手をつないで


 函館観光ではやっぱり避けて通れない、元町の教会・洋館めぐり。函館山の山裾から港へと伸びる数々の坂道と相まって、実に瀟洒にしてやさしい景観を作り出す。…などと分かったふうなことを言ってますけど、ホントはよく分かってませんでした(^_^;)
 16年前にこの界隈を歩いたときは、寝台特急と青函連絡船(古っ!)を乗り継いでようやく函館に着いた直後だったせいで、身も心もかなりヨレヨレの状態だった。だから坂道の上り下りでは「キツい〜!」と弱音を吐き、教会を見ても「ふ〜ん…」という感じ。僕は元町散策もそこそこに『元町公園』のベンチでウトウト居眠りしたりしていたのだ。まったくもったいない話だ。そもそもムードもへったくれも無い高校生に、元町の良さを解れ、というほうが無理って気もするよなぁ。
 なので、今日ははじめて歩くような気持ちで仕切り直し。このノーブルな町並みを静々とした気分で…と思いきや、元町の中は驚くほどに人がたくさん!修学旅行生、団体ツアーの人々、雑誌か何かの取材の人など、とにかく人がワサワサと往来していて、とてもじゃないが落ち着いた雰囲気とは言えない賑やかさ。人が多いだけならまだしも、中にはトラメガを使ってガイドするガイドさんまで居て、正直言ってムードぶち壊しだったりもする。
 「は〜い、みなさ〜ん!止まってくださ〜い!え〜、こちらがハ・リ・ス・ト・ス・正・教・会っ、です〜!」
 …こういうのはちょっとなぁ…ま、いいけどさ。
 
 “金森倉庫群”のから市電の通る広い街道(“海峡通”というらしい)を経て、そのまま一直線に函館山へと向かって行くと“十二間坂”に当たる。それに平行するように“南部坂”“八幡坂”“大三坂”“基坂”“日和坂”“東坂”と、それぞれ趣きの微妙に異なる坂が並ぶ。坂そのものの佇まい、坂に沿って建つ屋並の醸し出す情緒が各々の坂に表情を生む。しかし、坂道というのはどうしてこうも詩情あふれるものなんだろう。小説やら歌の歌詞やらにも多く登場するし。
 僕は思わず♪忍ぶ不忍〜無縁坂ぁ〜かみしめるよぉぉな〜(さだまさし『無縁坂』)などと口ずさみながら、十二間坂を上る。途中で「あ、ちょっとこの歌は寂し過ぎるかな」と思い、♪港の坂道ぃ〜駆け下りるとぉっき〜(渡辺真知子『かもめが飛んだ日』)に曲を切り替える。べつにどっちでも構わないし、とくに歌を歌う必要も無い。
 それにしても、どうしてこの元町界隈には教会や洋館がこんなに集中しているんだろうか。中には町の雰囲気に無理矢理合わせたような“なんちゃって洋館”までも建っている。これって大きな港町にはだいたい共通する特徴だよね。横浜、神戸、長崎…やっぱり港を介していると、それだけ西洋に対する憧れも大きくなるんだろうか。
 で、こういうオシャレな雰囲気をこの上なく好むのが、全身からハートマークを迸らせるようなカップルたち。たまたま僕が元町を歩いているときにはあまり見掛けなかったけど、それでも数組のカップルが手をつないだり寄り添ったりしながら洋館を見て周っていた。が、とにかく先にも述べたとおり観光客がやたらと多いので、二人きりでしっぽりと、という状況には程遠く、結果ザワザワと些か落ち着かない中での恋人たちの散策となってしまっていて、ちょっと気の毒だなぁ、と柄にも無く同情してしまったりする。
 もちろんカップルばかりじゃなく、この辺りには様々な人が歩いていたわけだけど、僕がとくに気になったのが外国人の観光客。例えば『ハリストス正教会』の裏にある小さなバラ園で、咲き乱れるバラをバックにしてバッチリとポーズを決めている女性が居た。その彼女をカメラに収めようとしているのは、そのバラ園の手入れをしているらしい地元のおじいさん。どうやらポーズを決めている女性に写真撮影を頼まれたようだ。デジカメ(SONY製)の勝手が分からず四苦八苦するおじいさんが、あれこれと女性に訊ねるのだが、その女性はおじいさんの問い掛けがチンプンカンプンの様子。恐らく、彼女は台湾か中国あたりから来た旅行客なんだろう。道理でポーズがバッチリ決まってたわけだ。ちょっと去年の首里城での光景を思い出してみたり。
 さらに『旧函館区公会堂』では、白人の女性がしきりに建物の写真を撮っていた。この人、どう見ても一人旅のご様子。遠路遥々北海道をひとりで旅しているのか、はたまたここで暮らしているのか。
 そんな白人女性のことを気にしていると、今度は若い男女が僕のすぐ隣りに立った。この二人は、どうやら雑誌か何かの取材の人たちらしかった。カメラマンの男性がしきりに洋館を撮る横で、女性が「う〜ん…もっとこう斬新な写真が欲しいですねぇ」などと注文をつける。「…斬新な、ねぇ…」と少々困惑顔のカメラマン。ハッキリ言って、この洋館って写真に収めるのが意外と難しいのだ。建物全体を一枚の写真に収めるには、ここから少し離れた場所から撮るしか無い。敷地内から撮ると、どうしても全体を撮ることが出来ない。「斬新な写真を」という女性の要求に応えるべく、あれやこれやと試行錯誤するカメラマン。カメラマンも大変である。
 …どうしても、建物そっちのけで周囲に居る人を観察してしまう悪い癖。普段僕が訪れているような沖縄の小さな離島では、まずこんなに人がたくさん居るという状況が皆無に等しいので、ついついこういう場所だと人間ウォッチングに関心が行ってしまう。何しに来たのか分かんないよなぁ。
 
