至福の時間のはじまり


 石垣島の朝は、とても静かに幕を開ける。午前6時の市街地には人の姿も車の往来もほとんど無く、まだ街は眠りの中にあるようだった。例えば那覇の中心部などは、もうこの時間から徐々に人も車も動き出しているし、東京は言わずもがなであるが、石垣島はその中心部でさえもゆっくりと目覚める。10月とは言っても日中は陽が射すと結構暑いので、早朝の人気の無い街は涼しくて誰にも気兼ねは要らないし、フラフラのんびりと街の中を歩くには持って来いなのだ。
 …なんて気取ってみたけど、ただ単に僕が無駄に早起きし過ぎるだけなんだよね。朝起きてとくにすることも無いし、こんな時間じゃ店だってコンビニぐらいしか開いてないし、言ってみれば暇つぶしがてら朝の街を散策しているだけのこと。でも、僕はこの早朝の彷徨がたまらなく好きなのだ。盛りの時間を過ぎた街を歩いていると、つい見落としていたり気づかなかったものが、急に目の前に現れる。そういうものを見つけて歩くのはホントに楽しい。
 それにこのひとときは、Kと旅をしている場合、ふとひとりになれる貴重な時間でもある。まだ目覚めきっていない静寂の街を宛ても無く歩く。時折すれ違う人と挨拶を交わす。僕が今、石垣島に居る、ということをしみじみと味わう。この至福。
 普段は朝ってどうしてもバタバタしちゃうよね。ときには迎えたくないな、と思う朝だってあるかもしれない。でも、少なくとも島に居る間に迎える朝は、そんな慌しさや憂鬱さとは程遠く、とても静かで穏やかな気分に包まれる。…もちろん、これは僕が旅をしていればこその解放感の為せる業ではあるんだろうけど。
 
 登野城にある民宿から、大川、石垣、美崎町へと周るのが僕の定番のコース。この辺りの住宅地には、まだまだ古い佇まいを残す家屋がたくさんあって、それを見て歩くだけでかなり良い気分になれる。その一方で、美崎町の繁華街や“十八番街”と呼ばれる独特の雰囲気のある呑み屋街の、賑わう夜とは違う表情を見ることも出来る。とくに十八番街なんて、小心者の僕には夜に訪れることが恐らく不可能なので(一度ぐらいは行ってみたいんだけどね…)、こうして朝になってから探りを入れたりして。
 …でも、今日はそこそこにして切り上げないと。何しろこの後、僕らは波照間島に行くのだから。8時30分の船に乗らなくちゃいけない。明日の朝もたぶん同じように早朝散歩することになるだろうし、あまり欲張らないでもうそろそろ宿に戻ろうかな。
 と、そう言えば昨夜は結局風呂に入らなかったことを思い出した。美崎町でしこたま呑んですぐにバタンキューだったからなぁ。というわけで、僕はホットスパーに寄って、携帯用のシャンプーやら歯ブラシやらがセットになったヤツを購入し、ついでに牛乳(=ゲンキ牛乳さ!)と菓子パンなんかも買って、宿に戻った。

 部屋に入ると、Kが起きていた。珍しく早起きじゃないか。彼はテレビの天気予報を気にしているようだった。
 「どうだった、外の天気は」とKが訊いてきたので、
 「晴れてるよ。ほら見ろ〜、昨日俺が宣言したとおりになったじゃないか〜!」と得意になって答える。
 ついでにさっき買ってきた入浴セットを献上。Kは喜んでさっそく風呂に向かって行った。
 Kが風呂に入ってる間、テレビではビギンの『島人ぬ宝』が流れていた。なんでもこの曲が“沖縄復帰30周年記念イメージソング”として、沖縄地域のNHKでオンエアされているらしい。
 それを一緒に口ずさみながら、僕は海パンやタオルなどをホットスパーのポリ袋に詰め込む。
 「…え?それで波照間に行くの?」と、風呂から上がってきたKが訊いてくる。
 「イイじゃん、俺、手頃なカバンを持って来てないからさ。ちょうど良かったよ、このポリ袋があって」
 Kは程好い大きさの巾着袋を持って来ていたのだが、自分の荷物を入れると満杯になってしまう。だから僕はこのポリ袋で我慢しないと。
 「なんか、そんなの持って島を歩くのヤじゃないか?」とKが指摘する。
 「イイんだよ、どうせ島じゃレンタサイクルに乗ることになるんだから。自転車のかごに入れちゃえば巾着だろうとポリ袋だろうと変わりゃしないよ」
 最近、見てくれとかに対する気遣いがどんどん希薄になっている僕。自分でもちょっと不安になってるのは事実。でも、誰も見ちゃいないんだから、気にしない気にしない。
 さて、俺も風呂に入って、そろそろ港に行こうじゃないか。
 

