NEW PARADISE


 牧志の公設市場を出て、そのままアーケードを抜けて“壺屋”に向かう。何故か陶器の類に強い関心を寄せているKは、この壺屋の“やちむん通り”を散策したがる。ハッキリ言って僕は、Kに陶器を見る眼があるとは思えないのだが…何かにつけて「骨董に興味がある」だの「陶芸をやってみたい」だのと言うKではあるが…店先で陶器を手に取っては、その値段を見て「ゲッ!高い!」としかめ面をしている彼を見るにつけ、陶器の道を極めるのは程遠い感を抱いてしまう。
 ま、そんなKとは違って、僕は陶器にはあまり関心は無い。壺屋で僕が楽しみなのは、様々なシーサーを鑑賞することなのだった。沖縄の街や集落の中で不意に出くわすシーサーも大好きだけど、ここ壺屋ではちょっと趣きの異なる面白いシーサーがあちこちの店で売られている。少々観光客向け過ぎるきらいがあるのも確かなんだが、それはそれで楽しいのだ。

 市場方面からやちむん通りに入ると、まず目につくのが『壺屋焼物博物館』。本来、この手の施設に目が無いはずのKさんだが、どういうわけか彼の口から「入ってみようか」という言葉を聞いたことが無い。焼物&博物館という、Kの好きな要素がふたつも含まれている施設だというのに…今回も、Kはこの博物館をあっさり無視して素通り。かく言う僕もとくに興味が無いので、あえてそのことを指摘せずに、素通りしてしまうわけだけど。
 で、そのまま焼物の店が連なる通りを、Kは陶器目当てに、そして僕はシーサー目当てにと、それぞれ違う目的でそぞろ歩く。
 シーサー。中国辺りを起源とする魔除け・守護神。本来はきっととても怖〜い顔をして屋根の上で魔物を威嚇していたんだろうが、表情も豊かでどこかユーモラスで可愛い。その顔は、デフォルメされればされるほど、または擬人化されればされるほど、まさしくウチナージラー(沖縄顔)そのものになっていく。大きな目、太くて濃い眉、そしてヒゲ…「あ、こんな顔の人、さっき市場で見掛けたなぁ」とかね。ウチナージラーのおじさんは、一見すると怖くて近寄り難い。でも、よくよく見ると案外愛嬌のある顔をしていたり。だんだんとシーサーが沖縄のおじさんとダブって見えて来る。…ってことはだよ、俺はシーサーを通して沖縄のおじさんを鑑賞してる、ってことになるのか?…あまり深く考えるのは止そう。
 一方Kは、壺やら皿やらをしげしげと見ていた。
 「西表島で買った陶器と壺屋の陶器、キミの好みはどっちなんだい?」と僕が訊く。
 「え?…あ、そうか、そう言えば西表でも買ったんだったっけ。忘れてた。ハハハ…」
 「………」
 ホントに陶器に関心があるのか?!どうも疑わしい…
 

壺屋のやちむん(焼物)の店。
陶器やシーサーがたんまり売られてます。
焼物…ちょっと高尚なおみやげっぽい。

  

これは骨壷ですね。
洗骨の風習は今はほとんど残ってないみたいだけど。
言われなければエキゾチックな壺のような(?)。

   

シーサー・その1。風格あり。
いかにもシーサーらしい風貌もグー。
これだったら魔除けになるのもうなずける。

  


シーサー・その2。マスコット風。
ここまでデフォルメされると何だか別物のような…
カワイイけどね。

  

シーサー・その3。アート編。
迫力&勢いのある炎の獅子。
もはやシーサーと呼んでいいものかどうか…

  

シーサー・その4。擬人化。
酒を飲んですっかり朗(ほがら)かなおじさんチック。
本来の役目(=魔除け)を忘れ去っている模様。

    

とにかく多種多様なシーサーと会える街・壺屋。
シーサー好きなら外せない場所でしょ〜。
あ、もちろん陶器に興味のある方も。

  

一軒一軒丁寧に見て歩けば半日は過ごせるかな?
『壺屋焼物博物館』もあるし。
僕はまだ入ったことが無いけど、博物館に。

  

