夜の市場


 Kが、「腹が減った!」と駄々をこねた僕を連れて行ったのは、またしてもあの『道の駅・許田』だった。
 「…結局、ここに来ちゃうわけね…」
 『道の駅・許田』の前で半ば呆然とする僕を尻目に、Kはしれっとしたふうに中へと入って行ってしまう。…仕方が無い。僕もその後に続く。
 それにしても、いつもながらこの『道の駅』には何だか人がたくさん居る。しかも、そのほとんどが地元のお客だったりする。地元の人が、沖縄の特産品を喜び勇んで買い求めるわけでもないだろうに…きっと、レジャー感覚で訪れているのだろう。家族連れでやって来ている人の多いこと多いこと。
 さて、僕らは真っ先に食堂に向かった。←この展開は、去年とまったく同じ。メニューを眺めて、僕はあれこれと考えた結果“ゆし豆腐定食”を注文することにした。←これは去年とちょっと違う展開。
 僕らのすぐ隣りのテーブルでは、ちょっとヘビメタ入ってるような衣装(金属類が著しく目立つ皮ジャン&頭にはバンダナ)を身に纏ったおにいさんが、メモ帳やカメラをテーブルに置きながら、そばか何かを食べていた。恐らくいでたちからしてツーリングか何かで沖縄を廻っているのだろう。で、そのツーリング旅行記みたいなものをメモ帳につけているのかもしれない。
 「ねぇ、ささきも“旅行記”書いてるんでしょ?メモとかしなくていいの?」
 「俺様はだなぁ、記憶力のみで勝負するのさ。って言うか、記憶に残らない程度のことだったら、わざわざ書く必要ないじゃん(それでなくても俺の旅行記なんて無駄話ばっかりなんだから…)」
 「ふ〜ん。確かに余計なことを良く憶えてるもんね、ささきは。去年もここに来たこととか」
 「忘れるか!去年も一昨年も、その前の年も来てるんだぞ!まるで『道の駅・許田』詣でに沖縄に来てるみたいじゃんか!Kの場合、だいたい行動パターンがいっつも一緒じゃん。“漫然と北部”、“なんとなく『琉球王国村』”、“宛ても無いのにコザ”。この3つは必ず織り込まれるんだよなぁ…」
 「…そう?」
 
 もう、彼の行動にいちいちケチをつけるのはやめよう。徒労だ。
 そうこうしているうちに“ゆし豆腐定食”が出来上がった。少し崩れたような豆腐が、ダシと塩で薄めに味付けられた汁と醸し出すハーモニーにすっかり気を良くして食べていたのだが…これが予想以上に満腹中枢を刺激する。食べ終わる頃には、ちょっと腹が苦しいぐらいになってしまった。まぁ、そりゃあ無理もない。何しろ僕らは沖縄に来てからというもの、その時間のほとんどを車の中でウダウダとしてばかり居たのだから。
 「運動不足になっちゃうよ、こんな調子で6日間ずっと過ごしたら…」 僕は少しだけ本気で心配になってきた。
 「大丈夫だよ〜。明日から八重山に行くんだから。離島で貸し自転車でも借りてさ、ちょっと島を廻ってればさぁ〜」
 僕はそんなKの言葉を聴きながら、(…へ?明日から八重山に?いつの間にそういう予定になってたの?)と内心思っていた。しかし、Kはなぜ「宮古島に行こう」と言わないんだろう。Kにとって、宮古はそれほどまでに魅力の無い島なんだろうか。…ハッ!ひょっとして、やっぱりKは小浜島に行くつもりで居るのかもしれない!あきらめてなかったのか、“ちゅらさんツアー”を!

 『道の駅』を発ち、レンタカーは一路、那覇を目指す。一旦「那覇に戻る」と決めると、Kはまず途中でどこかに寄る、ということをしない。そのままストレートにノンストップで那覇まで走り通す。
 「ああ、結局今年も最初の一日はこんな有り様なのかい…先が思いやられる感じ…後は、ホテルに戻って、部屋でテレビをダラダラと観て、それから夜の国際通りで飲んで、終わり。ここまで来ると、むしろ様式美さえ感じるね」
 こんなふうに、助手席でグダグダとKに文句を言う僕も、これまたまったくいつもと同じ。これもやっぱり様式美か?
 (一度でいいから、Kに文句を言わないで済む旅行をしてみたいものだ)と、僕は思う。様式美とは無縁の、斬新な沖縄の旅。だがしかし、それはたぶん永遠に無理だと思われる。俺って、なんだかんだ言ってスゴ〜ク寛容じゃんねぇ。普通だったら、こんなの付き合いきれないと思うよ、きっと。だって、毎年同じなんだから…いくら問題点を指摘したって、Kは絶対に自分の行動パターンを変えることが無いんだから…そんなKに付き合っていられるんだから、俺って偉い!とでも思わないとやってられない。
 
