伊是名島序章・「俺様は晴れ男だ!絶対!きっと!…だとイイなぁ…」


 伊是名島は、思いのほか遠い島だ。
 沖縄本島からフェリーで約55分。と聞くと「な〜んだぁ、それほど遠くないじゃん」と思われるかもしれないが、これがなかなか大変なのだ。まず、那覇空港に降り立ったら、一路“運天港”まで移動しなければならない。伊是名島と本島を結ぶフェリーは、この運天港から出航している。運天港というのは、本島の北、名護市よりもさらに北西に位置する“本部半島”(今帰仁城跡や沖縄海洋博記念公園があるところね)にある。つまり、伊是名に行くためには、まずはやんばるまで移動しなければならないのだ。那覇から運天港までは、車で約2時間は掛かる。となると、「はい、那覇に着きました〜!」という時点から運天港へ、そしてそこから1時間弱の船旅を経るわけだから、トータルで最低3時間は費やすることになるのだ。3時間もあれば、那覇空港から石垣島にひとっ飛びして、そこから八重山の離島へも移動できる。
 さらに、伊是名と本島・運天を結ぶフェリーは、1日2往復のみ。運天港発は午前10時30分と午後3時30分の2便。となると、日帰りはとても無理。例えば10時30分の便で伊是名に向かうと着くのは11時半頃。で、その日のうちに本島に戻って来るとしたら、伊是名を13時30分に出る船に乗らなくてはならない。…さすがに2時間で島をすべて見て周るのはキツいでしょう。
 フェリーの他に、飛行機でも伊是名島に行くことは可能なのだが、この飛行機もやはり1日2往復。この飛行機で伊是名島に行ってもよかったんだけど、いずれにせよ日帰りは無理なので、僕としてはフェリーで海を見ながらのんびりと島へ渡りたかった。
 長々と細かいことを書いちゃったけど、とにかく伊是名島は、その地理上の距離以上に遠い島だと僕は思う。「ちょこっと伊是名にでも行ってみるかなぁ…」などという軽い気持ちで行ける島とは言い難い。

 2月3日、朝6時30分に羽田を飛び立ち、那覇に着いたのは定刻より10分ほど遅い9時30分頃。それからレンタカーを借りて猛ダッシュで運天港まで車を走らせたとしても、どう転んだって10時半の船には間に合わない。となれば当然、次の午後3時半の船を選択せざるを得ない。もうどうやったって日帰りは不可能だ。
 さて、これからまず何をするべきか。僕は那覇空港の軽食屋でコーヒーなんぞをノンキに啜りながら、ぼんやりと考えていた。
 実は、伊是名島に行くことを決めたのは、つい昨夜のことなのだった。それまで「慶良間にしようか、伊是名島にしようか…どうしようかなぁ」と、行き先を決めあぐねていたのだ。そこで、たまたま沖縄出発前夜に『ちゃんぷる亭』のなこさんと電話で話す機会があって、「慶良間と伊是名、どっちに行ったほうがいいと思う?」と参考までに訊いてみた。するとなこさんは「伊是名に行ってほしいなぁ。ボクネンさんファンとしては」という答えを返して来た。あ〜、そうかぁ。伊是名島出身の芸術家・名嘉睦稔さんね。僕はそのことをすっかり忘れていた。なこさん曰く、「ボクネンさんファンの方は、結構伊是名島に行ってる」らしい。う〜む、かなり熱いな、睦稔ファンも!と僕は感心した。で、結果的には、このなこさんのひとことで僕の伊是名島行きが決定したわけだ。
 …だけど、伊是名島に行くと決めたはいいが、そのための段取りを何ひとつしないまま沖縄にやって来てしまったので、僕は運天港の正確な位置も把握していなかったし、伊是名での宿泊先もまったく決めていない状態。唯一持っていたのは、フェリーの運航時間をメモ書きした紙切れ一枚のみ。相変わらず行き当たり場当たりで無計画な旅行をしようとしている俺って、なんて進歩の無い人間なんだろう。
 軽食屋を出て、真っ先に向かったのは空港内にある本屋。そこで『沖縄・離島情報』というガイドブックのようなものを購入した。これで運天港の位置や、伊是名島の大まかな状況は分かるし、伊是名島の宿泊施設の情報もバッチリ。僕は、伊是名行きのフェリーの料金などをそのガイドブックで確認しようとチェックしたのだが、料金云々よりもまず気になったのが、“乗用車定員40台”という点だった。僕は那覇でレンタカーを借りて、そのままフェリーに車ごと乗り込むつもりでいたのだが、予約も何もしていない状態で、果たして車ごとフェリーに乗れるんだろうか…?というのが少し心配になって来た。40台というキャパがどれぐらいのものなのか、今ひとつピンと来ない。車で意気揚揚と運天港まで行ったはいいが、「残念ですけど満車で〜す」なんて言われてしまったら…何もかもが木っ端微塵&水の泡だ。でもなぁ、かと言ってわざわざフェリー会社に電話で予約を入れるのも、何だか大袈裟な気もするし…ここは少し早めに運天港に移動することにしよう。となれば、こうしちゃ居られない。さっさとレンタカーを借りなければ。

