風雲急を告げる北限


 58号線で名護に入るとすぐに見える『丸隆そば』。僕らはそこで食事することにした。この店、いつも視界に入っては居たものの、なかなか入るきっかけが無いままだった。
 店内に入ると、思った以上に広い。ひょっとすると今まで僕が入ったことのある沖縄の“食堂”の中では、一番広い店かもしれない。テーブルがたくさん並んでいて、座敷のスペースもある。その座敷では、地元の客と思しきおじさんグループが、昼間っからビールをガンガンに呷(あお)っていた。「まぁ、見慣れた光景ではあるけれど…」と思いつつ、こういう光景を「見慣れちゃってる」で片付けてしまう自分もどうか、とも思ったり。

 僕は「ソーキそば」と「おにぎり」を注文した。Kは大盛にしようかどうか少し悩んでいたが、結局普通盛りの「野菜そば」を注文。空いているテーブルに適当に着いて、周りの様子を観察していた僕の目に、ちょっとビックリするようなものが映る。店の人がお客さんに運んでいるそばのどんぶりが、何だか異様にデカいのだ。
 「…あれって、“そば・大盛”だよねぇ…まさか、普通サイズのそば、ってことは無いよねぇ…」
 「どんぶりから具が飛び出してるよ…うわ!あのおにぎり、デカぁ〜!…ささき、確かおにぎり注文してたよね…」
 そんなデカいそばの脇に、これまたえらく大きなおにぎりが添えられているのが見えた。その大きさはと言うと…ちょうどコンビニで売ってるおにぎり3個分ぐらいをひとつにまとめました、といった感じだろうか。
 「…どうしよう…食い切れるんだろうか…」
 急に心配になってくる僕ら。そもそもさっき寄った『御菓子御殿』で購入したお菓子を食べていたせいで、それほど空腹なわけでもない。そこへ持ってきて、このボリューム満点なそば&おにぎりだ。大丈夫かなぁ…
 しばらく待たされた後、僕らのテーブルに料理が運ばれて来た。…案の定、かなりボリュームがある。とくにKの頼んだ野菜そばなんて、上に乗っている野菜で麺がまったく見えない状態。まさに野菜てんこ盛りなそば。
 「いや〜、大盛なんて頼まなくてよかったよ〜。普通盛りでこんなに量があるんだから、大盛なんて頼んだら、今頃青くなってたね」
 「…いや、俺はすでに青くなってる…おにぎりなんて追加するんじゃなかった…」
 僕らはこのサービス過剰な感さえあるそばを、ひたすら咀嚼するのに全神経を集中させた。うっかり箸を止めると、もう胃袋にそばが入って行かないような気がした。
 何とか食べ終えたが、とにかく腹が苦しい。すぐに店を出ることが出来ず、僕らはしばらく店の中で取るに足らない話をして居座った。満腹になると急に体が重くなる。なんか、このままホテルに帰ってひと眠りしたいような…
 

ご覧の通り『丸隆そば』。
58号線、名護警察のすぐ近くにあります。
見覚えのある人も多いのでは?

  

柱の前にある黄色い水タンク。
「水はセルフサービスです」だって。
…わざわざタンクを置かなくても(^_^;)

  

そばのボリュームにも圧倒されそうだが、
なんと言ってもこのおにぎり!むちゃデカい!!
冗談かと思うほどに。

  

