ざわわ ざわわ
  


 結局、僕はこの集落を歩きたくて、竹富島に足繁く通っているのだと思う。これほど美しい集落を、僕は他に知らない。竹富島の集落がこれほどまでに美しいのは、もちろん島の人々の努力と志(こころざし)の賜物なのだけれど、一方で島の人々の生活などにかなりの負担を強いている部分もきっとあるはずだ。だからこそ僕は最大級の感謝と賛辞を惜しみなく捧げたい。“残していくこと”“護り続けていくこと”で、多くの訪問者を魅了する島。他のどこでも味わうことの出来ない格別な風情と眩しさ。どの辻を歩いても、そこには何かしら心惹かれるものがある。ここでしか見ることの出来ない何かを発見する楽しみにもしっかりと応えてくれるし、ただぼんやりと辺りの趣きに包まれながらそぞろ歩くだけでも幸せな気持ちにしてくれる。恐らく直径1kmにも満たないだろう小さな空間に、とてつもなく豊かな世界がギュッと凝縮されているのだ。…って誉め過ぎ?いや、そんなことは無い!むしろ僕の貧困な言葉じゃ言い尽くせないぐらいだ。
 かなりの低速で自転車を走らせていたが、それでもまだ速度が速すぎるような気がしたので、僕は自転車から下りてそれを引きずりながら、ゆっくり歩いて散策することにした。ときどき擦れ違う島の人たちと簡単な挨拶を交わしつつ、一歩歩くごとに自分自身がどんどんと軽くなってくる感覚。力みや蟠(わだかま)りが溶けていくような。
 いつも沖縄に来ると「どこかに行かなくては」とか「何かをしなくては」という、根っからの貧乏性が恥ずかしいぐらい露呈しちゃうんだけど、今回はまったくそんな気分にはならない。こうしてひたすらに集落を巡り、海を見て、ただそれだけでいい。

 暑さが気になれば日蔭でひと休みして、足が少し疲れればまたひと休み、というようなことをとろとろと繰り返すうちに、すっかり集落を一巡していた。2時間ちょっとぐらい歩いただろうか。そろそろ石垣島に戻ろう。今晩は、HP『マレビト・ミュージアム』の唯ねーねーと石垣で会うことになってるし。
 『丸八レンタサイクル』に自転車を返し、バスで港まで送迎されるまで、何だかまだ夢から醒め切らないような感じだった。ぼんやりとしたまま船に乗り込み、竹富島を去る。遠くなる島影からなかなか目が離せない。きっとまた、そう遠くないうちに竹富島に来よう。少なくとも、僕は竹富島の存在を知っていて、そこを訪れればこんなに満たされた気分になれる、ということを身に沁みて分かっている。とても幸せなことだと思う。いざとなればまたここに来て、甘えさせてもらうことが出来るわけだから。
 

とにかく、この風景を味わうためにここへ来た。
そう言いきってしまってもいい。
それだけの価値があるのだ、絶対。

  

このやさしさは、もう宝物だと思う。
…って、いちいちコメントするのも野暮。
というわけで、以下はコメント省略します。

  


 



 



  



  

かなりオルタナティブな案内表示。
ともすると落書き、という域に達してます。
でも、これがまたイイのだ。

  

シーサー。これはかなり狛犬チック?
片足で玉を押さえてますし。
「俺の玉だ!誰にも渡さねぇ!」

  

百合の花。
百合と言えば伊江島。
ホントは行く予定だったんです、伊江島に…

  


水牛車も満員御礼。
年々観光の人が増えてるような気がする。
…今回も水牛車には乗らず終い(^_^;)

 

竹富東港にて。
何度来ても心が揺れるこの島。
僕にとっては宝物みたいなものです。

   

