「愛していると言ってくれ!」


 “南風見田の浜”は、島の外周道路を南にズンズン進んだ果てにある。さっき買い物をした店がある“豊原集落”の辺りを過ぎると、道の両側には畑と森が見えるだけ。なんだか僕のイメージの中にある西表と、だんだん合致しはじめる。
 浜の入り口に着くと、その先は鬱蒼と茂る雑木林が作る蔭で薄暗い。
 「あ!携帯が“圏外”になってる!」と、Kは自分の携帯電話を見ながら言った。「ここに来るまでは大丈夫だったのに…」
 僕らは、さっそく入り口に車を停めて、浜へと歩き出した。と、雑木林の木の根元に、なにやら泥まみれになった物が落ちているのを発見。
 「あれ、手帳じゃないか?」と、僕はその泥だらけの手帳を拾ってみる。もしもここが青木ヶ原樹海か何かだったら、ちょっと怖くて拾うのに躊躇してしまうところだが…
 「中、見ちゃおうか。持ち主の人、すみませんけどちょっとだけ覗かせてもらいますよ〜」 とは言っても、この汚れ具合から言って、昨日今日の落し物じゃないのは明らかなんだけど。
 手帳の表紙の裏紙には、持ち主の名前などが書かれていた。中には…とくに何も書いてない。
 「なんでこんなところに落ちてるんだろう?捨てていったのかなぁ?記念に置いて行ったとか?…それとも…もうすでにこの世に居ないとか…」
 「怖いじゃん!どうしてささきはそういう恐ろしい想像をするんだ!?もういいよ〜、早く戻しちゃいなよ、それ」
 「う〜む、なぜ手帳がこんなところに…これは警察に届けたほうがいいんじゃないだろうか…案外、行方不明かなにかで捜索願が出ている人物かもしれない」
 そのとき僕の頭には“南の楽園に残された謎の手帳!サラリーマン探偵(=俺)に忍び寄る魔の手!青い海だけが知っている悲しい事件の真相…”などという、サスペンスドラマのサブ・タイトルもどきが浮かんでいた。相手役は片平なぎさ辺りでお願いします、みたいな。
 「いいからそんなのほっときなよ。さ、浜に行くよ」 Kは、手帳を片手に首をひねる僕に見切りをつけ、とっとと海のほうへと進みはじめた。
 「…なんだよ〜、人がせっかく船越栄一郎気分で考え込んでいるのに。マジでこれが何か大きな事件の発端になったとしたらさぁ、事情聴取とかされるかもしれないよ〜♪なかなか体験できないよ、そういうの。これはひょっとすると、貴重な体験の幕開けを告げる…」
 Kは、まったく聞く耳を持たず、ひとりで浜へと向かって行く。チッ!つまんねぇの!仕方なく、僕は“謎の手帳”を元あった場所に戻し、Kの後をついて行った。
 
 さて、浜に着くと…浜には誰も居ないようだった。しかし、浜に入る手前にはバイクと自転車が一台づつ停めてあったし、浜の中の芝生のようになってるところには、ワゴン車も停まっている。ホントは誰も居ないはずが無いんだけど…
 「うむむ!これはやっぱり犯罪の匂いがする!おい、K!ちょっとそこらへんの砂を掘ってみろ!きっと中から死体が…」
 「さっきからつまんないこと言ってないでさ…」
 などと言い合っていると、どこからともなく海パン姿のデップリとした中年の白人男性が、こちらに向かってノシノシと歩いてきた。
 「コンニチハ〜」と、白人男性は巨体を揺すりながら挨拶してきた。
 「あ、こんにちは〜」 慌てて返事をする僕ら。
 白人男性はニッコリと笑って「コレカラ泳グデスカ?チョト寒イデスヨ」と、なかなか流暢な日本語で話し掛けてきた。そういう彼は確かに全身濡れていた。手にシュノーケルの道具を持っている。
 「ソレデハ、サヨナラ〜」と言って、白人男性は去って行った。…ちょっと面食らう別れの挨拶だったが、去って行く彼の背中に、僕らも「さようなら〜」と言う。
 「…何が“犯罪の匂い”だよ。気さくな外人さんが居るだけじゃないか」
 「いや、あの人の良さそうな外見に油断してはいけない!あの巨体で襲い掛かられたりしたら、それこそ熊に一撃食らうほどの衝撃だ。きっと、あの手帳の人も…」
 「ずっとやってろ、そうやって」とKはすっかり呆れ顔で、砂浜を歩き出した。何も俺だって本気でそんなことを思ってたわけじゃないのに…まったくユーモアを解さないヤツだ。
 