 いつの間にか、“俺=ツッコミ、K=ボケ”という役割が鮮明になってしまった。最初はこんなじゃ無かったはずなのに。フレキシブルにボケとツッコミが入れ替わる関係でありたい。そんな僕の密かな願いも虚しく…
 「あ!こっちの道路は一方通行か!失敗!…あ!こっちの車線は強制的に左折じゃん!なんだよ〜!」と、これまたいつもの調子でやんわりと進路を間違えるKさん。…もう、ツッコむ気力もありゃしない。
 

陽射しの強さは10月でもまだまだ全開!
クーラーなしでは過ごせません。
風が吹くと結構爽やかだったんだけど。

  


沖縄の墓石屋さん。
各部位ごとにしっかり価格表示。
やっぱり墓石って高価な買い物だよねぇ。

  

…何度同じ写真を撮ったことか…
もう見飽きちゃったよ、正直言って。
もちろん『道の駅』自体に罪はないけど…

  

おお!そりゃスゴイ!
1億円あったらなぁ〜。
今の会社なんかとっとと辞めちゃうのになぁ〜。

  

去年もここで食事をしたっけ(-_-;)
たしか、TVでオリンピックの柔道を見ながらね。
手軽なのはイイんだけどさ。

  

でも、ゆし豆腐は結構イケました♪
しかしこれって、見た目以上に腹にたまる。
ゆし豆腐&白米。この取り合わせは案外ヘビー。

  

“タンカン蒸しカステラ”が気になる。
が、満腹だったので買いませんでした。
右下のカラフルなヤツも気になるけど。

  

“沖縄珈哩”…ありがちな…
“ウコンカレー”とは違うものなのかなぁ?
“ゴーヤーカレー”なんてのもありました。

  

米軍基地。
これがあることのメリットとデメリット。
しっかりと見極めないといけないね。

  

 那覇に着き、レンタカーを返して、僕らは『那覇グランドホテル』まで歩いて移動する。
 途中、国際通りを歩くことになるわけだが、この国際通りもいつもと微妙に印象が違っていた。
 「心なしか、人が少ないような気がするよね…」 「そうだよねぇ、いつもはもっと活気があるよねぇ…」
 間違いなく、通りを歩いている人の数が少ないのだ。例年ならば、国際通りには観光客&地元の人がゴチャゴチャと混ざり合って居るのに、今日の国際通りはいつものようなゴチャゴチャとした感覚がほとんど無い。
 こんな様子を見てしまうと、どうしてもあのテロ事件が頭を掠める。この人の少なさが、果たして本当にテロ事件の影響なのか、はたまた沖縄の景気のせいなのか、ちょっと判別がつかない。もっとも、その両方が原因なのかもしれないけど…
 僕もKも、人で溢れかえるような場所はあまり好きではないけれど、そもそも人でごった返しているはずの空間がこうも空いていると、さすがに寂しい気持ちになってしまう。
 
 一旦ホテルにチェックインし、テレビでニュースを見る。ニュースではちょうど、テロ事件の影響で沖縄の観光業界が苦境に立たされつつあることを伝えていた。修学旅行を中心に沖縄旅行のキャンセルが相次いでいるとか、観光客が5%減少すると何億円単位での損害が発生するとか…挙句の果てに、時期を同じくして狂牛病騒動まで巻き起こっていて、八重山で行われた食用牛の競(せり)では予想以上の安値で取り引きされた、というニュースまでも…
 「何か、沖縄は踏んだり蹴ったりだなぁ…」
 「ホントだよね。せっかく“石垣牛”なんてオリジナル・ブランドの牛肉まで作ってるって言うのにねぇ…」
 テロのみならず、狂牛病にまで祟られた沖縄。どちらもヘタをすると命に関わる問題なだけに、無責任に「世間が騒ぎ過ぎなんだよ」のひとことでは片付けられないことだしなぁ…
 とにかく、ニュースを見ていると厭世的な気分になってしまうほどに、陰鬱な事象が多い。せめて旅行中ぐらいは、そんな憂世のことは忘れて居たいと思うんだけど…
 「あ〜!なんかヤ〜な気分になってきちゃうなぁ。そろそろ外に出ないか?」
 「そうだね。じゃあ飲みに行こうか」