 石垣島に戻ると、急に小腹が空いてきた。数時間前に遅めの昼食を食べたばかりなのになぁ。まぁ、散歩がてらどこかの店に入ってみるか。
 “あやぱにモール”の中をウロウロとしていると、今着ているTシャツが汗と潮風で少しばかり気持ち悪いことに気づいて、モールの中にある紳士服屋に入って、Tシャツを買った。
 「すみません、このシャツ、ここで着替えちゃってもいいですか?」 「あ、はい、いいですよ〜」
 僕はレジの前でさっさとTシャツを着替えた。だいぶすっきりした。我ながらちょっと不躾な行動だとは思ったが、とりあえずすっきり出来てよかった。この店では以前にもアロハシャツを買ったり(←かなり派手なヤツ。そのとき以来着たことは無い…)海パンを買ったり(←これも沖縄でしか履かない)しているのだが、品揃え的に若者向けなのか年配者向けなのかイマイチはっきりしないところが、僕としては案外気に入ってたりする。
 そのままあやぱにモールを出ると、何やら新しそうな店を一軒見つけた。表の看板には『島料理の店・南の島(パイヌシマ)』と書かれてある。何となくその店に入ってみることにした。
 店内は、やはり新しい店のようでとても綺麗だった。テーブル席とカウンター、それに座敷もある。「いらっしゃいませ〜」と女将さんらしき女性が対応してくれた。
 「海に行ってらっしゃったんですか?泳がれました?」と、女将さんがいきなり訊ねてきた。一瞬「えっ?どうして海に行ってたことが分かったんだ?」と思い、それからハッとした。そう、僕の足にはコンドイ浜の置き土産、白い砂がごっそりと付着していて、綺麗に清掃された店の床にボロボロとだらしなくこぼれ落ちていたのだ。
 「あ!すみません!お店汚しちゃって」と恐縮する僕に、女将さんは満面の笑みで「ああ、気にしないでくださいねぇ。どうでした?もう水もだいぶ温かくなってたでしょう?」と答えてくれた。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ、ソーキそばを注文した。
 そばが来る間、何となく店内を見渡す。と、壁に新聞や雑誌の切り抜きが貼ってあるのに目が留まった。そこには、女性の闘牛士が様々な大会で活躍した様子が記されている。…ん?よく見ると、その女性闘牛士はどうやらこの店の女将さんその人のようだ。スゴイ!女性闘牛士が島料理屋の女将!
 と、ちょうど女将さんが僕のそばを給仕しにテーブルにやって来た。僕はこのことを確認しようと思い、「あのぉ…」と言い掛けたのだが、そこにちょうど女将さんの知り合いのアンマーがやって来たようで、「どうぞごゆっくりね〜」と僕に言い残し、女将さんはアンマーのほうに行ってしまった。…う〜ん、タイミングを逃してしまった。ま、イイか。僕はそばを啜りなから、「今頃唯ねーねーはどこでどうしているのかな?」と考えたりする。唯ねーねーは、この約1ヶ月前から仕事の出張で石垣島に滞在していたのだが、ちょうど今は一旦帰京していて、今日の飛行機で石垣島に戻って来るとのことだった。もう島に着いているのか、はたまた今頃はまだ飛行機の中なのか…
 僕はそばを食べ終え、アンマーと何やら込み入った話をしている様子の女将さんにお礼を言って、ついでに砂の件をもう一度謝って、店を出た。
 そのまま近くにある公衆電話で唯ねーねーの携帯に連絡を入れてみたが、繋がらなかった。…う〜む、これからどうしようか。
 しばらく市街地をほっつき歩き、公衆電話を見つけては唯ねーねーに電話する。が、やはり繋がらない。…もしもこのまま連絡が取れなかったら…そのときはそのときだ。が、何度目かの電話で唯ねーねーとは無事連絡が取れた。どうやら唯ねーねーはついさっきまで飛行機の中に居たらしい。そりゃ繋がらないわけだ。しかも、僕が今電話を掛けている場所(八重山郵便局の脇)からすぐ近くにある本屋に居るとのこと。僕らは市役所通りにある『A&W』で落ち合うことにした。

