走る由布子


 焼物の工房を出ると、Kは“星砂の浜”に向かった。僕も海を見るのは好きなのだが、どうもだんだんと雲行きが怪しくなってきている。この曇天で海を見るのはなぁ…と少しばかりテンションが下がる。ふと、昨夜テレビで見た天気予報を思い出す。「明日はまずまずの天気です」って言ってたのに…これのどこが“まずまずの天気”なんだ?!沖縄、とくに八重山の旅行って、やっぱり天気によってだいぶ気分が違っちゃうよね。去年に引き続き今年の西表も今ひとつ冴えない空模様で、何とも残念なのであった。
 星砂の浜に着いても、「う〜ん、天気さえ良かったらもっとキレイなんだろうなぁ…」と僕はすこぶる残念な気持ちでいっぱい。Kもはやり同じような感想を言う。だが、こんな曇天にも関わらずこの日は結構気温が高かったので、海には泳ぐ人や潜る人の姿がかなり多く見られた。パッと見、寒々しく映るのだが、海水もまだ温かい。そうか、海の色を楽しめないのなら、いっそのこと海に入って遊んじゃうってのもイイのかもなぁ。
 「…そう言えば、俺たち海パン持って来たっけ?」
 「…確か、宿に置きっ放しだよな」
 もうはなっから泳ぐ気が無かった、ってことか。どうも僕とKの場合、離島に行くというのに水着類を持参しないことが多い。もし持っていたとしても、海を前にして居ながら泳がなかったりもする。ただボサ〜ッと海を見てるだけ、という場合が非常に多いのだ。きっと「バカじゃないの?」と思われる方もいらっしゃるだろうが(えっ、ほとんどの人がそう思うって?!)、僕もKも「海だぜ!バリバリ泳いでジャンジャン遊んで沖縄を満喫だぜ!」というタイプとは程遠い、どちらかと言うと渋〜い(或いはジジむさい)人間なので、青い海をぼんやり見てため息をついてるだけで、わりと幸せだったるするのである。
 …とは言っても、さすがに今日の星砂の浜はちょっとばかりどんよりムード。海水は透明でキレイなんだけどねぇ。僕らは砂浜から早々に引き上げ、近くにある『レストハウス星の砂』で、かなり遅めの昼食を摂った。
 レストハウスの中に入ると、ジプシーキングスのどこかメランコリックなラテンサウンドがBGMに流れていて、オープンテラスのパラソルの下では、浜辺をバックに白人の男女がパスタか何かを召し上がっていた。一瞬「ここはギリシャかスペインのリゾート地か?」と錯覚させられるようなシチュエーションである。ジャンジャカジャカジャカとかき鳴らされる哀愁を帯びたギターの音色に包まれながら、Kは“八重山そば”を、僕は“エビフライカレー”を、それぞれ若干の違和感を覚えながら食す。あ、ちなみにこの“エビフライカレー”、なかなか美味かったです。ついでに余談だが、エビフライカレーって食ったのこれが初めて。でも結構メジャーなメニューなのかなぁ?石垣島のレストランでも久米島のレストランでもエビフライカレーを見つけたんだけど…さらに余談。タイカレーとかインドカレーとかの色が薄くて水っぽいヤツが僕は苦手。あれって何だかワキガみたいな匂いがしない?
 …話を戻そう。とにかくジプシーキングスを聴きながらの昼飯を終え、僕らは次の目的地へと向かう。
 「さて、次に行くのは今回の西表島訪問の最大の目的地だよ」と、Kがいつに無く意気込んで告げる。そのKがしばらく車を走らせた後にふいっと立ち寄ったのは…

