迷宮フェロモン


 さて、朝だ。朝といえば、恒例・早朝散歩。「え〜?もうイイよ〜」とウンザリされるかもしれないが、少しお付き合いして戴けると嬉しいです。
 昨晩あれだけ気合を入れて早寝したKは、まだ深い睡眠の底に沈んでいらっしゃったので、僕は静かにホテルの部屋を退出し、人も車も少ない那覇の街に歩を踏み出す。

 那覇の街は、まさしくラビリンスだ。国際通りを一歩外れて路地裏に入ると、突然見たことの無い場所に迷い込んでしまう。道の伸びるままに宛ても無く進んで行くと、思わぬところに出て来たり。細い路地には石敢當や拝所はもちろん、ビックリするほど大きな亀甲墓が出没したりする。国際通りや公設市場周辺の雑踏からは想像がつき難いけど、那覇の中心部には意外にもたくさんの墓がある。こんもりと緑が生い茂る辺りには必ずと言っていいほど墓が立っているし、ビルや民家の陰にこっそりと隠れるように在る場合も多い。この界隈でじっくりと“墓めぐり”をするのもなかなか面白いかもしれない。
 興味の惹かれる路地へ入り、何となく気が向いた辻を曲がり、どこへ続いているのかも分からない階段を上り、なんてことを闇雲に繰り返していると、かなり本格的な迷子になってしまう。今自分がどこらへんに居るのかがさっぱり分からない状態。これはこれで楽しい。「もっと迷ってやろう」と息巻いて歩いて行くと、結局見知った大通りに出てしまい、ちょっとガッカリする。で、仕方なく大通りを歩いていると、またまた細い通路を発見。躊躇することなくその路地に入って行くと、またしても方向感覚が失われ、迷子の気分を味わえる。いやぁ、楽しいねぇ、この街の散策は。
 「そう言えば、昔この辺りでムチャクチャ雰囲気のある建物を見つけたんだけど…」と思い出して、その建物を目指すのだが、そういうときに限ってまず見つかった験しが無い。そのくせ、ぜんぜん宛ても無く歩いてるときに「あった〜!これだよ、これ!この店だ!」と不意に遭遇したりするのだが、結局そこまでの道程があやふやなおかげで、正確に場所を憶えるに至らない。
 「この道は確かはじめて通る道だよなぁ」と思いながら進んで行くと、見覚えのある場所に辿り着いて、「…あ、はじめての道じゃなかったのかも…」なんて思い直したりすることもしばしば。逆に、偶然以前にも通ったことのある道に出くわしてちょっとばかり感激することもある。
 積極的に翻弄されに行く。そんな感じだ。知らない場所に連れて行かれるワクワクした気分と、昔擦れ違ったものと不意に再会する楽しさ。路地は毛細血管のように繋がり入り組み拡がって、僕はそこを立体のあみだくじをしているような感覚でグニャグニャと進む。

 僕は2時間近く、大人の迷路で遊んだ。直感力や嗅覚の鈍化した大人だからこそ、これだけ迷えるに違いない。きっと子供だったらあっという間に路地裏を征しているはずだ。僕らが気づかないような道を発見することも出来るだろうし。普段、大人は多かれ少なかれ決まった道を歩くだけの生活をしていると思う。駅、会社、買い物、だいたいの行き先はすでに固定されていて、いかにそこまで合理的に移動できるかを基準にして、道を選択する。何だか、ちょっとつまらないよね、そういうのも。
 
 …まぁ、能書きはこれぐらいにして、僕はとにかく那覇の街の散策に熱中し過ぎて、今日の予定のことをすっかり忘れてしまっていた。そう、今日は“久米島”に行くのだ。もうそろそろホテルに戻らないと。…あ、でも、ここは一体どこなんだ?
 何だか見たことも無い小さな公園の前で、暫し途方に暮れる僕。背筋をつたう汗は、暑さのせいか、はたまた冷や汗か。
 

朝焼けの那覇市街。
ホテル7Fにある展望デッキ(?)からの眺め。
雲が多いのがちょっと気になります。

  

那覇の路地裏散策へGO!
木の根っこに侵食されたお墓。
住宅街の一角に何気なくあったりする。

  

家と家の間の狭い路地。
ふと覗くと、奥に何やら広い空間が…
これは絶対…

  


やっぱりあった!亀甲墓。
かなり年季の入ったお墓みたいだね。
このすぐ横にも大きな門中墓があった。

  

市場の周辺は面白い散策スポット。
朝は人も居なくて、好き勝手に散策し放題。
脇道脇道へと闇雲に曲がってみるのも楽しい。

  

日中の活気が嘘のように静まり返ってる。
だから細部にまで目が届く。
これが結構面白いのであります。

  

かなり変則的なアジマー状態。
それにしても店の数の多さはスゴイ。
路地という路地にびっしり並んでるもんねぇ。

  

なかなか興味深い食堂。
今までまったく気づかなかったよ、この食堂のこと。
やっぱり奥が深いな、那覇のマチグヮーは。

  

プールバーじゃなくて、玉突。
この味なんだよ、この味。
…って、どんな味だよ(^_^;)

  


“農連市場”。ここも好きな市場。
でも、再開発の話が持ち上がってる。
いつか失われてしまう場所なのかもしれない。

  

でも、それはそれで仕方の無いことなんだろうね。
街に「変わらないで」と言うのは無理なこと。
それがたぶん街の宿命なんだと思う。寂しいけど。

  

那覇の街は結構アップダウンがある。
路地裏に廻ると坂道がかなり多い。
…ところで左の看板、ちょっとヘンじゃないか?

