海・山・空、そして村々 「もったいない!」の連続…


 民宿の夕食の時間までまだ間があったので、少しだけ伊是名の島内を車でグルグルと周ってみることにした。そろそろ陽も傾いて来ていたので、ほんのちょっとだけ島の“さわり”だけでも覗いて来ようかな、という感じで。
 民宿を出て車に乗り込む前に、民宿のある仲田の集落をふらりと歩いてみる。この集落は、たぶん伊是名島で一番大きな集落だろうと思う。背の低い古めかしい家屋に混ざって現代的な建物もちらほらと見える。だけど、集落の中は心地良い静けさに包まれている。家と家の間を抜ける狭い路地を往く車もゆっくりと走り、通りすがった地元の人同士が二言三言言葉を交わしている光景を見ていると、夕暮れ時の雰囲気と相まって何だか少々せつない気持ちにもなってくる。
 島の人たちにとっては、何てことの無いごくありふれた日常。それがこんなに胸に沁みるのは、僕がいかにそういう“日常”から離れて暮らしているか、という事実の生み出す感慨なんだろう。そう思うと、さらにせつない気持ちになりもする。
 僕が沖縄の離島に幾度となく足を運ぶのは、こんなふうにせつない気持ちになりたいから、なのかもね。「ああ、イイなぁ」としみじみと思う瞬間に出くわしたくて、僕は離島に渡るのかもしれない。べつに目ぼしい観光スポットなんか無くたってまったく構わないのだ。
 …あ、でもせっかく伊是名島に来たんだから、やっぱり名所巡りをしておかなきゃな。それに、他の集落も見てみたいし。
 僕は仲田集落の散策を切り上げて、レンタカーでの島めぐりに出発する。
 

それにしても沖縄にはこういう看板が多い。
オアシス・チョコ運動って云うらしい。
家庭学習2時間は、ちょっと大変そう。

  


仲田の集落。
やっぱり伊是名の石垣ってちょっと面白い。
平べったい石がギュ〜ッと詰まってる感じ。

  

飲み屋は島に数軒あるみたい。
『スナッククイーン』とか『スナックかりゆし』とか。
でも、気軽に入れる店かどうかは…

  

これ、ちゃんと使えるの?
単なるオブジェじゃないとは思うけど。
定期的に検査とかしてるのかなぁ?

   


集落から少し離れた名も無い(?)海岸。
水がものすごく澄んでいた。
…陽はだいぶ翳って来ちゃったけど…

  

海岸の向こうに見えるのは…
何だか面白い形の山。
あれは“伊是名城跡”のある山。

  

 仲田の集落から少し南に行くと、“伊是名城跡”が現れる。遺跡の類を偏愛する私としては、これはやっぱり外せないスポットであるのだ。なんて言ってるけど、実はこの城跡、道路沿いに不意に現れるので僕はうっかり素通りするところだった。ちょうど城跡の斜向かいの畑から出て来た軽トラックに道を譲るために一時停止をしたとき、何気なく周囲を見回して気づいた次第だ。
 …が、城跡とは云ってもどうやらここには城の跡らしきものは無いようで…って言うか、どこが城跡なのかもよく分からなかったりして(^_^;)
 道路沿いにある草の生えた空き地状態の部分に“伊是名城跡”と書かれた木札が立っていて、その奥には三角形の山(と言うか岩?)が聳えているのだが、肝心の城跡がどこに在るのかがどうも判然としない。と、三角山の下に何やら石段のようなものが見えた。おおっ?あれが城跡の入り口か?と近づいてみると…短い石段の上にはそれほど大きくは無い門が設けられている。これが城門なのだろうか?ガタガタで意外と段差のある石段を登って門をくぐると、そこは城跡では無く、どうやらお墓のようだった。その、石で作られた大きな墓は、“伊是名玉御殿”というものだった。表面に施された漆喰はだいぶくたびれていて、苔が生していたりひび割れて崩れていたりする。こんな夕暮れの中、こんな場所にひとりで居るのって、ちょっと心細いよねぇ。しかもおあつらえ向きに山の上では何かの鳥がけたたましい鳴き声を発してやがるし…あ、そうだ。お墓に来てるわけだから、ここはしっかりと御参りしておいたほうがいいな。僕は墓の前にしゃがんで、手を合わせて拝むことにした。「え〜っと…ここの中に居る人がどこのどなたかは存じませんけど、どうぞ安らかにお眠りください…」などと心の中で唱えていると、ますます不安になってきた。誰の墓かも分からずに中途半端に墓参なぞしちゃって大丈夫なんだろうか?…さっさと退散しよう。
 後で分かったんだけど、このお墓には尚円王の両親や第二尚氏王統の子孫が葬られているんだそうだ。王家の墓に対して僕はかなり失礼なことをしたのでは…?ま、イイか。死んじゃえば王様だろうとウチのじいちゃんだろうとおんなじさ。あっちの世界でまでもやれ身分だ肩書きだなんて言われたんじゃたまらないやね。
 ところで、城跡はどこにあるんだ?やっぱりあの三角山の上なんだろうか?でもなぁ、これから山登りをするのも何だか面倒だし…今はパスすることにし〜よおっと。夕食に間に合わなくて宿の人を待たせるのは申し訳ないし。今はサラッと見て周るだけね。
 


