やいま患い
  


 さて、ゆっくりと集落を彷徨っているうちに、そろそろ石垣島に戻らなくてはならない時間が近づいて来た。僕はまたニシ浜に戻って、船の時間まで海を眺めることにした。
 浜辺には、午前中よりさらに人が集まっていた。だけれど海に入って泳ぐ人は居らず、ほとんどの人は波打ち際に立って、海を見つめていた。僕もやっぱりそんな人たち同様、海をただ見つめる。で、ふと思う。この海、100年後にはどうなってるんだろうか。そのときもやっぱりこのまま美しい海で居られるんだろうか。じゃあ、今から100年前の海はどうだったんだろう?…考えてみれば、今から100年前のニシ浜を知っている人は、おそらく居ないだろう。そして、これから100年後のニシ浜を僕が見定めることもかなり難しい(って言うか不可能かも)。…そう思うと、人生ってそう長くないよなぁ。限られた時間、悔いの無いように生きたいものだなぁ。
 …などと、いつの間にやら腕組みしながら思案しはじめたりする。いかん、眉間に盾ジワ入っちゃってるじゃんか。
 砂浜にジッと立っていると、さすがに陽射しがジリジリと照りつけてきて暑い。僕は休憩所に移動しベンチに腰掛けて、飽くことなく海を見続けた。我ながらちょっとマヌケだな、と思いつつ、なかなかニシ浜を離れることが出来なかった。う〜む、やっぱり個人的にはこのビーチが一番好きだなぁ〜。恥ずかしい話だけど、生まれてはじめて海を見て泣きそうになった記念すべき(?)場所だからね。僕なんかが迂闊にこの海で泳ごうものなら、海が汚れてしまうんじゃないか、なんてちょっと本気で心配しちゃったりしたしねぇ。
 
 そうこうしてるうちに、もう石垣行きの船が出る時間になってしまった。仕方が無い、そろそろ行くか。「また来るよ、絶対」と心の中で誓い、桟橋に向かって自転車を走らせた。
 

“コート盛”。海上の監視や火番所を行なった場所。
数少ない(?)波照間の観光スポット。
う〜む、やや地味かも…

  

でもイイのだ!波照間にはニシ浜がある♪
とことん海の色を堪能できるこの浜があるかぎり、
僕の波照間通いは続くのであります!

  


この海を目の前にして心が動かないはずが無い。
…と僕は思います。
そうであって欲しい。

  

エコロジーとか言わなくたって、
この海を見てれば痛感するはずだよね。
自然がいかに豊かで美しいか、ってこと。

  

もう今は何もいらない。
ただこうして海を見て居られればそれで万事OK。
この満たされていく感覚。

  

こんな写真じゃその魅力はぜんぜん伝えきれません。
…でも、海の写真ばかり50枚以上撮ってしまった(^_^;)
「手元に残したい」という欲求の赴くままに。

   