  

スージグヮー(筋小)。
僕が那覇でもっとも愛する空間。
部外者がウロチョロするのは失礼と思いつつも…

  

木造家屋もコンクリートの建物も。
強烈な“沖縄の匂い”を放っている。
この匂いに惹き付けられるのです。

  


で、路地裏には猫。
この猫はかなりの美猫。
裏町美人、って感じ。オスかもしれないけど。

  

ブーゲンビリアにハイビスカス。
冬になればトックリキワタも印象的。
トックリキワタ、別名“酔っ払いの木”。

  

とある写真館のウィンドウにて。
紅型と花笠の琉装姿。
原色が似合う沖縄。

  


街のあちこちにスージグヮーの入り口が。
もはやその境界は定かでは無く。
誘うようでもあり、拒絶されているようでもあり。

  

濃厚な空気が漂ってる。
パイプやブロックさえも世界に溶け込んでいる。
何だかタイムスリップしそうな雰囲気もある。

  

細い路地へ、細い路地へ…
これ、何かヘンな中毒性があるな。
僕はすでに重症中毒者かもしれないけど。

  


沖縄はプロパンガスを使う家が多いみたい。
都市ガスに比べると割高なんだよね〜。
…実は僕の住んでるアパートもプロパンガス(^_^;)

  

猫の多い街は居心地のいい街。
古い街には必ずノラが居るもんね。
猫はきっと街の本性を見抜いているのだと思う。

  

こういう花ブロックの飾り格子がまた沖縄らしい。
…と思うのは僕だけ?
何やら結構複雑な構造だな、この建物。

    

“おかずの店 あじさい”、素敵です。
朝陽も眩しいぜ。
AM7時過ぎの半覚醒の路地。

  

これは『コバルト荘』という民宿。
かなり有名な那覇の民宿です。
僕は泊まったこと無いですけどね。

 

石敢當、ダブル。
魔除け効果も2倍、なのか?
折れちゃっても処分しにくいよね、こういうのって。

  

何てこと無い街の一角なんだけど…
これだけでも充分沖縄の匂いがしない?
いや、耳鼻科の名前が平良さんだからじゃなくて…

  

レース鳩の世界はなかなか奥深いらしい。
レース鳩(伝書鳩)の協会だってあるみたいだし。
僕の場合、レース鳩=新沼謙治のイメージが…

   

坂の向こうに出てみると、見知った大きな道路。
方向感覚がちょっと狂う。
まさにラビリンス。

  


沖縄の木造建築はカラーリングが独特。
緑、青、黄色などのペンキが塗ってあってね。
屋根は赤瓦だし。

  


路地裏の美猫・その2。
僕は猫も犬もどっちも同じぐらい好きです。
でも、猫にはあまり好かれないみたい…

  

国際通りのすぐ裏に広がる小宇宙。
暮らしの匂いがやさしく漂う愛すべき場所。
僕の路地裏探検は続く。

  

 でも、例え迷ったと言ってもそれほど焦ることは無い。緩い上り坂を歩いて行くと、すぐに松尾の消防署通りに行き当たった。もうホテルはすぐそこ。これだけ歩き廻っても、実は極々狭い範囲をグルグルと彷徨っていただけなんだよなぁ。
 ホテルの部屋では、Kはもう起床してテレビを見ていた。どうやら天気予報を気にしているようだ。昨日の時点での天気予報では「久米島地方は曇りときどき雨」だった。が、今朝になって「曇りときどき晴れ」に予報が変わったらしい。
 「天気もそう悪くないみたいだし、久米島に行くとするか」
 そうと決まれば即行動開始。僕らはホテルを出て、まずレンタカー屋に向かった。今日がもし悪天候だった場合を想定し、夜まで借りる契約をしておいたレンタカーを返却するためだ。ホントは昨日のうちに返してもよかったんだけど、今日は雨→久米島行きは中止→本島を車で周ろう→改めてレンタカーを借りる、という展開になると、かえって余計な手間とお金が掛かってしまう。
 レンタカー屋に車を返し、そのまま空港まで送迎してもらう。「タクシー代が浮いたね」などと些細なことで得した気分になれる僕たちって、典型的な「安物買いの銭失い」なタイプかもしれない。とは言え、大概レンタカー屋の送迎車で空港に送ってもらうときって「もう東京に帰るんだよなぁ」という寂しさに苛まれている場合が多いので、今日のように「これから違う島に行きま〜す♪」というウキウキした気分で乗ることが出来るのは、なかなか新鮮な感じもする。

 空港の搭乗券売り場で久米島行きの便を確認すると、10時20分発の飛行機があったので、そのチケットを買う。
 久米島かぁ…去年の春以来だなぁ。そのときは、天気が今ひとつ冴えなかったのと、ひとり旅だったせいで、“はての浜”には行かず終いだった。今回は絶対はての浜に行くぞ!と気合が漲る僕。「久米島に行くんだったら、やっぱりはての浜は外せない!」と断言する人が非常に多いのを考えると、きっと相当スゴイところなのに違いない。ワクワクするよなぁ〜。
 「やっぱり久米島はレンタカーで周ったほうがイイんだよね?」と、Kが訊いてきた。…ハッ!うっかり忘れてた。結局久米島に行っても、車の運転はKの役目(ホントは不本意だが)。ということは…
 「うん、自転車で周るのはちょっとキツいと思うよ。でも、くれぐれも言っておくけど、ダラダラとドライブして終わり、なんて悲惨な旅には絶対にしないでくれよ〜」と、釘を刺しておく。
 
 空港内のレストランで軽く朝食を済ませ、僕らは久米島行きの飛行機に搭乗するべく、搭乗ロビーに向かった。
 

久茂地川に沿う“ゆいレール”の高架。
これが街にどんな影響を及ぼすのか。
期待半分、不安半分…いや、4:6ぐらいの比率かな〜。

  

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