見張り塔からずっと(汎用久米島観光 その2)


 さて、本格的に久米島観光ドライブをはじめた途端、Kさんの面目躍如(?)。久米島の観光スポットはその大体が島の外周を巡る幹線道路に沿うようにして点在しているので、そのまま素直に幹線道路を走っていれば良いものを、何故かKは突拍子も無く細い脇道に入りたがる。
 「こんな道に曲がって入っても、先には何も無いと思うけど…」 「そう?行ってみなくちゃ分かんないよ」
 農道のようなクネクネとした道路を闇雲に進むが、結局案の定行き止まりになる。で、Uターンも出来ずにそのまま数百メートルもバックで戻るハメになる。最初は「まったくKは…」などと苦笑いして遣り過ごしても居られたのだが、そんなことが4度も5度も繰り返されると、さすがに僕も堪忍袋の尾が切れそう。真泊港からまだ2kmも走っていないというのに、一体Kは何をしてるんだ?!
 Kが僕の忠告をヘラヘラと聞き流し、またまたヘンな農道に入り込み、挙句の果てにどこかの農家の納屋の前で行き止まりになったときに、僕の怒りはついにMAXに達した。
 「おい!いい加減にしろ!何度こんなことを繰り返せば気が済むんだ?!オマエはバカか!頭かち割って死ね!」
 「…何もそんなに怒らなくても…」
 「も〜!こんなことで無駄に時間を費やすぐらいだったら、やっぱり“はての浜”に行っときゃよかったんだ!」
 「ダメだなぁ、ささきは冒険心が足りないんだよ〜」
 「冒険心?!その冒険心とやらがこの結果なのか?!だったらそんな冒険心なんぞ痰壺に丸めて捨ててやる〜っ!」
 …と、これだけ聞くと「ささきって酷いこと言うなぁ」と思う方もあるかもしれない。が、Kを甘く見てはいけない。僕がどれだけ罵声を浴びせかけようと、まったく堪(こた)えないのがKのホントの恐ろしさなのだ。
 「今度こそちゃんとまともに走るんだぞ!」と念を押す僕の言葉に曖昧な返事をしておきながら、またしてもKは脇道へ入って行く。
 「おい!またかよ!もうホントにアンタって人は…」 「あ、ゴメン。でも、ついつい無意識に曲がっちゃうんだよねぇ」
 何だか激しい虚脱感に襲われる僕だったが、こんどの脇道は今までの道とはちょっと様子が違っていた。少し狭い道をグングンと下って行くと、目の前に何やら東屋のようなものが見えて来た。
 「おっ、何かあるぞ」と色めき立つK。そこには“黒石森城歌碑〜航海・旅行安全祈願地、景勝地”と書かれた看板が立っていた。
 「へぇ〜、こんなところがあったんだなぁ」と僕がつぶやくと、Kは空かさず「ささき、ここ知らなかったんでしょ?ほら見ろ〜、だから大切なんだよ、冒険心は!」と勝ち誇って言った。…言い返せない。
 ここは展望台のようになっていて、眼下には青い海原が広がっていた。僕らはしばらくこの景色を眺めていたが、とにかくKはすっかりご満悦だった。
 「やっぱり冴えてるだろ?な?カンが冴えてるだろ?な?」
 「あ〜そうだねそうだね。Kさんはホントに冴えてるよね。スゴイ!グレイト!日本一!」
 「…何だか心が篭ってないなぁ」
 当たり前だ。誰が本気で褒め称えたりするか!何しろ、真泊港からほんの数Kmしか離れていないだろうこの歌碑に辿り着くまでに、すでに小1時間が経過している。
 「…俺の賛辞の言葉がお気に召さないなら、この崖から突き落としてやろ〜か?」
 「…さ、じゃあ次に行こうか」
 

“黒石森城歌碑”。
幹線道路からちょっと外れた場所にありました。
ひょっとすると案外穴場なのか?

   

展望台も併設。
ここに偶然辿り着いたK氏、たいそうご満悦だった。
…なんかムカつく。

  

“黒石森城節”という民謡の歌碑ですね。
この歌詞の意味、分かります?
明後日の風を今日吹かせてくれ、って内容?

