伊是名島序章その2 …って、まだ島に着かないのか!?


 ターミナルに入ると、切符売り場の窓口のカーテンが開いていた。どうやら乗船手続きが開始されたようだ。僕は売り場にバッと飛びついた。窓口には若い女性が座っていた。
 「すみません、フェリーに車で乗りたいんですけど…」
 「はい、え〜と、予約はされてますか?」
 「(ええっ!?やっぱり予約してないとダメなのか!?)…いえ、してないんですけど…」
 「そうですか…では、車検証をお持ちですか?」
 「はい、…これです」 僕はレンタカーの車検証を差し出した。
 「え〜、それではこちらに記入してください」
 そう言って女性は一枚の紙を僕の前に置いた。それは搭乗者の氏名住所、車の種類、島に滞在する日数などといった事項を書き込む書類のようなものだった。記入欄の中には「伊是名島に行く目的は?」とか「伊是名島のどんなことに関心がありますか?」なんていうアンケートめいた項目まである。それを書き終えて女性に渡す。
 「あ、そうだ。帰りの船の予約って、今ここでしちゃっても大丈夫ですか?」
 「はい、大丈夫ですよ」
 僕は明日の午後1時30分に伊是名を発つ便に予約を入れた。よし!これで帰りもバッチリだ。安心して時間いっぱいまで島を周れるぞ!
 
 …さてと、これから船の時間までどうしようか。と、ターミナルの中に食堂があったので、そこで少し腹ごしらえでもして行こうかな。
 食堂…しかし、この食堂、何だかスゴイな。ターミナルの奥の壁にアルミのドアがあって、そのドアの上に真っ赤な文字で“食堂”と書かれているのだが…その醸し出す雰囲気にはかなりのインパクトがある。ドアの横には窓もあるのだが、どういうわけかマジックミラーになっていて、ターミナル側からは店内の様子がまったく窺えない。
 店内に入ると、沖縄そば屋独特の匂いがムッと押し寄せてきた。食券の販売機があったので、そこで沖縄そばのチケットを買い、厨房に声を掛ける。厨房の中では三角巾にエプロン姿のオバァが、奥のほうに屈み込んで野菜を洗っていた。
 「あ、すみません。これ、お願いします」と、僕が食券を差し出すと、オバァはこちらにやって来て「はい。座って少しお待ちくださいねぇ」と言いながら食券を持って、再び厨房の奥に引っ込んで行った。
 席に着いて店内を観察する。…なんとも言えないこの圧迫感。どうしてこの店はこんなに窮屈な感じがするんだろう?…あ、そうか。窓がひとつしか無いからかも。ターミナルに面した壁にマジックミラーの窓があるだけなんだ。しかもマジックミラーだから、窓からの眺めがあまりクリアでは無く、入り込んでくる光も弱い。う〜ん、何だか落ち着かないなぁ。
 「おまちどうさま」 えっ!?そば、もう出来たの!?頼んでから3分ぐらいしか経ってないよ。早っ!厨房で何かを調理してた気配もほとんど無いまま、あっという間にそばが出て来た。
 僕はそのそばを厨房から受け取り(セルフサービス)、そばを啜りながら、壁に貼られたポスターを眺めた。ポスターはそのほとんどが名嘉睦稔さんの絵をモチーフにした伊是名の観光PRポスターだった。殺風景な店に唯一彩りをもたらすアイテムだ。
 ところで、やんばるの沖縄そばって、那覇なんかで食べるそばより味が濃いと思うのは僕だけ?塩味が強いって言うか。僕は名護にある『宮里そば』が大好きなんだけど、その『宮里そば』もかなり濃い口の味だ。辺戸岬の売店で食べたそばもそうだったし、他にも思い当たる店が何軒かある。僕は好きなんだけどね、味が濃いそば。
 
 そばを食べ終わるのにそれほど時間は掛からない。“食堂”に入って10分そこそこで店を出た。まだ時間に余裕がある。
 僕は再び運天港を離れ、少しだけ車で近場をウロウロしてみることにした。
 


コーラの自販機があるのは売店。
その奥がキップ売り場。
イイ感じで鄙びてて個人的にはツボ。

  

同じ港から伊平屋島にも行けます。
伊平屋の船に乗る人も結構多かったですよ。
いつか伊平屋にも行ってみよう!

  

…この微妙な感じ。
赤い文字も微妙。
窓がマジックミラーになってるのも微妙。

  

食堂の厨房。
果たして扇風機だけで暑さをしのげるのか?
オバァは奥で野菜を洗ってます。

  

妙な圧迫感のある空間。
充満する嗅ぎ慣れないダシ(?)の香り。
エアコンがオフになってるので、ちょっと蒸す。

  

沖縄そばを食べました。
味はわりと濃い目。
北部のそばって味が濃い気がしない?