 それにしても、さっきの白人男性が去った“南風見田の浜”は、ますます寂しさが炸裂している。天気も曇りがちだし、風もビュービューと吹き付ける。もちろん寒くは無いのだが、どうも寒々とした雰囲気が漂っている。
 「これで天気さえ良ければなぁ〜」と、僕らは少々残念に思う。八重山の海はキレイだが、いかんせん天気が悪いと途端に味気ないものになってしまう。浜にはこれといって何も無い場合が圧倒的に多いし、人の気配も少ない。おまけに広々としたビーチだったりすると、静けさを通り越してむしろ「サビシィ〜!」と財津一郎チックに叫びたくなるような寂寥感に襲われたりもする。
 僕らはそんな静まり返った浜辺を、あっちこっちフラフラとほっつき歩き、20〜30分で浜を後にすることにした。なんか、ただブラブラと歩いただけ、という感じ。男が二人して曇った海をそぞろ歩くなんて、なんとも無駄な時間の過ごし方ではある。
 雲は、南の方角からグングンと押し寄せてくる。僕はその雲の彼方に台風の気配を感じる。風も相変わらずかなり強い。
 「…あのさ、もしもこのまま西表島に閉じ込められちゃったら、どうする?」と、僕はKに訊いてみた。このとき僕は、あの多良間島での出来事を思い出していた。
 「…大丈夫だとは思うけど…そうなったら困るなぁ」と、Kはトンマな答えを返して来た。そりゃ“困る”のは当然なんだけど…
 
 この“南風見田の浜”の近くには、“忘勿石の碑”と“忘勿石”がある。これは、戦時中に波照間島からここ西表島へ強制疎開させられた住民がマラリアの被害にあって、多数命を落としたことを“忘れる勿(なかれ)”という意味をこめた石と碑だ。
 去年、友人Kと波照間島に行ったときに、波照間小・中学校の外壁にこの悲惨な歴史を描いた詩が書かれていたのを思い出す。
 戦争…今も、アメリカ(を筆頭とした先進国)とアフガニスタンが戦争をしている。で、戦地となっているアフガンでは多くの死者が出ているようだ。戦争は無くならないものなんだろうかねぇ…気が重くなる。
 実は、Kはこの手の戦争に纏わる場所に、絶対自分から立ち寄ろうとはしない。この“忘勿石”だって、ホントはKは素通りするところだった。…まぁ、気持ちは分かる。休暇を楽しむために沖縄に来ているのに、戦争の暗い影を感じさせる場所に来るのは、確かにお気楽な休暇気分を殺がれるものだ。ましてや、今まさに世界を巻き込む勢いの戦争が起こっていて、その影響が廻りまわって沖縄にまで及んでいるわけだから、こういう戦跡の類を見るのはなんとなくツライし、複雑な気持ちにもなる。
 …さて、そうそう沈んだ気分に浸ってばかりも居られない。そろそろ次に行きますか〜!
 

“南風見田の浜”に続く道。
まさに森、といった雰囲気。
シ〜ンと静まりかえっております。

  

海が見えてきました。
バイクと自転車が各一台づつ置いてある。
…人の居る気配はほとんど無いけど…

  

“南風見田の浜”。
予想以上に広々としたビーチ。
天気がもっと良ければなぁ…

  

だ〜れも居ません。
僕ら二人きりです。
…ちょっと寂しいんですけど。

  

展望台があります。
でも、更衣室はおろかトイレもありません。
茂みに隠れてするしかない!?

