ノスタルジア


 …ところで、今回の旅行記は一日当たりのページ数がいつもに比べると少ない、と思いませんか?初日も二日目も2ページづつしか書いてないし。
 この原因はすべて友人Kのサメ・ドライブだったりする。なにしろ、車を降りて観光している時間よりも、車の中でダラダラと無駄話をしている時間のほうが圧倒的に長いんだから。要するに、書くことがあまり無い、という状況に置かれているわけだ。
 果たしてKは、沖縄や八重山のどこが気に入っているのだろう。こうして宛ても無くひたすら車を運転するだけでいいのなら、わざわざ沖縄まで来る必要なんて無いように思うんだが…
 観光名所を観て回ることにもそれほど関心があるわけでも無さそうだし、かといって海で泳ぐわけでも無い。集落の風情をとくに堪能しようというのでも無く、島の生き物にことさら興味があるということも無いようだ。Kが沖縄に来て堪能していることと言えば…ただひたすらドライブし、夜は繁華街で飲む。で、その翌日の昼近くまで惰眠を貪る。恐らく、この三点に絞られるのではないか?…こんなの、べつに沖縄じゃなくたって、その気になれば東京でも堪能できる類の行動なのでは…
 う〜む、さっぱり分からない。なんでKは毎年沖縄に通ってるんだろう。
 
 で、三日目の朝、8時過ぎ。Kはまだまだ深〜い眠りについていた。たぶん、放っておくとこのまま昼まで、いや、ひょっとするともっと長時間眠り続けてしまうかもしれない。
 僕は眠っているKを尻目に、さっさと朝の街を散歩しに出掛けることにした。

 朝の美崎町界隈は、実にひっそりと静まり返っている。人影もほとんど無く、街はひたすら弛緩している。だけど、辺りを包む空気は朝特有の澄んだ空気で、そのギャップがこれまた不思議と気持ちいい。
 旅行者の気ままで開放的な気分も手伝って、僕はのらりくらりと美崎町から『新栄公園』の脇を経て、そのまま港の突端のほうまで時間を掛けてほっつき歩く。
 港に近づくと、車の行き来がそこそこ増えてくる。―― 都市部だったら、もうこの時間は人も車も夥しく殺到し、一日のはじまりの活気と憂鬱さが渦巻いているはずの時間だ。しかし、八重山で一番栄えているはずの石垣島の中心部でさえ、そんな光景は微塵も見られない。街はひどくのんびりとしていて、とても静かに一日をはじめていく。…いいなぁ、こんなふうに穏やかにはじまる一日。もちろん石垣の人もいろいろな事情を抱えていたり、できれば迎えたくない一日だってあるのだろうけど、少なくともウンザリするような朝の人ごみや車の往来に気が滅入る、ということは無さそうだ。それだけでもちょっとは救われるような気がするんじゃないかなぁ。…あ、でも、島の人にとってはこれは当たり前の日常なのだね。こんな気持ちを勝手に抱いてしまうのは、たぶん僕の都合の良い“癒されたい願望”の成せる技なんだろう。
 でも、きっと沖縄が好きな人の多くは僕と同じように、沖縄のゆったりとした時間の流れや、地に足の着いた暮らしの匂い、心に余裕のある人々の姿に惹かれるんじゃなかろうか。
 と、僕はここでふと気づく。…ひょっとすると、Kのような旅こそが、沖縄や八重山を旅するのに最もふさわしいのかもしれない、と。やれ寝すぎだ、やれ目的が無さ過ぎるだと、いつもKを急っ突いていた僕だったが、それは間違いだったのかも…
 ちょっと反省。僕はこの6日間で、とにかく「見られるところ、行けるところは出来るだけたくさん廻らなければ!」と、さもしく欲張り過ぎていたのかもしれない。…そうだな、今日の西表島では、とにかくKのペースに身を委ねることにしよう。(って、よくよく考えてみれば、昨日も一昨日もずっとKのペースに巻き込まれていたんだけどね)

 ホテルに戻ると、Kが起きてテレビを見ていた。僕はKに、
 「今日はもうKがどんなにバカみたいにドライブしまくっても、目的も無く漠然と車を走らせても、絶対文句は言わない!」と宣言した。
 「…なにそれ?ひょっとして、事前にクギを刺してるの?」と、苦笑いするK。
 「いや!そうじゃない!どんなにKがノンストップでダラダラと車を運転しようとも、俺は今日は甘んじて許そう!ということだ!」
 「…やっぱり、それって遠まわしに俺の行動を非難してるんじゃないの?大丈夫だよ、西表にははじめて行くんだから。しっかりいろんなところを観て廻るよ〜」
 「…うむ、それでヨシ!」
 …あれ?当初の目論見と違ってないか?…ま、いいか。
 


朝。
Kはまだ死んだように眠ってます。
僕はちょっくら散歩に行こ〜っと♪

  

午前8時の美崎町歓楽街。
人っ子ひとり居ません。
空気が凛としてて気持ちいいです。

  


こういうコンクリート剥き出しの感じ。
これって沖縄っぽいよね?
僕は大好きです、こういう光景。

  

石垣島で映画を観たこと、ある?
僕はありません。
…こんな時間に“上映中”って…ホントかよ。

  


『竹富町役場』。
西表島に移転する計画が持ち上がってるらしい。
…それって便利になるのかなぁ?