  

睦稔さんはやっぱり島の生んだ偉人なのかなぁ。
これは“伊是名集落”を描いたものですね。
…後で分かったんだけどね〜。

  

 運天港からそう離れていない場所に“ウッパマビーチ”があった。このビーチに向かう途中の道路で、マングースと遭遇した。僕の走る車の前を、ササ〜ッとマングースが素早く横切っていったのだ。はじめて遭遇する“生マングース”に、ちょっと感激したりして。
 ビーチには人っ子ひとり居らず、波の音と風の音しか聞こえない。静まり返った砂浜に座って、僕はやや薄曇りになってきた空と海をぼんやり眺める。
 …これって、端から見たらかなりヘンな光景だろうと思う。冬の海で男がひとり、誰も居ない浜辺にぽつんと座り込み、ボ〜ッと海を見つめる。何だか悲愴感が漂っちゃうシチュエーションだよね。でも、本人はそれなりにイイ気分だったりする。何しろ、観光島・沖縄の海を独り占め状態なのだから。ただし、さすがに2月の海はちょっと肌寒い。陽が照っていれば暖かい(場合によっては暑いと感じることも…)んだけど、太陽が雲に隠れると途端に冷えてきて、風も意外に冷たい。
 それにしても、気に掛かるのはこの天気。さっきまで気持ちよく晴れていたというのに、伊是名島上陸直前になって、いきなりこの空模様だ。今日はともかく、明日の天気が心配になって来た。せっかくの伊是名初上陸なんだから、どうせだったら青い空&青い海を堪能したいものなんだけど…
 あっ!いかん!そろそろ港に戻らないと!うっかりビーチで予想以上の時間を過ごしてしまった。少し慌てるよぉ〜(←恵達オジィの口調で)
  


ウッパマビーチ。
雲が多くなってきて、海の色は今ひとつ。
それはそれは静か。

  

枯れ枝…これってブーゲンビリア?
白い建物と相まってちょっとイイ感じ。
コカコーラの壁に直書きのロゴもまたイイね。

  

その白い建物は『うっぱまパーラー』。
でもシーズンオフなので完全閉鎖中。
ちょっと寂しいなぁ。

  

ビーチに面して聳える『ベルパライソ』。
正式には『ベルモア東洋ベルパライソ』。スペイン語?
傾いて見えるのは、僕のカメラのせいです。
  

ほらね、だ〜れも居ない。
シーズンオフの沖縄の海って、結構静かだよね。
年中観光客が来てるわりには…

  

海の家(?)の類もあるし、夏場は大賑わい?
やんばるのビーチって穴場感が高いよね。
“穴場感”なんて言葉があるかどうかは知らないが。

  

天気がもうちょっと良ければ、さぞかしキレイなんだろう。
…俺はやっぱり雨男なのか?
徐々に高まりつつある不安…

  

沖に浮かぶのは“古宇利島”。
古宇利島といえば、ウニ。
軍艦巻きとかでパクッといきたいねぇ。

  

 運天港にすっ飛んで戻ると、丁度桟橋にフェリーが到着するところだった。さすがはフェリー。いつも離島に行くのに利用する高速艇とは比べものにならないスケールのデカさだ。僕は船での移動が結構好きなので、こういうのを見ると無性にワクワクする。
 フェリーが港に到着する時間に合わせて、桟橋やターミナルは急に人や車で慌しくなってくる。ついさっきまでの弛緩しきった港の様子からは想像がつかない賑わいだ。
 着岸したフェリーからは、乗船していた人と車輌が次々と陸に吐き出される。それと同時にコンテナなどの積荷も降ろされて、港のあちこちで荷解きする人や荷を車に積み替える人の人だかりが出来た。
 …ところで、僕は一体どこで待機していればいいんでしょうか?車でフェリーの船尾の辺りに近づくと、そこにはすでに10台を越える車が乗船待機していた。誘導係(?)のおじさんに促されるままにその最後尾につけるや否や、先頭から次々にフェリーの中に入っていく。よ〜し!いよいよ伊是名島に向けて出航だ!!
 