早朝6時の“空港通り”、八重山郵便局前付近。
天気はかなり良さそうで一安心。
人も車もまだほとんど見かけません。

 

この椰子、凄く立派でデカい!
普通の民家の庭(?)に忽然と生えてました。
貴方のお家の庭にも1本どうですか?

    

赤瓦とブーゲンビリア。
ヒョロっと伸びている4本の細い幹は、これまた椰子の木。
庭に椰子が生えてるって、なんかスゴイよね。

  

シーサー…だよね?
むちゃくちゃプリミティブな感じですけども。
口、デカいなぁ。

  


赤瓦屋根とコンクリート。
郵便受けがワンポイントになっております。
小家族向けの物件?

   

木の雨戸が何となく懐かしい。
こちらもまた郵便受けがイイ感じ。
…べつに何の変哲も無い郵便受けなのにね。

  

石垣もヒンプンもどっしりとしていて素晴らしい!
市街地にもこんな家がたくさんある。
登野城、大川、石垣の辺りは好きだなぁ。

  

路地裏には何故か猫が似合います。
首輪をしてるので野良じゃないみたいだけど。
いろんな猫とあちこちで出会いました。

  

これ、イイなぁ。『風見鶏館』。
呑み屋の複合ビル?
夜にこの電飾が光るところを見てみたい。

  

スナック『モンロー』。モンロー…
この入りにく〜いチープ&ディープさ加減。
中に入ると一体どんな世界が…

 

そんなディープなお店が軒を連ねる界隈。
いわゆる“十八番街”と呼ばれる辺り。
…僕にはちょっと敷居が高すぎるかなぁ。

  

旅館、ですけど、“御宿泊”と“御休憩”があります。
まぁ、俗に言う…ですよね。
宿泊は2500円。休憩は1時間2000円。宿泊のほうがお得。

  

“リサイクルショップ”らしい。
しかし、自転車の積み方が乱暴すぎるのでは…?
単なるゴミの山っぽい気がするんですけど…

  

シャッターにくっついているミルクとシーサーの顔。
どっちも怖いです、なんだか。
ここのご主人のお手製なのか?

  


“請福”は泡盛の銘柄です。
ここに請福の幟(のぼり)が立つワケね。
間違ってもこれに“八重泉”とか立てちゃダメですね。

   

ちょっと新鮮な赤瓦屋根の二階建て建築。
奥に下がってる“ヤ”の看板も気になる。
店なのかな?今も営業してるのか?

  

以前にもこのHPで載せたことがある『新井写真館』。
ビギンの『オモトタケオ2』のジャケ写を撮ったところ。
ビギンとここのご主人は同じ高校出身の知り合い。

   

石垣島といえば黒真珠。値段は高いけど。
この手首がはめてる指環、夜はチカッチカッと光ります。
ややスプラッタな面白看板ではありますな。

  


毎度毎度の730交差点。
石垣滞在中は一日に何度も通ります。
気分は第二のふるさと!って、それは言い過ぎ。

  

まさに今の僕の気分そのままな立て看板。
僕はまだ飛行機で波照間に行ったことは無いけど。
…しかし、これは何の看板なんだ?

  

