幕末の星


 元町を後にして“末広町”の停車場から市電に乗り込む。さて、次はどこへ行こうか…と市電の路線図を見ていると、“五陵郭公園前”という駅名が目に付いた。五陵郭か…正直言って、僕は幕末とかそういうのにあまり興味が無いんだけど(って言うか、その手の知識がまったく無いのだ)、せっかくだから行ってみようかな。
 たびたび修学旅行のことに触れるのは恐縮なんだけれど、この『五陵郭』にもやはり高校のときに行ったことがある。が、これまたあまり記憶に残っていない。記憶が確かなのは、『五陵郭タワー』の中にあるレストランでイカそうめんを食べたことぐらいで…このイカそうめんがあんまり美味くなかったんだよなぁ。魚介類好きな僕としてはかなり期待していただけに、このときの落胆たるや「料理長を呼べ!」と言いたくなるほどだった。クラスのほとんど全員が口を揃えて「不味い!」と言っていたから、やっぱり相当不味かったんだと思う。…まぁ、当時の話ですからね、今はどうだか分かりませんけど。
 そう言えば、修学旅行のときに道南で食べた料理は、何だかハズレが多かったなぁ。当初の予定では毛ガニが出てくるはずだったのが、レストランの都合か何かで急遽石狩鍋にメニューが変更になっちゃったり、某ビール園で食べたジンギスカンもイマイチだったし(だいたいビール園なのにビールが出てこない時点でガッカリ。って、高校生だし)、“ラーメン横丁”で食べたラーメンは値段が高い割りに大して美味くなかったし、最終日に至っては何だかごく普通の駅弁だったし…
 …あ、ここで過去のことを語っても仕方ないな。でも、修学旅行ってのはあまり身に付かないものなのかもしれない。もしも教育関係者の方たちが「各地の文化に触れて見聞を深めて欲しい」と本気で目論んでいるのだとしたら、こういう観光めいた旅行はあまりその成果は期待できないような気がする。やっぱり観光旅行ってのは大人になって、自腹を切って行くようにならないとね。
 
 長い余談でした。とにかく僕は五陵郭を目指すことにした。やや混み合った市電に揺られること約20分、“五陵郭公園前”駅に到着。この駅の周辺は、ちょっとビックリするほど賑わっていた。ひょっとすると函館駅前よりも賑やかなのでは?と思えるほどだった。そんなオフィスビルや飲食店が立ち並ぶ街道を、五陵郭に向かって歩く。この道程が結構長い。実際には徒歩10分そこそこの距離なんだけど、てっきり「駅を降りたらすぐ目の前に五陵郭があるんだろう」と勝手に思い込んでいた僕には、ことさら遠く感じられた。

 トボトボと歩いて行くと、ようやく『五陵郭タワー』が見えて来た。さすがに観光名所だけあって、タワーの周辺には食べ物屋も多く、観光客もたくさん居る。僕はさっそくタワーに登ってみることにした。
 タワーにはエレベーターで登る。見学料(=エレベーター代)を払って、エレベーターに向かうと、…ワオ!エレベーターの前には黒山の人だかり。皆さんエレベーターに乗るのを待っている。…どうしよう、あんなに人が居るなんて…登るの止めようかなぁ。でも、料金払っちゃったしなぁ。などと一瞬たじろいでいると、係のおねえさん(←エレベーター嬢みたいな格好をしてる)が「どうぞ〜」と声を掛けて来る。「あの〜、こんなにたくさんの人、エレベーターに一気に乗れるんですか?」と訊いてみると、笑顔で「はい、大丈夫ですよ」と答えた。エレベーターには乗れたとしても、これじゃあタワーの展望室はきっと大混雑してるだろうなぁ…
 そんなことを考えているうちに、エレベーターが到着した。僕は人の流れに飲まれるようにエレベーターの函内に収まる。ほぼすし詰め状態のエレベーターで展望室に着くと、案の定、展望室の中は人でごった返していた。ちょうど修学旅行生とかち合ってしまったようで、あちこちで記念撮影する高校生に揉みくちゃにされそうになる。
 僕は人の流れを少しでも回避しようと、それほど広くない展望室を右往左往。おちおちタワーからの眺めを楽しむ余裕すら無い。そうこうしていると、修学旅行生が一斉に展望室から姿を消し、室内に少しゆとりが産まれた。このときとばかりに、僕はタワーの窓から“五陵郭”を見下ろす。
 五陵郭。星型の城郭。幕末の最後の砦。土方歳三最期の地。…さっきも言ったけど、僕はこの幕末関連のことに極めて疎い。なので、詳しい五陵郭の歴史などはあまりよく知らない。きっとその辺のことに長けた人だったら、特別な感慨を抱くことが出来るんだろうが、残念ながら僕にとっては「星型のユニークなお城らしきもの」程度の感想しか無い。こういうときには日本史好きな人がちょっとうらやましいな、と思う。いや、僕があまりにも関心が無さ過ぎるのかも。何しろ新撰組のメンバーすらロクに知らないぐらいだからねぇ。
 ところで、この展望室のみやげ物屋では、土方歳三の写真をあしらった“土方歳三グッズ”が激しく売られていた。この土方歳三、ちょっと坂上忍似のなかなかの二枚目なのだ。って、男の僕にとってはどうでもいい話だが、このグッズのバリエーションの多さ加減を見るに、かなり人気があるようだ。ブロマイド、ポスター、Tシャツ、ポストカード、菓子類など、これはちょっとしたアイドル並の充実ぶりだ。
 「土方ってのはイイ男だったんだねぇ」などと、おじさんやおばさんが口々に言う。若い女性やツアー客が土方グッズを購入していく。う〜む、イイ男とは時代を超えるのか。もちろん、土方さんが人気なのは、それだけじゃないとは思うけど。

