青の島々へ
 


 いきなりだけど、今回の旅行の目的はただひとつ。それは「癒されたい」という、ありがちな欲求を満たすための旅行をすることだった。
 今までことあるごとに「沖縄が“癒しの島”だなんて思わない」だとか「僕は面白いものを見つけるために沖縄に行くのだ」などと、妙に気負って沖縄に出向いてきたわけだが、今回だけはちょっとばかり事情が違った。仕事やら何やらで、ちょいと突付くと破裂しかねないほどの“全身ストレスの塊”状態に成りかけ、体調にまで支障を来たすようになっていた僕が、真っ先に心の中に描くのはいつも決まって沖縄の、とくに八重山の島々のことばかり。八重山のあの海、あの集落、あの自然…ああ、いっそ島に逃げ込んでしまいたい。半ば本気でそんなことまで考える始末であった。…いや、そんなことは実はしょっちゅう考えてるんだけど、このときばかりは“島に行きたい症候群”の症状がかなり悪化していて、もうアップアップな状態だった。
 「沖縄で癒されようなんて、余所者の都合のいい思い込みだ」ということは百も承知。でも、今はそんなナイチャー特有の沖縄楽園思想に思い切り乗っかりたい。そんな気分なのだ。
 となると、すぐに目的地は決まった。竹富島と波照間島だ。とにかく、僕が一番好きなこのふたつの島で、好きな場所だけを訪ね、好きなことだけをする。まさに“美味しいとこ取り”な旅。たとえ体(てい)のいい現実逃避だと笑われたって、俺はぜ〜んぜん構わないぞ!という強気なんだか弱気なんだかさっぱり分からない心持ちで、僕は八重山行きを決めた。

 羽田から那覇空港へ、そしてすぐさま石垣空港へ。石垣空港で『大原ホテル』に電話で予約を入れ、そのままターミナルに待機しているタクシーに飛び乗り、“石垣港・離島桟橋”まで走ってもらう。離島桟橋に到着し、迷う間もなく竹富島行きの船のチケットを買い、折り良く桟橋に着岸していた船にダッシュで乗り込む。
 …午前11時ちょっと過ぎには、僕はもう竹富島に上陸していた。まさに東京から八重山まで一気にやって来てしまった。畳み掛けるようにここまで来てしまったせいで「島に来た」という実感が湧かずに、僕は暫(しば)しの間、竹富東港でボ〜ッと放心状態になってしまった。脇目もくれずに辿り着いた竹富島は、とても4月とは思えないような暑さだった。空気は軽いのだが、陽射しが強い。辺りが白く霞んで見えるほどに。
  

“だいじょうぶさ〜沖縄”に続く第2弾キャンペーン。
「30th anniversary」と書いてある。
今年、沖縄は本土復帰30周年です。

  


那覇から石垣島にひとっ飛び!
パイロット泣かせ(?)の石垣空港へ。
思えば去年の10月以来の八重山。

  

毎度おなじみのこの光景。
これを見ると「来たなぁ〜」という実感がひしひしと。
天気もまずまずみたいでなにより。

  

おお!荷物待受け所が変わってる!!
以前のあの狭くてゴチャゴチャした様子から一転。
…でも、あの雰囲気も捨てがたいものがあったなぁ。

   

石垣港・離島桟橋。
これまた毎度おなじみの場所ですね。
僕の好きな島々への出発点であります。

  

この船で竹富島に向かいます。
一刻も早く島に渡りたい!
気は逸るばかりだ〜!

  

海に出るともうワクワクです。
たった10分程度の船旅ですけどね。
竹富に向けてばく進中。

  

一気に辿り着いちゃいました…
ハ〜、何だか駆け足でここまで来てしまった。
午前中に着くとは思ってなかったし。

  