 昨日と同じく、船に乗り込む前に、離島桟橋のすぐそばにある『中村釣り具』という店で、僕らは食糧などを買う。僕らにとってこの店は、離島の旅には欠かせない存在になっている、と言っても過言ではない。店内を物色していた僕は、ふと“写ルンです・水中撮影対応バージョン”を見つけた。そうだ!せっかく波照間に行くんだから、これで水中写真を撮りまくろう♪それから、海中で魚を誘き寄せるための“魚肉ソーセージ”も買って行こうかな…あれ?魚肉ソーセージがちょっと見当たらないや。ま、いいか。波照間にも共同売店が何軒かあるし、ソーセージはそこで見つけることにしよう。
 桟橋ですでにスタンバイしている波照間海運の“ニューはてるま”に、僕らはすっかり上機嫌で乗り込んだ。天気も上々、波も穏やか、陽射しはまるで真夏のよう。まさにこれは“波照間日和”ってヤツだ。僕とKは船室の座席に腰掛けると、さっそくさっき購入した弁当を広げ、ビールを飲みながらそれをムシャムシャと食う。何だか遠足気分だなぁ。
 やがて船が沖に出ると、次第に揺れが激しくなり出した。…でも今回の航路はいつもに比べると、それでもだいぶ揺れが少ないような気がした。大体“ニューはてるま”は、そりゃあもう笑っちゃうぐらいに激しく揺れまくる。波照間に近づくにつれて揺れは一層激しさを増す。「場合によっては操縦士も船酔いするらしい」という噂を耳にしたことがあるが、それはホントかどうか分からない。でも、さもありなん、と思ってしまうようなシャッフルを体感することになる。が、この日の船は比較的揺れなかった。これだったら乗り物酔いする人でも大丈夫…じゃないか、やっぱり。
 
 船に乗ること約1時間。波照間港に到着〜!すぐにでも“ニシ浜”に駆け出して行きたい僕だったが、Kは港に着くや否や「ちょっと待合ターミナルでひと休みしていこうよ」と、至ってのんびりペース。なんだよ〜、べつに休まなくったってイイじゃんか、と思いつつ、仕方なく付き合うことにした。
 Kは、ターミナル内にある売店で売られている“波照間Tシャツ”を見て、買おうか買うまいか悩んでいるようだった。…どうせ後で『モンパの木』に寄るだろうに…ま、悩むがイイさ。僕はそんなKを脇目にジュースを買い、畳敷きの休憩スペースに腰掛けて一服する。…あ、今日はターミナルの中にある食事処、『海畑(イーノー)』が開いてる。食べたいなぁ、八重山そば。でもなぁ、さっき船の中で弁当食ったばっかりだからなぁ…などとぼんやり考えていると、Kが売店から戻ってきた。結局Tシャツは買わなかったようだ。
 「じゃあ、そろそろ行こうか」 「そうだね」
 僕らはようやく港から出て、島の中へと歩を進める。

 港から徒歩約5分、今年の4月にも利用させてもらった『西浜荘』のレンタサイクルで自転車を借り、僕らは張り切って島巡りをスタートさせた。何度も言うが、僕としてはもう一刻も早くニシ浜に会いたかったのだが、Kさんは「ちょっと集落の売店に行って、いろいろと買っていこうよ」と言い、浜とは反対方向にズンズンとペダルを漕いで行く。そう言えば、僕も魚肉ソーセージを入手したいと思っていたので、ニシ浜に後ろ髪引かれる思いではあったが、一旦集落の中に向かうことにした。
 

さぁ〜、波照間に行くぞ〜!
桟橋には“ニューはてるま”が接岸してます。
これに乗って波照間に向かいます。

  

昨日に引き続き『中村釣り具』で弁当を購入。
二日連続の船内での朝食。
離島に行くときは大概そうなっちゃう。

   

船から見る“サザンゲートブリッジ”。
空はまだ霞んでるけど、かなり良い天気♪
やっぱりこうでなくちゃ!

  

波照間に向けて航行中。
今回は比較的揺れが少なかったかも。
季節とかの関係なのかな?

  

波照間島の待合ターミナルに到着!
奥のカウンターには滅多に人の姿は無い。
船の発着時にちょっと居るだけ。

  

ターミナル内にある食事処“海畑(イーノー)”。
実はここのそばがなかなか美味いんだよね〜。
って、僕は一度しか食べたことが無いんだけど(^_^;)

  

こちらもターミナル内の売店。
おばちゃんがとても気さくです。
開いてれば必ず利用させてもらってます。

  

ターミナルの中から見た波照間の港。
海が青いよなぁ。うれしいよなぁ。
…って、ここでのんびりしてる場合じゃない。

  

おや?こんな看板、前も立ってたっけ?
でも“西の浜”って、これは間違いです。
もし漢字で書くんだったら“北の浜”が正しい。

   

レンタサイクル『西浜荘』の前。
棚の上で眠る猫。
気持ち良さそうだ。

  
 