 『A&W』に向かうと、通りの向こう側から唯ねーねーが歩いて来る。唯ねーねーとは東京で何度か会っているので、すぐに気づく。しかし、こうして知っている人と旅先で会うのって、なかなか不思議な感じがする。ちょっとホッとしたりしてね。
 今晩は唯ねーねーに民謡酒場に連れていってもらうことになっていたのだが、まだ時間が早すぎるので、とりあえず『A&W』でしばらくあれこれと話をする。
 さっきも書いたとおり、唯ねーねーは会社の出張で石垣島に長期滞在中なのだが、この出張ってのが実に面白い経緯(いきさつ)で…ま、このことはいろいろと先方の都合も配慮して端折りますけども、とにかく今、唯ねーねーは立派な“石垣市民”になっていた。ちゃんと市民証明書みたいなものも携帯していた。僕はその証明書を見ながら、ただただ「イイなぁ〜、うらやましいなぁ〜」と羨望の眼差しを向けるばかりだった。
 しばらく島に居ると島のいろんな部分が見えてくること、ほとんど毎晩に近いペースであちこちの民謡酒場に顔を出していること、石垣島に移住してきた知人のこと、今滞在している民宿がとてもアヤシイ雰囲気だということ、週末には八重山の離島に足を伸ばしていること…どの話を聞いても、僕はひたすらに羨ましがったり、感心したりするばかり。唯ねーねーは、それはそれは貴重な体験を繰り広げていたのだった。僕はその話を聞きながら「やっぱり僕も一度は石垣島で暮らしてみたいなぁ…」などと夢想してみる。ハ〜、仕事ないかなぁ、石垣島で暮らせるような仕事は…
 とにかく唯ねーねーの話が面白くて、僕らはエンダーにかなり長居していた。お互いに一旦宿に戻って、改めて7時に待ち合わせることにした。
 

石垣島・730交差点。
今日は結構車の行き来が激しい。
ここ最近、市街地の車の量が増えてる気がする。

  

あやぱにモールは相変わらずな感じ。
やや閑散としてます。
みんなマックスバリューとかに行っちゃうのかなぁ?

  

何となく見つけた『島料理の店・南の風』。
竹富島の新築物件を彷彿とさせる。
『ちゅらさん』のポスターもしっかり貼られてます。

   

ソーキそば。かなりボリュームあり。
八重山のそばは麺が細くて丸い。
で、味もやや濃い口な気がする。

  


路地で戯れる児童たち。
いかにも沖縄らしい真っ黒で濃い口な顔立ち。
何だか見てるだけで元気になってくる。

  

椅子とテーブル付きの公衆電話。
長電話させようとするNTTの思惑か?
でも、中は蒸し風呂のように熱いし、無理。

  

 さて、そろそろ待ち合わせの時間だ。僕は『大原ホテル』を出て、今晩過ごす民謡酒場『琉歌』に向かって歩き出す。
 『琉歌』は、市役所通りから一歩入った“大川”という界隈にある。さっき唯ねーねーに場所を教えてもらったのだが、いきなり道に迷ったりして(^_^;) 唯ねーねーに連絡して何とか店に辿り着いた。
 この『琉歌』という店は、三線の早弾きで有名な川門正彦さんが、関西から石垣に戻って来てオープンさせた店なんだそうだ。唯ねーねー曰く、何でも沖縄県の三線の早弾きコンテストのようなものがあって、川門さんはそこで栄冠を勝ち取って来たそうな。う〜む、ワクワクするねぇ。
 このお店の中は、いわゆる“民謡酒場”のディープな印象はほとんど無い。広々とこざっぱりとしたバーのような雰囲気で、どっちかと言うと「これからジャズの生ライブが始まります」っぽい洒落た感じがしないでもない。が、ステージから流れて来るのは紛れも無い島唄。お客さんも比較的落ち着いた感じだ。一昨年に訪れた『安里屋』とはかなり違う。
 で、川門さんの三線なのだが、これが実に凄い。さすがに早弾きコンテストで鳴らしただけのことはある。その奏法はもはや三線をギターかバンジョーかと思わせるほどだ。「ベンチャーズの『ダイアモンド・ヘッド』をリクエストしてみたい!」ってな勢い。沖縄民謡のスタンダードを奏でていても、どこかに面白いフレーズを織り込んだりする技は、素人の僕が聴いてもかなりビックリ。
 僕と唯ねーねーは、合間合間で話をしつつ、店内に鳴り響く島唄を聞き込む。三線を習得している唯ねーねーが聴くと、きっともっといろいろな凄さに気づくのだろうが、僕は酒を飲みながら、ただただ島唄の流れる時間に気持ちよくなるばかりだった。
 