 小1時間の壺屋散策を済ませ、僕らは再び公設市場の方へ戻る。アーケードをフラフラと歩いていると、ちょうどいいタイミングで『公設市場衣料部』と『水上店舗第2街区』の狭間にあるちょっとした休憩スペースに辿り着いた。自販機で缶コーヒーを買い、テーブルのあるベンチに座って一服。何気なく周囲を見渡してみる。と、僕らの隣りのテーブルに、オジィがひとり座っていた。彼の手元には、カップタイプ(ワンカップ大関みたいなヤツ)の酒と、紙パックに入った牛乳が置かれている。う〜む、あのオジィ、これを一緒に飲んでるのか?Kもオジィのことに気づき、僕らはオジィの行動に見入る。
 オジィは、カップ酒をグビリと一口飲む。で、遠い目をして暫(しば)し間を置く。で、次に紙パック牛乳を一口ゴクリ。そしてまた間を置く。今度はカップ酒を…というように、それぞれを交互に一口づつ飲む、という不思議な飲み方を繰り返していた。酒と牛乳…“泡盛の牛乳割り”なるものがあるらしい、とは聞いたことがあるが、こんな飲み方をする人が居るなんて…
 よく「酒を飲む前に牛乳を飲んでおくと、胃に膜が出来て良い」という話を聞く。このオジィはそれを実践してるのか?でも、「飲む前に飲む」のと「両方を同時に飲む」のとでは、その効果にどこまで期待を持てるのだろう?ひょっとするとモンゴルにある“牛乳酒”辺りを意識しているのか?でも、あれは「牛乳を発酵させて酒にする」のであって、べつに「牛乳と酒を混ぜて造る」わけじゃ無いし…それより何より、酒と牛乳をチャンポンで飲んで、美味いのか?
 やがて、オジィは酒と牛乳を飲み切って、フラフラとその場を立ち去って行ってしまった。結局、僕らの頭の中には“?マーク”だけが残された。

 オジィが去って行くと同時にKが「トイレに行きたい」と言うので、休憩スペースに面した『水上店舗第2街区』の建物の2階にあるトイレに行ってみた。僕はべつに尿意を催しては居なかったのだが、2階に何があるのか何となく興味があったので、付き合って2階に上がる。と、2階の壁に、やたらと古そうな白黒写真の拡大コピーが数枚貼り付けてあった。どうやらここにはこの店舗街の“組合事務所”が在るようで、この写真以外にも資料の類が幾つか置いてある。僕が写真を見ていると、トイレから出て来たKも一緒になって、僕らはしばらくこれらの写真を眺めた。
 写真に収められた被写体は、どれもが戦後あたりの那覇界隈の様子らしかった。とにかく、この那覇は沖縄戦の空襲で壊滅的な状態になってしまい、歴史的な資料や建造物はほとんど残っていないという。戦争から60年弱。60年弱という時間が長いのか短いのかは尺度にもよるとは思うけれど、当時の那覇を知る人が現在の那覇を見るとき、一体どんな感慨を抱くんだろうか。
 
 市場を眺めながら国際通りに戻る。国際通りをバスターミナルの方向へ歩いていくと、『国映館』という映画館の前に差し掛かった。いつも何気なく通り過ぎている映画館なのだが、ふと見ると、「さよなら国映館 ありがとうファンの皆様」という立て看板が立っていた。閉館しちゃったんだねぇ、この映画館…
 そもそも“国際通り”という名は、戦後この通りに建てられた『アーニーパイル国際劇場』という映画館の名前に由来する。が、かつて国際通り周辺にあった映画館は次々と閉館している。
 「そう言えば、『グランドオリオン』も最近閉館しちゃったんだよねぇ」
 「昔は確かポルノ映画館もあったよね、国際通り沿いに…『国際ショッピングセンター』のそばだったっけ?」
 「あー、懐かしいねぇ、『国際ショッピングセンター』。そこの1階に『A&W』があったよなぁ。よく食いに行ったよね」
 今や、国際通りにある映画館というと『パレットくもじ』の中にある映画館だけになってしまった(厳密に言えばこれは国際通りじゃないけどね)。美浜や新都心の大型シネコンの影響だろうね。『国映館』も『グランドオリオン』も新都心のシネコンに移行するみたいだし。
 だんだんと国際通りの活気が失われていくのだとしたら、それはとても寂しい。「車が停め難い」とか「似たような店(みやげ物屋)ばっかり」とか「歩道の幅が狭い」とか、あまり良い評判を聞かれなくなった国際通りだけど、僕が“はじめて接した沖縄”はここだった。そのせいもあって、個人的に思い入れの強い場所だ。もしも新都心がやがて国際通りを凌駕する日が来ても、僕はたぶんこの通りを歩くだろうと思う。マチグヮーもあるしね。
 
