空に星があるように


 “星砂の浜”―― ここにはその名のとおり、星砂がごっそりとあるらしい。でも、正直言って僕もKもそれほど期待してはいなかった。今までにも、竹富島にある“カイジ浜”や“アイヤル浜”で僕らは星砂探しにチャレンジしたのだが、ただの一度も星砂を手に入れられた例(ためし)が無かった。もともとそれほど星砂が欲しいというわけでもなかったし、大して身を入れて探さなかったせいもあったのだろうが、とにかく星砂とはまったく縁が無かった。よく「星砂は幸運を招く」などと言われているし、そんなラッキーアイテムな感じの星砂を見つけられれば、さぞかし素敵なハッピーライフがやって来るかも…なんて淡い期待を持ったりもするが、肝心の星砂を発見することが出来ないとなれば、一転「そんなの所詮迷信だよなぁ」とクールに遣り過ごすことだって可能、という程度のことだったりする。
 だがしかし、この“星砂の浜”は、その名にふさわしいと痛感せざるを得ないぐらいに、そりゃあもう星砂がザックザク、大盤振る舞いの出血大サービス状態。砂浜のどこを見ても、すぐに星砂が肉眼で容易に確認出来る。
 「おお〜!こりゃ誠偽り無く“星砂の浜”だ〜!」と、僕らは砂を手のひらに掬(すく)っては感激し、あっちこっちに移動しつつ星砂を見つけまくった。あまりに星砂が大量にありすぎて、かえって有り難味が薄くなっちゃうんじゃないか、と心配になるほどだった。まさに“ラッキーてんこ盛り!”ってな状況だ。
 この浜のある“上原地区”の上空は、先ほどまでの曇天とは打って変わって青空が広がっていて、海の色も青くて気分がいい。だけど、風はどんどん強さを増して来ていて、時折吹き飛ばされそうなほどの突風までも吹いてくる。
 でも、やっぱり海は天気が良いほうがイイやね〜♪ この青く輝く海を見ていると、自分の気持ちまでもすっかり清められて、とても清清しい心持ちになれる。空と海の青、そして砂浜の白、島の緑。途方も無く豊かな気持ちになって来て、僕はしばらく海をボケ〜ッと眺める。
 …しかし…なんだよ〜、この強風は!こういう状況ならば、やっぱり風は「そよそよ」と吹くべきだろうに。耳元で「バババババッ」とものすごい音をたてて吹き荒ぶ生温い風が、せっかくの気分を台無しにしてくれる。
 「でもさ、この星砂って、有孔虫の死骸なんでしょ。要するに、この浜辺は“有孔虫の死骸の山”ってことだよね」と、Kがポツリと言う。
 「そう。死屍累々状態。言わば“有孔虫の墓場”。有孔虫はイイなぁ。こんな最高のロケーションで永久(とわ)の眠りに就けるわけだよ。どんなに立派な公園墓地もここには敵わないね。俺、死ぬときは有孔虫として死にたいなぁ〜」
 「…え?」
 「…あ?い、いや、例えばの話ね、例えばの。沖縄のキレイな海を見ながら…なんて、なかなかオツじゃないかな、って」
 「…ささきはときどきヘンなことを言うから…」
 「そんなにヘンな発言だったかなぁ…(我ながら実にロマンチックな発言だと思うのだが…)」
 ま、Kはそういう微妙なところを解さない人物なので、べつにどう思われようと一向に構わないんだけどね。
 
 この浜には、訪れている観光のお客さんもたくさん居た。「な〜んだぁ、こんなに島に来てる人が居たんじゃん」とビックリするほどだ。みんな砂浜で星砂を見ていたり、なかには海で泳いでいる人も居た。その光景だけを見ていると、これが10月中旬の海辺とはとても思えないぐらい“夏めいて”いるのだが…何しろくどいようだが風が強い。「海を見ながらのんびり…」というような悠長なことを言ってられない状況だったので、僕らは早めに浜を後にした。
 浜から上がって車に戻る途中、小物などを売る店があった(…“店”というにはお粗末なものだったけど)。そこでは、浜で拾ったのだろう星砂を小瓶に詰めたものや、貝殻などが売られていた。ハッキリ言って、こんなもんはわざわざ買わんでも砂浜で拾ってくりゃイイじゃんか、というものばかりが商品としてラインナップされていて、「こんなの買う客居るのか?」といった感じだが…
 「お兄さん、どうですか?この500円の星砂の瓶。こんなに大きな粒の星砂は、なかなか集めようとしても集め切らんよ〜」などとさりげなく煽るオバァの口車にまんまと乗せられて、僕は500円の“大粒の星砂の瓶詰め”をつい買ってしまった。オバァにニッコリと微笑まれてしまうと、つい気持ちがほだされてしまうんだよねぇ…
 「なんでそんなもん買ったんだ?星砂が欲しいんなら浜で拾って来ればよかったのに…」と呆れ顔のK。確かにKの言うとおりだ。まったくバカな買い物をしてしまった。
 …しかし、この大粒の星砂をじっくりと観察すると、「これはやっぱり“星”と言うよりは、“生き物の死骸”って感じの物体だなぁ。よくよく見ると、案外気持ち悪い形状かも…」と思ったり。←こんな感じで。
  