 無事乗船を果たし、僕はフェリーの中をウロウロと歩き回ってみる。普段滅多に乗る機会の無い乗り物なだけに、興味津々♪
 シートが整然と並んでいる船室、床にカーペットが敷かれただけの船室、ラウンジ風の船室、どこをとっても八重山の高速艇に比べたら格段に立派。「ちょっとばかりリッチな気分だなぁ」などと思える僕は、我ながら実に貧乏臭い。
 船室巡りをひと通り終えて、僕は2階(?)部分にあるデッキに出てみた。風がスゴイ!ベンチに腰掛けようとする僕のすぐ脇を、灰皿と空き缶入れがゴゴゴゴと音をたてて滑るように吹き飛んでいく。僕は慌ててそれを止め、元の定位置に戻す。が、すぐにまたゴゴゴゴと滑ってしまう。…放っておこう。
 しかし、マジで風が強い。船の上げる波しぶきが風に煽られて、2階のデッキまで飛んで来る。こうしてただベンチに腰掛けているだけなのに、何だか疲れてくる。
 そうそう、船と言えば気になるのはやっぱり“揺れ具合”。このフェリー“ニューいぜな”には、横揺れ制御装置だか何だか云うものが取り付けられているらしく、確かにこれだけの強風のわりには揺れが少ない。が、大型船独特の揺れ方をする。ユラ〜リユラ〜リと緩慢な調子で、その揺れ幅は意外と大きい。離島を結ぶ高速艇の激しい揺れとはまったく違う。例えるならば、高速艇がジェットコースターならば、フェリーはシーソー。そう言ってしまうと「なんだ、チョロいチョロい」と思うかもしれないが、ひょっとするとフェリーの揺れのほうが船酔いを誘発しそうな気もする。高速艇って、酔ってるヒマが無いっていうぐらいに揺さぶられるし。そこいくとフェリーは「ああ、今俺は海の上でユラユラ揺れてるんだ〜」ということを意識せざるを得ない揺れ方だ。
 そんなことをぼんやりと考えていると、デッキの片隅で鉄柱を掴んで佇んでいた男性(作業着を着ていたので工事関係者だろう)が、蒼ざめた顔でバタバタとデッキを駆け降りて行った。…酔ったな。気の毒に。それにしても、沖縄の離島で生まれた人にだって乗り物に弱い人が居るだろうと思う。そういう人ってメチャクチャ気の毒だよなぁ。島から出ようとなれば、必然的に船を利用することになるんだろうし…

 ちょっとトイレに行きたくなったので移動すると、トイレの個室の中からは禍々しい嗚咽が…(^_^;) どうやら本来の使用目的で個室に入っている人は居ない模様で、2つの個室からはとても文字化できないような音声が聞こえていた。さらに、このトイレには“汚物流し器”なるものも設置されていた。これは、便座の無い四角い洋式便器のような物体で、レバーを押すと水洗トイレのように水が流れるしくみになっている。まぁ、平たく言っちゃえば“ゲロ吐き便器”だね。だけど…こんな何の仕切りも無い流し器で吐いたりしたら、他の人から丸見えじゃんか。それは吐いてる本人にも、たまたまその場に遭遇してしまった人にも、あまり喜ばしい状況では無かろうて。
 僕がトイレの中でこの“汚物流し器”をマジマジと見ていると、個室の中から涙目になった男性が出て来て、洗面台に手をついて「ハァ〜」と深いため息をし、しばらくジッと床を見つめていた。僕は心底気の毒だなぁと思いつつ、トイレを離れた。擦れ違いざまに、一目で様子がおかしいと分かる男性がトイレに早足で向かって行った。…こんなに船酔い比率の高い船に乗り合わせたのは、今まで沖縄を旅していてはじめてだ。あれほど猛烈に揺れる八重山の船でさえ、こんな光景を目にしたことがないのに…

 再びデッキに戻り、そばにある自販機で缶コーヒーを買い、タバコで一服しながらコーヒーをチビチビ飲みながら、海を見る。陽がだんだんと傾いて来て、海原は銀色に輝いていた。何とも崇高な眺めである。「ああ、離島に向かってるんだなぁ」という感慨をひしひしと感じつつ、僕はすっかりイイ気分になってうつらうつら…
 

さ〜て、フェリーがお出まし!
高速艇と比べると、なかなか立派です。
思えば、沖縄でフェリーに乗るのははじめてかも…

  

港に船が着いた途端、動きが活発になる。
車や人がゴソゴソと動き回る。
俄かに活気付く運天港。

  


伊是名から運ばれた荷物を降ろす人たち。
ムーニーマンの段ボールの中身はなんだろう?
紙おむつで無いのは確かだと思うが…

  

島の英雄・尚円王の雄姿が船体に。
琉球王朝第二王統の始祖。
ポーズはクラーク博士と激似だが。

  

お〜、なかなかリッチな雰囲気じゃん。
フェリーって楽しいよね。「船旅」って感じがしてさ。
船内にはこれ以外にも客室がいくつかありました。

  

でも、乗り物酔いする人にとっては…
この下には真四角の洋式便器のような物体が。
個室で嘔吐してる人も居ました(^_^;)

  

古宇利島に架かる橋が出来つつあります。
そう遠くないうちに本島と陸続きに。
島の人にとっては便利になって喜ばしいことかもね。

  

古宇利島にもいつか行くことにしよう。
…あ、べつに僕は全島制覇を目指してるわけじゃないよ。
そういうのにはあまり関心ないし。

  


2階部分のデッキ。
風がスゴイ!灰皿やゴミ箱が風で激しく動き回る!
うっかりすると人間も飛ばされそうな勢い。

  

波頭が薄い青なの、分かるかなぁ?
これを撮ってるとき、見知らぬおじさんに
「おにーさん、危ないよ〜」と注意されちゃった。

  

もうすっかり夕方の海、って感じだねぇ。
…って、まだ伊是名に着いてないのに!
今日は島をあんまり周れないかもなぁ…

  
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