 “船浦港”だった。
 「えっ?!ここが今回最大の目的地?!」と驚く僕に、Kは慌てて「違うよ、ここは今ちょっと寄ってみたいな、と思って寄ってみただけ」と訂正した。
 それにしても、離島の港には何故かぶち壊れた車が放置されていることが多い。ここ船浦港もご多分に漏れず、駐車場に停まっている車の約1/3〜半数がほぼ廃車状態の放置車輌。中には足立ナンバーの車まである。タイヤの空気は完全に抜け、窓は割られ、カーステレオは奪い去られ、という具合で実に殺伐とした雰囲気が漂っている。どうして離島の港には廃車が多いのか?誰も撤去を要請しないのか?まぁ、島だから車を移動させるのも一苦労だとは思うけど…
 僕らはしばらくこれらの廃車をしげしげと観察していたのだが、ハッと我に帰る。
 「こんなことしてる場合じゃないよ。さっさと目的地に行かなくちゃ」とKが言う。そもそもここに寄ったのはアンタじゃないか!
 「そうだよ、早く行かないと“由布島”が閉まっちゃうかもしれないじゃん」と僕が同意すると、Kは「どうして次に行くのが由布島だって分かったの?」と意外そうな顔をした。
 「…そりゃだって、離島桟橋でKが言ってたじゃんか、“今回は由布島にも渡る”って」
 「え?そんなこと言ったっけ?」 「……」
 

“星砂の浜”。
天気が冴えないので海の色もイマイチ。
でも、訪れている人はヤケ多いです。

  

水はかなり透き通ってる。
Kさん、魚を見つけた模様です。
写真を撮ろうとしてますが、そりゃ無理だろう。

  

泳いでる人も結構多かった。
でも、あまり沖に出ると危険らしいです。
海水浴かぁ。ちょっと泳いでみたかったなぁ。

  

砂浜のすぐそばにあるレストハウス。
ペンションやキャンプ場も併設してる。
みやげ物も豊富に置いてあります。

  

おお、地中海チックなテラスの光景。
しかもBGMはジプシーキングス。
ここが西表だということをうっかり忘れそうな…

  

エビフライカレー。なかなか美味かった。
カレーっていろんな具材と相性がイイよね。
熊とか鹿とかトドとか…

  


“船浦港”はわりと質素な港。
僕はこういうほうが好きなんだけどね。
何しろ“大原港”がかなり突飛な感じだったので…

  

地元の人の姿も多く見られました。
イイ感じに弛緩した空気と時間。
離島らしい光景だねぇ。

  

で、何故か離島の港には壊れた車も多い(^_^;)
これもタイヤがすっかりぺしゃんこに…
もっと酷い状態の車がゴロゴロと。

  

八重山で一番大きな島・西表。
手付かずの自然の宝庫。
…いつまでそれが保たれるのか。ちょっと心配。

  

 由布島だ。去年は島に渡る水牛車の乗り場までは来たが、結局は由布島を目前にしながらそのままUターン。だが、今回は違う。ちゃ〜んと島を渡りますよ〜。
 さて、水牛車の乗り場に到着すると、Kはズラリと並ぶ水牛車を見ながらポツリと言った。
 「浅瀬だし、これぐらいの距離だったら歩いて渡れそうだよね。…歩いて渡ろうか」
 「う〜ん…でも、何でも聞いた話だと、この海には水牛の排泄物があちこちに沈んでる、っていうし…俺、サンダルだし…気が進まないなぁ」
 「じゃあ、素直に水牛車で行くか」
 水牛乗り場でウダウダと迷う僕らをそれとなく待っていたらしい水牛車があったので、急いで乗り込む。車には水牛を操る御者(?)のおじさんと、先客の家族連れが乗っていた。
 「さぁ、それじゃあ由布島に行きましょうねぇ」というようなことを言いながら、おじさんは水牛の背中を柔らかい棒のようなもので軽く叩く。
 「はい、行くよ由布子」ピシッ。「はいや」ピシャ。「いやっさ」ピシャ。まるで民謡のお囃子のような掛け声を掛けながら、おじさんはゆっくりとしたスピードで水牛車を進ませる。そして、やおら三線を取り出し、八重山の民謡のことを簡単かつ手短に解説し、「じゃあ『安里屋ユンタ』を歌いましょうね。歌詞はそこに貼ってありますから」と、水牛車の天井にビッシリと貼られた民謡の歌詞のひとつを指差した。
 水牛・由布子の歩みに合わせて揺れる水牛車。三線とおじさんの歌。♪サ〜ユイユイと合いの手を入れる僕ら。竹富島でさえ乗ったことが無い水牛車だったが、その趣きはなかなか味わい深いものだった。が、何と言っても由布島はすぐそばにある島なので、あっという間に水牛車は島に到着してしまった。
 水牛車が由布島のレストハウス(ご存知の方も多かろうが、この島はまるごと植物園みたいな状態になっているので、一応入島料を徴収するエントランスとみやげ物コーナーを設けたレストハウスがある)の前でゆるゆると停まると、そこには職員の女性が立っていた。
 「いらっしゃいませ〜。皆さん、お帰りの船のお時間は?」と、女性はいきなり訊ねて来た。時計を見ると、もう4時だった。僕らは“あんえい号”の最終便、5時に発つ船に乗らなければならなかった。こりゃ、ウカウカしてられないじゃないか。どうやら同乗して来た家族連れも同じような状況だったらしい。
 「それでは、4時半にはここを出られないと間に合わないですねぇ。30分後にここに集合してください」と女性が言う。素直に従うことにしよう。
 僕らは、“トロピカルフルーツのジュース1杯無料券”と、チケット代わり(?)にハイビスカスの造花のバッチをもらい、それを着けて島内に入る。家族連れは先ほどの女性の言葉ですっかり急ぎ足になり、さくさくと植物園の中に突進して行ってしまった。
 「…さっきの船浦港でのタイムロスが痛かったな」 「…うん」
 僕らも家族連れからやや遅れて、順路を進む。

