シャボン玉ホリディ


 “小浜”の集落は、島でもっとも賑やかな中心部だ。―― とは言っても、ホントにワイワイガヤガヤと賑やかなわけじゃなく、集落は実にひっそりと静まり返っていたんだけど。
 それにしても、夏休みだと言うのに子供が外に居ない。まだ朝早いせいかな?しかし、子供のひとりやふたり、見掛けたって不思議じゃないはずなのに、表で遊んでる子がぜ〜んぜん居ない。…まだ寝てるのかもなぁ。何しろ『いちばん星といっしょにおうちにかえろ!』なんていう標語が出来ちゃうぐらいだから(前ページ参照)、夜型社会・沖縄で生きている子供たちは、もしかすると幼い頃から夜型な生活を送っているのかもしれない。
 そう、でもこうして夏の沖縄に来ると、夜型社会になってしまうのも分かるような気がする。だって朝9時を回った時点で、すでにかなり暑い。陽射しが次第に強くなって来て、空と言わず空気と言わず地面と言わず、とにかくいろんなところからじわじわと気温の上昇を感じる。これじゃあ昼間にアクティブな行動をとるのはキツい。…真夏の真っ昼間の島でトライアスロンとかやって欲しいね。きっとリタイアする人が続出しちゃうだろうね。まさに“死のロード”って感じ。その過酷なレースを制してこそ、真の鉄人だ!でも、もちろん僕はそんなの参加しません。
 集落の中でときどき擦れ違うのは、オジィとオバァだけ。静かでのんびりとした空気が流れている。
 

ほとんど車も通らない。
静かな静かな小浜島。
観光のお客さんもそれほど居なかった。

  

“小浜”地区。
島で一番人口密度の高い集落。
店や学校もこの集落にあります。

  

石垣ばかりじゃなくてブロック塀も…
ときどきオバァやオジィと擦れ違う。
みんなホントに気さく。

  

石垣の隙間から咲いてた花。
…何の花だ?
相変わらず植物に疎くてねぇ(^^ゞ

  

もちろんありますよぉ〜、赤瓦の家も。
小浜の集落では結構多く見かけました。
やっぱり好きだなぁ、こういう家。

  

フクギと石垣と。
『島々清しゃ』の歌詞を思い出す。
個人的に大好きな島唄のひとつ。

  

 集落から少しだけ離れると、もうそこは畑。畑、畑、畑。
 そんなのどかな風景をぼんやりと眺めながら車をトロトロと走らせていると、畑だか荒れ地だかよく分からない草地に、なにやら鳥のような生き物がチョロチョロとうごめいているのが見えた。
 …ん?あれって、孔雀じゃないの?
 その孔雀と思しき生物は、僕の気配を感じるや否や、猛烈な勢い&スピードで走って逃げて行った。…間違いない、あれは孔雀だ。しかし、なんだってこんな畑の中に、まるでニワトリやスズメのような感じで孔雀がうろついてるんだ?誰かが飼育してるのか?
 そう、孔雀といえば、ここ小浜島の東側にデ〜ンと陣取る一大リゾート『はいむるぶし』の中で、孔雀が放し飼いされているのを見たことがある。ということは、この畑に居る孔雀は『はいむるぶし』から逃走してきた孔雀?それとも、後々『はいむるぶし』に納められる予定の孔雀?
 僕がそんなことを考えながら、さらに少しだけ車を走らせると―― 居る居る、他の草むらにも。僕が肉眼で確認できただけでも8羽の孔雀が畑で生息していた。で、それらの孔雀はすべて、人の気配を察知すると、まるでこの世の終わりのような慌てふためき様ですっ飛んで逃げ去って行く。…これって飼われてるのか?いや、怪しいな。きっと『はいむるぶし』から逃げて来たんだ。もしくは、『はいむるぶし』で飼われていた番(つがい)の孔雀が作った子供が半野生化して、敷地内から飛び出して来たか。
 いずれにせよ、こういう違和感バリバリな生き物が居るのって、島の生態系とかに悪影響を及ぼしたりしないのかなぁ?
 
 と、暫(しば)し孔雀に気を取られてしまったが、僕は次の目的地をすでに決めていた。行き先は、『コーラルアイランドリゾート』だ!
  

分かるかなぁ?孔雀が居るの…
ちょうど真ん中辺りにある木の根元あたりに2匹…
なんで孔雀が放し飼いされてるの?

  

のどかな風景の連続。
これまた沖縄の(とりわけ離島の)魅力。
時折牛やヤギの鳴き声も聴こえてきて…

  

道路のすぐ脇に佇む牛。
…って言うか、そこ、歩道だよ…
それじゃあ、人が歩けないじゃん…

  

夏と言えば、これでしょ〜。ひまわり。
サトウキビ畑の横に咲いてました。
でも、沖縄で見ると何故か新鮮。

  

道の向こうに西表島が薄っすらと見える。
なかなか気持ちの良い一本道。
未だに未踏の地・西表。いつかはきっと行くぞ〜!

