久米島
〜4月23日・その3〜


 “おばけ坂”…何ともステキな響きである。「すわ心霊スポットか?!」と早とちりしかねない、それでいてちょっと間の抜けた感じのするネーミング。
 でも、べつにこの坂は「幽霊や妖怪が出没する坂」というわけじゃなくて、何でも「この坂に転がる物体を置くと、傾斜に逆らって転がる」らしいのだ。スゴイ!引力に刃向かう坂!…ってホントはただ単に「そう見える」というだけなんだけどね。周りの風景による目の錯覚が原因なんだそうな。
 この坂は、結構有名な久米島観光スポットらしく、レンタカー屋でもらったガイドマップにもしっかり紹介されているし、おまけに坂の入り口付近にはちゃんとした看板(標識)も設置されていた。

 僕が“おばけ坂”に近づくと、ちょうど坂の中腹あたりで一台の観光バスが停まっていた。そのバスの周りには乗客と添乗員、そして運転手までもが降りて来ていた。どうやら“実験”をしているようだ。
 運転手が坂にゴムボールを置く。その動きにジッと視線を集中させるツアー客の面々。…あれ、転がらないぞ。ちょっと突付いてみよう。…コロ、コロ、コロコロコロ。「お〜!」小さくどよめくツアー客。う〜む、端で見てると微笑ましいと言うか、バカバカしいと言うか…しかし、ちゃんとゴムボールを用意しているとは。さすが!観光バス!
 ひと通り実験を終えて、バスは去って行った。
 よ〜し、今度は僕も実験してみよ〜っと♪ でも、さっきの光景を冷静な気持ちで見ていた僕としては、若干複雑な心境ではあった。だがしかし!ここまで来て実験しないで帰るなんて、インドに行ってガンジス川を見ないのと同じぐらいもったいないもんね。
 車を坂の下で停めて、先ほど運転手が実験をしていた辺りまで歩いてみた。…ところで、この“おばけ坂”なんだけど、「上り坂に見える」ってガイドマップに解説されてたけど…何かいまいちピンと来ないなぁ。見ようによっては下り坂にも見えないか?これ。う〜む、下り坂に見えるよ、やっぱり…果たしてどっちなんだ?あっ、これが“おばけ坂”の“おばけ坂”たる所以か?(たぶん違う)
 実際に坂を歩いてみると、坂の中盤あたりまでは“上り坂”だった。「マップには“上り坂に見える”って書いてあるけど、これって本物の上り坂じゃん…」
 僕は釈然としないまま、とりあえず持参した“さんぴん茶の空き缶”を路上に置いてみた。…ガラガラガラ…と空き缶は坂を下って行く。まぁ、上り坂だからね。当たり前っちゃ当たり前なんだけど…ますます分からなくなってしまった。
 この坂が「実際には上り坂なのに、下り坂に見える」と言うのならば納得がいく。でも、ガイドマップによると「上り坂なのにボールなどを転がすと不思議にも坂を上ってゆく。」とハッキリと表記されている。…この違いは一体何?ガイドマップの書き間違い?それとも俺の目がおかしいのか?
 僕の実験していた場所が悪かったのかもしれない。もっと坂の中盤より先に行って実験していたら、ガイドマップどおりの結果が得られたのかも…でも、じゃあさっきのツアー客たちは、あの実験で納得できたんだろうか?あの運転手は間違いなくここで実験してたし…
 僕は違った意味で狐につままれたような気分に包まれていた。“おばけ坂”って、よく分かんないや。…なるほど!論理やガイドマップに撹乱させられる謎の坂、だから“おばけ坂”なんだ!(だから違うって)
 
 ま、いいか。
 僕は勝手に「この“おばけ坂”は、下り坂に見えるけどアラ不思議!空き缶が坂を上ってくる!これはビックリ!」と解釈することにした。…これでイイんだよね?少なくとも間違いじゃないよね?ちゃんと実験もしたし…
 ちょうど僕が坂を出発しようとしたとき、またまた観光バスがやって来た。僕は観光バスのその後の行動が気になったが、結局そのまま“おばけ坂”を後にした。
 …やや消化不良。
 


ご覧のとおり、ここは“おばけ坂”。
意外と立派な表示板が立ってました。
もう完璧に観光スポット!