  


眺望はなかなか良かったです。
吹きっ晒しなので風はかなり強かったけど。
旅行の安全を祈願してみよう。

  

 “黒石森城歌碑”から幹線道路に戻ると、すぐに“阿嘉のひげ水”の案内標識が見えた。とりあえず行ってみることにしよう。
 道路のすぐ脇の駐車場の隅に“阿嘉のひげ水の歌碑”があった。歌碑はあるんだけど、肝心の“阿嘉のひげ水”はどこにあるんだろう?歌碑の横に延々と続く階段が下へ下へと伸びているのだが…
 「もしかして、この階段を下りていくのかな?でも、この階段ってどれぐらい続いてるんだろうね…」
 「うん…ちょっと不安になるよね。このまま海岸の方まで降りて行くのかな?」
 「降りるのはイイけど、またこの階段を上って戻って来なくちゃいけないんだよね?」
 「…どうしようか?」 「…どうしよう…」
 階段の両側には雑木がワシャワシャと伸び放題になっていて、行く手の様子がここからではまったく窺えない。果たして“阿嘉のひげ水”なるものは、この階段を往復してまでも見る価値のあるものなのか?
 でも、せっかくだからちょっと行ってみることにしよう、ということになり、僕らはやや急ぎ足で階段を下りはじめた。すると、向こうから階段を上ってくる人影がある。作業着を着ているところを見ると、どうやら地元の人のようだ。そう言えば、駐車場に地元の土木関係らしき業者の車が一台停まっていたっけ。よし、ちょっとあの人に探りを入れてみよう。
 擦れ違いざま、僕は作業着を着た中年男性に「こんにちは〜」と挨拶をする。なかなか人の良さそうなおじさんだ。
 「あの、この先に“阿嘉のひげ水”があるんですか?」
 「そうだよ〜」
 「結構遠いですか?」
 「いや、それほど遠くは無いけどね。でも、今日は(“阿嘉のひげ水”に)行ってもあまり良く見えないよ」
 「あ、そうなんですか…そのひげ水って、岩か何かから出てる滝か何かなんですか?」
 「そうそう、小さな滝みたいなもんだよ」
 このおじさんの説明によると、どうやらこの小さな滝が風に煽られると髭(ひげ)のように見えるらしい。って、何だかいまひとつピンと来ない感じ。そもそも現在ではその滝自体の水量も少なく、今日は風もほとんど吹いていないので、おじさん曰く「行ってもあまり面白くないよ」とのこと。
 「…じゃあ、戻ろうか」とKが言った。僕もすぐさま同意した。僕らはおじさんと一緒に階段を上る。
 「ハァ、さすがにここまで一気に上がって来るとキツいね」とおじさんは苦笑した。見ると確かにおじさんは汗びっしょり。この日の久米島はやはり30℃近い真夏日。しかも、とにかく湿気が凄かった。そりゃ汗だって掻くわな。
 僕らは駐車場でおじさんと別れ、ドライブを再開した。

 “阿嘉のひげ水”を後にし、今度は“比屋定バンタ”に差し掛かる。僕は当然ここに立ち寄るものとばかり思っていたのだが、Kはバンタには目もくれず、さっさと通過してしまった。
 「ええっ?!“比屋定バンタ”に寄らないの?!目の前にあるのに?!」僕はかなりビックリして思わず叫んでしまった。
 「え?だってただの崖でしょ?」
 「崖って…そりゃそうだけどさ、一応久米島観光では外せないスポットのひとつなんじゃないの?」
 「そうなの?ふ〜ん…」
 ふ〜ん…ってねぇ…と僕が途方に暮れているうちに、Kはどんどんと“比屋定バンタ”から離れていく。まあね、僕は一度見てるのでべつにイイんだけどね。でも、普通はじめて久米島を訪れて、しかも目の前を通っておきながら“比屋定バンタ”を無視して素通りする人って居ないような気がするんですけど…ますますKという人物が分からなくなる僕。あれほど無駄に脇道に入っては引き返しを繰り返したくせに、肝心の観光名所を素通りするなんて…この男の頭の中は一体どんなふうになってるんだろう?
 

“阿嘉のひげ水”の歌碑。
「ひげ水が吹き上がると女性は胸ドキドキ」…?
僕の解釈が間違ってる?

  


歌碑の脇に階段があったんだけど…
途中まで行って結局引き返しちゃった(^_^;)
マムシとか出そうな感じだし。

  