 展望室からエレベーターで降りると(降りる人が殺到していて乗り切れず、一機遣り過ごした!)、例のイカそうめんが思い出深いレストランを経てみやげ物ゾーンに突入する。それとなしにあれこれとひやかして見ていると、一際僕の目を引く“熊カレー”という文字が描かれた缶詰!よく見ると、“熊カレー”と並んで“えぞ鹿カレー”“アザラシカレー”“トドカレー”なる姉妹商品が陳列してあった。…これ、大丈夫なのか?でも、ちょっと食べてみたいなぁ。よし、買っちゃおう♪
 僕は少し迷って、結局“熊カレー”を買った。他の食材に比べると熊が一番無難に思われた。さて、その熊カレーなのだが、家に帰ってからさっそく試食してみた。缶詰の中で固まったカレールーは、一見「うわっ!グロい!」と怯みそうなインパクトなのだが、食べてみると、これがまったくクセが無い普通のカレー。意外なほどに普通なので、ちょっと拍子抜けしちゃう。熊の肉らしき物体も、ぜんぜん臭みが無くて至って平気。…普通なだけに、敢えて熊を食べる必要性に乏しい、というのが弱点ではある。「熊の肉サイコ〜!やっぱりカレーの具は熊じゃないと!」ぐらいの魅力があるんだったら別だけど。
 

市電は公道のど真ん中を走ります。
もちろん、信号待ちをしたりもします。
でも渋滞しないのがイイよねぇ。

  

“五陵郭公園前”の停車場に到着〜。
ちなみに後ろのビルは『丸井今井』というデパート。
あの丸井と何か関連があるのかな?

  


駅から“五陵郭”に向かって歩きます。
この辺りはかなり賑やか。
ひょっとすると函館駅前よりも垢抜けてるような…

  

“五陵郭タワー”が聳えております。
高さはそれほどでも無いかな。
さすがにタワーは星型じゃないね。

  

タワーのすぐ下にあった料理屋さん。
店先に大砲が置かれてる、かなりシュールな光景。
これって本物なのだろうか?

  

タワーの展望室から見下ろした“五陵郭”。
それにしても、何でまたこんな形なんだろう?
何だか緑色の巨大なワッペンみたい(^_^;)

  


“五陵郭”の反対側には函館の市街地が。
こうして見ると、函館は結構都会だなぁ。
平地には住宅やビルがびっしりと。

  

溢れる土方歳三グッズの数々。
マウスパッドまで登場。
よもやご本人はご存知なかったでしょう。マウスパッド。

  

何故かこういうタワーの展望室にはありがち。
コンピューター手相占い。
つい関心を惹かれたりするよね、こういうのって。

  

タワー内のレストランの前にあった水槽。
分かるかなぁ、イカが写ってるの。
このままイカ刺しでいきたいねぇ〜。

  


みやげ物コーナーで一際目を引くこれらの物体。
“熊カレー”はぜんぜん問題無く普通に美味かった。
個人的には“アザラシ”辺りがかなり気になります。

  

五陵郭タワーの真下で売ってたソフトクリーム。
“北海道で一番美味しい”とか何とか書いてあったけど…
ホントかどうかは分かりませ〜ん。

  