  

坂の手前には“空き缶入れ”が。
たぶん、“実験”後に空き缶を放置していく人も…
マナーを守りましょう。


  

下り坂に見えるでしょ?
僕の目に狂いは無いよね?
だとすれば納得がいくので、そういうことにしてください(^_^;)


  
ムービー!

“おばけ坂”で実験タ〜イム!
下り坂なのに、空き缶がこちらに上ってくる!
…ってことでイイんだと思う(^_^;)
これはサイズは200kb弱。まあまあ軽め。

 “おばけ坂”のところから少し進むと、昨日見落としていた“ヤジャー洞(鍾乳洞)”という看板が見えた。ヤジャー洞?そんなものがあるなんて知らなかった。ガイドマップにも載ってないし、ガイドブックなんかでも見たことがなかったような気がする(と言っても、僕はもともとガイドブックをあまり持ってないんだけど)。
 う〜ん、気になる。ちょっと行ってみよう。

 県道から看板に沿ってどんどん海岸方面に走って行くと、周囲は畑。ちょっとやんばる辺りを思い出させる道だなぁ、などとほのぼの気分になっていられたのも束の間、次第に目に付き始めたのが“廃車の山”。派手にクラッシュした車が無造作に積まれている、まさに“車の墓場”な様相を呈した荒涼感溢れる世界。…何か、急に心細くなってきた。
 緑に輝く畑でまったりと農作業をする人、そしてその傍らには車の墓場。ちょっとシュールな風景だった。
 そんな妙な光景をわき目に、“ヤジャー洞(ヤジャーガマ)”の入り口に着いた。車一台分の幅しかない未舗装でガタガタな砂利道を、少し不安な気持ちで走っていくと、激しく咆える犬の声が聞こえてきた。どうやらこのガマの番犬らしい。まるでこの世の終わりかのように咆え立てる犬。はいはい、分かりました、そうですよ、僕は不審者で〜す♪と心の中でつぶやきながら、適当な空きスペースに車を停めた。
 と、小さな小屋のような建物があって、そこから女性がやや強面でこちらをジッと窺っている。どうやら管理事務所らしい。
 僕は小屋に近づいて「あの、鍾乳洞を見たいんですけど…」と女性に申告した。小屋の中には先ほどの強面のアンマーと、これまた強面の女の子が居た。親子だろうか?女の子は鏡を見ながら自分の髪を三つ編みに編んでいたのだが、僕のことをチラッと見る。…なんか、威圧されちゃうよ、この雰囲気…小屋の中の雰囲気もそうだが、このガマの周辺の雰囲気も一種独特の空気に包まれている。さらに、さっきからしつこく咆え続けている犬…なんだかちょっとホラー映画のオープニングを彷彿とさせる感じ…
 ここでアンマーが「ここから先には行っちゃ駄目。何が起こっても知らないよ…」とか何とか言ったりしたら、もう完璧!ってな状況だったが、もちろんアンマーはそんなことは言いはしなかった。
 「入場料\500いただきますね〜」 アンマーは飄々とした感じで言った。「え〜っ?お金取るの〜?」と僕は内心思いながら、いつもニコニコ現金払い、\500を爽やかに支払った。
 「そこの階段を降りて行ってください。洞窟の中は足元が滑りますから、よく気をつけて歩いてください」とアンマーが忠告してくれた。

