久米島
〜4月23日・その3〜


 “ヤジャーガマ”から仲泊の集落へ戻る道すがら、“シンリ浜”という表示板が見えた。
 那覇に戻る前に、もう一度きっちりと久米島の海を見ておくのもいいかな、と思って、僕は“シンリ浜”へと向かった。

 “シンリ浜”に着くと、駐車場に一台のタクシーが停まっていた。タクシーにはデップリとした巨漢のおじさんが、運転席でタバコを燻らせながらボ〜ッと海を見ていた。
 お客も捕まらないし、ちょっと一休み、と言ったところだろうか。ちょっと目が合ったので、僕は軽く会釈をして、浜に下りて行った。
 空はだんだんと曇り出してきている。とりあえず、今日は天気がまずまずだったのでホントによかったなぁ。でも、次に久米島に来るんだったら、やっぱり夏だな。真っ青な空と真っ青な海。そういう時期に来てこそ久米島の醍醐味を堪能することができるに違いない。
 今回は、あの“はての浜”にも行かなかったしね。次の機会には絶対行かなくちゃなぁ。
 “シンリ浜”でしばらく海を眺めていたが、ジッとしているとさっきからの空腹感がさらに強力になってくる。…メシ食いに行こっと。

 駐車場に戻ると、例のタクシーの運転手が僕のほうに近づいて来た。
 「あのさ、おにいさん、タバコ持ってる?」 運転手が訊いてきた。
 「えっ?!…ああ、持ってますけど…」 正直言ってかなり面食らったが、僕は持っていたタバコを1本、運転手に差し出した。
 「ありがと〜ね〜。…ところで、おにいさんは仕事で?」
 う〜ん、こんなラフな恰好で、しかも海岸でボケっとしてるというのに「仕事で?」と訊く人も珍しいような…
 「いえいえ、観光ですよ」
 「あ〜、そう。いつから来てるの?」
 ―― といった感じで、しばらく大して弾まない会話をしていたのだが、彼はその会話の端々に久米島への愛情を滲ませていた。
 「もっと天気がスカ〜ッと晴れたときに来ると、久米島の海はきっと忘れられないぐらいに心に残るはずさぁ」
 運転手は、その巨体からは思いも寄らないようなちょっとグッとくるセリフを口にした。僕はその言葉に無性に感激していた。
 “忘れられないぐらいに心に残る海”…そうだよねぇ。沖縄にはまだまだそんなふうに思える海が、ちゃんと残ってるんだよなぁ。海だけじゃなくてさ、島自体にそんな場所がまだたくさんあるしね。
 
 タクシーの運転手と別れて、僕は“シンリ浜”を後にした。
 自分の故郷や住んでいる場所を誇れるっていうのは、なんともうらやましいことだなぁ、と思う。
 島に暮らす人々が、これからもずっと誇れるような島であってほしい。心底そう思った。…余計なお世話かもしれないけど。
 

簡易保険で整備。
…これ、宮古島でも多数見かけたけど…
僕も加入してます。郵便局の簡保。

  

“シンリ浜”を駐車場付近から見たところ。
雲行きが怪しくなってきた。
ちょっと残念ではある。

  

砂浜にはだ〜れも居ませんでした。
少し寂しいかな。
でも、そのおかげでものすごく静か。

  

これは隣りの“サンビーチ”寄りの海岸。
ノッチ岩が点在しています。
このビーチのすぐ前に小学校がありました。

  

 さて、集落に戻って来た。とにかく何か食べ物にあり付きたい。
 昨日は日曜日で休業していた『レストラン竜』という店に入ってみることにした。何しろこの店が一際目に付く原因は、“久米島そば”ののぼりの存在だ。この店のすぐ近くに“久米島そば”の製麺所があるのだが、一体“久米島そば”とは、どんなそばなんでしょう?