  

シャワーはありました。展望台のすぐ脇に。
ちゃんと水も出ます。しっかり現役!
使う人が居るのかどうかは不明ですが。

  

この砂浜、案外アップダウンがあります。
砂地がこんもりと盛り上がってたり。
で、これは水が流れている痕(あと)。

  

水の流れを辿って行くと、こんなのがあった。
どこからか流れてくる水。
溜まり水を見る限り、あんまりキレイじゃなさそうな…

  

ちょっとした砂丘気分が味わえる(?)
巨大芋虫がドカ〜ンと地を割って出て来そうな。
(↑分かる人にしか分からないコメント)

  

砂浜だけじゃなくて岩場もあります。
波と風に削られてボコボコ状態。
ちょっと面白いかも、この岩場。

  

貝?イソギンチャクの一種?
…まさか化石じゃないよね。
こういうの、詳しくないからぜんぜん分かんない。

  

 外周道路を北の方向へ、“船浦”の集落のほうへと走って行く。途中で“仲間川”などが見えて、僕はちょっと色めき立ったりしたのだが、いかんせんKはまったく車を停めやしない。
 「せっかく西表に来たのに、仲間川を素通りか!?そりゃあんまりなんじゃないの?」
 僕が愕然としてそう言うと、Kは何食わぬ顔で答える。
 「だって、仲間川の川上りなんかに行ってるほど、時間に余裕がないし。それとも川上りしたかったのか?」
 「いや、べつに川上りしないにしても…ちょっと川を見るぐらいのこと、したっていいんじゃないか?」
 などと話している間に、もう仲間川は遥か後方に過ぎ去って行ってしまった。
 それにしても、西表島に来たというのに、川上りをしないなんて…ホントにこんなんで大丈夫なのか?
 「なんかさぁ、“西表に来た〜っ!”っていう実感が欲しい。“お〜、これぞまさに西表!”って誰もが納得できるような、コテコテの西表名物に出会いたい!」と僕が言うと、Kはすかさず、「大丈夫、今そういう場所に向かってるところだから」とヤケに自信あり気だ。

 Kが車を停めたのは、『西表野生生物保護センター』という、なんだか漢字がたくさん並んでいる名称の施設だった。西表島はもちろん、八重山に棲む生き物たちについての展示物がとても充実している。
 しかし、こうしてみると八重山には“絶滅危惧種”となっている生物のなんと多いことか!誰もが知っているであろうイリオモテヤマネコやカンムリワシはもちろん、カエル・コウモリ・苔類などなど、とにかくありとあらゆる生き物が絶滅の危機に瀕している。
 なんだかウンザリしてくるよなぁ。絶滅だよ、絶滅。一度滅んでしまった種族は、未来永劫蘇ることは無いんだよ。僕はいわゆるエコロジストじゃないけれど、こんな現実を突きつけられちゃあやっぱり考えてしまう。自然の摂理の中で滅んでいくわけじゃなく、彼らが滅ぼされようとしている原因は、そのほとんどが人間のもたらしたものだ。…人間って、地球をぶっ壊すために発生した“リーサル・ウェポン”なのかもしれない、なんて思ったりしてしまう。どっかの国は、環境保護の国際条約にイチャモンつけた挙句に戦争なんかやってるしねぇ…
 で、西表と言えば、もっとも有名なあのイリオモテヤマネコ。このセンターでは、自動車事故に遭って負傷したイリオモテヤマネコを保護していて、そのヤマネコのリハビリしている様子をテレビモニターで見ることが出来る(と言っても、生中継じゃないみたいだけど)。事故かぁ。とくにネコって、確かに街の中でもよく車に轢かれてるよなぁ。ネコって、なぜか車の前を突っ切ったりするんだよね。よほど自分の走るスピードに自信があるのか、はたまた車のスピード感が分からないのか…もちろん、イリオモテヤマネコが街ネコと同じ行動を取るのかは知らないんだけど。
 堅い話をしちゃいましたが、ところで!ここには、島で出会った動物のことを来場者が書き込める“生き物掲示板”なるものがある。この掲示板は西表島の大きな地図になっていて、そこに、自分が島を廻っていて見つけた生き物の目撃情報を書いたメモ用紙のようなものを貼り付けるわけなんだけど…その中に、“孔雀”の目撃情報が!“孔雀”と言えば、前回の小浜島。あの島には『はいむるぶし』から逃走した孔雀があっちこっちに居たんだけど、まさか西表にまでやって来ていたなんて…孔雀が海を渡って、小浜島から西表島まで飛んで来たのか?(孔雀ってそんなに空を飛べるのか?) それとも、何者かが持ち込んだのか?だいたい、西表で孔雀を目撃したって、ホント?などと、大きな疑問が残ったが、とにかくこの書き込みが事実なら、これはちょっと驚きの事実だ、と思う、ひょっとして僕だけかもしれないけど。
 「K、孔雀を目撃した人が居るらしいぞ!」
 「へ〜、『はいむるぶし』を思い出すねぇ。…孔雀ってさ、食えるのかな?」
 …それ、俺も考えたんだよ、この前…なんか、思考回路が同じ程度なのかもしれない。ちょっと恥ずかしい…
 註:後で知ったんだけど、孔雀はどうやらすぐ隣りの由布島にも居るらしい。なので、西表で目撃されたという孔雀は、ひょっとすると由布島から逃亡してきた孔雀なのかもしれないです。
 