 由布島の中は、思ったよりも狭かった。もともと植物にはさほど関心の無い僕らなので、30分もあればひと通り見て周れるだろう、と油断していた。が、それが良くなかった。植物鑑賞そっちのけで、ヤシガニだのアヒルだの水牛だの『由布島小学校』の跡だのをのんびりと見て、さらにさっきもらった“ジュースのタダ券”でマンゴーだかパパイヤだかの生ジュースを飲み、ついでにドラゴンフルーツなんぞを食べたりしているうちに、約束の4時30分は瞬く間に近づいて来てしまった。
 「もうそろそろ戻らないとマズいよ」と、帰りは少し急ぎ足になる。う〜む、こんな緑いっぱいの島の道を、何が悲しくて慌てて歩かなくちゃならんのか。せっかく園長さんが苦労を重ねて作り上げた植物の楽園を、僕らは早足で駆け抜けてしまった。(この園長さんが由布島を植物園に作り上げていく話、ってのがなかなかの感動巨編なのだ。感心を持たれたらちょっと調べてみるとイイかも)
 
 レストハウスをくぐり抜けると、来たときと同じ水牛車が待機していた。もちろん、おじさんも由布子もそのまま待っていた。由布子、昭和62年5月生まれ・4頭の子を持つ母にして現役の水牛車引き。まさしく働く主婦。って、家事はしてないとは思うが。
 僕らとほぼ同時に家族連れも水牛車の前に戻って来たので、さっそく由布子とおじさんは西表島に向けて出発した。
 「皆さん、5時の船に乗るんですねぇ。それじゃあ、少し急ぎましょうねぇ。いやっさ由布子」と、おじさんは往路より多めに由布子の背中をピシャッと叩く。それに応え、由布子は体を激しく揺さ振りながら、往路の約3倍ぐらいのスピードで海を渡って行く。速い速い。さすがにおじさんも暢気に民謡を歌う暇も無く、ものの2〜3分で渡り切ってしまった。
 「それでは、お気をつけてね〜」と言うおじさんの声に送られながら、僕らはレンタカーに乗り込んだ。
 「さて、こっちも少し急ごうか。ここから大原港まで結構距離があるからね」
 運転するKに、僕は「いやっさK、はいやぁK」と掛け声を掛ける。がんばれよ、K。残り時間はあと僅かだ。
 

“由布島”に渡る水牛車が待機中。
去年はここまで来てUターンしちゃったけど、
今年は行くぜ!由布島へ!

  

徒歩でも入島できるみたいです。
1,300−500=800。
水牛車代は800円なんだね。

  

おじさんと由布子(の背中)。
それにしても、由布子にはツラい労働なのでは?
ちょっと心配になったりして。

  

お〜っ!車が海を渡ってる!
レンタカーでも渡れると面白そうだね。
すぐに車の下回りが錆びちゃいそうだけど。

   

水牛車の天井には民謡の歌詞がびっしり。
安里屋ユンタ、十九の春、花…定番の曲がズラリ。
『十九の春』の定番化は『ナビィの恋』の影響?

