青く光る水面の部分のことだったんだろう。
 僕が池を見ているうちに、カップルは心ここに在らずといった感じで立ち去って行った。その背中を見ながら「勝手に不倫と決め付けてしまったけど、もしかすると年の離れた夫婦なのかもしれない」とも思う。だとしたら、色眼鏡で見てしまって申し訳ないな、なんて思ったりもする。そうそう、人を端(はな)から疑って掛かってはいけない。と自分を戒めてみる。
 “通り池”を離れるときに、自転車を漕いで池に向おうとしているひとりの男性と擦れ違った。この男性、伊良部に来る“フェリーゆうむつ”に自転車を引いて乗って来た50代と思しき男性だった。車窓越しに目が合って、おじさんの方も僕の顔を何となく憶えていたらしく、お互いに軽く会釈をした。それにしても、自転車で伊良部と下地を周るのって、意外と大変だと思う。佐良浜港から一旦集落の中に入ってしまえば、それほどアップダウンは激しくない島だとは思うけど、ふたつの島を合わせると約40ku。竹富島の約8倍だ(分かり難い例えだなぁ)。僕が自転車で周るとしたら、せいぜい黒島ぐらいが関の山。無類の根性無しの僕にとって、このおじさんの機動力たるや尊敬に値する。スゴイぞ!自転車おじさん!
 

“通り池”の入り口付近。
東屋で商売をしている“丸吉商事”の出張営業車。
沖縄民謡をBGMにみやげ物などを販売してた。

    

“通り池”に続く遊歩道。
う〜む、まさしくコテコテの観光コース。
ま、こういうのも結構楽しいよね。

  

“通り池”は何となく神秘的な雰囲気。
池とは言っても水面下で海と繋がってるらしい。
ここには人魚伝説もあったりする。

    

こちらも“通り池”(?)。左写真の池と底で繋がってる。
濃い青に染まる水面に見惚れてしまう。
とくに岩の下辺りの水の色は実に綺麗です。

  

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