 タクシーを拾って、那覇空港に向かう。過ぎてしまえば6日間なんてあっという間だ。タクシーの窓から見える明治橋や那覇軍港を些(いささ)か感傷的な気分で見送りながら、空港に到着した。
 空港内のみやげ物屋や本屋などをひやかしているうちに、出発の時刻になる。この時点で、Kさんのテンションの低下はMAXに突入。まぁ、これはいつものことなので慣れっこなんですけどね。羽田に戻る飛行機の中でも、ずっと浮かない表情だった。
 羽田に到着し、Kさんの運転で家に向かう。首都高を走る車中で今年の沖縄旅行のことなどをあれこれと語っていると、何だかいつもと違う道を走ってるような…
 「…あの、Kさん、何だかおかしくありませんか?」
 「え?何が?」
 「何が?じゃなくて…道を間違ってるんじゃないの?」
 「え?ホント?」
 「ほら!今、表示板に“川崎・横浜”って書いてあったじゃん!東京とは逆の方向に進んでるよ!」
 「あ、ホントだ。アハハハ」
 「…最後の最後でこれかい!」
 やがて僕らの眼下には、横浜の煌びやかな夜景が広がった。こんなに虚しい気持ちで夜景を見ることになるなんて…
 …Kさん…バカ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!(←去年と同じ締めのセリフじゃんか!)
 

再び牧志の市場近くに戻って来ました。
同業の店が集中しているのがマチグヮーの特徴。
この一角はさしづめ“婦人服街”といった感じか?

    

間口の狭い八百屋さん。
“たんかん”の空き段ボールが目につきます。
でも、今はシーズンじゃないから店頭には無し。

  

“公設市場衣料部”と“水上店舗”に挟まれた所。
ちょっとした休憩所になってます。
ここでひと休みするのが恒例になってる僕ら。

  


水上店舗第2街区の2階。
資料や古い写真が置いてあった。
トイレに行きがてら閲覧してみようかな。

  

レストラン『ニュー・パラダイス』。
何とも言えないこの雰囲気。カッコイイよなぁ。
果たしていつ頃の写真なんだろう?

  

昔の国際通り界隈の様子、なのかな?
着物を着てる人が圧倒的に多いです。
頭に籠を乗せて商いをしてる女性の姿も見えます。

    

知れば知るほど面白い街・那覇。
知れば知るほど奥が深い沖縄。
僕が知っている沖縄はまだほんの一部に過ぎない。

  

ピンボケですみません。
ゴーヤーマヨネーズ。美味いのか?これ…
僕はマヨネーズがあまり好きじゃないので…

    

ゴーヤーカレー、ソーキカレー、イカスミカレー。
入れりゃあイイってもんでも無かろうて(^_^;)
明らかに観光客向けなベタな商品って感じ。

  


で、僕はこれを買いました。
かなり手軽に食べられるのが嬉しい一品です。
…が、味のほうは改良の余地ありあり。

  

国際通り沿いの映画館、『国映館』。
でも、このたび閉館と相成りました。
那覇の映画館はどんどん閉館しちゃってる。

  

『CINEMASQ』ってのは新都心に出来たシネコン。
“国際通り”の名の由来を思うと寂しく思ったり。
でも、ラスト上映作がこの映画ってのは…

  


さよなら沖縄。
しばしのお別れでございます。
今回もどうもありがとう!これからもよろしくね。

  

おまけ画像。横浜・マリンタワーです。
最後の最後までKさんの面目躍如。
オマエってヤツはホントに…

  

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