 小屋の向かい側に階段があった。階段の下は木々が鬱蒼と茂っていて、上からは下の様子がほとんど見えない。階段を降りていくと、手前と奥に洞穴が見えた。…はて、どっちが“ヤジャーガマ”の入り口でしょうか?
 とりあえず、手前の洞穴を覗き込んでみることにした。洞穴の前には何やら大きな盃のようなものが置かれていた。…僕はある予感に苛まれる。穴の中を覗き込むと…やっぱり。この手前の洞窟の中には骨壷と白骨がゴロゴロと転がっていた。これは“風葬跡”だ。
 以前、粟国島に行ったとき、僕は偶然これと似たような場所に出くわしたことがあった(このときのことは『月刊・一泊二日/10月号』の中にあります)。そのときは、不意に人骨を目の当たりにしてしまった衝撃と、「見てはいけないものを見てしまった」という罪悪感でちょっとしたパニック状態に陥ってしまったのだが、今回は不思議と静かな気持ちで白い骨を見た。自分でもおかしく思えるほど、すごく冷静な気持ちだった。
 今でこそ沖縄も本土も、“墓”という家族単位の骨を安置する場所を設けているけれど、そういう概念の無かった頃に、死者を自然に任せて葬るというこの死後の在り方。これって、むしろ潔い感じがする。人はいつか死ぬ。死んだ人のカラダはやがて朽ちる。すべてが自然なこと。ちょっとロマンチックな気持ちで考えれば、そうやって朽ちた人はまさに風に乗り、そのまま島の土や海に染み込んでいく。島に染み込む命の残骸。島で生きてきた人が、そのまま島と同化する。…って、いくらなんでもこれは叙情的過ぎかなぁ。
 とにかく、僕はこの風葬跡を見ながら、少し感傷的な気分になって、それから何故かやさしい気分にもなった。僕は無礼を心中でお詫びしながら、洞の中の写真を一枚だけ撮らせてもらった。…あ、でもこの写真はここでは公開しません。これは、僕が僕自身のためだけに撮らせてもらった写真なので。この風葬跡で感じた気持ちを、なにか形に残しておきたい衝動に駆られたもんですから。
 …ちょっと気持ち悪いかな、いろんな意味で(^_^;) でも、このときのことを思い出すと、今でも何だか穏やかな気持ちになれる。僕の拙い言葉では上手く言えないんだけど…

 ケッタイな話はこの辺にしておいて、とにかく僕は風葬跡から離れて、そこからさらに奥のほうにある洞穴に移動。
 穴に入ると、中は外から見るよりもかなり広くなっていた。その奥には『主洞入口』の立て札が。…あれが入り口?すごく狭いんですけど…突然不安に襲われる。これって限りなく『水曜スペシャル・川口浩、謎の洞窟に潜入!!』な状態じゃんか。
 とにかく、せっかく\500払ったんだから、入らないことにはねぇ…
  

“廃車の墓場”。
こんな光景があちこちに…
まぁ「沖縄らしい」と言えなくもないけども…


   

“ヤジャーガマ”入り口。
畑の只中にいきなり登場。
砂利道を奥へと進んで行くと…


  

咆え狂うワンちゃんがお出迎え♪
“猛犬注意”の表示に偽りなし!
綱を引き千切らんばかりの勢いです。


  

管理事務所を奥から撮影。
…何か、妙な凄味があるんだけど。
近くにあるトイレがまた怖いです。


  


木と草に埋もれた鍾乳洞。
下の様子がまったく分からない。
探検気分を煽られますねぇ。


  

ここが“風葬跡”の洞穴。
昔は“風葬”って言うだけで無責任にワクワクした。
でも、眼前にすると、とても穏やかだと思える。


  

こっちが“ヤジャーガマ”。
何か狭そうに見えるでしょ?
ちょっとドキドキしながら進むと…


  

落ち窪んでいて、案外広かったりする。
奥に“主洞入口”が。
…あんなに狭いのか?!


  

ガマの入り口から穴の外を見る。
ジャングルチックに鬱蒼。
「緑がまぶしい!」なんてノンキなこと言ってられない…

  
  

…それじゃあ入りましょうかねぇ。
何だかものすご〜く不安なんですけど…
まさか這って行く、なんてことにならないよね…?


  