“伊是名城跡”の入り口。
何だかちょっとアヤシい雰囲気…
ところで、城跡はどこ?まさかこの荒れ地のこと?

  

これまたアヤシい雰囲気が漂う石段と門。
ここが城跡の入り口なのか?
ずいぶんと小さな城門だけど…

 


…と思ったら、どうやらお墓のようです。
“伊是名玉御殿”っていうらしいです。
第二尚氏王統が葬られているそうです。

  

天然の要塞・伊是名城。
言われなければただの三角山。
ふぅ〜、うっかり見落とすところだったぜぇ〜。

  

 “伊是名城跡”からさらに進むと、それほど離れていないところに“しらさぎ展望台”という看板が見えて来た。道路を挟んだところにはちゃんとした駐車場やトイレも完備されている。よし!行ってみるか!
 道路から海のほうへと続く緩やかな上り坂を歩いて行くと、道の脇から海と海岸線が見えて来て、僕はしばらくその眺めに見入った。でも、ここであんまり見入ってしまっては、この先にある展望台の有り難味が薄くなってしまいそうな気がしたので、再び足を進める。それほど道程は長くないのだが、一刻も早く展望台からの眺望を堪能したくて、僕は少しぬかるんだ土の道を駆け上った。結構本気で走ったので少し息が上がったが、それがまた心地良かった。そういえば、こんなふうに訳も無く走ったりするのは何年ぶりだろう。以前はしょっちゅう唐突に走り出してはすっ転んでたような気がするんだけど…
 丸い傘のような屋根のついた展望台に辿り着き、そこからグルリと辺りを見回してみる。海も山も夕陽に僅かに染まって、どこか冷たく光っていた。この展望台からは、伊是名の名所である“陸ギタラ”と“海ギタラ”を同時に見ることが出来る。向かって右側にこのふたつのギタラが、そして左側には“伊是名城跡”と白い砂浜が、まさに絵葉書さながらの姿で広がっている。
 …決めた。ここには明日もまた来ることにしよう。この眺めをぜひ昼間にも拝んでみたい!今日一日で終わらせちゃうのはもったいないぞ!
 僕は「もったいない、もったいない」と心の中でつぶやきながら、来た道をまたドタバタと駆け降りて戻った。何だか無駄にテンションがハイになっていることに自分でも気がついていたが、こうなってくるともう自分でも止められない。僕はしばらく“ハイテンションなささき”に付き合うことにした。…しかし、32にもなって「わ〜い!」などとはしゃぎながら坂道を駆け降りる男って、ちょっと怖いよなぁ。

 ハイテンションのまま“しらさぎ展望台”からさらに西へと進む。だんだんと“陸ギタラ”が目の前に近づいて来る。ニョキッと聳える岩の威容には、なかなかインパクトがある。
 この“陸ギタラ”のすぐ横に、“ギタラ展望台”という分かりやすいネーミングの眺望スポットがあった。先ほどの“しらさぎ展望台”よりもギタラが間近に見える場所だ。…って、“陸ギタラ”の真下にあるんだから当然なんだけどね。
 駐車場は無いので、ちょっと路上駐車で失礼させてもらいつつ、僕は展望台に登ってみた。展望台からは“海ギタラ”の姿もかなりハッキリと見て取れる。それにしても、伊是名島の海も結構キレイだなぁ。こんな時間だというのに(大体午後6時頃)海の底までしっかりと透けて見える。これは昼間に見るとさぞかし…うむ、やっぱりもったいない!この海はまた日を改めて見に来なくちゃな!明日の天気はどうなんだろう?晴れるといいなぁ。ピッカピカに青く輝く伊是名の海にご対面〜♪ってな状況になってほしいものなんだけどなぁ。
 いやぁ、明日が楽しみですねぇ。“明日が楽しみ”…こんなに幸せなことは無いね。僕は無意味に血が滾るような感覚に振り回されるようにやたらとそこいらへんを駈けずり廻り(走んなくてもイイのにさ)、些細なことに胸躍らせる。息切れさえもいとおしい。「生きてる!」って実感する、って言うんですか?前回の沖縄旅行のときに、あれほど「悲しい」だとか「つらい」だとかウジウジ言ってたヤツと同一人物とは思えないようなゴキゲン兄さんに変貌を遂げてしまった私。そのゴキゲンぶりはさらに続く。
 