 かなり期待しながら店に入ると、まだ昼時前だったせいか、店内にお客は居なかった。若い女性店員さんが「いらっしゃいませ〜!」と明るく対応してくれた。
 僕は適当な席に座って、メニューを見る。…もちろん、ここに入った最大の目的“久米島そば”は注文するとして…ポーク玉子は昨日『さんぼ』でも食べたし、今朝ホテルでも食べたし…あ、“ゴーヤーチャンプルー”にしよう!
 「あ、すみません、え〜っと、…久米島そばと、それからゴーヤーチャンプルーを…」
 「だったら、セットで注文されたほうがお得ですよ〜」
 あ〜すみません、ご親切に〜。と僕は心の中でお礼を言いながら、セットを注文した。
 料理がやってくる間、僕は店内の様子を少し観察してみた。
 …座敷の襖の上に、何やら額縁に入れられた表彰状が4〜5枚飾られている。銀行やら教育委員会やら、いろんなところから寄せられた感謝状のようだった。…きっとここのご主人、世話好きなんだろうなぁ。ただ、これらの感謝状を見ただけでは、このお店が一体どんなことで貢献して感謝されてるのかは、今ひとつよく分からなかった。
 と、作業着姿の青年が、店内に入ってきた。彼はそのまま厨房のほうに行って何やらボソボソと話した後、テーブルに腰掛けて店に置いてあるマンガ雑誌をペラペラとめくり始めた。
 すると間髪開けず、今度はスーツ姿の男性が店内に入ってきて、またまた厨房のほうに行ってボソボソと言葉を交わし、テーブルに着いてマンガ雑誌を読み始めた。
 …一瞬、「久米島では料理の注文をするときは、こうするのが流儀だったりするんだろうか…?」と思ったりした。僕のようにさっさと席に着いて店員さんが注文を取りに来るのを待っている、という方法は、ひょっとするとここではあまり一般的じゃない客の態度なのかも…とドキドキしてしまったのだが、どうやら「厨房でボソボソ」の二人は、料理をテイクアウトするらしかった。ホッ。よかった。べつに俺が間違ってたってわけじゃないんだな。
 しばらくして、ビニール袋にパック詰された料理を手渡されたふたりは、そのままさっさと店を出てしまった。
 …あのぉ、俺様の料理はどうなってるんでしょうか?
 「おまちどうさま〜。セットになりますねぇ〜」
 まるで僕の心を見透かしたようなタイミングで、料理が運ばれて来た。よ〜し、食うぞ〜!
 
 お!なかなか美味いじゃんか〜♪ “久米島そば”は、普通の“沖縄そば”とどこがどう違うのか今ひとつよく分からなかったけど、とにかく美味しかった。トッピングに“野菜かまぼこ”(でいいのかなぁ?野菜の入った練り物のことね)が入ってるのもちょっと珍しいよね。
 そばも良かったんだけど、何がうれしかったって、そりゃ“ゴーヤーチャンプルー”がこれまた非常に美味かったのだ。思えば、ちゃんとゴーヤーチャンプルーを食べたのはかなり久しぶりだった。「あ〜そうだったよなぁ、ゴーヤーチャンプルーってこんな味だったんだよねぇ」とヘンな風に痛感しちゃったり。
 久々に食べたゴーヤーチャンプルーにすっかり感激しながら、僕は今回の久米島旅行での最後の食事を堪能。
 
 『レストラン竜』を出て、僕はレンタカーを返却した(レストランとレンタカー屋は目と鼻の先)。
 すぐにワゴン車を廻してくれて、そのまま空港まで送ってもらう。
 …次に久米島に来るのは、一体いつのことになるのかなぁ。
 でも、次に来るのは絶対夏!しかもド晴天のときに!と心に決めて、僕は空港に向かった。
 

仲泊の街にある『レストラン竜』。
パチンコ屋さんの真ん前にあります。
…昨日は“午後休業”だったんだよねぇ。

  

わりと広い店内。のんびりとした雰囲気。
左端の襖の上には賞状が掲げられている。
何やらいろいろと貢献してるみたい。

  

ゴーヤーチャンプルーと久米島そばのセット。
個人的にはかなり好みの味。
あ、でもそばに紅しょうがはいらない派なのだ、俺は(^_^;)

  

 久米島空港に到着。
 那覇行きの飛行機までまだ少し時間があったので、僕は空港の中をフラフラと彷徨ってみる。
 しかし、ホントに久米島空港はとてもキレイな空港だ。いつ頃改装したんだろうか?
 ただ、お世辞にも“賑わっている”という感じではなかった。まぁ、シーズンオフだから仕方ないのかもしれないけどね。
 お客さんは、僕を含めても恐らく20人と居ない。ひょっとすると従業員のほうが多いくらいだろう。…ちょっと寂しいかなぁ。これだけ空港が立派なだけに、なおさら寂しさが際立つ感じ。上階のレストランは閉店しちゃってるし…
 1階ロビーで、ブルーシールなんぞを食べたりしながら飛行機の到着を待っていた僕のすぐ脇を、あの例の“比屋定バンタでふざけてたカップル”が通り過ぎた。ゲッ!またコイツらと一緒かよ!
 「ねぇ〜、お土産屋さん見に行こうよ〜」と甘える女。
 「そうだね、じゃあ行こう♪」と同意する男。
 そんなふたりの両手には、ちょっとビックリするぐらいの手荷物が下げられている。…その荷物もお土産なんじゃないの?いくらなんでも買い過ぎだろう、アンタら…
 いくつもの紙袋を引きずるようにして、ロビー内を徘徊するカップル。静まり返った空港にふたりのキャーキャー言う声が響き渡る。と、その声に反応するように、今まで半ば開店休業モードに突入していた売店の店員たちが眠りから覚めたように、カップルの動向に熱い視線を送り始めた。さしずめ“獲物を狙う肉食動物”といった趣き。
 ガンバレ!売店の人々!あのウザいカップルに高価な品物を売りつけるんだ!!