島の北側に向かって移動。
北の方角は少し天気が良さそう。
陽が差すと暑い。

  

橋の上から見た“仲間川”。
走る車内から撮影。
Kさん、ちっとも停まってくれないもんで。

  

『西表野生生物保護センター』。
入館は無料でOKなんだよ。
万年金欠の僕でも安心さ!

  

西表に棲む生き物の情報が満載。
これであなたも西表のムツゴロウになれる!
チャトランチャトラン〜♪

  

交通事故で負傷したイリオモテヤマネコ。
ここに保護されている様子をビデオで公開中。
絶滅の危機に瀕してるっていうのに、事故か…

   

剥製がある、ってことは、このヤマネコもやっぱり…
沖縄の稀少な動物が受けている受難。
やっぱり人間って勝手な生き物なのかもね…

  

 さらに島を北上していくと、“由布島”に行く水牛車の乗り場に差し掛かった。
 「由布島だって。行くか?由布島に」 「う〜ん、時間が無いしなぁ。でも、ちょっとだけ見に行ってみる?」
 僕は、正直言って由布島自体にはそれほど関心が無かった。島が植物園みたいになってるんでしょ?植物園ってあんまり興味ないんだよなぁ。ただ、由布島に送迎してくれる水牛車には、ちょっとだけ関心があった。遠浅の海を静かに渡っていく水牛車。よくテレビや写真などで見掛ける光景だが、それを肉眼で見られるとなると、それはそれでウキウキしてくる。

 外周道路からほんの少し外れ、海岸に向かって車を進めて行くと、なにやらだだっ広い空間が出現した。ここがどうやら由布島に送迎する水牛車の乗り場のようだ。…しかし、そこには観光客の姿はまるで無く、おまけに水牛車も出払った後らしく、曇天と相まってどこか寒々とした空気が漂っていた。僕のイメージの中の“海と水牛車”の光景とは程遠い、たまらなく寂しい様子にすっかり気勢が殺がれる。
 由布島は、すぐそこに見える。距離にすると…徒歩5〜10分ってな感じの近さ、といったところか。海の水はすっかり干上がっていて、これだったらわざわざ水牛車に乗らなくても、歩いて島に渡れそうな気がする。
 「でも、歩いて渡っちゃいけないのかなぁ?由布島って島に入るのにお金が取られるんでしょ?それも“水牛車代”込みの料金でしょ?歩いて島に来た人は、無料、もしくは割引料金とかにならないの?」これは、僕の素朴な疑問。
 「さぁ…でも、水牛車で海を渡る、っていう雰囲気を味わいたい人が行く島なんじゃないの?歩いて渡っちゃ意味ないじゃん」とK。ごもっとも。
 乗り場には、おそらくこの水牛車運行に携わる関係者と思しき人が2〜3人、屋根つきベンチに腰掛けて新聞を読んだりゴロンと横になって居たりと、極めてのどかな時間を過ごしている。しかし、同時に「ちょっとやる気が無さ過ぎでは…?」とも思ったり。何しろ、恰好の獲物(=僕ら)が鼻先をウロチョロとしているというのに、呼び込みをする気配すら無い。僕らはほとんど無視されている状態。ま、呼び込まれたところで乗るつもりは無いんだけどね。
 水牛車の行路に沿うように、由布島に向かって電柱が一直線に並んで伸びている。
 「そう言えば、昔CMでこの電柱が映ってたことがあったよね?何のCMだったんだっけ?電力会社?」
 「え〜?蚊取り線香じゃないの?」
 …なんのCMだったっけ?ちょっと思い出せない。
 この寂寥感溢れる環境下、さらに追い討ちを掛けるように小雨まで降り出して来た。
 「あ〜あ、とうとう降って来ちゃったよぉ〜。そろそろ行こうか」
 …結局、仲間川に続いて由布島にも行かず。俺たちは一体何しに西表まで来たんだよ〜!!
 