 『五陵郭タワー』を出てすぐのところに、『あじさい』という中華料理屋があった。実はさっきタワーに入る前に、この店の前に行列が出来ていたのを見たのだが、今は行列も消えていた。これはチャンスかも。あれだけ行列が出来るということは、きっと美味い店に違いない!と密かに思っていたのだ。少々ミーハーな気持ちで僕は店内に入った。
 店内は中華料理店とは思えないような、開放的で小洒落た雰囲気だった。行列こそ出来ていなかったが、店内はほぼ満席。僕が店に入ると「いらっしゃいませ〜!お客様、すみませんが相席でもよろしいですか?」と店員さんが訊ねてきた。「はい、構いません」と答えると、そのまま中年男性が座っている席に案内された。
 う〜ん、ここの人気料理って何なんだろう?周囲を見回してみると、どうやら全員ラーメンを食べているようだった。そう、全員。店に居る人全員がラーメンを食べている。これはちょっと圧巻だ。
 僕の目の前に座っている男性に、僕はちょっと緊張しながら訊いてみた。
 「あの、皆さんが食べてるのって、何ラーメンなんですか?」
 すると男性は一瞬「えっ?そんなことも知らないでここに来たのか?」というような驚いたような表情を見せ、空かさず、
 「ここは塩ラーメンが美味いと評判の店なんですよ」と教えてくれた。
 塩ラーメンか…そうだね、函館といえば塩ラーメン。どういうわけか、北海道のラーメン処というのは不思議とイメージがきっちりと分けられてる気がしない?札幌といえば味噌ラーメン、旭川といえば醤油ラーメン、という具合に。
 僕はドキドキしながら塩ラーメンを注文した。「美味いと評判の店」という先ほどの男性の言葉が耳にこびりついていた。これは期待しないわけにはいかない。店内には有名人のサインが飾られている。僕のちょうど目の前の壁には立川談志のサインが貼ってあって、「本当にうまい店は誰にも教えたくない」とか何とか書かれていた。あの談志がそこまで言うのかぁ…ますます期待は膨らむばかり。
 程なく目の前に現れたラーメンは…スープがヤケに透き通っていて、綺麗だった。う〜む、これを見ただけで何だか凄いラーメンに在り付けたような気分になってくる。では、まずはスープを飲んでみることに致します。ズズッ……何だか味が薄い。僕は思わずテーブルの上に塩が無いかと少し探してしまった。あ゛〜っ!塩を足したい!これはあまりにも味が上品で、僕にはその良さがいまひとつ分かんないよぉ〜。
 …今さら言う必要も無いかもしれないが、僕はいわゆる“グルメ”というものにはまったく縁が無い。それどころか、むしろ味覚が鈍い人間と言っていいだろう。「味が濃けりゃそれなりにOK」という単純な舌しか持ち合わせていない僕に、料理のことをとやかく言う資格が無いのはよ〜く分かっている。なので、飽くまでもここに書いてあるのは、そんな味覚音痴っぽいヤツの戯言だと思って読んでくださいね。
 とにかく、スープの味の薄さにばかり気を取られていたのだが、ラーメンそのものは決して不味くは無い。いや、結構美味かった。スープだってダシ(昆布ととんこつが主かな?)が利いていてさっぱりしているのにまろやか。これが不思議と後を引く感じ。僕はさっさかとラーメンを平らげた。う〜む、イイ感じで腹もこなれてきた。
 が、あれだけ行列ができる、ということは、それだけこのラーメンの本当の良さを解する人がたくさん居る、ということだよね。それだというのに俺は…「美味いけど、塩が足りない」という程度のバカっぽい感想しか持つことが出来ないなんて…ちょっと悲しいなぁ…
 
 僕に北海道の真の“食の魅力”を語るなんて、所詮無理なことなのかも。と言いつつも、早くも「夕飯は何を食べようかなぁ〜」などと考えはじめている。普段、どちらかというと食べ物に対してほとんど頓着しない僕だが、何しろここは北海道・函館。やっぱり美味いものをあれこれと欲張って食いたいじゃん♪
 『五陵郭』界隈を離れ市電に乗って、僕は次にどこへ行こうかとガイドマップを見つめる。そこで気になったのが“谷地頭温泉”という文字だった。函館の温泉といえば、まず何と言っても有名なのが“湯の川温泉”だろう。湯の川が観光客向けの温泉地だとしたら、一方の“谷地頭温泉”はどちらかと言えば地元の人が多く湯浴みをする温泉のようだ。
 ちょうど、今日の函館は少し肌寒いし(7月なのに!)、温泉に浸かるってのも悪くないな。よし!谷地頭方面に行ってみることにしよう。
 

中華料理屋さん『あじさい』。
五陵郭のすぐそばにあります。
昼時は行列が出来てました。人気店みたい。

  


透き通るスープにまずビックリ!
創業60年、こだわりの塩ラーメン。
きっとこういう繊細な味が分かってこそ“通”なんだね。

  

その『あじさい』のお向かいさんにある軽食屋。
あっちこっちにチェーン店がありました。
なんでも地元の若者に絶大な人気を誇るらしい。

  


“ハンバーガー愛好会”って、何だかスゴイ。
でも、確かに美味そうだな、このハンバーガー。
マリア様(?)もご満悦といった感じ。

  

とある店の前に貼ってあった張り紙。
B型じゃないとダメなの?なぜB型に拘る?
…ま、別にいいけど。応募する気も無いし(私はA型)

  

“大門”ってのは函館駅前にある商店街。
「イカそうめん早食い世界大会」なんてイベントも…
イカってスピードを競うにはキビシイ食材かも。

 
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