ウェスタンカーニバル


 夜中の徘徊のおかげで、だいぶ遅くまで眠りこけてしまった。『大原ホテル』を一旦チェックアウトし、フロントにしばらく荷物を預かってもらい、僕らは飛行機の時間まで、少し市街地を歩いてみることにした。
 まず、市役所通りにある『A&W』で腹ごしらえ。石垣島に来るとついつい利用してしまうのが、このエンダー。ここで食事をしながら市役所通りを眺めるのが、僕はわりと好きだったりする。午前中の市役所通りは、ここが島のメインストリートのひとつだとはとても思えないぐらいに静か。人も車もあまり通っておらず、沿道に高いビルも建っていないので不思議と解放感がある。
 「はぁ〜、今日で八重山ともお別れだねぇ」 八重山を発つ朝は、いつもやんわりとした寂しさに苛まれる。個人的には、6日間の休暇のうち4〜5日は八重山で過ごしてもいいと思っているんだけど…何しろKがそれをヨシとしないのでね。彼は沖縄本島でのサメ・ドライブを心ゆくまで堪能しないでは居られないヤツなので…
 「それにしても、やっぱりだんだん天気が悪くなって来てるね。風も昨日より一段と強いし。八重山は明日辺りにはヤバい状況になりそうだよねぇ」と、Kがエンダーの窓から外を見てつぶやく。
 「本島だってどうなるか分かんないよ。台風の動きによ〜く注目してないと痛い目に遭うなコリャ。…俺は一日ぐらい休みを延長しても大丈夫だけどね」と、僕は比較的余裕のあるところを見せる。
 と言うのも、実は多良間島で台風に遭遇したときに休暇延長を快諾してくれた例の“心の広い上司”と、冗談半分でこんな会話を交わしていたからだ。

 上司 「おい、沖縄はあのテロ事件で危険かもしれない、っていうじゃないか。大丈夫なのか?こんな時期に沖縄に行ったりして…」
 僕 「大丈夫ですよ〜。そんなことありませんって。…でも、もしも何か起こったら、しばらく会社に戻って来られなくなるかも知れないから、覚悟しておいたほうがいいかも」
 上司 「ああ、そういう場合は大丈夫だ。一応ささきが8日間までは休んでも対応できるようなシフトを組んでるからな」
 僕 「…だったらはじめから休みを8日間くれてもいいのに…」
 上司 「バカ言うな。最悪の場合だよ。基本的に会社の長期休暇は6日間って決まってるんだから」

 「…というわけで、俺は少しだったら沖縄で足止めを食っても平気なのさ♪」
 「そうかぁ…俺もたぶん大丈夫だとは思うんだけど…」 Kはどうも会社のことが気になるようだった。と言うのも、今彼が所属している部署は人手が不足気味で、K曰く「係長も同僚も頼りない」らしいのだ。もっとも、Kがそう言ってるだけで、それがホントかどうかは分からないけどね。
 「だってさ、米軍基地との取り引きの契約書に“印鑑もらって来い!”とか言うんだよ、うちの係長。アメリカに印鑑なんか無いだろ〜。“サインじゃ書類として通らない”って言い張って止まないんだから、イヤになっちゃうよ〜」
 …確かにそんな係長じゃ、安心して仕事を任せられないかもなぁ。ま、所詮そんなもんでしょ、僕の勤めてる会社って…
 
 食事を終えて、まずは昨日の夜にKが注文したTシャツを受け取りに、みやげ物屋『あ』へ向かう。無事Tシャツを入手し、僕らはしばらくの間、登野城界隈を中心にブラブラとしてみることにした。
 …が、どんよりとした雲に覆われた登野城の街を歩いていると、次第に僕らの口数は少なくなってくる。
 「ちょっと寂しいねぇ…」 「うん…かなり寂しいねぇ…」
 そんな僕らに追い討ちを掛けるかのように、小雨までもがポツポツと落ちて来た。僕らは街の散策を早々に切り上げて、ホテルに預けてあった荷物を引き取り、タクシーを捕まえて一路空港へと移動した。