“星砂の浜”に向かいます。
お客さんの姿も多くて賑やか。
風はかなり強くなってますが。

  

ちょっと川平湾を彷彿とさせる眺め。
この辺りだけ天気もまずまず。
やっぱり晴れてる砂浜は気持ちイイです。

  

雲が切れるとまぶしい!
このまま海に飛び込みたい気分♪
…人が居るのでやめとこう。

  

砂浜自体はそれほど広くは無いです。
でも、ここにはみやげ物屋やレストランもあり。
ひょっとすると、島で一番リゾートっぽいビーチ?

  

星砂、マジでいっぱいです!
誰でも間違いなく現物を拝めます。
星砂がいっぱい=有孔虫の死骸がいっぱい(^_^;)

  

屋台(?)で小物を販売するオバァ。
もちろん瓶詰めの星砂も販売中。
…買っちゃいました。俺ってバカかも。

  



Movie

“星砂の浜”の様子。
風の音をご堪能ください(^_^;)
ファイルサイズは940kbぐらい。ちょっと重たいです。



 

 “星砂の浜”から外周道路に戻り、先へ少し進むと、今度は“月ヶ浜”という海岸を指し示す表示板が出て来た。僕らはその“月ヶ浜”に行ってみることにした。
 舗装された外周道路から“月ヶ浜”に抜ける道に入ると、突然道は真っ白な珊瑚の道になる。周囲を囲む樹木の緑と道の白さが目にまぶしく飛び込んで来て、僕とKは口々に「イイねぇ〜」などと歓喜の声を上げた。が、そんな風情溢れる珊瑚の道はほんの束の間で、すぐにまたアスファルトの道になってしまった。アスファルトの道に出ると、もうすぐにそこは“月ヶ浜”だった。
 月ヶ浜の入り口では、大きな捕虫網を持った地元のオジィが数人、その網を道路沿いの茂みや林に向かってフワフワと振りかざしている。
 「あの人たち、何を捕まえてるんだろう?蝶かな?それとも…ハッ!ウリミバエ!?」と、僕。
 「え?ウリミバエって根絶されたんじゃなかったっけ?あの、昔にゴーヤーとかを壊滅状態にしたハエでしょ?」
 そうだよねぇ、Kの言うとおりだよなぁ。じゃあ、あの虫捕り網を持ち歩いてるオジィたちは、一体何のためにあんなものを…?
 やんわりとした疑問を抱えつつ、僕らは車を駐車場に停めて、“月ヶ浜”へと向かう。
 
 この“月ヶ浜”は、海岸線がキレイな弓状になっているところがその名の由来なのだそうな。たぶん、ここでいうところの“月”は、三日月のことなんだろうね。まぁ“弓状”といって“満月”を連想する人は、そうそう居ないわな。
 ここは両端を小さな岬に囲まれたようになっていて、さっきまでのあの強風がまるで嘘か幻か、といった感じでそれはそれは静かだった。風もほとんど無く、波も驚くほど凪いでいる。
 それよりも何よりも、とにかくこの浜で一番驚き感動したのが、“砂”!ここの砂は、ちょっと他のビーチではお目に掛かれないほどにサラサラなのだ。このサラサラ感は、感激を通り越してもはや圧巻、と言っていい。“パウダーサンド”という言葉は、この“月ヶ浜”のために存在しているんじゃないか、と思ってしまうぐらいに。僕は何気なく砂に触った瞬間、「おおっ!!」と歓声を上げてしまった。「これはスゴイ!ムチャクチャ粒子が細かい上に、湿めり気がぜんぜん無い!ふんわりとした質感といい、白さといい、まさに砂の芸術品だ!」 僕はまるで砂浜評論家にでもなったかのように、砂を手で掬(すく)っては、その感動をKに伝える。僕があまりに大袈裟に(いや、大袈裟じゃないぞ!)砂を賞賛するので、Kも砂に触ってみるのだが、「ホントだね」と素っ気無く言い放ち、それ以上砂に関心を示すことは無かった。…つまらんヤツだ。
 僕はしばしの間、砂を相手にすっかり夢見心地。ダ〜ッと走っては砂にダイブ!砂の上でゴロゴロと転がり、スクッと立ち上がり、全身をブルンブルンと揺すっては「ほら!砂が全部サラッと落ちちゃう!まるで全身防砂加工な感じ!砂なんてぜ〜んぜん付いてませ〜ん!」などと、実に大人気(おとなげ)なくはしゃいじゃってもう大変。端から見れば「あの人、頭だいじょうぶなのか?」と不安になりそうな挙動を繰り広げ、Kもすっかり他人のふり状態。まぁよい。何とでも思うがいい。俺は今、この砂と至福の時を過ごしているのだ。こんな砂、自分の部屋中に撒きたい!…って、猫のトイレじゃあるまいし。
 