 空港を出て路線バスで“軍桟橋前”の停留所まで向かう。バスを降りて『フジレンタカー』に入り、僕は車を借りようとした。が、「すみません、今日はあいにく車がすべてご予約でいっぱいになっておりまして…」と言われてしまった。ゲッ!マジで!?今まで何度も飛び込みで利用していた『フジレンタカー』だったが、断られたのは今回がはじめてだった。…ということは、ひょっとすると、あのテロ事件以降の“沖縄観光の危機的な状況”が回復しはじめてる、ってことかな?それって喜ばしい話じゃん♪そうだよねぇ、もうあれから半年弱の時間が経過してるわけだから、もうそろそろ観光客が沖縄に戻って来てもおかしくないよなぁ〜。…って、今はそれを喜んでる場合じゃない!
 僕は心中穏やかじゃない。もしもこのままレンタカー屋で総スカンを食らったら…伊是名島どころの騒ぎじゃないぞ。とりあえず、那覇市街地方面に向かって歩いていると、別のレンタカー屋が見えて来た(名前は忘れました。すみません)。僕はその店に飛び込み、車を借りたいと申し入れた。
 「あの、車をお借りしたいんですけど。車は空いてますか?」
 「はい、大丈夫ですよ〜」
 よかったぁ〜!無事レンタカーを入手することが出来て、僕はホッとした。

 とにかく、このまま一気に運天港まで走り抜けるぞ!全身に無駄に気合を漲らせつつ、沖縄自動車道に入る。空港でのんびりしたりなんだりしていたので、すでに時計の針は11時間近を差していた。これから2時間ぐらい掛かるとして、運天に着くのは午後1時頃だな。船の時間まではかなり余裕があるけど、早め早めの行動が大切だ。僕はいつに無く慎重になっていた。
 …あ、そうだ!伊是名島での宿泊先を確保しておいたほうがいいな。高速道路を走っている途中でそう思い立ち、中城のパーキングエリアに立ち寄った。先ほど買った『沖縄・離島ガイド』の宿泊施設リストを広げると…ありゃ、伊是名って案外民宿が多い。12軒もある。う〜む、どこの宿にしようか…僕はいろいろと迷って、結局『民宿まえだ』というところに電話してみることにした。決め手は“各部屋バス・トイレ付き”だったのと、客室の多さだった。ここだったら「満室です」と断られることも無いだろう。
 「………あ、もしもし、『民宿まえだ』さんですか?今日一泊、そちらで泊まりたいんですけど、大丈夫でしょうか?」
 「はい、大丈夫ですよ〜」 電話口に出たのは若い女性だった。てっきりアンマーかオバァが出て来るものだと思っていたので、一瞬怯む僕。
 「お食事はいかがいたします?」と、女性が尋ねてきた。
 「え〜っと、そうだなぁ…じゃあ、今日の夕食と明日の朝食をつけてください」 何しろ、伊是名に食堂などの食べ物屋がどれぐらい在るのかも分からないし。
 「はい、分かりました〜。…あ、それから、宿までの送迎はどうしましょうか?」
 「レンタカーで島に行くので、送迎は大丈夫です」
 「じゃあ、こちらの場所はお分かりになりますか?」
 「え〜っと…分からないですけど、何とかなると思います」(←ホントに大丈夫か?俺)
 「そうですか。では、お待ちしております〜」
 よし、宿も確保できた。これで心置きなく運天港に向かえるぞ。
 
 この日の沖縄上空は、雲は少し多めではあったが晴れていた。前日の天気予報では「沖縄地方は曇りのち雨」なんて不吉な予想を言っていたが、その予想は見事外れたようである。
 僕はこの上ないゴキゲンな気分に包まれて、ラジオから流れてくる80年代の洋楽とインチキ英語でデュエットしながら、快調に北へ北へと車を走らせた。
 

これ、見覚えある人も多いでしょ?
そういえば、仁丹って最近食べないねぇ。
グリーン仁丹とかレモン仁丹とかあったよねぇ。

  

沖縄自動車道、中城PA。
とってつけたような赤瓦が…ステキです(^_^;)
ここで得体の知れないメーカーの缶コーヒーを買った。

  

コリンザ。
いつも「閑古鳥」だのと言ってますけど…
頑張って欲しい!!