 空港に着いて、空港内にある『レストランゆうな』でコーヒーなんぞをすすりながら、僕らは飛行機の出発時間までダラダラと暇をつぶした。
 レストランの窓の外は、雨こそ降っていなかったがかなりの強風に見舞われているようで、滑走路の脇に植えられた椰子の木がユッサユッサと激しく踊っている。ひょっとすると、明日以降の飛行機は飛ばないかもしれない。
 「何気に間一髪だったのかもなぁ、俺たち」
 「あと一日、日程がズレてたらヤバかったかもね」
 なんだか、最近こんなギリギリな旅行が立て続け。どうも沖縄の天気と折り合いが悪いような気がするんだけど…どうか気のせいでありますよ〜に!
 石垣島から飛び立つ飛行機の中で、僕はふいっと、八重山で過ごしたこの3日間のことを振り返ってみる。結局、今回は八重山でもすっかりKのサメ・ドライブに付き合わされてしまったような気がする。本島でもサメ・ドライブ、離島でもサメ・ドライブ。…このままでいくと、僕の貴重な6日間がKのサメ・ドライブのためだけに消費されてしまいかねない。それだけは、何としてでも回避しなければならない!
 悪天候でグラグラと揺れる機内で、僕は固い決意にギュッと奥歯を噛みしめる。
 

石垣島・市役所通りの午前10時。
人も車もめっきり少ないです。
…ホントにここが市街地なのか?というぐらいに。

  

エンダー。石垣島ではたぶん唯一の。
お客さんは結構多い。
ここで一家団欒している地元の人の姿も…

  

強化ガラス越しに見る町並み。
南国らしい木が沿道に植えられております。
ここから見る景色、わりと好きです。

  

朝からこんなもん食うな、って?
フライドチキンですね。
食べ切れなくてKにおすそ分けしましたです(^_^;)

  

街巡りをしてみよ〜!
植木やら何やらに囲まれた玄関。
雲の切れ間から陽が射して来てまぶしい。

  


登野城にはまだ赤瓦の家が数多く残ってます。
やっぱりこういうの見ると、ホッとしたりしてね。
軒先に子供の遊具があったりして。

  

閉店したゲームセンターの横。
廃物と化したレースゲームの筐体。
…諸行無情。

  

ボーリング場の裏。
これまた廃物と化した自転車。
…離島ってこういうの案外多い。不法投棄?

  

石垣島としばしのお別れ。
次に訪れるのはいつのことになるのか…
いや、また近いうちに来よう♪

  

 那覇空港に着いて、速攻でレンタカーを借りるK。今度こそKのサメ・ドライブを何とか阻止せねば!と僕は改めて気合を入れる。
 本島も石垣島同様、空は曇り白く霞んでいる。時折パラパラと小雨も混じり、心なしか気温も下がって来ている。そんな悪天候の中、Kは空港から南部に向かって車を走らせる。…南部…ということはもしや…
 「あのさ、まさか『玉泉洞王国村』に行こうとしてないよね?」
 「えっ!?」
 「初日にも言ったけど、毎年行ってるよ、『玉泉洞王国村』に。去年だってエイサー見たり“ぶくぶく茶”飲んだりしたじゃん。べつに『王国村』がキライだ、ってわけじゃないけどさ、毎年毎年行く場所でもないと思うんだけど…」
 「そ、そう?何度行ってもイイところだと思うけど…」 
 「Kはなんでそんなに『王国村』に行きたがるんだ?」
 「なんでって…俺を呼んでるんだよ、『王国村』が」
 「それは幻聴だ。『王国村』はKのことなんて呼んじゃ居ない。今回また『王国村』に寄ったら殺す!」
 「…物騒だなぁ。何も殺さなくたって…」
 「殺すったら殺す!で、サトウキビ畑に埋めてやる!」
 