 ホテルを出て、まずは国際通りや牧志の市場の辺りをほっつき歩く。
 僕は、こうして夜の繁華街をブラブラと歩くのが、結構好きだったりする。たぶんKも同じだろうと思う。行き交う人で賑やかな繁華街は、自由な空気と危うさを孕んでいて、何とも言えない魅力がある。
 …が、今年の街は少し様子が違う。とにかく人出が少ない。国際通りと言わず市場と言わず、軒並み人影が乏しい。こんなに寂しい那覇の中心街を見たのは、はじめてだった。
 牧志の公設市場にも、お客の姿はかなり少ない。いつもだったら、地元のお客と観光で訪れた人たちが入り乱れて、ワサワサと賑わっているこの市場だが、今日はすいぶんと閑散とした雰囲気だ。
 沖縄の不況は、何も今に始まったことじゃない。それでも、国際通りと市場界隈はいつも活気に溢れていた。それが…
 もしも、ホントにこの寂しい状況が“あの事件”の影響なのだとしたら、まったくとんだとばっちりだ。しかも、“あの事件”を発端にした戦争まで起こってしまっているとなっては、この先、沖縄が元のように観光客で活気付くという保証は、何処にも無い。…考えてみれば、沖縄はいつも戦争に翻弄されている。戦争の呪縛からなかなか開放されない。…それは、やっぱりここに米軍基地があるせいなのか。
 う〜む、ご時世がご時世だけに、ついついヘビーな方向に考えが向いちゃうよなぁ。

 夜の街の徘徊に一区切りつけて、僕らは居酒屋に入る。居酒屋は建物の2階にあって、窓からは国際通りが見下ろせた。窓からの様子を見ながら、僕らはちょっとばかり重い話をする。
 「もうこうなったらさ、世間を惑わす様々な風評被害に、身をもって抵抗していくことにしよう!」と、Kは無駄にいきがる。
 「? 身をもって、って?」
 「つまりだねぇ…(店員さんに)すみませ〜ん、牛のサイコロステーキくださ〜い!」
 「おお!沖縄で牛肉を食う!チャレンジャーだねぇ、K先生!」
 調子に乗って、あれこれと料理を注文したのだが、『道の駅』で食べたゆし豆腐がいまだに腹に響いていたせいで、僕もKも、あまり食が進まない。満腹感&アルコール摂取&前日までの睡眠不足のせいで、僕は体が鉛のように重たくて仕方が無い。Kも似たような状態だった。
 あくびばかりして料理に箸がつけられない僕を見て、Kが「ホテルに戻ろう」と言う。料理を残して店を出るのは躊躇われたが、とにかく一刻も早く眠りたかったので、僕はKの言葉に従ってホテルに帰った。
 ホテルの部屋に着いて、ベッドに着の身着のままで倒れ込む。
 「う〜、腹いっぱいッス〜。苦しいッス〜。眠たいッス〜」と言ったまでは憶えているが、その直後に爆睡してしまったらしい。
 明け方、ふと目が覚めると、服を着たまま掛け布団も掛けずに眠っている自分にちょっとビックリ。朦朧としながらも、とりあえず服を脱いで、再び眠ることにする。
 …ああ、時間を気にせずに心ゆくまで惰眠を貪れるのって、しあわせ〜♪
 

国際通りに連なる提灯。
沖縄と言えば、やっぱコレ♪
最近は他の銘柄も積極的に進出してるけどね。

  

これは…『琉球新報』の前。
掲示板に今日の紙面が張り出されてます。
男性がひとり、熱心に熟読中。

  

これまた毎度毎度の牧志の市場界隈。
アーケードの中は、やっぱり人が少なめ。
…これもテロの影響?

  

公設市場の中に入ってみましょ〜。
…って、もうぼちぼち店じまいする頃合。
片付けをしてる店もあったりして。

  

時間が時間だけにお客さんの姿もまばら。
…時間のせいばかりじゃないかもしれないけど。
那覇の街はいつもより静かだった。

  

店の片付けがてら、ゆんたくするアンマーたち。
市場の主役は間違いなくこのアンマーたち。
陽気な声が響いているのだが…

  

…やっぱり人が少ないような気がする。
あんまり「少ない少ない」と言うのもなんだけど…
気になっちゃうのだ、こういうの。

  

市場2階の食堂。
こちらにはお客が居ました。
ちょっとホッとしたりして。

  


ところで“ドラゴンフルーツ”って食ったことある?
僕はまだ食べたことがないんですけど…
美味いの?あれって。

  

アーケードの店の閉店は案外早い。
午後8時頃にはあちこちで店じまいが始まる。
お店の人も帰り支度。

  

スゴイね、この絵看板…
もはや何だかレトロな風格すらあるような、無いような。
デッサンも微妙に狂ってるし。

  

『三越』の裏にあった古〜い家。
あ、べつに怪奇写真とかじゃありませんよ。
果たして、人が住んでるのか否か…

  
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