伊是名観光ラストスパート、そして、また会う日まで


 伊是名集落を離れ海沿いの道に出たところに、“伊是名漁港”がある。この漁港は他の集落の漁港と比べると、かなり立派だ。漁港のすぐ脇にはちょっとした公園のようなものもあって、のんびりと伊是名の海を眺めるにはなかなか良い場所だと思う。
 僕はこの公園の突端にある展望所に移動し、しばらくの間、海に見入った。さすがは離島の海。透明度がスゴイ。沖のほうまで海底が透けて見える。ハ〜、しあわせだなぁ。こういうのをまさに「時間を忘れる」って言うんだろうなぁ。辺りには人影もほとんど無く、聞こえてくるのは微かな風の音と、ちゃぷんちゃぷんと寄せる緩やかな波の音だけだ。
 海、緑、そして集落。本島からほんの少しだけ外海に出れば、まだまだこんなに豊かなものと巡り会えるなんて、ホントにうれしいことだと思う。これだから止められないのだ、沖縄通いは。
 久しぶりに、脳みそのシワが全部伸びちゃいそうなぐらいにボケ〜ッと、海をひたすら見続けた。おかげで何だか元気が出て来た。
 本部・運天港に戻る船の時間は、午後1時30分。もうそろそろ正午になろうとしている。さ〜て、それじゃあ時間一杯まで伊是名島観光をしようじゃないか!
 得体の知れない力の漲りに突き動かされるように、僕は車で海沿いの道路を走り出す。
 

“伊是名漁港”のすぐ横にある公園の展望所。
海に向かって突き出した遊歩道の突端にありました。
たぶん比較的最近に建てられたものじゃないかな?

  

こんな感じで展望が広がります。
屋那覇島も見えてますね。
微風が心地良いです。

  

ず〜っと沖のほうまで海底が透けて見える♪
ホントに気持ちいいです。
かなり長い時間、ここでボ〜ッとしてた(^_^;)

  

伊是名漁港。
“仲田港”に次ぐ大きな港だね。
離島の港にしては小洒落ている感じもする。

   

港の水がこれほどキレイなんて!
思わず飛び込みたくなるような透明度です。
…でも、まだ2月だし、さすがにそれはちょっと…

  

 伊是名漁港から、再び陸ギタラの方向へ戻るように車で移動し、海沿いの道から“チヂン(地神)山”という山のほうへと向かって行く坂道を進む。
 “チヂン山”は、山全体が森林公園になっていて、遊歩道や展望台もある。で、この山には“美織所(ちゅらうぃんじょ)”という、伊江島と伊是名島を舞台にした悲恋の伝説に纏わる場所もある。
 “美織所”に纏わるお話は…昔、伊江島に仲村渠マカテという、島でも評判のそりゃあ美しい娘がおったそうじゃ。その娘を一目見ようと、伊是名島に住む松金という男が伊江島まで渡って来たのだと。マカテと松金はたちまち好き合う仲になってな、松金は毎晩のように伊江島に渡り、マカテに逢いに来るようになったんじゃ。
 あるとき、マカテが密かに伊是名島まで船で渡ってな、松金の家に行こうと思ったのじゃが、とうとう家に行く勇気が持てず、チヂン山の斜面にある岩の上で、松金を思いながら美しい布を織ったんだそうな。それが“美織所”というわけじゃ。
 …以上、マンガ日本むかしばなし風に語ってみました。この後、ふたりが逢っているところを伊江島の男に発見されてしまい、マカテは投身自殺していまいます(なんでかな?羞恥心のせい?島に居づらくなっちゃうから?)。う〜ん、悲しい結末だねぇ。
 …でもね、このふたりの悲恋物語の真偽のほどは別として、どうしてマカテが伊是名の山の斜面で布を織ったのか。だいたい、そんなところに機織り機があったの?手織りですか?ハッ!まさかマカテが機織り機をえっちらおっちら担いで登ったのか?!など、いろいろ気になる部分の多い伝説ではある。…無粋だねぇ、俺。そんなこと言ったら“野底マーペー”なんて、恋人を思い過ぎて石になっちゃうんだからねぇ。伝説は伝説として、素直に聞くべきなんだろうけど…ツッコミ入れやすい話が多いんだよね、伝説ってさ。
 その美織所は、チヂン山の南側の斜面にあるわりと広くて真っ平らな岩の上にある。実際に上ってみると、何もこんなところで布を織らんでも…という感は否めない。とは言え、そこからの眺望はなかなか素晴らしい。ちょうど伊是名漁港が真下に見え、その先には伊是名の海が広がる。この景色を眺めながら、松金という青年に思いを馳せつつ布を織る。うむ、ロマンチックな話だねぇ。「手編みのセーターとかプレゼントされるのって、重たくない?」などと言う人も多い今日この頃、そんなの比にならないほどに熱い思いの篭った上布を、静かに織り続けるマカテ。…やっぱりちょっと重たいか。
 ところで、僕もマカテの気分を少し味わってみようか(何でだよ!)と美織所に座ってみたのだが、崖のほうに向かって微妙に傾斜がついていて、これが案外怖い。高所恐怖症の人だったら気絶してしまう危険性もある(?)。
 とりあえず、ここで導き出されるひとつの結論。「マカテは高所恐怖症では無かった」。…ゴメンよ、マカテ。僕にはあなたのことを語る資格はありません。
 ちなみに、マカテに崖っ縁で布まで織らせちゃった“松金”という男、これはどうやらあの“尚円王・金丸”のことらしい。…この男、つくづくモテモテだったんだな。ここまで来ると、金丸を迫害した島の若者たちの気持ちも解らないでもないな。「くそ〜!あいつが居るから俺がモテないんだ!あいつさえ居なくなれば〜!」って、それもまた微妙ではあるけど。
 その“美織所”のさらに奥には、山頂まで登れる遊歩道がある。遊歩道の入り口には駐車場も完備されている。チヂン山はそれほど高い山では無いし、遊歩道を歩いてみるのも良いと思う。思うんだけど、僕は途中で登るのを止めちゃった。何だかめんどくさくなっちゃってさ。それに、この遊歩道が思いのほか長く続いていたので、帰りの船のこともあるし、あまり時間の読めない行動をとるのは避けたほうがいいと思った。などと言い訳をしてみる。
 僕はチヂン山を降り、また海沿いの道へと戻った。
 