 僕がとことん嫌がったので、Kは渋々『玉泉洞王国村』行きを断念したようだった。が、ここで油断してはいけない。
 「どこかに寄る宛てがあるのか?Kよ」
 「う〜ん…あ!思いついた!イイ場所があるよ」
 そう言ってKが向かったのは、『ひめゆりパーク』だった。
 「…へ?ここがイイところなの?」 呆気にとられる僕。
 『ひめゆりパーク』 ――約10万本ものサボテンが生え揃う、“気分はウェスタン、まるで夢のようなワンダーランド”(←資料による)なスポットなのだそうだ。だったら『ひめゆりパーク』というネーミングはどうなんだ?大体“ひめゆり”って地名でもなんでも無いじゃん。近くに『ひめゆりの塔』があるから、こういう名前をつけたんだろうけど…
 以前から度々言ってるが、僕はこの類の植物園チックな施設にまったく関心が無い。って言うか、むしろ好きじゃない、と言っていいかも知れない。植物自体は好きなんだけどね。

 パークの入り口に立つと、どこからとも無く軽快なバンジョーと思われる音色がテケテケと流れてくる。なるほど、ウェスタンな演出である。さらにその音に合わせて「♪ひめゆっりパ〜ク〜♪」などという歌声も聞こえる。どうらやここのイメージソングだかテーマソングだからしいのだが、すっかり音割れした歪んだミュージックが微かに響いているその雰囲気たるや、関係者の方々には大変申し訳ないけれど、ズバリ「垢抜けねぇ〜!!」という感想しかもたらしてはくれない。
 「ここって…」 僕が入り口の前で呆然と立ち尽くしていると、どうやらKもまた同じような気持ちらしく、無言で佇む。
 「ねぇ、マジで入るつもりなの?ここに…」と僕がKに訊ねる。Kは「せっかく来たんだから入ろうよ」と、少々苦笑しながら答えた。
 さて、園内に入ると、なるほど辺り一面にサボテン。西部劇なんかで見たことのある長細いヤツ、丸っこいカワイイの、平べったいウチワサボテン、などなど様々なサボテンが、ガジュマルなどの南国風な植物と共にあっちこっちにニョキニョキと生え揃っている。きっとサボテン好きの人にはたまらない光景であろう。
 …だがしかし、どこもかしこもサボテン&亜熱帯植物ばかりで、正直言ってすぐに飽きてしまった。園内にエンドレスで流れ続けるウェスタン音楽のBGMも、どこか虚しさを喚起する。
 「…ここを選んだのは、ひょっとしてものすごい選択ミスなんじゃないの?」と疑問視する僕に、「なに言ってるんだよ〜、とても素晴らしいじゃないか、『ひめゆりパーク』!」と、Kはヤケになって言い放った。
 何しろ扱っているものが植物なだけに、思うようにタバコすら吸えやしない。400種類だかのサボテンがあると言うけれど、植物音痴の僕にしてみれば、どれも似たり寄ったりにしか思えない。せいぜい長いの丸いのぐらいの差ではないか。
 「K、ちょっとそこの丸いサボテンに腰掛けてみなよ」
 「なんでだよ、そんなことしたら棘が刺さっちゃうじゃん」
 「ツボが刺激されてイイんじゃないか?健康増進に役立つかもしれないし、キミのトンチンカンな観光スポット選びやサメ・ドライブも治るかもしれない」
 「ひでぇなぁ。俺のどこがトンチンカンだって言うんだ?」
 「…その答えがここじゃん。今まさにそのトンチンカンの最中に居るわけだよ、俺らは」
 時折、思い出したように小雨が降ってくる中、僕らはロクにサボテンを見もしないで、ただ所在無くパークをダラダラと歩く。何もこんな天気のときに、サボテン鑑賞しなくたって、ねぇ…
 と、すっかりテンションの低くなった僕の目に奇異なものが飛び込んで来た。それは、幌馬車やテントの脇で直立不動しているインディアンの人形だった。パークのほぼ中央部分に“インアン・ビレッジ”なるゾーンがあって、そこには多数のインディアン人形が置かれていた。このインディアンたちは、どうやらすべて同じ型で作られたものらしく、寸分違わない同じインディアンがまるでクローンのようにあちらこちらに配置されている。しかも、そのインディアンは何故か空を見上げているポーズを取っている。このポーズは一体何を意味しているのか?
 僕は、サボテンそっちのけでこのインディアンにすっかり心を奪われてしまった。だって、マヌケなんだもんよ〜♪インディアンにカメラを向けシャッターを押し捲っている僕を、Kは冷ややかな目で見ていた。