 身を屈めて洞の中に入ると、中は案外広かった。…しかし、暗い。ところどころに照明は付いているので、足元が見えないほどの暗さじゃないんだけど…
 少し先まで進んで行くと、急に道の真ん中にド〜ンと鍾乳石が立ちはだかって、パッと見、行き止まりかと思えるところに突き当たってしまった。「え?!これで終わり?!…金返せ!」と一瞬思ったのだが、どうやらその鍾乳石の奥にまだ道が続いてるようだった。よかった〜。もしもホントにここで行き止まりだったら、危うく管理事務所の強面アンマーに文句言うところだったよぉ。
 その鍾乳石の蔭に隠れるような狭〜い岩の裂け目をくぐって行くと…ビックリ仰天!そこには僕の想像を絶するような、広々とした地下空間が広がっていた。しかも、その空間はさらに先へ先へと続いているようだ。なるほどねぇ、これぐらいの規模があれば、\500の入場料もダテじゃない!って気がする。
 『玉泉洞』をはじめとして、沖縄には結構あちこちに鍾乳洞がある。その多くはきちんと整備されていて、ライトアップにも抜かりが無く、“観光スポット”として手がしっかりと加えてある観があるが、ここはそれと比べるとかなりワイルドな鍾乳洞だ。遊歩道も無いし、照明器具もよく工事現場なんかで見られる味気ないライト。雰囲気がワイルドならば、ぶら下がっている鍾乳石もワイルド。ごっつくて太い鍾乳石がドコドコと垂れ下がってきている、といった感じ。決して“華がある”という趣きではないけれど、これはこれで面白いかもなぁ…
 …しかし、アンマーの忠告どおり、とにかく足元がツルツルと滑りやすい。うっかりするとすっ転びそうだ。その上、ところどころに微妙な段差があって、これがまた危険度アップに貢献しちゃってる。足取りに注意を払いながら、暗い洞窟を歩く。―― これが案外としんどい。実際の距離以上にとてつもなく道のりが長く感じられる。
 それにしても、ここは何だか映画にでも出てきそうな洞窟だ。『インディー・ジョーンズ』シリーズの世界、って感じか。奥のほうからでっかい岩がゴロゴロと転がってきたりするような。あるいは『金田一耕介』シリーズ。鎧兜を着けた白蝋化した死体とか、シャム双生児のミイラとかが隠されてたりするような。

 しばらく道の続くままにダラダラと歩いていたが、目の前に、岩の割れ目から太陽の光が射し込んでいるのが見えた。映画だったら「出口だ!あそこから脱出できるぞ!」なんて希望に満ち溢れたシーンがお目見えしそうなシチュエーションではあるが、現実はそうは行かない。太陽の光の目前に『折り返して下さい』と書かれた札が吊るされていた。…仕方が無い。折り返しましょうかねぇ。
 往路では結構ワクワクしながら歩いていた道が、復路となるといきなり面倒になってくるのだから、我ながらまったく現金なものだと思う。「さっさと地上に戻ろう」なんてね。来たときの半分ぐらいの時間でとっとと洞を抜けて、僕は地上に戻った。
 地上に戻ると、小屋の中のアンマーが僕に気づき、「ありがとうございました〜」と小さな声で言った。僕もお礼の言葉を返し、車に戻って出発した。
 いや〜、“ヤジャーガマ”、なかなかどうして侮れないです。のっけのホラー映画な雰囲気と、風葬跡でのあの気持ちと、洞内での冒険活劇な気分。「一粒で3度おいしい!」ってな場所だな、個人的には。これで帰り際にアンマーがインド映画ばりに歌って踊ってくれたりしたら、もう完璧なんだけど…それはムリか。
 
 さて、いよいよ時間が無くなってきたぞ。ついでに腹も減ってきた。昼過ぎに那覇に戻る前に、久米島で何か食べて行こう。
 僕は久米島での観光地巡りをここで止め、仲泊方面に戻ることにした。
 

入り口付近は結構狭い。
ずっとこの調子かと思ってたんだけど。
数メートル先に行くと…


   

ゲゲ!行き止まり?!
鍾乳石が壁のようになってるじゃんか!
途方に暮れつつ奥まで行ってみると…

  

鍾乳石の蔭に隠れるような狭い裂け目が。
ちょっとホッとする反面、不安も募ります。
…この先には一体何が?


  


一転して広〜い空間が出現!
写真が暗くて分かりづらいですね。すみません。
でも、天井も高くてホントに広いぞ!


  

とにかくこの鍾乳洞は“ごっつい”印象。
鍾乳石もごっついし、地面もごっつい。
おまけにスゴイ湿気です。デジカメ壊れそう。


  

…無情。
来た道を戻るしかありません。
う〜ん、ちょっと徒労感。


  



ムービー!

『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』並みの“酔う”映像!
画面の暗さが恐怖感を増長!
「カチャ!カチャ!」という音はラップ音か?!
…いいえ、デジカメのレンズカバーが当たる音です(^_^;)
ファイル・サイズ800kbを越える超大作!
…そのわりに、ぜんぜん意味の無いムービーです。




 
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