“しらさぎ展望台”から見た“二見ガ浦海岸”の東側。
伊是名城跡の山もしっかりフィーチャーされてる。
これはなかなかお得な眺め。

  

右のほうにポコッと飛び出た山(岩)があるでしょ?
あれは“陸ギタラ”。
その左の突端にちょこんとあるのが“海ギタラ”。

   

これは“ギタラ展望台”から見た伊是名の海。
やっぱり水が透き通ってる。
海底までクッキリ見えます。

  

“ギタラ展望台”から見た“陸ギタラ”。
“ギタラ”ってのは“崖”とか“岩”とかいう意味らしい。
切り立った姿を間近で見るとなかなか壮観。
  

で、こっちは“海ギタラ”。
わりと小さい感じですけども。
う〜む、明日天気が良かったらまた来よう♪

  

“伊是名漁港”の夕景。
波の音しか聞こえないほど静まり返ってる。
しばらくボ〜ッとしてみたり。

  

 “ギタラ展望台”を後にしてさらにさらに西へと向かうと、こんもりとした緑の中に埋もれるような集落が見えて来た。“伊是名集落”だ。背の低い平屋の建物がフクギ並木の中に整然と並んでいる様は、どことなく竹富島の集落を彷彿とさせる風情に溢れている。僕は車を集落の外に停めて、フクギ並木の中へと入って行った。
 この集落は、フクギと低い石垣で囲われていて、沖縄の原風景を思わせる。…って、僕は沖縄の原風景を知ってるわけじゃないけどね。飽くまでもイメージの問題としてね。
 竹富島のあの美しい街並みがきちんとした保存区域として大切に護られているのと同じように、どうやらこの伊是名の集落にも街並みを保存する会のようなものが存在するらしい。そうやって意図的に護っていかなければならない、というのはちょっと残念ではあるし、ひょっとするとその段階ですでに不自然な姿になっていると言えるかもしれない。僕がこういった風景を有り難がるのは、外国人が京都や奈良を見て「これぞジャパンの真の姿!エクセレント!!」などと色めきたつのとそう変わらないのかも…しかし、たとえそれが余所者の身勝手な感慨であるとしても、やっぱりいいものはイイ!ましてや、この伊是名集落の保存が、観光目的だけではなくて島の人の「残したい」という気持ちの賜物なのだとしたら、こんなに素晴らしいことは無い。
 僕はだんだんと薄暗くなって来た集落の中を、しばらくウロウロと彷徨った。時折、風でザワザワと音を立てるフクギの下を、珊瑚の残骸を積み上げた素朴な石垣の横を、ボケ〜ッとしながら歩いた。が、ここでもやはり「もったいない!こういう場所は陽射しが照りつける時間帯にしっかり歩かなくては。明日また来るぞ、絶対!」と思いたち、僕は集落を出た。
 …さっきから、「明日また来るぞ!」っていう結論にしか達してないじゃん。だったら今こうして島めぐりするのって時間の無駄なんじゃないの…?一抹の疑問を抱きつつ、それでも僕の島めぐりは止まらないのであった。
 

伊是名の集落。
フクギ並木と石垣に囲まれた集落。
ちょっとばかり感動!

  


決して広い集落じゃないけれど、イイねぇ。
時間がゆっくりと流れているのがハッキリ分かる。
フラフラとどこまでも歩いて行きたいような。

  

赤瓦じゃないこの瓦は何ていう瓦?
結構見かけるんだよね、こういう屋根瓦。
これはこれで風情があるんだけど。

  

さて、伊是名の石垣なんだけど…
他の島の石垣とは微妙に違うのです。
それはまた後ほど…

  

フクギで覆われているけど、建物が低いので不思議な解放感がある。
ここもやっぱり明日また来よう。
やっぱり昼間にも歩いてみたいしね。

  
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