“由布島”に行く水牛車の乗り場。
やっぱりみんな行くの?由布島って。
僕は植物園って関心が無くて…

  

ガラ〜ンとした水牛車乗り場。
どうやら出払った後みたい。
天気も悪いので、やたらと寂寥感溢れてます。

  

あ!居た!水牛車!
それにしても、島は思った以上に至近距離。
これだったら自分で歩いて渡れそうな。

  

ヒマそうな関係者(?)の方たち。
かと言って、客引きをするでも無く。
夏のシーズンは忙しいのかもしれないけど。

  

 由布島入り口を後にして少しだけ北上すると、小雨はいつの間にか止んでいた。雨が止んだのか、それともたまたま降っていないゾーンに達したのか、それはよく分からなかったけど。
 途中、『西表島温泉』が見えた。おお!これが“日本最南端の温泉”かぁ〜!
 「おい、K。これがあの『西表』…って、ここもまた素通りなのかよ!」
 僕が言い終わらないうちに、Kは温泉に目もくれないで走り過ぎる。
 「だって、温泉なんて入るつもり無いもん。それともささきは温泉に入りたいの?」
 「いや、べつに入りたか無いけど…ちょっと寄ってくぐらいしてもいいのに…」
 「だってさ、時間が無いじゃん。5時の船で石垣に戻らなくちゃいけないんだから」
 Kがこれほど帰る船の時間を気にする理由…それは、とにかく夜は石垣島で過ごしたいから、ただそれだけのためである。普段はこちらが呆れるほどマイペースを貫いているKが、美崎町で夜を過ごしたい一心でこれほどまでに時間にシビアな人間に豹変してしまうとは…
 
 そのままグングン進んで行く僕らのレンタカー。それにしても、西表島の外周道路は実に広々としていて、きちんとアスファルトで舗装が施されている。ハッキリ言って、「無駄じゃないか?」と思えるほどに。
 道路の脇には、ところどころに“ヤマネコ注意”などの警告板が立っている。
 「こんな整備された広い道路を作れば、そりゃあ車だってスピード出しちゃうよねぇ。だからヤマネコも轢かれちゃうんだよ」
 そう、この快適な道路を調子良くドライブしていると、どうやらスピードを出したくなるようだ。Kの超安全運転なペースに痺れを切らし、後続車が何台も僕らの車を追い越して行った。
 あんまり堅いことは言いたくないんだけど、こういうのを見ると、やっぱりついつい考えてしまう。離島の場合、どうしても手っ取り早い公共設備投資(道路整備とか)に頼らざるを得ない側面もあるのだろうとは思う。島の人たちの暮らしは、常に不便さとの直面を余儀なくされているのかもしれない。だから、開発そのものを「良くないもの」だとか、「今すぐ止めるべき」だとか、部外者の僕が容易く言えるような筋じゃない。だけど…一度失われた環境が、寸分違わず蘇ることはまず無い。ましてや、絶滅寸前の動物が開発によってこの世から完全に消え去ってしまったら…
 これらの動物がもしも話すことが出来たら、「人間なんて居ないほうがいい。地球のためにも絶滅するべきなのは人間のほうじゃないの?」なんて言われやしないかと、僕はちょっと悲しい気持ちになる。