急な坂道の途中に現れる看板。
ここからさらに急な道を登って行きます。
山の斜面を這って行くような感じ?

  

これが“美織所”です。崖にある畳岩ですね。
広さはだいたい3畳ぐらいかな。
…こんなところで布を織るなんて…

  

“美織所”から伊是名漁港を見下ろす。
こんな景色を見ながら布を織ったわけだね。
せつない話だけどねぇ。

  

チヂン山の天辺にある展望台。
…でも、僕は途中で挫折しました。
結構広いんだよ、この森林公園。

  

チヂン山から仲田の集落方面を見たところ。
海に沿うように集落が纏まっている。
何だか島の成り立ちが分かるような景色。

   

左端には伊是名城跡の山。
海がキラキラ輝いております。
こういうのを風光明媚って言うんですか?

  

チヂン山から伊是名玉陵に続く旧道。
サムレーの語源は?侍(サムライ)に関係あり?
「おサムレーさん、堪忍して!」みたいな。

  

これが“サムレー道”です。
…ケモノ道に近いような気がしますけど…
虫とか蛇とか出て来そうで、ちょっとイヤです。

  

 先ほど寄った“ギタラ展望台”や“龍神洞”を通過して、その先にある“しらさぎ展望台”に向かう。“ギタラ展望台”からの眺望は、天気が良くなかったために少々冴えない感じだったのが残念だったが、今はすっかり晴天だ。きっと素晴らしい眺めを拝むことが出来るはず♪
 喜び勇んで展望台へとダッシュして、360度の大パノラマをぐるりと見渡す。う〜ん、これは素晴らしい!西側に見える“陸ギタラ・海ギタラ”も、東側に見える“伊是名城跡”とその手前に伸びる海岸線も、まるで絵葉書の中から抜け出てきたようではないか!
 …あ、そうそう、この海ギタラから伊是名城跡にかけての海岸線“二見ガ浦海岸”は、“日本の渚100選”に選定されている。なるほど!と納得してしまう美しい眺めだ。…しかし、このての“日本の○○100選”っていうのは、一体どこの誰が選定するんだろう?“日本の名松100選”に選ばれた久米島の“五枝の松”、“日本の道100選”に選ばれた黒島の“東筋”…滝・駅・名水・水田・音などなど、数多くの“100選”があるけれど、それら各ジャンルのエキスパートたちが集って決めてるのかなぁ?…日本全国をくまなく周って選ぶのだとしたら、大変な作業だと思うよねぇ。
 ほとんど無風状態の、晴れ渡る伊是名島の空と海。う〜む、これはやっぱりマジで“龍神洞”の龍神様のおかげだろうか。青く光る海を見ながらそんなことをぼんやり思う。
 どうして、沖縄の海の青さはこれほどまでに心を惹き付けるのか。この海の色を間近に見て、心が動かない人は居ないはずだと僕は思いたい。やっぱりね、離島には離島でしか味わうことの出来ないものがある。離島での暮らしは、僕の想像を遥かに凌ぐ不便さや苦しさの上に成り立っているのかもしれない。でも、だからこそ残されているものがあるのは間違いない。機能性や利便性を追いかける方向に向かって行こうとしている世の中が、失くしてしまったもの。そんなこと、とっくの昔からみんなが気づいていたのに、それでもどこかであきらめてしまったり、「仕方が無いこと」と強いて納得させ続けてきたもの。もう“ここ”には帰って来られないのかもしれないけど、そしていつの日か“ここ”も消えてしまうのかもしれないけど…出来ることなら、このままずっと“ここ”は“ここ”のままでいてほしいと僕は思うのです。すでに消え去ってしまった“ここ”へ思いを馳せるためにも。
 島は決して気張らず、穏やかに、いろいろなことを僕に教えてくれる。そんな島の深い部分に惹かれながらも、真正面から向き合うことに躊躇するばかりの僕。それはたぶん、僕に後ろめたい何かがあるからなんだろう。
 

