『こはぐら荘』“いつものやつ”


 非日常的な『はいむるぶし』を出て、僕は集落に向かってのんびりと移動してみる。…まぁ、島そのものが東京暮らしをしている僕にとってはある意味非日常ではあるけれど。
 畑に囲まれた道を進んで行くと、“大岳(うふだき)”のふもとに差し掛かった。小浜島に来たことのある人の多くは、きっと登ったことが一度や二度はあるであろう、眺望がすばらしい山(と言うか、丘)だ。
 …でも、僕は実を言うと、この“大岳”に登ったことが無いのだ。4年前にここを訪れたときに、僕と友人Kは少し迷いながらも大岳のふもとまでやって来たのだが、「車を停める場所が無い」という理由でそのまま素通りしてしまったのだった。実際、この大岳のふもと周辺には、車をちょっと停めておくようなスペースも無く、かと言って山の周りの舗装路は路上駐車するには少々広さが足りない。
 「今日こそは登るぞ!大岳に!」と意気込んで、山頂の展望台に向かう階段の下にある茂みに、車を無理矢理突っ込んで停めてはみたものの、どうも落ち着かない。展望台までは10分程度で行ける、ということだが、こんなところに車を停めたままで、果たして登って行っていいものかどうか…う〜ん、悩むなぁ〜。……や〜めた。今日は少し花曇りのようなモヤモヤした天気だし、眺望にもあまり期待できそうに無いしなぁ。
 僕は、一旦登りかけた展望台への階段を下りて、そのまま車に戻って大岳を離れた。小浜島に来たくせに大岳に登らないなんて…しかも、二回来て二回とも登らず終いとは…ま、いいか。

 小浜の集落に入り、周囲を適当にグルグルと廻ってみる。相変わらず人の気配があまり無い、至って静かな集落の中をゆるゆると徘徊する。
 それにしても、例の『ちゅらさん』で脚光を浴びているはずの小浜島であると言うのに、観光客の姿さえさっぱり見掛けられない。去年、『ナビィの恋』で話題になった粟国島に行ったときには、観光客とも擦れ違ったし、ロケで使われた家などを探す人の姿も見られたが、ここ小浜島ではまったくそういう人と出くわすことが無い。もちろん僕だって「『ちゅらさん』人気で小浜島に未曾有の観光客が押し寄せて、島は大騒ぎ!」などという極端な状況になってるとは思わなかったけれど、それでも少しは“ロケ地巡り”を決め込んで彷徨っている人が居てもいいだろう、とは思っていた。ところが、今日の小浜島は、4年前に訪れたときと同じく、いや、ひょっとするとそれ以上に静かで人影が無い。…離島に人がごった返したりするのはイヤだけど、せっかく話題になっているときなんだから、もう少し活気付いていても良さそうなもんだが…
 

“シュガーロード”。
…要するに、サトウキビを運搬する道、ってこと?
だったら島じゅうがシュガーロードなのでは…?

  

小浜島の定番スポット・“大岳(うふだき)”。
海抜99mの小さな山。
登ると島一帯が一望の下に。

  

登ってみようかと思ったけど…
時間が無いし…やめておこ〜っと(^_^;)
いえ、決してめんどくさいから、ってわけじゃあ…

  


その“大岳”のすぐそばにヘリポートが!
緊急時に利用されるんだろうか。
他の離島にもあったっけ?ヘリポートって。

  

島のメインストリート(?)。
小浜の集落から港へと抜ける道。
この道沿いには小・中学校もあります。

    

これが『小浜小・中学校』。
果たして生徒はどれぐらい居るんだろう?
もちろん、ただいまは夏休み中です。

  

 そんなことを考えながら、宛ても無く集落をほっつき歩いていると、まるでそんな僕の心を見透かしたかのような絶好のタイミングで、『ちゅらさん』のロケ地“こはぐら荘”が目の前に現れた。ぜんぜん予測もしていなかった唐突な出逢いに、しばらく呆然としながら“こはぐら荘”を見つめてしまった。
 “こはぐら荘”は、集落の中にひっそりとあった。一見、ごく普通の八重山の古い民家といった趣きだ。…でもさ、よくよく見てみると、この平屋の小さな建物が民宿だという設定には、ちょっと無理があるような気がしない?一世帯住んでいればもう一杯一杯という規模の建物なのに、ここにお客さんを泊めるなんて…これじゃあほとんどホームステイな感じじゃんねぇ。ドラマをちゃんと見てないので何とも言えないけど、ここで民宿を営むのって、結構無謀な行為って気がする。
 “こはぐら荘”の中には、人の気配はなかった。このロケ地(セット?)は、空家か何かを利用しているんだろうか?それとも、誰かのお宅を拝借して撮影されていたんだろうか?建物には電線も引いていないようだし、たぶん誰も住んでないとは思うんだけど…そのわりに、縁側には“島ぞーり”が置いてあったりするし…
 しばらく僕は“こはぐら荘”の周りをウロウロと探っていたが、腹が減ってきたので、その場をさっさと離れ、どこかでご飯を食べることにした。

