夜歩く


 西表島から石垣島に戻り、しばらくホテルの部屋でテレビを見ながらぼんやりと過ごす。もっぱら僕らの最大の関心事は、もちろん台風の経緯だった。
 台風は確実に沖縄へと近づきつつあった。明日の昼には本島に移動することになっていたので、とりあえず石垣島で台風に遭遇することは無事に避けられそうだ。ひとまず安心である。
 「それにしても…このペースで台風が接近して来るとなると…3日後に東京に戻れるかなぁ…」
 「う〜ん、ちょっとヤバいかもなぁ。今後の台風の動きを見て、もしも危険そうなら帰りを少し早めよう」
 どうせ本島に行ってしまえば、後はKのサメ・ドライブに延々と付き合わされるハメになるのは必至だ。一日ぐらい出発を早めても構わないかな、と僕は密かに思っていた。それに、天気が悪い沖縄は、どうしても行くところが限られてしまう。暴風雨の中、海を見に行くのもマヌケだし、テーマパーク風な施設を見て歩くのも億劫だし。
 ホテルでダラダラと時間を過ごしているのにもだんだん飽きて来たので、僕らは街に出ることにした。

 外に出ると、もう辺りはすっかり陽が落ちていた。昼間は大して活気の無い美崎町や登野城の界隈も、夜になると何故か不思議な猥雑さに包まれる。だから夜の街を徘徊するのは楽しい。
 僕らは“市役所通り”から“あやぱにモール”へと、まさしく気ままに宛ても無くフラフラと彷徨う。目に留まったみやげ物屋をひやかし、静まり返った住宅街を抜け、気の向くままにほっつき歩く。
 …思えば、これまでに何度も訪れているはずの石垣島ではあるが、こうして何軒かのみやげ物屋をじっくりと覗くことはほとんど無かったと言っていい。もともとみやげ物になんぞ大して興味が無かったし、夜の街に繰り出せは、それは自ずと“飲み食いするため”という目的意識だけに動かされることであって、少なくとも“買い物”が目的になることは一度も無かった。
 Kは、どうやらTシャツが欲しかったようだ。彼は沖縄に来るたびにTシャツを買っている。しかし、そのTシャツの多くはタンスの肥やしと化しているみたいだった。他人事ながらもったいないよなぁ、と思う。着る宛てが無いのなら、買わなくたっていいと思うんだけど…
 そんな僕の思いを知りもせず、Kは『大原ホテル』のすぐ近くにある『あ』という名前のみやげ物屋で、オリジナルTシャツを買った。が、どうやらKの気に入ったデザインのシャツが在庫切れだったようで、「翌日の朝までに作っておくので、明日取りに来て下さい」と言われた。僕だったら「じゃあ、他のTシャツにしようかなぁ…」とあきらめてしまうところだが、Kは明日まで待つことにした。そんなにそのTシャツが気に入ったのだろうか。
 「いや、べつにそういうわけじゃないけど。他のTシャツを改めて選ぶのが面倒だったから…」
 思ったとおりの答えが返って来た。こんないい加減な理由でわざわざTシャツを作らされることになってしまった『あ』の人が、少々気の毒に思えた。
 それから、Kは『彩風(あやかじ)』という小物屋で、“えりぃの箸”などというものを購入した。これは、沖縄では極めてメジャーな柄の部分が赤く塗られた菜箸のような箸(←ちょっとヘン)だ。沖縄の食堂なんかで比較的良く見掛けるお馴染みのヤツ。この箸にわざわざ『ちゅらさん』のヒロインの名を冠して“えりぃの箸”と名付けてしまうあたりに、そこはかとない商魂を感じさせる逸品。僕などはこの時点すでに「こんな箸、折ってやろうか!」というぐらいのイヤらしさを感じてしまうのだが、Kは嬉々としてこの“えりぃの箸”を買った。…こんなところでも、Kという男の隠れたミーハーぶりが露呈している。コイツ、まさか“ゴーヤーマングッズ”なんかも買ったりしないだろ〜なぁ〜。
 ただ、この『彩風』の店の人はなかなか感じの良い人で、僕もそれにつられてついつい“紅芋チップス”やら“黒糖ピーナツ”やらを買ってしまった。
 「ところでKさん。その“えりぃの箸”、さっそく今晩どこかの店で使ってみては?」
 「え〜、なんで?」
 「だって、箸は食べるときに使うものだろ?まさにこれから大活躍!って感じじゃん」
 「こういうのは記念に取っておくもんだろう」
 「…何の記念に…?」
 「え〜っと…“祝『ちゅらさん』放映記念”とか」
 「ふ〜ん…」
 