 そういうわけにもいかないので、『丸隆そば』を出て、再び車で北上。
 名護、そして大宜味村を快調に通過し続けるKに、僕は文句を言うことにすら嫌気が差しはじめてくる。車窓からは、大宜味村の集落や墓の群落が見えるのだが、Kはそれにはまったく目もくれやしない。僕が「あ!学校があるよ!」とか「“辺土名商店街”だって!」とか助手席で声をあげても、Kは「ふ〜ん…」などと気の無い生返事を返すばかりだ。
 「あのさ、ひょっとして“辺戸岬”まで行くつもりなのか?」と、僕はKに訊いてみる。
 「…う〜ん、どうしようかと思ってるんだけど…」
 「どうしようか、って…このまま行けば辺戸岬しか行くところ無いじゃん。あと、“茅打ちバンタ”とか…」
 しかし、こんな天気の悪い日に、何も辺戸岬に行かなくてもいいと思うんですけど。風雨激しい“辺戸岬”…想像するだけでも寒々しい荒涼たる世界が広がっていそうな気がするんですけど…

 結局、僕らは辺戸岬まで辿り着いてしまった。辺戸岬は、僕の想像どおり、いや、それ以上に大荒れだった。ただでさえ岬は風が強いのに、台風に煽られた辺戸岬の風は、気を抜くと引き飛ばされてしまいそうなほどの強烈さで来訪者を迎えてくれる。
 こんな天気に辺戸岬を訪れる人なんて、俺たちぐらいのものだろうと思っていたのだが、暴風雨で荒れる岬には僕らのほかにも結構人が居た。が、みんな風と雨に顔をしかめ、身を縮めている。髪の毛は何か別の生き物のように大暴れしているし、口々に「ひ〜っ!!」だとか「スゴイ風〜!!」などと悲鳴を上げている。それでも、みんなズンズンと岬の突端へと向かって行くのがちょっと面白い。まるで、巡礼の人々のようだ。
 そんな人々に混ざって、Kも岬の突端へと進み出す。「え〜?行くのかよ〜!」と僕が背後から言うと、Kは「せっかく来たんだから…」と答える。そりゃ当然の答えなんだけどさ。僕ははっきり言って、この際岬の突端なんかどうでもイイように思えた。
 海の方を見れば、風雨ですっかり白く霞んでしまって、晴れていれば見えるという与論島はおろか、本島最北の“奥”の辺りの半島ですらはっきりと見るのは怪しい状態。岬の下に見える入り江に寄せる波は、まるで北国の海のような寂寥感を漂わせている。…確かにここは本島の北限ではあるけれどね。
 岬の風情を味わうとか、雄大な眺望を堪能するとか、そんな雰囲気とは程遠い。細かい雨がまるで霧吹きで吹き付けられるようにじっとりと体を濡らしてくる。ブババババという音をたてて吹き来る風にも辟易する。
 「もう戻ろうか。ちょっとひどいね、この天気は」 Kがそう言って、岬を後にし始めた。よっぽど「オマエが来たんだろ〜が!」とツッコミを入れてやりたかったが、今の僕にはそんな余裕すら無い。Kの言葉に従って、さっさと岬を立ち去った。

 岬のすぐそばにあるレストハウスに避難。が、このレストハウス、クーラーでものすごく冷えている。風と雨に濡れた体に、この冷え具合は厳し過ぎる。寒いんだってば、沖縄クーラー地獄!沖縄の人って、そんなに暑がりなんだろうか?年中暑いんだから、暑いのには慣れっこになっててもおかしくないんじゃないの?
 ホントだったら熱いそばでも食べて暖まりたいところなのだが、あいにくさっきの“特大そば&おにぎり”のおかげで、お腹にそんな空きスペースは無い。
 レストハウスの中に、みやげ物コーナーがあった。こういう場所ではお馴染みの、ありがちなみやげ物がいろいろと置いてある一方で、やんばるの特産なども置いてあったりするので、わりと面白かったりして。で、そんな僕の目に留まったのが、ハブを原料にしたスタミナドリンクの数々。4種類ぐらいのハブエキス入りスタミナドリンクが並んでいるのを見て、「ひょっとすると、これを飲めば少しは体が温まるかも…」と思い、僕は“ハブアタック”という、とても直球なネーミングのドリンクを買って、その場でグイッと飲み干した。我ながらおやじチックな行為だとは思ったが、今は一刻も早く“ハブアタック”効果に期待したい気持ち。
 その間に、Kはレストハウス内にある、沖縄本土復帰運動の写真や資料が展示されているコーナーを鑑賞していた。この人、ホントにこういうのが好きだよなぁ。
 「よっ!楽しいかい?」と、僕が近づくと、「ん!!にいさん、なんか獣の臭いがする!」とKが顔をしかめた。
 「え?…ああ、さっきコレを飲んだからだよ」と、僕は手に持っていた“ハブアタック”の空きビンを見せた。
 「またにいさんはそういう得たいの知れないものを…何でそんなもん飲んだんだ?これから車に乗るっていうのに…」
 Kの言う“獣臭”に、自分自身ではまったく気がつかない。きっとその獣臭と一体化してしまっているのだろう。が、この臭いがよほど強烈だったらしく、Kはしきりに「獣臭い!生臭い!爬虫類の抜け殻のような臭いがする!」と、僕を非難した。