 パークからレストハウスに入ると、飲食コーナーでは台湾からやって来た団体客がテーブルについて、緑や赤のアイスクリームを食べてくつろいでいた。
 「あ!あれはひょっとして、サボテンのアイスじゃないか?」と色めき立つ僕。未知の食品にはとりあえずチャレンジ!というわけで、さっそく僕もサボテンアイスを買い求める。
 サボテンのアイスには、薄い緑色のものと、ケバケバしいピンク色のものの2種類がある。薄い緑色のものはサボテンの新芽を使っているそうで、食感はまったりと柔らかい。味は、ほんのわずかだけど青臭さがあるものの、気になるほどではない。気の抜けたミント味のアイスクリーム、もしくはちょっと薬臭いバニラアイス、といった感じか。一方、ピンク色のものは、果実を使ったシャーベット状のアイス。こちらは中途半端に甘酸っぱい。ホントにサボテンの果実ってこんな味がするのか?と疑問を抱いてしまいそうなぐらいに、そつの無い味。
 …この2種類のアイスに共通して言えること、それは“不味くは無いけど、あえて食べたいとは思わないアイス”ということだろうか。
 僕がアイスを食べている間、Kはレストハウスの中にあるみやげ物屋を覗いていた。が、これといって欲しいものは無かったようで、すぐに手ぶらで戻って来た。
 「…もう出ようか」と、Kが言った。
 「うん、次に行こう」 …たぶん、もう来ることも無いと思う『ひめゆりパーク』を後にして…
  


『ひめゆりパーク』エントランス。
台湾からの団体さんが多数ご来園〜。
…台湾の皆さん、楽しんでますか〜!?

  

…野暮ったいなぁ、これ。
もっと違う方法は無かったんだろうか?
つばの部分の微妙なカーブは評価したいけど…

  

やっぱり台湾からのお客様が多いみたい。
これはレストランのポスター。
しかし、この中国人のイラストはかえって失礼では?

  

サボテン。丸いのやら長いのやら。
サボテンはわりと好きだけどね。
でも、サボテンばっかりじゃ飽きちゃうよなぁ。

  

“ゆったりコース”は園の外周を上から見下ろす感じ。
“早足コース”のほうが面白いかも。
もっとも順路なんてあって無いようなものですけどね。

  

“チューチュートレイン”が走ってます。
でも乗客は一人も乗ってません。
ZOOっていたよね〜。チューチュートレイン。

  

長〜いサボテンですけど、鉄柱で支えが…
ネットなんかも被ってて、なんだか痛々しい感じ。
サボテン、弱ってるのか?

  

…と思ったら、こういう理由らしいです。
台風はサボテンをもなぎ倒すか。
まさにサボテン受難!

  

…なんだ?
いきなり『ダンス・ウィズ・ウルブス』な雰囲気で。
周囲の木がちょっとイメージと合わない気もするが…

  

ウェスタンだから、インディアン。
どうも短絡的な印象は拭えません。
あ、これはもちろん人形ですよ。

  

“インデアン・ビレッジ”だって。
インデアンだよ、インデアン。
この法則でいくと、『デズニーランド』ですよね、やっぱ。

   

インデアン、何か見上げてます。
空を見てる?「今日は天気悪いなぁ」とか?
このインデアン、ちょっと内股っぽくない?

  


こっちにもインデアン。
しかも同じポーズ。
UFOでも見えるんか?

  

うわ!いっぱい!しかも同じ顔・同じポーズ!
クローン人間を彷彿とさせるシュールな光景。
みんなバラバラの方向を見上げてるし。

   


サボテン料理も堪能できる『ひめゆりパーク』。
全国各地へ発送致します。
でも、ちょっと値段が高いよな、このアイス。

  

カクタスグリーンとカクタスピンクの二段重ね。
味は…なんだかよく分かんない味。
仄かに青臭い気もするけど。

  
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