 あ、それとね、ソフトクリーム屋やみやげ物屋が軒を連ねる場所があるんだけど、そこの客引きが案外激しくてちょっと閉口。狭い通りの両側に客引きの人が立っていて、口々に「なんちゃら牧場直送の牛乳で作ったソフトクリームですよ〜!おにいさん、どうぞ寄って行ってくださ〜い!」だとか「そこのおにいさん!美味しいアイスクリームはいかが?とにかく美味しいんだから!」などと盛んに声を掛けて来る。誰がどこでどんな商売をしようと、それは勝手だとは思うけど…少なくとも周囲の雰囲気にはそぐわない感じ。かえって客足を遠ざけているような気さえするんですけど…
 
 そろそろ次の場所へ移動しようかと元町を離れるとき、ちょうど差し掛かった“八幡坂”の上で、ツアーの団体さんと擦れ違う。
 「この坂は、以前チャーミーグリーンのCMの撮影に使われた坂なんですよ〜。憶えてませんか?おじいさんとおばあさんが手をつないで坂道をスキップするCM。♪チャーミーグリーンを使うと手をつなぎたくな〜る〜 っていうCMです」
 ガイドさんがそう解説すると、
 「あ〜、あったあった」と声を揃えるツアー客。
 「どうです?みなさんもあのCMのようにご夫婦で手をつないでスキップしてみては?」
 「ギャハハハ〜!」…ギャハハハ〜って…
 挙句の果てに、ホントに手をつないでスキップし出すノリのいい熟年カップルまで登場し、坂道は大いに盛り上がる。
 …すみません。もう情緒も何もありゃしません。タイミングが悪かったのかもしれない。…そうだ、この辺りは夜になるとライトアップされるらしいから、函館山の夜景を見に来るときに、また来てみることにしよう。
 まるで宴会のように大はしゃぎするツアー客の笑い声を背にしながら、僕は元町散策を切り上げた。
 空はますますどんよりと曇ってきて、今にも泣き出しそうな空模様である。どうかこのまま雨が降らないことを祈る。これじゃあ函館の夜景が見られるかどうか、少し心配だ。
 

港町っぽくていいですね、海峡通。
他にも“漁火どおり”なんていう道もありました。
イメージキャラクターはもちろん“イカ”。

  


“十二間坂”から函館山を見る…
…って、山がぜんぜん見えない!!
何だ?!あの濃霧は!


坂道の下に置かれた“滑り止め用の砂”。
さすがは雪国、と実感する設備です。
こういうのが他にも数箇所ありました。

  


坂道沿いにはお洒落な店が数多く。
確かにこの街に赤提灯や縄のれんは似合わないか。
ちょっと僕には敷居が高いかなぁ。

  


坂を上り切ったところ。
…やっぱりスゴイ霧だよ、函館山…
箱根かと思っちゃうこの光景…

  

…だって。
これからここを訪れる計画のある方は要注意ですね。
ロープウェイかバスを利用しましょう。

  

『カトリック元町教会』。
ゴシックな塔が印象的。
塔の先には火の鳥みたいな飾りがついてます。

  

何故かカラスがギャーギャー鳴いていた。
なんとなく『オーメン』を彷彿とさせるシチュエーション…
すみません、縁起の悪い連想で。

  

“チャチャ登り”という小さな坂道。
“チャチャ”というのはアイヌ語でおじいさんの意。
勝俣某が居た昔のアイドルグループ(?)とは無関係。

  

そのチャチャ登りから見た『ハリストス正教会』。
函館のシンボルでもありますね。
晴れていればバックに港が写ったんだけど…

  

こちらが『ハリストス正教会』の正門。
厳かな雰囲気に包まれてます。
観光客がたくさん居ましたけど。

  

敷地内は意外に静かでした。
漆喰の建物が実に清々しい。
200円の献金をすれば教会内を見学できます。
  

教会の敷地内の裏にあるちょっとしたバラ園。
地元の人たちがバラの手入れをしていました。
7月でもしっかり咲いているのが北海道ならでは。

  

“八幡坂”。港が見下ろせるナイスな坂道です。
CM、映画、ドラマなどに何度も登場してますね。
あなたもスキップしてみる?

  


『旧函館公会堂』。
あまりにも色がキレイなので、どこかチープな匂いが…
映画か何かのセットに見えるような…

  

中では鹿鳴館チックなドレスを着て記念撮影が出来る。
女性なら一度体験してみるのもいいでしょう。
そういう趣味のある男性もどうぞ(許可されるのか?)

  


『元町公園』越しに港を見る。
晴れていればもっとスッキリと見えただろうになぁ。
返す返すも残念!

  

この公園内にある東屋の柱の落書き。
他愛ない落書きの中に、“GLAY”の文字が多数。
そうか、GLAYって函館出身のバンドだったのか。

  

北海道限定・メッツのガラナ。
味はドクターペッパー系。でも結構イケる。
…しかし、南米アマゾンの植物が北海道限定とは…

  

函館〜横須賀〜沖縄をつなぐ人・ペリー提督。
何か不思議な因縁を感じずには居られない。
ちょっと顔は怖いけど。

  

『旧イギリス領事館』の中のイギリス風庭園。
…ちょっと拍子抜けしない?これ。
関係者の方には申し訳ないですけども…

  

“基坂”を下から見上げてみた。
奥には『旧函館公民館』が見えます。
坂の町・元町。風光明媚を絵に描いたような場所。

  

その“基坂”の下にある趣きたっぷりの建物。
『相馬株式会社』はしっかり現役の社屋。
こんな職場、そうそう無いよね。ちょっとうらやましい。

  
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