 そんなことを思いつつ、あちこちで道路工事をしている様子を見るにつけ、僕はなんだかどんよりとした気分になってくる。これは、何も西表島に限ったことじゃない。去年、波照間島に行ったときにも同じような状況を見たし、本島に至っては…
 いや、僕はそれについてとやかく言う立場に無い。何しろ、そこで暮らしている人々が、その開発をどう捉えているのかが一番大切なのだ。島の人々が「それでいい」と思うのならば、僕はそれでもいいのだろうと思う。ただ、沖縄の海が青くなくなって、どこに行ってもアスファルトとビルしか見られないような島になってしまったとしたら、僕はもう沖縄を旅することは無いだろう。
 「まぁ、俺たちが沖縄に来ようと来まいと、沖縄にとっては大したことじゃないんだろうけどね」
 「そうだね…でも、テロ事件で観光客が減った、なんて大騒ぎしてるじゃん。沖縄が観光に依存してる部分は結構大きいはずだよね。沖縄から自然が無くなったら、今回のテロ騒動どころの打撃じゃないと思うけどなぁ」
 「そうは言ってもさ、観光で来てる人の中で、どれだけの人が泡瀬の干潟のこととか、辺野古のヘリポートのこととかを知ってるんだろう?みんなそんなこと大して気にも留めないで遊びに来てるんじゃないの?そう考えると、所詮沖縄人気なんて言っても、その程度のことなんじゃないか、って気もするよ。テロがあろうが無かろうが、俺たちはこうして沖縄に来てるわけだからさ。来る人は来る、来ない人は来ない。どんなに“安全だ”って声高に主張したところで、これからだって同じようなことが起きるたびに沖縄はまた苦境に立たされるわけだよ。だったら、観光客なんて初めから宛てにしないほうが懸命なのかもしれない…」
 「…俺たちって、今ものすご〜く社会派な感じじゃないか?なんかカッコイイね、社会派」
 「でも、まったく不毛な会話だなぁ、アハハ。俺たちがこんなレンタカーの中で話してたって、何の意義もないやね」
 「ま、イイじゃん。俺たちもそうそういつまでもバカコンビじゃないぞ!ってことで」
 「そうだね、アハハハ」
 …結局、やっぱりバカコンビじゃん。
 
 そんなバカコンビは、カーラジオから聴こえてくる意味不明な台湾の放送をBGM代わりに(だってこれしか受信できなかったんだもんよ)しながら、相変わらず後続車に追い抜かれながら、どんどん“船浦集落”へと進んで行く。“大見謝ロードパーク”も、“ピナイサーラの滝”さえも通り過ぎながら…
 「おい、K!さっきから黙っていればオマエってヤツは!ことごとく見どころを通過しやがって〜!俺はオマエのサメ・ドライブに付き合うために沖縄に来てるわけじゃないんだぞ!ちったぁ停まらんか!」
 「だって、時間が無いから…」
 「時間なんかどうでもいい!せっかく西表島に来たってのに、このままノンストップで島を廻ってお終いか!?いい加減にしろ!って、なんで俺がこんなに激昂しなくちゃいけないんだ!?」
 「…あ、“星砂の浜”だってよ。寄って行こうか、“星砂の浜”に…」
 「とっとと寄れ!どこでもいいから寄れ!」
 …今は、島の開発だのテロ事件だのという前に、この男の無限に続きそうな運転を止めることが先決だ。このままじゃあ西表島に来た意味が無い。「西表島に行きました。島をグルッと廻りました。おわり」なんて、これでは子供の絵日記にだってなりゃしない。
 

この石碑、一体なんだ?
「ESSAYONS L.Z.」とか書かれてるけど…
これってフランス語ですか?

  

小浜島が見えます。
結局、2回連続小浜島は回避できた。
ちょっとホッとしたりして(^_^;)

  

離島って、ホントにこういう光景を多く目にする。
こういうのを見るたびに、なんだか気分が重くなる。
離島よ、ホントにこれでいいのか?

  

島の人たちの生活が良くなるんだったら、
それはそれで構わないけど…
思わず握りこぶしになる僕(左端)。

  

西表の道って、広い。とても立派な道路。
で、案外みんなスピード出して走ってる(地元の車も、観光の車も)。
こりゃ轢かれるわな、ヤマネコだってさ…

  
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