 この夜は、市役所通り沿いにある“創作郷土料理の店”とかいうところ(店の名前忘れました)で飲食することにした。外装も内装もなかなか洒落た店でお客さんも大勢居てとても盛況なのだが、従業員がやたらと「いらっしゃいませ〜!!」と威勢良く返事したりするので、なんだかどこかの居酒屋チェーンみたいな感じ。
 創作郷土料理を謳うだけあって、確かに変わったメニューが多い。中にはあまりに変わってて「…?」てな料理もあったりするのだが、そこはご愛嬌ということで。
 しかし、沖縄の料理屋というのはどこもクーラーがガンガンに効いている。親の仇みたいな効き具合だ。ハッキリ言って寒い。Kなどはあまりの寒さに腕をさすり出す始末である。このクーラー冷え冷え地獄、地元の人は何とも思わないんだろうか?
 クーラーで冷え切った店内で、水と氷で割った泡盛を呑んでいると、それはそれは体が冷える。骨の髄から冷え切ってしまう。
 「熱燗が欲しいね」 「イイねぇ、熱燗」
 僕らは少しでも寒さを和らげようと、おでんや汁物などのアツアツメニューを注文する。南国・八重山に来て、何が悲しくて凍えなきゃならんのだ?
 結局、あまりに寒いので早々に店での飲み食いを切り上げ、ホテルに帰ることにした。外に出ると、生温い風が吹いていて、僕とKはホッとした。
 「あったかいねぇ。…って言うか、気温差で具合が悪くなりそう」
 「俺、コンビニで中華まん買って来る〜」
 いやぁ、すっかり秋めいてきて…って感じですか?ちなみに外の気温は25℃近くあったんですけどね…
 

みやげ物屋『あ』。
手作り小物などを中心に扱う店。
わりと最近出来た店だと思う。

  


『あ』の店内を物色するK。
オリジナルTシャツをお買い上げ。
JTAの携帯ストラップも買ってたっけ。

  


“あやぱにモール”。
時間が時間だけに結構閉まってる店多し。
…空き店舗も多いんだけどね…

  

こんなものが立ってたりして。
ボタンを押すと『鷲ぬ鳥節』が流れます。
大音量なので、かなり恥ずかしいです。

  

公設市場。まだ開いてる。
この市場は本島・牧志市場よりもある意味濃い。
ちょっと敷居が高い気がするのは僕だけ?

   

市場内部は半地下みたいになってる。
2階には『特産品販売センター』があります。
島の特産品は大概ここで入手できちゃう。

  

モールを抜けた辺りにある店。
ここもまたオリジナル商品を扱う店のよう。
Kは相変わらずTシャツを物色中。

  

市役所通りにある店。
結構お客さんが入ってる店でした。
ただし“えりぃの箸”を買う人が居たかどうかは…

   

でも、市役所通りで一番賑わってる店は、これ(^_^;)
夜中でも客足が途絶えることがないぐらいに。
コンビニの前でたむろする若者もちらほらと…

  

 いつもより少し早い時間に床に就いので、夜中の3時過ぎに目が覚めてしまった。もう一度眠ろうとしたのだが、どうも寝付かれない。僕はグ〜グ〜と寝入るKを起こさないように気を配りながら、夜中の散歩に出掛けることにした。
 フロントには誰も居らず、僕は鍵をそっと鍵を預ける木箱の中に置いて、ホテルの外に出た。