 さて、海そっちのけで砂との戯れを堪能し、すっかり僕は大満足。これでもう思い残すことは無い。Kも勝手に海を見たりしながらひとりでそこそこ納得したようだったので、僕らは“月ヶ浜”を去ることにした。
 「ところで、まだ帰りの船まで結構時間があるね。どこかで飯でも食おうか」と、Kが提案した。異議ナシ。
 というわけで、外周道路に一旦出て食事処でも探そうと、車で移動を開始。
 

“月ヶ浜”へと抜ける道。
珊瑚の白い道の“アジマァ”(交差点)。
照り返しがまぶしい。

  

巨大な捕虫網を持つオジィ。
他にも同じように網を持つ人が数人居た。
…なにを捕まえようとしてるんだ?

  

“月ヶ浜”です。
非常に穏やかなビーチ。
イイ感じでなごめそうです。

  

お月様(三日月?)のような弧を描いてるから、
“月ヶ浜”って呼ばれてるんだって。
なるほど、納得。

  


何がスゴイって、このきめ細かいサラサラの砂!
こんなにサラサラの砂、はじめて見た!
これはかなり感動モノ。一度触ってみぃ?

  

湾のようになっているので、風もわりと静か。
ホントはかなり強風が吹いてるんだけど、
とてもそうとは思えないでしょ?

  

 …だがしかし、外周道路沿いに何軒かの食堂はあるものの、どこもかしこもみんな閉店してる。というのも、何故かこの辺りにある食堂のほとんどが14時に店じまいしてしまうらしい。要するに、昼飯時の一番需要が多い時間帯のみ営業している、というわけだ。“浦内”から“中野” “上原” “船浦”と、食堂を求めて移動しているうちに、往路では素通りしてしまった“ピナイサーラの滝”が見える船浦湾の上に架かる橋のところまで来てしまった。
 僕らは食事をあきらめて、この滝を観ることにした。

 “ピナイサーラの滝”は、湾の奥まったところにある山から一筋に落ちている瀑布。僕らの居る橋の上からだと、ちょっと遠い。どうやら滝をもっと間近で観たいならば、船浦湾をカヌーで渡って、さらに“ピナイ川”という川を遡るのだそうだ。実際に数隻のカヌーが、湾の中を奥へ奥へと進んでいる姿が見えた。
 「…カヌーかぁ。なんかメンドクサいよね。大体、カヌーって初心者でも気軽に乗れるもんなのか?」
 「いや、やっぱりちょっとは訓練するんじゃないの?よく“ワザと転覆させて自力で持ち直す”みたいなことやらされたりしてるの、テレビで観るよ」
 「ということは、ひょっとしてカヌーって水着で乗るの?服が濡れちゃうじゃん、転覆したりしたら…」
 「さぁ…」
 僕らが滝とカヌーを眺めながらそんな会話をしている間に、空はさっきまでの晴れ間を見る見るうちに雲で覆い尽くされてしまい、すっかり仄暗くなってしまった。おまけに、幾分なりを潜めていた強風が再び吹きはじめ、辺りは時折嵐のような様相を呈してくる。湾はそれほど波立ってはいなかったが、この天候の中、カヌーに乗って川上りなんて…
 「大丈夫なのかなぁ、カヌー。あのまま突き進んで行くと、そのうちリポビタンDのCMのような状況が展開されちゃうんじゃないの…?」
 「激流に呑まれながら“ファイトォ〜!いっぱぁぁぁつ!”みたいな?…それって限りなく危険な状態じゃんか。怖い怖い。君子危うきに近寄らず。滝は遠くから眺めるだけにしておこう」
 …今気づいたんだけど、もしかして西表島って、僕らのような非アクティブな人間にはふさわしくない島なのでは?「川上りに山登り、カヌーやシーカヤック漕いだりダイビングしたり。いやぁ〜、体を動かすのって気持ちイイなぁ♪」的な、アウトドアを絵に描いたような楽しみ方が出来ない僕らには、もったいない場所なのだ、間違いなく。
 

船浦港付近の海。
島の北側はまだ晴れてますけど…
南側はすでに荒れ模様な感じ。

  

左端にカヌーが浮かんでます。
このカヌーで“ピナイサーラの滝”の下まで行くらしい。
何雙かのカヌーが滝に接近中でした。

  

“ピナイサーラの滝”、見える?
ちょうど真ん中辺りに薄っすらと写ってるんだけど…
なぜこんなに写りが悪いのかと言うと…

  

激しい風が吹き付けまくってるから!
椰子の木、真横にしなってやがる。
…船、ちゃんと出るのか!?

  
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