  

名護の海。
沖縄の海の色は、何度見てもやっぱりイイ!
天気もまずまずで気分もイイ!

  

 名護市までは実に順調に到着した。が、58号線で名護市街地を抜けていくと、突然渋滞に巻き込まれてしまった。おいおい、なんでこんなところで渋滞なんかしてるんだ!?
 …あ、そうか!みんな花見に行くんだ!と僕は気づいた。この頃ちょうどヒカンザクラが見頃を迎えていて、沖縄隋一の花見スポット・八重岳に花見客が殺到していたのだ。
 あ゛〜、イライラする!こんなことになっていると知っていれば、違うルートで運天に向かっていたのに〜!だってこの渋滞、シャレにならないぐらい酷いんだもんよ〜。結局、20分ほど渋滞に付き合わされるハメになった。八重岳に向かう支線を越えると、道路は何事も無かったかのように空いた。運天は近いぞ。
 
 羽地内海を右手に見ながら、本部半島の北沿岸に沿って道を進んで行き、午後1時ちょっと過ぎに運天港に到着した。
 運天港の周辺には、時間貸しの有料駐車場やレンタカー屋などが数軒並んでいた。今まで利用した沖縄の港では、あまりこういう光景を見たことが無い。とくに有料駐車場。久高島に行くときに利用した“安座真港”には無料駐車場があったし、コマカ島行きの船が出る“知念レジャーセンター”にも無料の駐車スペースがあった。土地は豊富にあるんだろうから、何も駐車料金なんて取らなくても良かろうに…などと思ってしまうのは、部外者の勝手な言い分か。
 ともかく、僕はさっさと港の中に入り、ターミナルへと向かった。が、ターミナルの中の乗船券売り場の窓口にはカーテンが引かれていて、「乗船手続きは出発の1時間前から受付けます」という張り紙がしてあった。…なんだよ〜、せっかく早めに手続きをしようと思ってやって来たっていうのに〜。出発1時間前、ということは、2時半にならないと窓口が開かない、ってことか。それまで、どうやって時間を潰そうか。
 僕は一旦港を離れ、近くをウロウロしてみることにした。
 

ご覧のとおり、運天港。
船の出入りが無いと、かなり静まり返っています。
ちょっと不安になるぐらいに(^_^;)

  


ターミナルも静か。
中には売店や食堂もあります。
中の様子は、また後ほど…

 

なんか、釣りをしてる人が居るんですけど…
漁業権とか関係無いんでしょうか?
ま、そんな硬いことを言う必要も無いのかもしれないけど。

  

 港から車で少し走って行くと、『嵐山展望台』という表示板が見えた。へぇ〜、展望台か。ちょっと行ってみようかな。
 表示板に従って、山道をどんどん登って行く。車窓越しに、山の林の切れ間からチラチラと運天の海が見下ろせた。何とも気分がいい。道が山際から少し内側に入ると、そこには畑が広がるのどかな景色が現れる。しばらくそんな風景の中を進んでいると、道路沿いにやや小振りな2階建ての展望台が見えて来る。道路を挟んだ向かい側に広い駐車場も完備。
 展望台の1階部分は売店のようになっていて、地元で採れた野菜や果物などを中心に販売していた。タンカンを売っていたので、僕はそれを買ってしまった。タンカン、好きなんだよね。
 そのまま2階の展望台へと移動する。展望台からは羽地内海が一望できて、ちょっとしたパノラマ気分。…それにしても、今日は風が強いなぁ。フェリーはちゃんと出航するんだろうか。僕は一瞬、多良間島での台風騒動のことを思い出していた。あのときと同じように、伊是名島に渡ったはいいが島に閉じ込められて戻れない、なんてことになったら…と少々不安な気持ちになる。
 展望台には、僕のほかにも見物客が居た。おじさん1人とおばさん2人が、建物の壁に取り付けられた腰掛に座って、お弁当を食べながら楽しげに談笑していた。そう言えば、腹が減ったな。どこかで何か食べて行こうかなぁ。
 

『嵐山展望休憩所』。
以外にも(?)見物客は結構来てました。
案外、本部半島の穴場スポット?