  

 『コーラルアイランドリゾート』は、4年前とまったく変わらない姿でそこにあった。…ん?でも、なんだか様子がおかしい。エントランス・ホールへと続く緩い坂を下りて行くと、どうも周囲の建物には人の気配がまったく無く、それどころか建物自体が随分とくたびれた状態になっている。つまり“荒んでる”のだ。ひょっとして、潰れたのか?ここは…
 エントランス・ホールに近づくと、その疑いはハッキリとした確信となった。ホールの前にある池は干乾び、横付けされた送迎バスは、まるで誰かが暴れた後のように窓ガラスが割れていて、一目見ただけで“廃車状態”だと分かる荒れ具合。
 …廃業しちゃったんだぁ、このホテル…
 僕は、敷地内を車で適当に流してみた。別荘が立ち並んでいるような瀟洒な宿泊施設は、それだけを見ていればとてもゴージャスな雰囲気に満ちていて、ここが廃ホテルだとはちょっと気づかないほどだ。ただ、周りの静まり返りようは尋常じゃなくて、まさしくゴーストタウンを思わせた。
 別荘風の宿泊施設の中は、営業当時のままで残っているのかもしれない。窓越しにレースのカーテンや飾り机なども見えたしね。なんだか、これで人が誰も居ないほうがかえって不自然に感じるぐらいに、施設はさほど荒むこともなく取り残されていた。

 しかし、再びエントランス・ホールに戻って、その周囲や内部を覗き込むと…それはまさしく廃墟だった。
 ガラス越しに見えるホールの中は、備品や何やらがゴロゴロと散乱していて、全体に砂埃でくすんでいた。ホールを囲むように作られた水路には当然水は無く、錆び付いたライトアップ用の照明器具や循環機の類が剥き出しになっていて、底には赤黒い水苔の名残が見えるばかり。外装もあちこちが少しづつ崩れているし、テラスに放置された洒落た白いテーブルセットにも、砂が堆積していた。ちょっとばかり、ディズニーランドの『ホーンテッド・マンション』と印象が重なる。
 僕は、テラスに佇んで少しやるせない気分になった。はたしてこの『コーラルアイランドリゾート』というホテルが、以前はどの程度繁盛していたのかは知らないけど、少なくともかつてはここに宿泊客が訪れて、きっと日常を忘れるようなリゾート・ライフを味わったはずだ。それが、今ではこの有り様だ。
 実はね、4年前にここを訪れたときにも(と言っても、泊まったわけじゃなくてただ見に来ただけなんだけど)、正直言ってかなり疑問に思ったのだ。「小浜島に、こんなデカいリゾートホテルなんか作って、わざわざ泊まりに来る人なんて居るのかなぁ?だってさ、この島にはもう一箇所、『はいむるぶし』というスゴイ施設があるって言うのに…」ってね。
 八重山に来るお客さんって、案外こういう“極上リゾート”なものを求めて居ないような気がするのだ。そう言った雰囲気を味わうのであれば、何もわざわざ小浜島まで来る必要も無いわけだし。石垣島にも同様のホテルはいくつもあるし、もっと言ってしまえば沖縄本島でも充分だろう。何か、「ここまで来なくちゃ味わえない付加価値」が必要なんだと思う。で、それはたぶん『はいむるぶし』には存在していて、残念ながらこの『コーラルアイランドリゾート』には足りないものだったんだろうと。
 
 あの、“バブルの時代”と言われた経済的には豊かだったかもしれない、10年ぐらい前の日本。巷ではエンヤだのグレゴリオ聖歌だのといったスピリチュアルな音楽が流行りはじめ、有機栽培の野菜がもてはやされ、エビアンだボルヴィックだペリエだと、ミネラルウォーターを飲むのが常識、みたいな風潮が定着しはじめた。「物質主義から精神主義へ」なんて言ってね。しかし、そういったものを追い求める姿自体が、すでにメチャクチャ“バブリー”に思えて仕方が無かった。その最たるものが“リゾート”だったのかもしれない。
 …でも、僕だって偉そうなことは言えないよなぁ。考えてみれば僕だって、決して安くない交通費を支払って、こうして沖縄までやって来ては「やっぱりイイねぇ、青い海と静かな島は♪」なんて浮かれたりしみじみしたりしてるわけだからね。リゾートを求める人たちと、それほど大差は無い。
 
 …そうだ。ここはやっぱり『はいむるぶし』にも行ってみなくちゃな!『ちゅらさん』が話題になるまでは、「小浜と言えば『はいむるぶし』」と言っても過言では無い、ってぐらいに有名なリゾート施設だもんね。“こっち”がダメで、“あっち”が生き残ってる理由が一体何であるのか、現場に行って徹底検証!…と言うのは大ウソで、ただ単に、あの笑っちゃうぐらいリゾートしてる場所を物見遊山してみたかっただけ。僕だって『はいむるぶし』だったら泊まってみたいと思うもん。ど〜せ“リゾート”を名乗るのであれば、あれぐらい徹底してくれないとさ。
 僕は廃墟と化したリゾートを離れ、もうひとつのリゾートを目指すことにした。
 

これが『コーラルアイランドリゾート』だ!!
…って意気込むこともないか。
パッと見、キレイなリゾートホテルでしょ?

  

貸別荘スタイルの宿泊施設が立ち並ぶ。
まったくリッチな雰囲気でございます。
…もちろん、誰も泊まってないけど。

  


チャペルだって完備!
ここで幸せな結婚式をしたカップルも居ただろうに…
何だか寂しい気分になってきた…

  

エントランス・ホールの裏庭。
さすがに、あちこちくたびれてるのが分かる。
…栄枯盛衰って感じだね。

  

リゾートですからねぇ、
当然、海だってバッチリです。
小浜の海、独り占め!…だったんだろうねぇ。

  

あの真っ平らな島影は…竹富島かな。
それにしても、人の気配の無いホテルって妙。
何だか時間が止まっているような感じがする。

  

営業中は一泊2万円〜。
この宮殿調の建物の朽ち加減が物語る、
儚(はかな)い夢の跡。

   
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