 『西浜荘』に自転車を返し、波照間港へ。港の待合所に入って、何気なく高速艇“ニューはてるま”の運航表を見ると…ゲゲッ!!なんだとぉ〜?!“2便欠航”だって?!
 僕が乗る予定だった午後1時に波照間を発つ船が、無情にも欠航しちゃってるじゃないか!!…どうしよう。僕は午後4時前に石垣空港を飛び立つ飛行機に乗らなくてはならなかった。次に波照間を出る船は、午後4時40分。これでは飛行機に全然間に合わない。マズいなぁ…最悪の場合、乗る予定だった飛行機をキャンセルしなくちゃならないぞ。それにしても、何で欠航しちゃったんだろう?船が出せないほど天気が悪いとはとても思えないんだけど。素人には分からない事情が発生してるんだろうか?弱ったな、島は大好きなんだけど、こういうのが非情に怖いよなぁ。「海路がダメなら陸路だ!」という選択の余地すら無いし。
 待合所には僕と同様、船の欠航を知って困惑する人の姿が見られた。さて、これからどうしようか…って、僕にはどうすることも出来ないけど。などと半ばあきらめモードに突入しはじめたとき、桟橋に1隻の船が着岸した。…あれは?!あっ、“あんえい号”だ!
 そう、石垣〜波照間航路で運航しているのは、欠航してる波照間海運の“ニューはてるま”と、安栄観光の“あんえい号”の2社。安栄観光の船は欠航することなく、波照間島にやって来たのだった。僕はそれを見て、そのまま桟橋に飛び出した。何とかあの船に乗せてもらおう!
 桟橋に停まった船に近づき、荷降ろしを手伝っている乗務員に「すみません、この船に乗せて欲しいんですけど…」と訊ねると、乗務員はすぐそばに停まっているワゴン車を指差して「だったらね、あの人からチケットを買ってください」と言う。僕は乗務員が指し示したワゴン車に駆け寄り、運転席に居るおじさんに「あの船のチケットください」と言った。どうやらこのおじさんは安栄観光の船の乗船券を委託販売しているらしく、黒いカバンの中からチケットの束を取り出し、「片道でいいの?だったら3000円ね」と言ってチケットを切って渡してくれた。よかった〜!これで無事時間どおりに石垣島に戻れる〜。
 僕がチケットを買っている間に、おじさんのワゴン車の周りにはちょっとした人だかりが出来ていた。僕と同じく急遽安栄観光の船に乗ることを余儀なくされてしまった人や地元の人などが、おじさんから乗船券を買い求めようと集まっていた。こんなにたくさんの人が果たしてあんえい号に乗れるんだろうか?(何しろあんえい号は小さな船なのだ)とちょっと不安になったが、どうやらこの便に限って、普段の船よりやや大きい船を使っていたらしい。偉いぞ!安栄観光!

 こうして何とか事無きを得て、波照間島を発つことが出来た。ホッと胸を撫で下ろし、「それにしても、ここ最近の沖縄旅行は、どうも土壇場になってバタバタしてばかりいるような…」と思ったりする。おかげでなかなか島を離れる感慨に耽らせてくれない。さっきまでのまったりとした島での時間が一転してドタバタとする始末になってしまうのは、どうにかならないものかなぁ…

 石垣港に到着し、僕は欠航になった便のチケットを払い戻ししてもらおうと、波照間海運の事務所に向かう。事務所の前には僕と同じ目的でやって来た人が続々と集まる。事務所のドアを開けると、狭い室内にあるデスクの上に「ただいま留守にしています。業務は2時から再開します」というようなメッセージが置いてあった。…2時からって、もうすでに2時なんですけど…待たされること約20分。係の女性が朗らかな笑顔で「お待たせしました〜」と事務所にやって来た。どこまでもマイペースな感じ。中にはあからさまに不快感を顔に出しているお客も居たが、そんなことはさほど気にする様子も無く、係の女性は払い戻し業務をこなしていく。まぁ、八重山タイムですから…
 と、ここでちょっと邪心。払い戻しをしてもらっていた人は、だいたい10人ぐらいだった。と言うことは、もしもニューはてるまが予定どおり運航していても、乗客は10人ちょっと。…ひょっとして、これって「これじゃ採算が合わないから、安栄観光さんにお任せしちゃおうかな〜。いいでしょ?安栄観光さん♪」ってなことは…無いよね、そんなこと。すみません、有らぬ疑念を抱いちゃって。それにしても、やっぱり気になる欠航の理由。あんえい号はOKで、ニューはてるまがNGだったその違いは?JTAがダメなのにANKは大丈夫、みたいな関係?(←分かりにくい例えでごめんなさい)
 …ともあれ、無事に石垣島に戻れたからそれでイイのだ。さ〜て、飛行機の時間まで、少し石垣の市街を歩いてみようか。
 

おいおい、そりゃないだろう!
そんなに海が荒れてるとも思えないんだけどなぁ。
かなりショックでした。

  

待合所。奥に『海畑(イーノー)』が。
島では貴重な食事処だったりします。
その左隣の売店はしっかり閉まってますけど…

  


石垣港の波照間海運の事務所前の張り紙。
2便は欠航、3便は運航。
…何かちょっと引っ掛かる。俺って意地悪ですか?