 集落のメインストリート(?)に『シーサイド』という食堂がある。この食堂には4年前にも来たことがあった。僕はここで食事を摂ることにした。
 店に入ると、お客は誰も居なかった。が、厨房の中には数人の女性が居て、みんな忙しなく調理をしている。ふと厨房のそばにあるテーブルを見ると、そこには白いポリ袋に入れられたお弁当が山のように積まれていた。おそらく20個近くはあっただろう。ポリ袋には“○○様”“△△様”と名前の書かれたメモが貼り付けられている。どうやら厨房の忙しさの原因は、このお弁当にあるようだ。
 「いらっしゃいませ〜」 厨房から女性が出て来て、水を持ってくる。「何にします?」と訊かれて、僕は空かさず「ポーク玉子、お願いします」と注文した。…ま、お約束、ということで。「あ、それと、カキ氷も。イチゴのヤツを」と追加オーダー。
 時計を見ると、船の時間まであと30分ぐらい。頼んだ料理がポーク玉子とカキ氷だし、すぐにテーブルに出て来るだろうと思っていたのだが、予想に反してなかなか料理が出て来ない。僕が料理を待っている間にも、店の電話は引っ切り無しに鳴り続け、お弁当の追加注文が続々と入ってくる。…この小さな島で、何ゆえこれほどお弁当の注文があるのか?まるで島中の人がお弁当を食べるかのような勢いだ。
 とにかく、僕の料理は一向に運ばれてくる気配が無い。11時の船に乗らなきゃいけないのに〜!!もう残り時間は10分を切ろうとしている。
 と、ようやくポーク玉子がテーブルにやって来た。
 「ごめんなさいねぇ、遅くなっちゃって。あ、それと、カキ氷でしたねぇ」
 「あの、ちょっと船の時間に間に合わなくなっちゃうので、カキ氷はキャンセルしてもいいですか?」
 「あら、そうですかぁ。すみませんねぇ、ホントに〜」
 僕は、少し焦り気味でポーク玉子を食べた。料理自体は美味しかったのだが、いかんせん時間に追われながらの食事では、そうそう味わっても居られない。
 

お!偶然発見!
ようやく『ちゅらさん』にちなんだものと遭遇。
…でも、ちょっと見つけにくそうな場所かも。

  

『こはぐら荘』。平屋です。
実際に民宿を営むにはちょっと小さ過ぎかなぁ。
雰囲気はあるけどね。

  

…誰も居ないみたい。
でも、何気なく島ぞーりが置いてあるし…
ここって、まさか普通の民家なのか?

  

電柱にしっかり看板も設置されてます。
ちょっと作り物くさいの気もするが…
電話番号も書いてある。…掛けてみる?電話。

  

ここは食堂『シーサイド』。
小浜島で唯一の食堂。
4年前にも利用させていただきました。

  

僕以外にお客さんは誰も居ない。
でも、店の厨房は大忙し。
弁当の注文の電話がが次々と引っ切り無しに…

  

相変わらず、これを注文しちゃいました。
やっぱり沖縄と言えばこれでしょ〜♪
(↑他の沖縄料理の立場は…)

  

 『シーサイド』を出て、港へと向かう。桟橋にはもうすでに船が着いていて、僕は大急ぎでレンタカーを返し、桟橋に移動する。
 船から降りた観光客は、一人残らず『はいむるぶし』の送迎バスや、“コハマ交通”という乗合バスにそのまま乗り込んでしまい、桟橋にはほとんど人が居なくなってしまった。
 さて、船で石垣に戻るのは…な、何と僕ひとりきり!!「イェ〜イ!貸切状態〜!!」と素直に喜べないなぁ…あまりに寂しすぎるよ、これじゃあ。
 出港間際に、恐らく工事関係で来ていたのだろう作業着姿のおじさんが二人、ドカドカと船に乗り込んで来たので、結果的には僕の貸切ではなくなった。ちょっとホッとしたりして。
 たった三人の乗客を乗せて、船は小浜島を離れた。
 …それにしても、何故だかどこか掴みどころの無いような気がする小浜島。4年前と同じく、やっぱり一番印象に残ったのは『はいむるぶし』だったり『コーラルアイランドリゾート』だったりするしね。それと孔雀。
 いかにも八重山の離島然としたのどかな風景の中に、突如現れるどこか浮世離れしたリゾート。それらがちっとも調和することも無く、まるで別世界のように存在する島。これを「面白い」と取るか「違和感」と受け取るかは、人によってそれぞれだろうとは思うけど。
 願わくば、小浜島が孔雀に占拠されなければいいなぁ、と。黒島が“牛の島”と称されるように、“小浜島=孔雀の島”なんてことになっちゃったりしたら…それはあまりにも不憫である。こうなったら、やっぱり食べるしか無いでしょ、孔雀を。“孔雀の肉入り八重山そば”とか“孔雀の親子丼”とか“孔雀の竜田揚げ”などの孔雀を使った名物料理を開発して、『クジャク食堂』や『スナック・ピーコック』といった店舗をオープンさせて、そこでこれらの“小浜名物・孔雀料理”を観光客の皆さんにご堪能いただく、というのはどお?
 …ダメだろうね、当然。
 

水平線の向こうに薄っすら見える竹富島。
西表・黒島も近い距離に隣接。
ある意味、八重山の中心かもね、小浜って。

  


港に着いたお客さんたち。
みんな、そのまま『はいむるぶし』のバスなどに直行。
どうりで島が静かなわけだよねぇ。

  

こうして見ると平坦な島のように見えるが…
想像以上に起伏があるんだよね。
侮ると痛い目を見ます。

  

小浜島、さいなら〜。
島を離れるときは、やっぱり少し寂しい。
島影がどんどん遠ざかる。

  
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