 などと、くだらないことに気を取られているうちに、飛行機に搭乗する時刻となった。
 思えば、行き当たり場当たりでやって来てしまった久米島だったけど、結構面白かった。
 やっぱり島はイイやねぇ…なんて感慨に耽る間もなく、あっという間に那覇に着いてしまった。
 

久米島空港外観。
丸みを帯びた屋根は“波”をイメージしてるんだとか。
確かに、言われてみれば「なるほど〜」と。

  

最上階にあったレストラン。
…しかし、休業中の様子。
早いとこ何とかしたほうがいいと思うけども…

  

ブルーシールの“ブルーハワイ”。
着色料バリバリって感じで素晴らしいよね(^_^;)
ここまで来るともはやケミカルな風情。

  

 那覇空港に着くと、僕はそのまますぐにバスに乗り込み、国際通りに向かった。
 東京に戻る飛行機の出発までまだ少し時間があったので、その間にちょっとでも街をうろつきたかったのだ。
 空港から出たバスが自衛隊の駐屯地に差し掛かったあたりから、沿道に自衛隊員がズラ〜ッと一列に並んでいる光景に出くわした。
 そうか、そう言えば21日から今日まで、皇太子がちょうど沖縄を訪問していたんだった。これはきっと皇太子の“お見送り”をするための隊列だな。
 バスの中の乗客も、みんな窓の外の物々しさに注目する。この列は、奥武山公園のあたりまで断続的に続いてた。半袖で居てもおかしくない沖縄の陽の下で、ビシッと長袖の制服に身を包んでいる自衛隊員。ご苦労なことだなぁ。
 
 国際通りに辿り着き、僕はかなり急ぎ足であちこち見て周った。
 『わしたショップ』やら『丸福レコード』やらでCDや本をいくつか買い、ついでに『古酒屋』の地下で泡盛の試飲なんぞもしたりした(でも結局泡盛は買わず。ヤな客)。
 でも、国際通りに来ると、なんだかホッとする。「もうここまで来れば後は東京に帰るだけ」という安堵感と、すっかり都会化した(東京化した?)この繁華街に埋没する瞬間の匿名性みたいなもののせいかもね。離島に居ると、自分が“余所から来た人間”だということをどこかでずっと意識しているのに対して、こういう人が溢れている場所では、もはや僕が余所者であるか無いかなんて別段思う必要も無い。これって、案外気がラクなものだったりする。
 いや、もちろん、僕はたぶんどこかで“通りすがりの余所の人”という利点を、かなり都合よく旅行に活用している。道ばたで擦れ違う人に気軽に声を掛けたり掛けられたり、そういうのって、恐らく僕が“通りすがりの余所の人”だからこそ出来得る行為なのだと思う。僕の側からすれば“一期一会”など気取ってしがらみが無いのをいいことに、どこかで島の人に甘えているような気がするし、きっと島の人も僕を旅行者だと思えばこそ、手放しでウェルカムしてくれるんだと思う。
 …やっぱり僕は、飽くまでも“余所の人”として沖縄に触れていたいかなぁ。この身軽で気軽な感覚は、浮き草状態の旅行者じゃないと味わえないような気がするもんね。僕はこれからも“何処の馬の骨とも知れないヤツ”として、沖縄をフラフラとほっつき歩きたいのだ。…まぁ、今のところは、ね。いきなり180度気が変わって「沖縄に引っ越したい!」とか言い出す可能性が無いとも限らないし。
 
 正味1時間程度の“国際通り巡り”を終えて、再び那覇空港に戻る。
 僕は搭乗ロビーで「まさかまたあのカップルと一緒じゃないだろうな…」と思い、少し辺りをキョロキョロと探ってみたが、どうやらカップルは居ないようだった。
 ちょっと安心するのと同時に、一抹の寂しさも感じたりして。
 

ズラリと並ぶ自衛隊員のみなさん。
結構みんな注意力散漫。
おどけて「敬礼!」の練習してる人も居る。

  

バスの中の注意書きをよ〜く読んでみましょう。
「手を挙げて合図する必要はありません」とのことです。
ちょっとアヤシイ気がするけどね。

  

パレットくもじは10周年!
…案外、最近出来た店だったんだねぇ。
10年前には一体何が建ってたんだろう?

 
 
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