路地の影お菓子の御殿


 ここでもまた早朝の散歩。朝の出勤ラッシュが来る少し前に、国際通りから牧志の市場を抜けて、桜坂社交街へ。
 どこか場末感の漂う朝の社交街を歩いていると、なんとなく懐かしい気分になる。少しばかり淀んだ空気に包まれた、くたびれた建物の立ち並ぶ那覇の裏通りを歩きながら、僕は自分が沖縄に惹かれる理由のひとつが間違いなくここにあることを痛感する。
 沖縄の自然ももちろん僕は大好きだし、のどかな離島の風情も愛している。だけど、ひょっとすると次にここへ来るときには消えて失くなってしまっているかも知れないこんな裏路地に、僕は強烈に心惹かれるのだ。
 街は、時代と共にその姿を変える。それは仕方の無いことなんだろう。だからこそ、今ここにある街並みを僕は出来るだけ見ておきたい。
 そうだな、次に沖縄に来るときには、こんなふうな場所を中心に見て周ることにしよう。…ホントはべつに次回にしなくたっていいんだけど、こういう極個人的な嗜好にKをつき合わせてしまうのも、ちょっと申し訳ないし。それに、こういった微妙な部分が分かるような相手じゃないし、Kは。

 この日は朝から細かくて弱い雨が降っていて、風も生温い。じっとりとした湿気の中を1時間ほど歩き続けたおかげで、かなり汗をかいた。ちょっとした良い運動になっちゃったかも。何せ、沖縄に来てからというもの、そのほとんどの時間をKの運転する車の中で過ごすことを余儀なくされているので、極めて深刻な(←大袈裟)運動不足状態に陥っていた。…まぁ、さして起伏の無い平坦な街を超ダラダラで歩いたところで、大した運動量になってないのは分かっているんだけど、こういうのは気分の問題。「いや〜、イイ汗かいたなぁ〜」などと自己満足に浸りつつ、ホテルに戻った。
 ホテルの部屋では、Kが珍しく起きていて、テレビを見ながらお茶をすすっていた。
 「おっ、どこか行ってたの?」 「うん、ちょっと近くをウロウロとしてきた」
 「外、雨降ってた?」 「うん、小雨がパラパラ降ってたよ」
 Kは天気のことをかなり気にしているようだ。テレビも天気予報を見たくて点けたらしい。
 さて、こんな天気の中、これから我々は一体どこへ行くのか…?
 



  



 




 



  




   



   


  

 



   




   



   


 
 

 
 
 

 
 
  



   


 
 

 
 
  

 

   

 
 
 

 ホテルを出て、Kは迷うことなく国道58号線を北へ向かいはじめた。しかし、ホントにコイツは北に行くのが好きなヤツだ。しかも、絶対に目的なんぞはこれっぽっちも持っちゃいないのだ。ただひたすらに、漠然と北を目指す。きっと彼の前世は渡り鳥か何かに違いない。
 早朝の時点ではまだ小雨程度だった雨は、今ではすっかり本降りの状態。その上、時折嵐のような風までも吹いて来る。そりゃまぁ、台風が近づいて来ているのだから当然ではあるんだけど。
 中央分離帯に植えられた椰子の木が、まるでHR/HMのライブでヘッドバンギングしてる人みたいに、これでもか!っていう勢いで踊りまくっている。この揺れ具合を見ていると、昨日空港で笑顔の素敵な職員さんが「大丈夫。飛行機は飛びます」と言ってくれたことさえ、何だか真っ赤なウソのような気分になってくる。
 「…やっぱり、飛行機を早い便に変更してもらったほうが良かったんじゃないか?」と、Kが不安がる。僕も同じ気持ちだった。
 「今から空港に行って、今日の便に変えてもらおうか?」と僕が言うと、Kは少しの間考えて、
 「でも、せっかく車に乗っちゃったんだから、とりあえずもうちょっと様子を見よう」と言った。…要するに、今しばらくサメ・ドライブを楽しみたい、ということなのだろう。勝手にしろ!
 