  

1階の売店。
商売っ気の無い気だるい空気が漂っております。
タンカン買っちゃった♪

  

展望台からの羽地内海の眺望。
「沖縄の瀬戸内海」と言われているとかいないとか。
…瀬戸内海見たことないから、なぁ〜…

  

辺りも静かだし、居心地はなかなか良いです。
ぼんやりと眺め続けていたい気分。
夕方に来ても良さそうだねぇ。

  

 再び運天港の辺りまで戻って来た。が、ターミナルの窓口が開くまでまだ時間があったので、僕は港の西側にある集落のほうへと行ってみることにした。
 運天の集落を抜けて山の上へと向かって行くと、“運天森公園”という場所に辿り着く。そこにも展望台があって、展望台のベンチには何やら10人前後の人が座っていた。僕はその人たちを気にしながら、展望台の中に入っていった。
 その人たちは、ひとりのおじいさんの話を熱心に聞き入っているようだった。…一体、どういう類のグループなんだろう?
 「ああ、そういう話はキリスト教にもありますねぇ」
 「そうねぇ、仏教にも同じような説法が…」
 …何だか宗教がかった話をしてますけど…ハッ!ひょっとして、何かの宗教団体の人たち!?と僕は少し警戒する。が、どうやらそれは僕の思い過ごしのようで、みんなが聞いていたのは、おじいさんが語る“古宇利島の神話・言い伝え”の話だったようだ。
 僕もおじいさんの語る古宇利島の神話を聞いてみたいと思ったが、残念ながらその話はすでに終わってしまったらしく、「…じゃあ、そろそろ行きましょうか」との言葉でみんなは席を立ち、ぞろぞろと公園を去って行ってしまった。
 誰も居なくなった展望台で、少しの間目の前に広がる運天の海を見ていたが、背後からイチャイチャカップルがもつれ合うようにしながら展望台にやって来るのに気がつき、邪魔をしちゃ悪いと思って展望台を去ることにした。
 カップルは僕と擦れ違うように展望台に入って行き、海を見ながらキャーキャーと騒いでいた。ついさっきまで、静かに神話が語られていた場所が、俄かにデートスポットと化す瞬間だ。まぁ、どちらが良いとか悪いとかは一概に言えないとは思うけど。
 

『運天森公園』の展望台。
中に集まる人影…結局何の集まり?
すごく気になる。

  


その展望台から見下ろす運天の海。
古宇利島に架かる橋の工事が進行中。
…あれ?今年開通するはずだよね…

  

 運天の集落に戻って来ると、この集落がまたかなり味のある集落だった。2月とは思えないような真っ白に照り付ける陽射しの中で、古い家屋と新しい家屋が狭い集落の中にひしめいている。まるで廃墟のようにさえ見える瓦屋根の家の軒先に、洗濯物が干してあったりして「へぇ〜、しっかり現役なんだぁ」と感心したり。
 この集落には“神アサギ”という、祭祀の行事などを行う祭場がある。元々はほとんどの集落、御嶽にあったものらしいけど、今でもその姿を残しているものは少ないらしい。とは言え、ここ運天の神アサギもブロック塀で新しく作り直されたもののようで、パッと見「倉庫か何か?」と思ってしまうような感じではある。でも、今でもこういった場所が残され、ちゃんと機能しているのがイイなぁ、と思う。
 ぼんやりと集落をほっつき歩いていると、何だか時間の経つのを忘れてしまいそうな…あ、そう言えば今何時なんだ?こんな悠長なことをしてて、うっかりフェリーに乗り遅れたなんて冗談にもなりゃしないぞ。…おっ、そろそろターミナルに行ってもいい時間だ。
 いよいよ伊是名島だ。はじめて訪れる島、伊是名島。無性にワクワクするなぁ〜。やっぱり「離島に行く」というのは、何故だかとても心躍る。ましてやそこがはじめての場所ともなれば、僕のウキウキ度数はピ〜ンと針が振り切れてしまいそうな勢いで急上昇だ。
 逸る気持ちを抑えつつ、運天港ターミナルへダッシュ!!
 

古い家屋の佇まい。
天然木の柱も、板張りの壁も。
何とも言えない独特の味わい。

  


心なしか傾きかけてるような気がするけど…
これは空家のようでした。
壁もすっかり外れてますし。

  

集落の中のアジマァ(交差点)。
穏やかな気配が溢れてる。
日曜の昼下がり。

  

古い家と新しい家が混在する。
でも、それがまた不思議な風情を生み出す。
奥に見えるは運天の森。

  
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