 車に乗ると、その臭いはさらにKを打ちのめしているようだった。密室状態の車中で、隣りに獣臭を発する物体があれば、それは確かに拷問に近い。Kは雨が吹き込んでくるのも厭わずに、窓を開け放って走行。
 「窓閉めろよ〜。濡れちゃうじゃんか〜」と言う僕に、「“ハブアタック”なんか飲んだささきが悪いんだから、ちょっとはガマンしろ!」と言い放ち、Kはそのまま窓全開でやんばるを離れる。
 が、これが結果的にKのサメ・ドライブを防ぐ効果をもたらした。「少しでも臭いが和らぐように」と、途中でこまめに車を停め、外の空気を吸いに出るKを見ながら、僕は「ハブ、キミのおかげだ!サンキュ〜♪」と心の中でほくそえむ。
 …とは言え、ちょくちょく停まりはすれど、結局これといってどこかに寄るということも無く、ダラダラとひたすら来た道を戻って行くK。結局、コイツの前ではハブパワーも歯が立たないのか、と少々ガッカリしていた僕に、Kが言った。
 「ダメだ。やっぱりちょっと外に出たぐらいじゃ、ささきの獣臭さは消えないよ。どこかでその臭いを徹底的に駆除しなくちゃ。…あ、ちょうど“美浜”だ。美浜に寄って行こう」
 美浜かぁ…ま、イイか。このままどこにも寄らずに那覇に戻ってしまうよりは、ね。
 

辺戸岬。天気は大荒れ。
うっかりすると吹き飛ばされそう。
こんなときに来る場所か!?

  

あ〜あ、遠くが霞んじゃってるよ。
崖っ淵に立つと風に煽られて怖い怖い。
細かい雨がこれまた鬱陶しい。

  

ヨロン島と国頭村の友好のシンボルの像。
…これって鳥+魚だよね。
こんなのがホントに居たら、ちょっと怖いです。

  

沖縄の海、というよりは日本海チックな波濤。
これはこれで味があるとも言えるけど…
あまりにも荒涼とし過ぎじゃないの?

  



Movie

荒れ模様の辺戸岬。




巨大オバァがウェルカムなレストハウス。
何もここまでデカくなくたってイイのになぁ。
しかもぺったんこだし。

  

この人、“かめーおばぁ”っていうの?
それとも「かめー、おばぁ(=食え、ばあさん)」?
って言うか、文字が詰まり過ぎ。こんなにデカいのに。

  

本土復帰運動の資料も展示されてます。
こういうのに異常な関心を示す男・K。
歴史オタクの血が騒ぐようでございます。

  

案外レアなものが置いてあるみやげ物コーナー。
僕は“ハブアタック”なるスタミナドリンクを購入。
購入理由:名前が面白かったから。

   

コイツらが山積みになって大量に売られてた。
早くも価値が暴落してる感あり。
これだからイヤなんだよ、流行物ってさぁ。

  
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