  

朝だけど、陽射しはすでに強い。
歩いていると汗ばんでくる。
今朝は風も比較的穏やかで…

  


石垣港。
結構ダンプカーなどの出入りが激しい。
朝早くからご苦労様です!

  

コンテナが積み上げられている。
なんか“港”って感じがするね。
“琉球海運”ってのがイイなぁ。

  

これは港の真向かいにある『浜崎緑地公園』。
椰子の木がなかなか南国チック。
緑が気持ちいい。

  

港の突端。
こっちまで来たのははじめて。
じゃあ、ちょっと海を見てみようかな。

  

…まぁ、海ですよね(^_^;)
天気はまずまず良いみたいですが。
でも、台風が接近中なんだよなぁ…

 

ススキが揺れてる。
もうすっかり秋めいて…
って、昼間の気温は30℃近くありますけど…

  

『私立図書館』の赤瓦の屋根。
青空に映えるよね、やっぱり。
沖縄の空はこうでなくちゃ!

  

“トニーそば”ってどんなそば?
「あなたのお名前なんて〜の?」
それはトニー谷。

  

 ホテルを出て、離島桟橋に向かう。とりあえず、僕らはまず『八重山観光フェリー』の事務所に入る。
 「え〜っと、一番近い時間に出る船は…今が大体10時半だから…12時の船か…」
 僕らが時刻表を見ながらボソボソと話していると、カウンターでチケットを売っているおねえさんが、
 「あの〜、今日は船浦港に行く便が欠航してるので、お隣の『安栄観光』さんで11時に臨時便が出ますよ。そちらのほうが早いですよ」と、親切にも教えてくれた。
 「あ、そうなんですか。ありがとうございます!」 う〜ん、なんて心が広いんだ!商売敵の会社の船を勧めてくれるなんて!よっ!太っ腹!僕とKは、このおねえさんのもたらしてくれた耳寄り情報に感謝しつつ、そそくさと隣りの『安栄観光』に移動し、11時発の船のチケットを購入した。
 船の出発までまだ時間があったので、これも毎度恒例、『中村釣り具店』で食料や使い切りカメラなどを入手する。ここで買った食料を船の中で食べるわけね。言ってみればこれが僕らの朝食兼昼食。乗り物酔いしやすい人からすれば、かなり揺れの激しい八重山の高速艇の中で物を食べるという行為は、かなり無謀に思えるかもしれない。でも、僕もKも乗り物には比較的強いので大丈夫♪上下左右前後に揺れる船の中で摂る食事も、なかなかオツなものなのだ。お試しあれ!…でも、もしも試して船内でゲロゲ〜ロな事態に陥っても当方は責任を負いません。
 
 船に乗り、石垣島を発つ。さぁ、いよいよ西表島だ〜!
 僕らはさっき港で買った“おにぎり弁当”を食べながら、『やえやまガイドブック』をチェックする。いつもだと僕らはこの手のガイドブックを持たないで(と言うか、持って来るのを忘れて)島を彷徨うのだが、今回は何かとこのガイドブックのお世話になっている。
 「やっぱり、西表はレンタカーで廻らないとダメだね。島に着いたらまず車を借りないとな」
 「でも、西表の道は分かりやすいなぁ。幹線道路はほとんど一本道じゃん。これなら、道に迷うのが得意なKでも安心だね」
 「え?俺がいつ道に迷ったっけ?」
 「一生言ってろ!…あ、でもさ、西表は石垣島よりデカいんだよ。あんまり調子こいてあっちこっち寄ったりし過ぎると、うっかり最終の船に乗り遅れちゃう危険性が…そうなると、西表で一泊することになっちゃうよ。って、俺はべつにそれでも構わないけど」
 「…それは避けたいなぁ。だって、たぶん飲み屋とか無いよ、西表には…」
 「…どうもその基準がよく分かんないんだけど。なんでKはそんなに飲み屋に拘(こだわ)るんだ?一晩ぐらい飲み屋に行かなくたって平気だろ〜?」
 「…それじゃあ、せっかく沖縄に来てるのにつまんないじゃん。沖縄に来てるんだから、やっぱり飲み屋には行かなくちゃ」
 「(その義務感のようなものは、一体どこから来るものなのか?)…だったら、せいぜい船に乗り遅れないように、時間配分に気をつけることだね。俺は西表に一泊したってまったくOKだもん」

 ところで、気になる台風の動きなのだが、どうやら今日の時点ではそれほど海路にも影響は無いようだ。海もそこそこ凪いでいるようだし、空模様も、相変わらず雲は多めながらも青空も覗いているし、まずまずといったところだ。
 …だけど、やはり心のどこかで引っ掛かる台風の存在。憎き台風のヤツは、ジリジリと八重山へ接近しつつある。ハ〜、なんでこういつもいつも台風に祟られるんだ?
 