雨の国道58号線。
こんな天気の中、Kは一体どこへ行こうというのか?
一抹の不安がよぎる。

おまけに風も猛烈!
車から一歩も外に出たくないよ〜。
今日ばかりはサメ・ドライブ様様(さまさま)…

  

何してるんだろう?この人たち。
こんなところで世間話、ってことも無いだろうけど。
このご時世、ヤケに目に付くこのユニフォーム…

  

これは恩納村辺りかな?
海だってすっかり灰色。
これではせっかくの沖縄の海が台無し。

  

 例によって、那覇を出発してからノン・ストップで読谷村辺りまで来てしまった。いつもだと、この段階で相当不満をブーブー言ってるはずの僕だが、今日ばかりは、こんな天気の悪い中どこかに寄る気にもなれず、大人しくKの行動に従っていた。
 と、そんな僕らの視界に、なにやら赤い門のようなものが飛び込んで来た。
 「あ!?なんだ、あれ!?」
 「守礼の門に似てるねぇ。何だろう?ちょっと行ってみようか」
 視界に飛び込んで来た、守礼の門に似た赤い門構えの正体は、あの“紅芋タルト”でお馴染みの、“お菓子のポルシェ”の工場兼店舗、その名も『御菓子御殿』の門だった。その赤い門の奥には、これまた首里城チックな赤い塗装に彩られた、「まさしく御殿!」な感じの建物が建っている。この周辺には、他にこれといって目立つ建物が無いので、一際目を引く、もっと言ってしまえばかなり違和感のある存在だ。
 「建物はともかく、ここの紅いもタルトって、結構美味いんだよなぁ」 僕が言うと、Kは「え?そうなの?」と、訊き返して来た。
 「あれ?Kは食ったことなかったんだっけ?」 「うん、たぶん…」 「じゃあ、食ってみなよ、ここで」
 などと僕らが御殿を前にしゃべっている間にも、あっちこっちから車がどんどんこの御殿にやって来る。しかも、そのほとんどが地元の人たち(=わナンバー車じゃなかったし)。どうやら、観光客だけが目当てのイロモノ的なスポット、というわけでも無いらしい。

 御殿の中に入ると、そこには当たり前だが、この会社が出している数々の商品が陳列されている。ぱっと見、空港の中なんかにある売店と同じような雰囲気なのだが、ここではそれらの箱詰め商品をバラ売りしていて、もちろん1個から買える。つまり、「紅いもタルトを3個、それから“美ら貝”を2個、ついでに“月桃かるかん”と“黒糖ようかん”も買っちゃえ!」ってな、かなり自由度の高い買い物が出来る、というわけだ。…って、どれもお菓子だけどね。
 僕らも、普段は滅多に食べることの無いこれらの菓子類を、ワサワサと買い漁った。一瞬、「こんなに買って、食べ切れるんだろうか?」という疑問が脳裏をよぎったが、買い物用トレイの中に次々に一口大のお菓子を放り込む。感覚としては、100円均一とかの店で、たいして欲しくもないものまで「ついでに…」などと言いながら買っちゃうような感じか。普通の状態ではまず自分で買ったりすることのないであろう菓子類が、トレイの中でずっしり重い。
 会計を済ませ店を出る頃には、すでに後悔の念に襲われはじめた僕ら。
 「誰が食うんだ?こんなにいっぱいの甘いものを…」
 「う〜ん、弱ったねぇ。…仕方ないから、コツコツと食べることにしよう…」
 あ、“お菓子のポルシェ”の名誉のために言っておくけど、お菓子自体は美味いんだよ、ホント。
 
 僕らは車の中でムシャムシャと菓子を咀嚼しながら、相変わらずの悪天候の北部をグングン北上する。…このまま、Kはどこへ行こうというんだろう?何だか北の果てまで行ってしまいそうな勢いですけど…
 「なぁ、飯食おうよ、メシ!」と、僕はいまだに菓子を食べ続けているKに言う。
 「ええっ!?だって、今お菓子食ってんじゃん!」 Kは驚いて目をむく。
 「まだ朝飯も昼飯も食ってないんだよ。まさかこのお菓子がメシ代わりなのか?」
 「…しょ〜がないなぁ。じゃあ、どこか適当な食堂に寄ろう」
 こうでも言わないと、Kは停まんないしね。実を言うと、僕もそれほど飯を食いたいとは思っていなかったんだけどね。
 

その名も『御菓子御殿』!
…っていうか、そのまんま守礼の門チック。
かなり浮いてます、この施設。

  

う〜ん、これがお菓子工場&直売所とは…(^_^;)
一瞬、言葉を失いそうな感じです。
でも、中に入ってみれば…

  

極めてシンプルなみやげ物屋仕様。
天井が高いので、妙な解放感あり。
バラ売りしてるのがうれしい。

  

工場の中もガラス越しに見学出来ます。
とは言っても、ほとんど機械を見てる感じ。
ラインを流れ行く“紅芋タルト”…

  
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