  
Movie

水牛車で聴く『安里屋ユンタ』。
なかなか風情があってグ〜。

  

いよいよ由布島に上陸です。
珊瑚の白い道を挟み込むハイビスカスの並木。
ちょっとワクワクする。

  

島の中は植物園になっております。
でも、植物に疎い僕が見て分かるのは…
ハイビスカスとヤシの木ぐらい…

  

Kが「これって水牛の墓かなぁ」と言っていた。
それは違うと思う。“感謝の碑”って書いてあるし。
この狭い空間に水牛を土葬するのは無理っぽい。

  

水牛の家系図。
詳しく見たい方は写真をクリックしてみよう。
(見たい方は居るのかどうかは知らないが)

  

ヤドカリの仲間。ということはタラバガニとも仲間。
以前、宮古島でヤシガニを食べたけど…
大して美味いもんでも無かったよなぁ、ヤシガニ。

  

うわっ!気持ち悪ぅ〜!
こんなのと砂浜で遭遇したら飛び退いちゃうね、きっと。
これを食ってるのかぁ、人間って。

  


頭部に赤い瘤(こぶ)みたいなのがあるアヒル。
わんさか居ます。
「エサがもらえるかも♪」と一斉に寄ってくる。

  

亜熱帯の風情溢れる島内。
華やかさはあまり無いけど、これはこれで良し。
不思議と落ち着いた気分になったり。

  


陽が少し翳ってきてる時間帯だったので、
背の高い樹が生い茂る場所はちょっと薄暗かった。
涼しくてイイかも。

  

すでに沖縄のシンボルとなってる感有り。
でも、意外にも花の寿命はたった1日だけなんだよね。
何か年中咲いてるように思えるけど。

   


左右の端に立ってる低い石柱。
これは『由布小・中学校』の校門の跡なんだそうな。
かつて由布島は人の住む島だった。

  

昭和44年に台風で島が水没。全島民の移住が始まる。
翌年に学校は廃校になったのだそうだ。
僕が生まれた年の出来事。

  

植物園の中にあるレストラン&みやげ物屋。
無料で生ジュースを一杯いただきました。
…やっぱり苦手だわ、トロピカルフルーツは(^_^;)

  

そのときついでに買ったドラゴンフルーツ。
あの外見の派手さからは想像しにくいが、実体はこれ。
味は…あんまり美味くない。(←個人的主観)

   

オウゴチョウという花。
派手ですねぇ。豆科の植物らしいです。
Kはこれを見て「彼岸花だ」と言った。そりゃ違うだろ。

  

水牛さんに手を振ってお見送りされました。
「ミーファイユー」って生で聞いたこと無いなぁ。
かと言って「ニフェーデービル」も生で聞いたことないけど。

  

僕らの帰りを待っていた由布子&おじさん。
それにしても、彼らは一日何往復するんだろう?
おじさんはともかく、由布子は大変だろうに。

  

来たときとは打って変わってスピーディーな由布子の走り。
すまないねぇ、由布子。ご迷惑かけちゃって。
おとっつぁん、それは言わない約束でしょ。

  

…う〜ん、おじさんに歌ってもらいたかったな、この曲。
クラブで学ぶと不老長寿の花が咲いちゃうみたい。
やっぱ社交ダンスとかそういう類のクラブ?