今回の八重山旅行の拠点、『大原ホテル』。
リゾートとは縁遠いけど、立地はかなり便利。
すぐとなりに『ホッパー』もあるしね。

  

毎度お馴染み、離島桟橋。
ここから広がる、八重山パラダイス。
さて、意気揚揚出掛けましょうか♪

  

この女性は何を思って海を見つめるのか。
八重山ではこういう人、かなり見かけます。
大きな荷物。キャンパーなのかな?

  

この船で西表島に行きま〜す!
安栄観光の船ですね。
お客さんはかなり多かった。船室はほぼ満席。

  

いざ、西表島へ!
…だがしかし、空模様は次第に怪しくなってきて…
う〜む、先行きに若干の不安が…

  

 石垣を出て30分ちょっとで、西表島・大原港に到着した。港から大原の集落に続くまっすぐな道を見る。港と集落が近いのは実に便利だ。他の離島は、港と中心部の集落の間に結構距離があったりするので、こんな些細なことに僕らは感激する。
 「さぁ、まずはレンタカーだ。大原の集落の中に2軒レンタカー屋があるみたいだから、とりあえず集落に行ってみよう」
 僕らは集落に向かう緩い坂道を登る。交番や旅館を脇に見ながら、あっという間に集落に着いた。
 集落に入ってすぐのところに、小さなレンタカー屋があった。僕らは迷うことなくそこへ行き、レンタカーを借りた。
 車種を訊かれて、Kは軽自動車を選んだ。「オートマ車とマニュアル車、どちらになさいますか?」と店の人に訊かれ、どういうわけだかKは、マニュアル車を選択する。「なんでわざわざマニュアル車を…?」と思ったが、あえてそのことを問い質さずに、僕はKの決定に従うことにした。きっと、大した理由なんか無いに決まっている。
 配車されたレンタカーに乗り込み、「よ〜し!それじゃあはりきって行ってみよ〜!!」と意気込む僕。が、Kはいきなり「…やっぱりオートマの車のほうがイイかなぁ。車を取り替えてもらおうかなぁ…」などと、アホなことを抜かしはじめた。アンタねぇ、だったら最初から素直にオートマ車を選べばよかったじゃないか!!まったく、コイツの頭の中はどうなってるんだ!?
 「細かいことは気にするな!さ、それじゃあはりきって行ってみよ〜!!」
 「……」
 「はりきって行ってみよ〜〜〜〜!!!」
 「…分かったよ。それじゃ行きますか」
 Kはユルユルと車を動かす。僕は今朝決めたのだ。今日はKの選択を尊重しようと。嗚呼、なんと美しい友情だろう。Kよ、感謝しやがれ!ってんだ。しっかり運転するように、キミの選んだマニュアル車を!
 
 Kは、車を“南風見田(はえみた)の浜”の方向に走らせる。途中、一軒の共同売店(スーパー?)を見つけ、ちょっと立ち寄ってみることにした。
 店の中には地元のお客さんが数人居た。この店、品揃えは思いの他充実していた。食料品や生活雑貨が整然と並べられていて、なかなかどうして侮れない感じ。僕らは店内をウロウロと物色し、缶ジュースと菓子類を買った。ちなみに、缶ジュースは1本\150だった。やっぱり離島だと輸送費(?)やら何やらと手間が掛かる分、値段も高くなってしまうんだろうか。
 僕らが買い物を店を済ませ外に出るのとすれ違うように、アンマーがご来店。アンマーは僕らを見て、「こんにちは〜」と挨拶しながら店に入って行った。僕らももちろん返礼する。
 「あ〜、なんか、“離島に来た!”って気がするねぇ〜」と、僕らはすっかりゴキゲン。
 さて、それじゃあ“南風見田の浜”を目指して出発!!
  

西表島・大原港。
港の東側でなにやら大規模な工事が。
どうやら港を完全改築するらしい。

   

大きいんだよねぇ、西表って。
で、道路が開通してる範囲は結構狭い。
これが“東洋のガラパゴス”を保つ秘訣(?)

  

さて、いよいよ島の中に潜入♪
大原の集落に行ってみましょう。
…やっぱり静かだね、離島は。

  

これは大原の北西方面にある“豊原集落”あたり。
道の向こうに海が見える。
…どんより曇ってますけど。

   

その集落にある共同売店。
たぶん、この集落では唯一の店かと…
なので、お客さんも多く見受けられました。

   

オバァ、トイレットペーパーをお買い上げ。
もちろん、島の人にはご挨拶は欠かせません。
みんな、ニッコリと応えてくれますよ。

   
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