 波照間の集落の中は、やはりとても静かだった。かなりゆっくりと自転車を漕ぎながら、僕は集落の空気にしみじみとする。が、Kはそんなことにはまったく気を留める様子も無く、さっさと売店に向かって走っていく。まったく、風情というものを解さないヤツだ。
 程なく辿り着いたのが、冨嘉の集落にある『冨嘉売店』。分かり易い店名。で、僕はさっそく魚肉ソーセージを見つけ、3本購入した。一方Kはというと、見るからに“おばあちゃんのお茶菓子”といった感じの、抹茶でコーティングされた米菓らしきものを買っていた。
 「…なんでそんなもん買ったんだ?」 「え?いや、ただ何となく…」
 ついでに缶ビールでも買おうかと店内の冷蔵ケースを見ると、“故障中”と書かれた張り紙がしてある。
 「すみませんねぇ。ジュースだったら表にある自動販売機で買ってくださいねぇ」と、店のおばちゃんが言う。ジュースかぁ。ホントはニシ浜で海を見ながらビールでもちびちびとやりたかったんだけど…
 僕らは仕方なく、店の前の自販機で缶ジュースを買った。
 「さっ、じゃあこのジュースが冷えてるうちに、さっそくニシ浜に行こうか!」と意気込む僕だったが、Kは「まずはやっぱり“最南端之碑”に行こうよ。せっかく波照間に来たんだからさ」と提案する。
 「え〜?!最南端之碑〜?もう何度も行ってるじゃんか。何度行ったって石碑は変わりゃあしないよ〜」
 「だってさ、ニシ浜には時間を気にしないでゆっくり居たいじゃん。だからまずは島の中をちょっと周って、それで残りの時間は全部ニシ浜に充てようよ」
 …ふむ、一理在るか。いや、待てよ、だからと言って何も最南端之碑に行かなくちゃならない理由にはなってない気がするんですけど…
 どうも腑に落ちない感じだったが、まぁここはKに花を持たせてやろうか。僕は渋々Kの選択に従うことにした。
 「それにしても、Kは何でそんなに最南端之碑が好きなんだ?」
 「う〜ん、…なんとなく」
 アンタの答えはいつもそれじゃないか!なんとなくサメ・ドライブ。なんとなくTシャツ購入。なんとなく座敷のある居酒屋。オマエはクリスタル族か!(古くてすみません)
 
 そんなこんなで“最南端之碑”を目指して自転車を走らせたわけだが、数百メートルも進まないうちに友人Kの“なんとなくさ加減”が炸裂しはじめる。
 素直に外周道路に出ればいいものを、闇雲にあっちのダート道、こっちの畦道と気が向くままに進路を変えてしまうK。…もうイイや。この人の“なんとなく”に翻弄されるのにもすっかり慣れましたし。それにしても、波照間島にレンタカーが無くてホントによかった。そうくる日もくる日もサメ・ドライブを強いられたのでは、さすがの俺様だってブチ切れるところだ。
 ただ、そうやってKが好き勝手に走るのを許せるのも、ここが波照間だからこそのこと。波照間の農道は、まったく嬉しくなるぐらいに一々離島の風情をたっぷりと漂わせる。ああ、やっぱり俺はこの島が好きだなぁ。八重山はイイなぁ。
 …ところでKさんは、あまり周囲の景色を見ていない様子。う〜む、もうかれこれ10年の付き合いになるが、未だにこの男が八重山に惹かれる真の理由が解りかねる。が、恐らく僕がそれを訊ねても「…なんとなく」という曖昧な答えが返ってきそうで…
  


海を後回しにして、まずは集落の中へ。
いつも集落は静かで穏やか。
僕は大好きです、波照間の集落。

  

ここで魚肉ソーセージなどを買った。
後で魚の餌付けをするつもりで3本買ったんだけど…
2本は自分で食べちゃいました。

  


ハイビスカス街道(勝手に命名)。
かなり長い距離に渡って沿道にハイビスカスが植えてある。
で、この植え込み越しに見えるのが…

  

『沖縄電力波照間発電所』の風車。
今日はブンブン回ってます。
たまに停まってたりするんだよね。

  


サトウキビ畑とダート道。
自転車で走るとガタガタして結構しんどい。
でも、そのガタガタしたところがまたイイのです。

  

サトウキビが島で占める面積ってどれぐらいなんだろう?
かなりの割合なんじゃないだろうか。
と思ってしまうほどたくさん栽培されてる。

  

晴れた空の下で波打つサトウキビ。
サラサラっていう葉擦れの音がまた心地良い。
ペダルを漕ぐ速度も自然とゆっくりになる。

  

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