  

由布島に戻って行く他の水牛車。
こちらも結構スピードを上げて走ってました。
素早い足さばきに水牛のイメージが変わりました。

  

 僕が鞭打った甲斐があって、Kの運転するレンタカーは予想以上に早く大原の集落に戻った。車を返却し、大原港までゆるゆると歩いて移動すると、船はまだ到着していなかった。…もうそろそろ定刻の5時になろうとしているのに、海上に船の姿はまったく見えなかった。
 「ひょっとして、もう出航しちゃった、なんてことは無いよなぁ」と次第に不安になってくる僕らだったが、やや遅れて船が桟橋に到着した。僕らはホッとして、最終便に乗り込んだ。
 船室に入り、座席に着いて一息つくと、すでに船は桟橋を離れはじめてしまった。早っ!!たぶん桟橋に3分程度しか着岸してなかったのでは?僕らは船の出発の早さに一瞬唖然とした。
 「(到着が遅れて)相当焦ってるのかな?こんなに素早く港を離れる船ははじめてだねぇ」
 「あっ、そう言えば、由布島で一緒になった家族連れは無事にこの船に乗れたのかな?」と僕が思い出して言った。
 「…そう言えば、気づかなかったね」
 急に不安な気分になる僕。というのも、レンタカーを返す前にガソリンスタンドで給油したのだが、そのとき僕らの後から家族連れのレンタカーがやって来て、僕らの給油が終わるのを待っていたのだった。…もしも、この最終便に乗り遅れてしまったとしたら…間接的にそれは僕らのせい、ってことになってしまうのではないか?
 一瞬、船の中に家族連れが居るかどうか確認して周ろうか、とも思ったが、探してもしも家族連れの姿を見つけられなかったらそれは何だかショックだし、今となってはどうすることも出来ないし、…結局、僕は家族探しをしなかった。そんなことをあれこれと思い悩んで、ふと隣りに座っているKを見ると、彼はいつの間にかぐっすりと眠っていた。ムカッ!俺がこんなに家族連れのことを心配してるっていうのに、オマエは気にも留めずにSleepingかい!何か損した気分。俺も寝よっ!
 
 ウトウトとしているうちに、船は石垣港に着いた。ぼんやりとしたまま船を降り桟橋を離れ、僕らは民宿に戻った。民宿の中は、朝出てきたときとまったく同じ状態で、ロビーには新しい管理人のおじさんの姿は無かった。
 部屋に戻って、少しテレビを見ながらボケッとしていると天気予報がはじまった。明日の天気が気になる僕らは、画面にクギ付け。
 「石垣島地方は、曇りときどき雨。降水確率は30%でしょう」と、アナウンサーは無情にも言い放った。
 「ゲェ〜、なんだよ〜。明日は天気悪いんだぁ〜」とガッカリする僕ら。
 とくにKは「明日こそは波照間に行こうと思ってたのに…」とかなり落胆している様子だった。無理も無い。何しろ彼にとっては2年ぶりの波照間島なのだ。僕は…4月にも波照間に行ったばかりなんだけどね(^_^;)でも、やっぱり天気が悪いのはかなり悲しい。波照間島で、あの青いニシ浜の海を拝めないなんて…
 すっかりテンションが下がってしまった僕ら。「…俺、風呂に入ってくる」と、Kは部屋を出て行った。が、少しするとKが部屋に戻って来た。
 「どうした?」 「昨夜風呂場に置いてあったシャンプーとかが無くなってるんだよ」
 どうやら僕らが居ない間に、管理人さんが片付けてしまったようだ。
 「ということは、昼間は管理人さんがここに戻って来ていた、ってことだよなぁ」と僕がちょっと考えていると、「そんなことより俺、シャンプーとか持って来て無いんだよ。困ったなぁ」と、Kが言った。
 「仕方無いから、後でコンビニに行って買ってくればいいよ。風呂は後回しにして、外に出ようよ」