 先ほどのバンタ素通り事件(大袈裟か?)のショックが覚めやらぬ僕の心も知らず、Kはおもむろに山へ向かって坂を登りはじめた。
 「あの…どこに行こうっていうんですか?」 「えっとね、“宇江城跡”に行こうかと」 「…はぁ、そう…」
 この“宇江城跡”は、宇江城岳という久米島一高い山(標高309.8m)の上にある。実際に城跡に辿り着いてみると…これが実にワイルドと言うか、なすがままと言うか…一応、歩きづらい部分には鉄板が渡らせてあったり、ロープが手摺りのように巡らせてあったりはするのだが、それ自体がすでに覚束ない感じである。おまけにこの城跡の城壁の石垣は、いわゆる野積方式で作られたもので、うっかり寄り掛かったりするとガラガラと崩れ落ちてしまいそうな雰囲気。あの本島の、世界遺産に登録された城跡群に漲る「残していくぞ!観光資源にするぞ!」的な空気はまったく無くて、どこか荒涼とした気持ちにさえなるほどに素っ気無い。
 だが、さすがは久米島一高い山の上にあるだけのことはある。この城跡からの眺望はかなり素晴らしい。グルリ360度、久米島を一望出来る。畑と赤土が織り成すパッチワークのような陸地。その先に広がる海。う〜む、これはなかなか気持ちイイねぇ。
 …が、もうお分かりだろうと思うけど、Kさんはこの眺望に大した感慨を受けている様子も無く、ほんの数分留まっただけで、さっさと城跡を後にしようとしている。
 「次に行こうか。ここってとくに何も無いし」と言い、あっさりと来た道を戻って行くKの背中を見ながら、僕はつくづく「何で俺はコイツと一緒に旅をしてるんだろう…?」と思う。っていうか、ホントにKって沖縄のどこに魅力を感じているんだろうか。謎だよなぁ。いや、きっとKはKなりに沖縄を愛しているのだとは思うんだけど、どうもこの人物の嗜好が掴みづらい。
 「Kってさ、あんまり風景とかに興味が無いの?」と、僕は改めて訊ねてみる。
 「え?そんなこと無いよ」
 「…そうだよなぁ、“川平湾”とか“平久保崎”とか“辺戸岬”とかにはイヤというほど行くし…Kは沖縄のどこが好きなんだ?」
 「え?う〜ん…のんびりしてるところかなぁ」
 これは愚問だったと思う。僕だって「あなたが沖縄に惹かれる理由は?」と訊かれても、たぶん上手く答えることなど出来ない。それは分かってるんだけどさぁ…
 ま、イイや。僕もどこかでKの突拍子も無い行動を楽しんでるところがあるし。ブツクサと言いながらも基本的にはKの好きなようにさせてやってるわけだから、Kにしても僕は一緒に旅行する相手として遣り易いはずだし。連れがイヤな気分になるのは居た堪れないしね。自分が堪(こら)えて済むことならば…何か、俺って大人だよなぁ。
 

“宇江城城跡”はかなりワイルドな城跡。
で、敷地も案外狭い。
どことなく殺伐とした雰囲気すら漂っているような…

  

ここまで来ると相当な高さになります。
高所恐怖症の方はちょっと足がすくむかも。
僕は高いところはとくに苦手じゃないけど…

  

この野積の城壁が少し怖いかも。
寄り掛かるとド〜ッと崩れ落ちそうな佇まいだし。
ま、実際にはそんなことは無いだろうけど。

  

ここからの眺望はかなり気持ちイイです。
まさしく島が一望の下。
晴れてると渡名喜や慶良間まで見えるらしい。

  

 そんな大人な僕と、相変わらずマイペースのKさんが次に立ち寄ったのは“太陽石”。この石のことについての詳しい説明は省略。で、これまた数分間眺めただけでさっさと立ち去る。ゴメンね、堂之比屋さん。
 
 そこから幹線道路を少し進むとすぐに、かの有名な『久米島の久米仙』の看板が見えた。泡盛の工場があるのだ。僕らはとりあえず工場の方へ車を走らせた。
 「飛び込みで見学ってさせてもらえるのかなぁ?」 「さぁ、どうかな?」
 もしも可能ならば“アポ無し工場見学”をさせてもらおうかと思いつつ工場の前まで行ってみたものの、いざとなると中に突入するのが躊躇(ためら)われてしまい、結局工場の中に立ち入るのはやめてそのまま通過しちゃったりして。どこまでも小心者なのね、俺たちって…
 ところで、“久米仙”という銘柄の泡盛は、沖縄本島にもある。那覇にある『久米仙酒造』が“久米仙”というブランドで泡盛を造っているんだけど、この那覇の『久米仙酒造』の会長さんは元々は『久米島の久米仙』の創業者と一緒に久米島で泡盛造りをしていて、後に那覇に移って自分の会社(=『久米仙酒造』)を興したらしい。どういう理由で別れたのかは分からないけど…
 だから一応久米島の方は“久米島の久米仙”と冠詞をつけて那覇の“久米仙”と差別化されている。…果たしてどちらが本家“久米仙”なのか。この点に関しては両者に確執めいたものもあるらしいので、かなり微妙な感じだけどねぇ。
 