  

石垣島・登野城のごく普通の民家の奥。
ひっそりと在った拝所。
島の神様がすぐ近くに居るというその暮らし。

  

 ホッとしたら、急に空腹感が襲ってきた。と、実にタイミング良く『あさひ食堂』という店の前に差し掛かる。よし、ここで何か食っていこう。
 入り口の自動ドアのガラスが刷りガラスのようになっていて、店内の様子が外から窺えないのでちょっと気が引けたが、入ってみるとなかなか解放感があってイイ感じ。さっそく僕はテーブルに着き、豆腐チャンプルー(だったと思う)とぜんざいを注文した。注文を訊きに来た女性が“ぜんざい”という僕の言葉を聞いて、一瞬目を宙に泳がせたのがやや気になったが、僕は店内を観察しながら料理が来るのを待った。実は、僕は沖縄のぜんざいを食べたことが無かった。なので、ぜんざいとの遭遇をかなり楽しみにしていた。
 と、先ほどの女性が僕のところに来て「すみません、ぜんざいが今ちょっと傷んでて、お出しできないんですけど…」と言った。え〜っ?!ぜんざいが傷んでる?!ぜんざいが傷んでるって、一体どういう状態なんだ?カキ氷の上に乗せる小豆が傷んでるってこと?まさか氷が傷んでるってことはあるまいし…けどまぁ仕方が無い。「あ、それならいいです。ぜんざいはキャンセルで…」と、僕はとても残念に思いながら、初ぜんざいをあきらめた。
 豆腐チャンプルーのほうは、無事出て来た。それにしても、このお店のメニューはどれもかなり値段が安い。美崎町のちょっとした料理屋はどこも結構いい値段なのだけど、やっぱりこういう店はリーズナブルで良い。(ただし、僕が頼んだ豆腐チャンプルーには、これまたしっかりと玉ネギが…やっぱり八重山の料理屋さんは玉ネギ使用率が高い!)
 
 食堂での食事を済ませ、僕はそのままタクシーを拾い、空港に向かった。
 今回の旅の目的、“島で癒されたい”という極めて都合の良い僕の欲望は、果たして満たされたのか…うん、満たされた!たぶん。いつも「あっちに行って、こっちにも行って」という具合に、せせこましく欲張って見どころを駆け回っている僕ではあるけれど、そしてそれはそれで楽しいのだけれど、ときにはこんなふうに、海を見たり集落を散策するだけの旅もイイものだなぁ、と改めて思う。やはり僕は八重山が好きなのだ。僕がはじめて八重山を訪れてから約8年が経つ。その間、ほぼ毎年のように八重山にやって来たが、それでも飽きること無く、それどころかますます僕は八重山に強く惹かれている。
 人には人それぞれに“拠りどころ”になっているものがあると思う。それはとても身近にあるものかもしれないし、或いはとても遠いところにあるものかもしれない。だけど、それに触れていることで、それを思うことで、何らかの安らぎや喜びを得られるということには恐らく差は無いはず。僕にとっての拠りどころのひとつは、間違いなく沖縄、殊に八重山だ。かつて、僕は「沖縄は遠い」と思っていた。でも、今は違う。沖縄は決して遠くない。その気になれば、僕はいつでも沖縄を、八重山を頭の中に思い浮かべることが出来るし、その空気の心地良さや絆(ほだ)された心の状態を追体験することが出来る。
 …とは言いつつも、東京に戻って来れば「さて、次の沖縄旅行はいつにしようかなぁ〜」などと、早くもまた“島に甘える”計画を練ってしまう自分。心頭滅却までの道程は険しいなぁ…一生無理かもなぁ…
 

いつも店の前を通ってたけど、はじめて入りました。
石垣島で昼飯を食べることって、実は少ない。
何しろ昼間は離島に居ることが多いので。
    

店内は明るくて結構広々としてる。
僕以外のお客さんは地元の男性ばかりでした。
カツ丼食べてる人が多かったな。

  

たぶん、豆腐チャンプルー。
ちょっと“豆腐入り野菜炒め”チックな感じかも。
かなりボリュームがあって、しかも安かった。

  

どうもありがとう、八重山!
また近いうちに逢いましょう!
(↑これは飽くまでも希望的観測…)

  
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