またまた“陸ギタラ”。
南海岸を走っているとどうしても目に入ってくる。
まさにランドマークってな感じ。

  


“しらさぎ展望台”。
幹線道路から少し入ったところにあります。
丸い屋根がちょっと可愛いです。

  

“海ギタラ”と“陸ギタラ”を見たところ。
昨夕の景色もあれはあれでよかったけど、
やっぱり晴れてると一味も二味も違う!

  

“伊是名城跡”も見えます。
海岸線が美しい。
さすがは“日本の渚100選”に選ばれた海岸です。

  

 などとブツブツ言ってるうちに、そろそろ運天港に向かうフェリーに乗らなくちゃならない時間になってしまった。
 仲田港のターミナルビルに行き乗船の手続きを済ませ、腹が減っていたので併設されている『和風レストラン尚風亭』に入る。店はちょうどランチ・バイキングの時間帯で、1000円ぐらい(だったと思う)で「お好きなものを取り放題ですよ〜」ってな状態だった。僕は卑しい根性丸出しであれもこれもと食器に収まり切らないほどの料理を盛りまくり、すっかり満足してテーブルに着き、それらの料理と格闘した。…が、もともと大食漢では無い僕、だんだんと箸は進まなくなり、「…もうダメだ。これ以上は食えない。残しちゃおう…」という結果に相成った。バカだよねぇ、いつもいつも。

 あまりに腹パンパンなので、腹ごなしを兼ねてほんの少しの間だけどターミナルの中をひやかして歩くことにした。
 ここには伊是名の特産品を扱う売店がいくつかあった。島の中で共同売店を営む人が支店(副業?)のような感じでやっている店もあるみたい。…それにしても、かなり閑散としているのはちょっと気の毒かなぁ。まぁ、お店の人もあまり商売っ気が無さそうではあるけれど。
 ホントは何も買わないつもりだったんだけど、あまりにも閑古鳥状態だったのでついついピーナッツ菓子を買ってしまった。“じーまーみースペシャル・こんがり島の宝物”というステキなネーミングのシロモノ。
 そうこうしているうちに、フェリーが入港して来た。僕はすぐにレンタカーに戻り、フェリーに乗船する。

 伊是名島は、この旅行記の冒頭で言ったように、旅行者にとっては距離的にも時間的にも微妙な隔たりを感じさせる島だ。でも、そんな微妙な隔たりが島に豊かなものを残しているのは確か。やっぱりイイねぇ、離島は。僕はこれからも、せっせと離島に出かけたいと思う。…だけどなぁ、一泊二日で離島に行くのって、かなり無理なスケジュールなんだよなぁ。どうしても駆け足で島を巡ることになっちゃうし。せめてもう一日ぐらい余裕があったらいいのになぁ。
 仲田港を出発するフェリーのデッキからだんだん小さくなる伊是名島を見送りつつ、ちょっとした寂しさを感じながら、僕は本島に戻る。
 

“仲田港ターミナルビル”。
たぶんわりと新しい建物だと思う。
こじんまりとしてるけど、キレイなターミナルです。

   

ターミナルの中。
左側の壁には名嘉睦稔さんの大きな壁画がある。
今や尚円王に次ぐ(?)島の偉人!

   

ターミナルの中の売店コーナー。
食品・酒類・衣料品・小物などなど各種揃ってる。
…が、お客さんは少ないのです。

  

こんなにあるのか!島の泡盛。
結局一滴も飲まずに終わっちゃったよ。
飲めばよかったよなぁ〜。ちょっと後悔…

  

で、こんなの買ってみました。
砂糖でコーティングされたじーまーみー(ピーナッツ)。
不思議と後を引くんだよねぇ。

  

平良さん、引っ張りダコですけど…
ちょっとオーバーワークなのではと心配になる。
オバァだけに、オーバーワーク。オバ…

  

いよいよ伊是名ともお別れ。
船出はいつも少し寂しい。
いつかまた来たいなぁ、伊是名にも。

  

仲田集落がどんどん小さくなっていく。
『民宿まえだ』も見える。
バイバイ、伊是名島。

  

海路は実に快調でした。
きっと龍神様の御加護があったんだろう。
さ〜て、本島に戻るぞ!

  
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