 そんな『久米島の久米仙』の工場を素通りし、さらにそのすぐ近くにある『久米島海洋深層水研究所』も素通りして、そのまま幹線道路に戻った。と、幹線道路沿いには“堂井”と書かれた井泉があった。この“堂井”は沖縄屈指の名水とされていて、“久米島の久米仙”はこの水を使って造られている。そんな名水とあらば僕もぜひ飲んでみたい!とは思ったのだが、例えば“金武大川”や“垣花樋川”のように一般に開放されてる感じでは無かったし、井泉の水槽の上には金網も張ってあったので、僕らは金網越しに水をしげしげと眺め、「ふ〜ん…」と意味の無い納得をし、そのまま立ち去る。

 その後、『具志川城跡』と『ミーフガー』にも立ち寄った。…まぁ、この辺の詳細については過去の旅行記にも書いてあるので端折ることにします。それにしても、まさに「これぞ久米島観光!」というラインナップ(“比屋定バンタ”すっ飛ばしを除けば)。冒頭にも書いたように、久米島の主だった観光スポットは幹線道路に沿うように在るので、道なりに進んで行けば自ずと名所旧跡が目に留まることになる。非常に分かり易い。そうでもなかったら、Kがこれほどマメに観光名所に立ち寄るはずも無いのだ。
 と、Kはここではじめて、レンタカー屋でもらったマップを広げた。
 「あ、『久米島紬ゆいまーる館』っていうのもあったんだぁ。気づかなかったね」
 「…しっかり通り過ぎたじゃん、真ん前を…」
 「あれ?“チュラフクギ”なんか見たっけ?」
 「…通ったじゃん、短いフクギ並木を。あっという間に…」
 「この“比屋定バンタ”ってのは…あ、通過したんだったね。ハハハ…」
 「…ハハハ…ねぇ…」
 軽い脱力感に包まれている僕に、Kはあろうことか、
 「“はての浜”に行ったほうが良かったかもしれないね…」などという言葉を投げ掛けた。
 ムカッ!あれほど頑なに“はての浜”行きを拒んだのはどこのどいつだ!と一瞬思ったが、何だかKの言動に一々ツッコむのに虚しさを感じつつあった僕は、努めてマイルドな口調で、
 「まぁ、そう言わずに。久米島の見どころはまだまだあるんだからさ。それじゃ、次行ってみよう!」と張り切って見せた。いろいろと納得のいかない部分は在れど、今のところKの“サメ・ドライブ”の症状は現れていない。矢継ぎ早に観光名所がポンポンと出て来る久米島のおかげで、とりあえず僕はKのノンストップなダラダラ走行の魔の手から救われているのだった。…逆にKにしてみれば内心「何だか調子が出ないなぁ」と思っているのかも知れないが。グッシッシ、ざまあみろである。
 

“太陽石”。堂之比屋さんが500年前に発明(?)した石。
これで日の出の位置の変化を観測したらしい。
作農の際に非常に役に立ったみたいです。

 

…何故かこういうところにお金を置く人って居るよね。
所構わず賽銭気分でお金を供えるのはどうかと…
しかも6円ってスゴク半端な金額…

  

誰でも知ってる(ホントか?)“久米島の久米仙”。
恐らく最も有名な久米島の特産品なのでは?
CMもバンバン流れてるしね〜。

   

“堂井(どーがー)”。湧き水ですね。
湧き水って不思議だよねぇ。涸れたりしないのかな?
この水はどこから湧いてる水なんだろう?

  

“具志川城城跡”。ここもわりとなすがまま状態。
こちらの城壁もやっぱり野積方式だし。
あんまり手入れとかしてない様子。

  

ソテツ。何だか不気味な怪物のような趣き。
僕は真ん中にある実の部分がキライなんだよ〜。
パックリ割れると中身が見えて…ゾゾゾ!

  

…城跡の中でテントを張った人が居たのか?
こんなところでキャンプ?野宿?
なぜ骨格だけが残された?

  

“ミーフガー”は“具志川城跡”のすぐ近くにあります。
この形状から「子宝を授かる」とされてます。
発想がプリミティブ。

  


“ミーフガー”周辺は何だか異界めいてて面白い。
僕は個人的に好きな場所です。
夕方あたりはきっとさらにスゴイことになってそう…

  

裂け目の向こうに海が見える。
でもさ、上の写真を見ると女性器というよりは
屈んだ人の尻に噛み付く巨大魚、みたいに見えない?

    

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