 僕らは民宿を出て、しばらく美崎町の界隈をほっつき歩いた。まだ早い時間ということもあって歓楽街にも人の姿は少なく、大通りを闊歩しているのは観光客ばかりだった。って、自分たちもそんな観光客の一部なんだけど。この「自分たちは他の観光客とはちょっと違うよ」的な自意識は、我ながらいやらしいな、と思う。それって観光客の人たちにも、島に対しても、実に失礼なことだ。ちゃんと分をわきまえないとね。常に島に対して謙虚な自分で在りたい。
 などと反省している僕の気持ちなど露知らず、といった感じのKさんは、どうやらほっつき歩きながらも今夜飲み食いする店を探しているようだ。で、結局彼が選んだのは『山海亭』という郷土料理の店だった。
 この『山海亭』も、昨夜の『やっこ』同様、過去に何度か入っている。そしてこれまたKがお好みの“座敷あり”の店。彼の座敷へのこだわりも、ここまで来ると立派と言わざるを得ないのかもしれない。まぁ“こだわり”といえば聞こえは良いが、とどのつまり“頑固者”なのだ。何もそこまで座敷に固執せずとも…と半ば呆れる僕を気にも留めず、Kは座敷街道まっしぐら!ってな具合なのである。
 とはいえ、確かにお座敷はのんびり出来る。僕らはドッカと座敷に腰を下ろし、ラストオーダーの声が掛かるまで料理を食らい、ビールと泡盛を飲み倒す。取り留めの無い下らない話から、今日あったこと、今後の大まかな予定のこと、八重山の島々のことなどをイイ気分でくっちゃべる。こんな何でも無い時間が実はとても嬉しいのだ。ひょっとすると、この時間を過ごすために僕とKは毎年沖縄に来ているのかも、と少しだけ本気で思うことがある。沖縄の店で、沖縄のことを酒の肴にして、日頃の懸念や憂さを忘れて心ゆくまで泡盛を呑む。この至福。
 「明日はさ、もしも天気が悪すぎるようだったら石垣島をレンタカーで周ることにして、晴れたら波照間に行こうよ」と、Kが言う。…石垣島をレンタカーで…それって例のサメドライブの危険性が…
 「あ、あのさ、俺ひとつリクエストがあるんだ。明日天気が悪かったら『具志堅用高記念館』に行こうよ!」
 「え〜?そう言えばささきは去年もそんなこと言ってたなぁ。そんなに行きたいの?」
 「うん、ぜひ!なんたって石垣島と言えばビギンか具志堅用高か、って感じだし」
 「それはささきにとっての、でしょ?俺はべつに…」
 とにかく、明日の天気次第でまたKのサメドライブに付き合わされることになってしまう。それは極力避けたい。僕は他にも『明石食堂』や“野底岳”、“バンナ公園”や『八重泉酒造』など、思いつく限りのスポットを挙げて、無計画なダラダラ旅行を阻止するべく手を打つ。
 「…それにしても、ホントに明日の天気、悪いのかなぁ…」Kが浮かない顔をしてつぶやく。
 「う〜ん…でも、今日は昨日の予報だと“まずまずの天気”だったはずだったのに、ぜんぜん“まずまず”じゃなかったじゃん。天気予報なんて宛てにならないよ。大丈夫!俺が決めた。明日の天気はズバリ、晴れ!」
 「…それって、ぜんぜん何の気休めにもならないんですけど…」
 そんな僕の宣言は、翌日バッチリ現実のものとなった。
 

帰る間際になって晴れるたぁ、どういう了見だい!
まったく神様ってのは意地悪なのだ!
そんな調子だと友達失くすぞ!

  

帰りの船も“新城島”に寄港して行きました。
朝ここで降りた人たちを収容して数分で出発。
まだ未踏の島だけに興味は尽きません。

  

あっという間に黄昏てしまった石垣港。
だけど、夕方6時でもまだまだ明るいよね。
本土だったらもうすっかり暗くなってる時間なのに。

    

民宿に戻ってまいりました。
新管理人さんは不在のままだった。
この日はついに一度も顔を合わすことは無かった。

  

今夜は『海山亭』でまったりと。
郷土色豊かなメニューが並んでいます。
“地ビール酵母冷やしそば”なんてものも…

  

左にあるのは“刺身盛り合わせ”。
Kさん、ちょっとしつこいです。
右にあるのは“牛タン塩”です。タン塩、美味い!

  

ソーミンチャンプルー♪
…ただし、タマネギ入り(-_-;)
美味かったけどね。

  

ジーマミー豆腐。
最近僕がハマっている沖縄料理のひとつ。
店に入ると必ず注文します。

  

足テビチの煮付け。
これがまた美味かったんだよねぇ。
…料理のコメントって難しいね〜。

  

もずく酢。タコ足入り。
沖縄のもずくは美味い。泡盛も進む、ってもんだ。
この夜は調子に乗って呑み過ぎた。もうフラフラ。

  

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