 ひとしきりライブを聴き、川門さんが一息ついたところで、僕らは店を出ることにした。何しろ唯ねーねーは明日から仕事なのだ。間もなく日付が変わろうとしているこんな時間まで付き合ってもらって申し訳ないなぁ、と思う僕だったが「大丈夫。ほとんど毎晩こんな感じだから」と、唯ねーねーのタフなお返事。
 唯ねーねーが滞在しているアヤシイ民宿まで一緒に歩く。何しろ、この民宿ってのが町から結構外れた場所にあって、さすがに唯ねーねーも「夜道を歩くのがイヤでときどきタクシーで帰っちゃう」というほどらしい。僕は送りがてら、そのアヤシイ民宿を一目見てみたかった。
 確かに、民宿までの道程は、街灯も少なくて暗かった。途中にわりと大きな中華料理店があったりするのだが、これが廃業していて、何だか余計に不安感を煽ってる感じ。「途中に公園があるんだけど、そこで真夜中に若い兄ちゃんたちがダンス踊ってたりするんだよ」と、唯ねーねーが言う。…夜中の公園で、ダンス…僕の頭に浮かぶのは、ブレイクダンス=ガレッジセールのゴリ。沖縄ってダンスが盛んなのかな?さすがアクターズスクールを生み出しただけのことはある!(←ホントかよ)
 そんなこんなでアヤシイ民宿(ってあんまりアヤシイって言うのも失礼かな)に到着。元は家具屋さんだったというこの民宿、夜だったのでその全貌はよく分からなかったけど、確かに1階部分はガラス張りになっていて、何やらゴチャゴチャと物が置かれている様子は見ることが出来た。…今度石垣島に来るときは、この民宿を利用してみようか。でも、繁華街からちょっと遠いかなぁ。
 唯ねーねーと別れて、僕は『大原ホテル』まで歩く。東京の夜を見慣れているせいか、夜道がとても暗く感じる。空を見上げると、星がわんわんと騒がしいぐらいに輝いていた。
 明日も天気が良いといいんだけど。
 

島唄ライブ中の『琉歌』。
ブルーの照明がなかなかクールですね。
バックの文字が強い自己主張。

  

次第にユラユラと踊り出すお客さんたち。
「さ、あなたも踊って!」と手を取ります。
頑なに断るお客さんも居ますけどね(^_^;)

  

おっ!踊子さん登場!
…って、上の写真で太鼓叩いてた人かな?
すっかり着物を着替えてます。…別の人?

   

やっぱり締めはカチャーシーだよね。
と言いつつ、僕はカメラを構えてるだけ…
もうちょっと酒が入らないとさ。

  


では、『琉歌』でのライブの様子をちょっとだけ…

Movie(1)
『繁昌節』です。きっとどこかで聴いたことがあるはず。

Movie(2)
『サーターアンダギー』。元歌はみ〜んなよ〜く知ってますよね(^_^;)

Movie(3)
やっぱりこれは欠かせない、『唐船どーい』。お客さんも踊っております。


 

家族連れでご来店です。
こうして島の音楽が身体に染み込んでいくのかも。
特別なものじゃなく、自然なものとして。

  

ホテルに帰ったら、TVではちょうどこの曲が…
“平和”を殊更強く意識しなくても、
今日の僕はとても平和で幸せでした♪

    
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