 「…とうとう来たねぇ、竹富島に」
 だんだん島に着いた実感が湧いてきて、僕はひとりでに顔がにやけてくるのを止めることが出来なかった。港から集落に続く緩やかな登り坂を、僕はへらへらとだらしない顔をしながら歩く。端から見れば、さぞかしおぞましい光景だったろう。実際、道端に咲く花に「いや〜、俺は来ちゃったよ、竹富に〜♪」などと話し掛けている自分に、僕自身鳥肌が立った。
 …落ち着け、そう浮かれるな。と、自分に言い聞かせてはみるのだが、集落に入るともう僕の有頂天さ加減は留まるところを知らない。何かに憑かれたように(いや、たぶんホントに憑かれてたんだと思う)闇雲(やみくも)に集落を歩き回る。角をひとつ折れるたびに目の前に現れる美しい集落の佇まいに「くぅぅぅ〜っ!」と悶絶し、「これはもう世界規模の財産!グスクを世界遺産にする前に、竹富島まるごと世界遺産にするべき!俺が世界遺産に認定!」と、勝手に盛り上がる。
 ってな具合で我を忘れてハイテンションになっていたのだが、そんな僕の挙動不審さを余所に、集落はとても静かで穏やかだった。真っ直ぐに降って来る強い陽射しの下で、珊瑚で出来た白い道も、風情溢れる石垣も、色とりどりの草花も、赤瓦の家々も、どれもがうっとりするほど静かにまぶしく輝いていた。
 僕もようやく落ち着きを取り戻し、集落の中をゆっくりと歩き出す。そうだった、今日と明日の八重山滞在は、とにかくのんびりと過ごす。これが目的だったのだ。竹富島にはもう何度か訪れているから、とくに血眼(ちまなこ)になって観光名所巡りをすることもないし、時間が許す限り海と集落を眺めているだけで、僕は最高に幸せなのだから。
 さっきまでの血が沸くような興奮が、だんだんとじんわりとした幸福感に変化しはじめ、僕は自分の足音を聞きながら、この夢のように均整の取れた家並みを眺める。
 …とは言うものの、この竹富島の集落も微妙に新しくなって来ている。集落の中には新築の建物もいくつか出現していた。が、そんな新築の物件も周囲との調和を考慮して、赤瓦屋根の木造平屋に統一されているのが心憎いじゃないか。島の人々の心意気を感じる。何ともうれしい。
 ありがとう、竹富島!…って、何だかもうこれで旅行が終わっちゃうようなこと言ってますけど、まだまだ僕の八重山フェイバリット旅行ははじまったばかりだ。こんな幸せがまだ続くのかぁ。何だか脳みそ蕩(とろ)けそう。いっそのこと、蕩けてしまっても構わないか。もともと蕩けて困るほど価値のある脳みそなんぞ持ち合わせてないし。
 と、前方から若い女性がふたり、それぞれ自転車に乗って僕の横を通り過ぎて行った。
 「ホントに素敵だよねぇ〜」 「イイよねぇ〜」と言いながらペダルを漕ぐ彼女らに、「そうだろう、そうだろう」とうなずく僕。べつに竹富島の関係者でも何でも無いのに、そういう誉め言葉を聞くと何だか自分のことを誉められているようで、無性にうれしくなっちゃう。
 


港から集落へ続く道。
僕はこの道をダラダラと歩くのが好きなのだ。
なので送迎バスや有償観光バスは一切無視。

  

バスで駆け抜けてしまうのはちょっともったいない。
道のあちこちにホロッと来る風景があって。
歩きながら「島に来た!」という気分を盛り上げつつ。

  

これが僕が話し掛けた花(^_^;)
路傍にちょこちょこと咲いてました。
鳥の鳴き声も聞こえてきて、すっかりイイ気分。

  

新築の建物。
島の景観を損なわないように配慮されてる。
俺もここに家でも建てるか!(そんなは金ない)

    

くぅ〜っ!これだよ、これ!
ここからは僕の個人的嗜好全開バリバリです。
呆れずに、しばらくお付き合いください。

  

白い道、石垣、生い茂る木々。
独特の解放感がたまらない。
どこまでも歩いて行きたくなる。

  

まぶしい!まぶしすぎる!
こういう道を歩いているだけで俺様は幸せだ〜!
やっぱり好きだなぁ、竹富島の集落は。

  

花もたくさん咲いている集落の中。
まさに色とりどり。
ただただ見惚れるばかり。

  

こんなふうに町並みを護っている島の人々に感謝。
いくら歩いても飽き足らない。
まさに眼福♪

  

そば処『竹乃子』は定休日(T_T)
久しぶりにここのそばを食べたかったのに!
ついでにポーク玉子も!

  

 集落散策を一旦切り上げて、僕は目に留まった『丸八レンタサイクル』で自転車を借りた。そしてそのまま集落を抜け、“西桟橋”へと向かう。
 西桟橋には、誰も居なかった。遠浅の透き通る海に一直線に伸びていく桟橋を、僕はしばらくぼんやりと眺めた。こうしているだけでとても気持ちがよかった。少し風はあったが、それがまた心地良い。夏の湿気た風とは微妙に違う、カラリとした風だ。
 ここは夕陽が綺麗な場所として有名なのだが、昼間の眺めもなかなかどうして侮(あなど)れない。
 手前の海の色は極めて淡い水色。沖に行くにつれてだんだんと色が濃くなって、水平線の辺りはコバルトに光っている。やっぱりイイなぁ、この海は。いつまでも見続けていたい海だ。
 僕は桟橋の突端に座って、頭空っぽな状態で海を見る。海って不思議だねぇ。そこにはただ水があるだけなのに、どうしてこんなに惹かれるんだろう?
 …さて、そろそろ移動しようか。集落、西桟橋と来れば、やっぱり次に行くのは“コンドイ浜”でしょう!僕としては、もっともっと海を見ながらぼんやりとしたかった。
 
 西桟橋からコンドイ浜へ向かう道すがら、家族連れと擦れ違う。「こんにちは〜」と挨拶を交わす家族の穏やかな笑顔は、島での時間がいかにやさしいかを物語るようだった。そう、この島に居ると、みんな何となくそんな表情になる。僕もたぶんそんな顔をしながら、コンドイ浜までゆっくりと自転車を漕ぐ。
 

“西桟橋”。
淡い色の海が静かに広がります。
暫し見惚れる。

   

波も穏やかで、時間が止まったかのよう。
まるで世界がまどろんでいるような。
何も無いのに、何よりも豊かな気がする。

  

コンドイ浜へ向かおう!
この外周道路も僕の好きな道のひとつ。
自転車で走ると気持ちがいいのだ。

  
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