 午前3時過ぎの美崎町の歓楽街には、例によって例の如く、数多くの酔っ払いがゾンビのように覚束ない足取りで彷徨っていた。路上で寝転がる者あり、側溝に身を屈めてゲーゲー嘔吐する者あり、それはどこか魑魅魍魎が蠢く終末感すら漂わせる光景だ。
 それと、何と言ってもスゴイのが、タクシーの量だ。一体何台のタクシーがこの美崎町界隈を流しているのか、ほとんど数珠繋ぎ状態になったタクシーが、美崎町の周りをグルグルと回遊する。こんなにたくさんのタクシーが、まるで獲物を狙う肉食動物のように、“酔っ払い多発地域”の周囲を円形に走りながら虎視眈々としている様子は、なんとも圧巻だ。もちろん、こうして街をフラフラと歩いている僕自身も彼らの獲物なわけで、幾台ものタクシーが僕の脇で速度を落とし、僕の顔をジ〜ッと覗き込む。なんだか落ち着かないので、さっさと美崎町から離れることにした。

 そのまま港のほうへと移動すると、目の前に『サザンゲートブリッジ』が見えて来た。暗い中に浮かび上がるライトアップされた青い鉄橋は、煌びやかというよりは少し寂しい感じがしないでもない。
 僕はさっそく橋に向かうことにした。そう言えば、この橋に行くのは今回がはじめてだ。
 さすがに橋のそばまで来ると、車の往来もめっきり少なくなり、街灯も少なくなってきて、なんだか息苦しくなるような夜の圧迫感に包まれる。いかに普段の自分が“明るい夜”に晒されているかが分かる。
 青く輝く橋へと歩いていると、時折橋を渡って行く車がある。確か橋を渡った先には、これと言って何も無かったはずだけど…
 もしも、これらの車に乗っているのがカップルだったりすれば「…そういうことか」と合点がいったりもするが(^_^;)、僕が見た限りではカップルの車は無かった。橋を渡った車は、向こう岸でほんのちょっと停まったかと思うと、再びこちらにUターンしてくる。…何しに行くんだ?地元のナンバーだから、「道に迷った」というわけでも無さそうだし…
 まぁ、彼らにしてみれば、こんな夜更けにひとりでこんな場所を歩いている僕こそ怪しい、と思うに違いないので、そこはお互い様という気もする。
 橋の上からは、石垣港と登野城漁港の灯りが両側に見渡せる。決して派手な夜景ではないけれど、これはこれでまた味わいがある。…が、とにかく風が思い切り吹き付けてくる。ただでさえ台風が近づいているせいで風が強いのに、橋の上ともなれば吹きっ晒しの強烈な潮風がバンバン吹き付けて来やがる。度々吹き飛ばされそうになりながら、しばらく橋の上からの夜景を眺めていたが、午前4時を廻っていることだし、そろそろホテルに戻ることにする。

 ホテルに着いて、鍵を受け取ろうとフロントに声を掛ける。
 「すみませ〜ん」 …反応が無い。フロントの奥にある控え室からは、小さな音量でテレビの音が聞こえてくる。
 「すみませ〜ん」 …返事は無い。誰も居ないんだろうか?…それとも、寝てるのか?
 「すみませ〜ん」 やや間があって、「あぁ、はいはい」という声がした。やっぱりどうやら居眠りしていたらしい。こんな時間に外へ出掛ける客もそうそう居ないだろうからなぁ。なんだか少しホテルの従業員に申し訳ないような気分になる。
 鍵を受け取り部屋に戻ると、Kはまだしっかりと熟睡していた。僕も再びベッドに潜り込み、あっさりとニ度寝。
 

石垣港から『サザンゲートブリッジ』を見る。
いつも気になってたけど、一度も渡ったことが無い。
ちょっくら行ってみますか。

  

『南門橋』。分かりやすい和訳。
って言うか、わざわざ日本語表記する必要があるのか?
あ、それともこれは中国語表記ですか?

   

しっかりとライトアップ。
それに何か意味があるかどうかは別として。
街灯がほとんど無いので、ホッとするけどね。

  


橋の上から“登野城漁港”を見る。
小さく下弦の月が写ってます。
曇り空なので星はまったく見えず。

  
表紙へ          前のページへ          次のページへ