はすれども姿は見えず
多良間・一日目・その5


 …さっきから、同じようなところをグルグル周ってるんだよなぁ。ところで、海ってどっちに行けば行かれるんだろう?
 とか何とかうろついていると、『土原ウガン』に辿り着いた。さっき(2ページ前ね)見た『ヒトマタウガン』が“塩川”という部落の八月踊りの舞台になるのに対し、この『土原ウガン』は“仲筋”という部落の人々が八月踊りをする場所。
 さっきの『ヒトマタウガン』と比べると、こっちの『土原ウガン』のほうが“御嶽”っぽい雰囲気は強いような気がする。ウガンの奥にはフクギやガジュマルの樹が鬱蒼と茂っていて、辺りには荘厳な空気が満ちている。
 もちろん、ここにもしっかりとコンクリート製の舞台が設置されている。こういうのを見てると、やっぱり実際に八月踊りを見てみたいなぁ、という気持ちが沸々と。
 
 『土原ウガン』からそのまま再び『多良間村役所』まで戻って、僕は『ちとせ旅館』の前を通って海に出てみることにした。村役場の前にある、例の“多良間島マップ”をもう一度じ〜〜っくりと見て、海の位置を確認する。…しかし、どうも地図を見ただけじゃ距離感がいまいち掴めない。海は遠いのか近いのか?う〜む、よく分かんないなぁ…
 ま、いいや!とりあえず行ってみようじゃあないか!
 だんだんと陽が翳ってきて、ほっつき歩くのもそれほど辛くなさそうだしね。…って、これって“陽が翳ってきた”んじゃなくて、“曇ってきてる”んじゃないの…?やっぱり台風が雲を連れて来てるのかもしれない。ただ、さっきの『八重山遠見台』で体感した強風は、集落の中ではまったく感じられない。むしろ、風は次第に治まって来ている気さえする。いいぞ!この調子だ!これだったら明日の飛行機は飛ぶかもしれない!台風よ、どうかこのまま大人しく、さっさと何処かの大陸に速やかに移動しちゃってください!
 ―― と、淡い期待を抱いていた僕だけど、実はこの多良間島って、島の外周を防風林が、さらに集落の周囲にもちょっとした防風林のようなものが設けられているのだ。なので、集落の中を風が吹き荒ぶことって、あまり無いみたい。つまり、僕はすっかりぬか喜びさせられている、というわけだ。
 そうとは気づかない僕は、風の存在感の薄さにだいぶ気力を取り戻し、意気揚揚と海を目指しほっつき歩きを開始。
 集落の中では、相変わらず村長選挙の街宣カーが右往左往している。
 「村民の皆様〜、お騒がせ致しまして、大変申し訳ございませ〜ん。兼浜、カネハマ…」
 「沿道からお手を振っての暖かい応援、ありがとうございます!下地、シモジ…」
 あぁ〜、うざってぇ!たまたま僕の脇を通り過ぎる街宣カーを「うるさいよ!」という気持ちを込めて見つめると、
 「応援ありがとうございます!兼浜朝徳、ご声援にお応え出来るよう、誠心誠意を込めて頑張ってまいります!」と、僕に向かってスピーカーで言い放ち、車の中からはお揃いのTシャツを着たおばちゃん達が一斉に千切れんばかりに手を振ってきた。
 …応援なんかしてないっつ〜の!と、心の中で叫びつつも、ついついつられてヘラヘラと笑い返しちゃう自分がイヤだなぁ。
 

…こういう写真、もう見飽きた?(^_^;)
でも、いいでしょ?こんな道。
木蔭だと暑さも嘘のように和らぐんだよねぇ。

  


ビニールハウス。何を栽培してるのかは不明。
って言うか、これ、使われてないのかも…
ビニールを突き破って蔓が出て来てるし…

  

『土原ウガン』。
立派なガジュマルやフクギがウジャウジャと。
かなりディープな感じです。

   

ここが“拝所”かな?よく分かんないけど。
木の根が臓器のようにも見えますが…
我ながら、イヤな例え。

  

集落の中心部にあったお店。
営業してるのかしてないのかよく分からない。
…呑み屋は、どこも似たような状況…

  


左の写真の店の脇。泡盛の紙ケースが山積に。
…ということは、ちゃんと営業してるってこと?
そのわりには入り口が随分殺伐とした感じだったけど…

  

ちいさな拝所が集落の中には結構ありました。
普通の民家の横や、庭先にも。
拝んでいる人も、何人かお見かけしましたし。

  
MOVIE

選挙活動真っ最中!
静かな集落に響き渡るマイクロフォン越しの声。
(こんなムービー、見る価値無し?!)

 『ちとせ旅館』の前を通過し、そのまま海に向かってまっしぐら!
 “前泊港”に続く一本道を、グングンと進んで行く。その道沿いには、いくつかの史跡が点在している。
 ちょっと前に見た『ウプメーカ』も、この道沿いにあった。で、その『ウプメーカ』の斜向かいに、『アマガー』という、湧き水の湧く天然洞穴がある。
 沖縄の離島って川がないので、昔はとにかく“水の確保”がとても重要だった。“カー”とか“ガー”とか呼ばれる井泉は、島の人に多大な恩恵を与えてきたわけね。
 で、この『アマガー』なんだけど、昭和の中頃まで実際に使われていたそうだ。穴の入り口から井泉までは30mの距離があって、足で水の在り処を探りながら水を汲んだらしい。「たかが水」なんて言ってちゃダメだよなぁ。水って大切だよねぇ。もっと普段から感謝しながら使わなきゃいけないな。「東京の水道水なんて不味くて飲めない!」なんて罰当たりな話だよ、こういう生活があったことを思えば。
 …と言いながら、『アマガー』のすぐ近くにあるジュースの自販機で“さんぴん茶”を買って、味わう間もなく一気飲み。水の有り難味がどうとかこうとか言える立場じゃないか。何しろ500mlをほんの数秒で一気飲みだもんなぁ…
 僕は、ちょっとこの『アマガー』の中に入ってみようかと思って、洞の入り口に近づいてみたのだが、中は真っ暗だし、虫か何かが居そうだしで、入るのを止めた。いにしえの人々が「この意気地なしが!」と嘲笑する声が聞こえてきそう…
 
 さらに海のほうへと進んで行くと、『運城御嶽』がお目見えする。
 それにしても、やっぱり多良間島には“御嶽”が多い。そう広くない集落の中に、きちんとした御嶽が9つ(だったと思う)もある。この“御嶽密度”の高さは、他の島と比べても相当いい線いってるんじゃないだろうか。“御嶽マニア”にはきっと堪えられないナイスな島、…かも。もっとも、“御嶽マニア”なんて人が居れば、の話だけど。
 僕は、さすがにマニアとまでは行かないまでも、かなりこの手のものに心惹かれるタイプの人間なので、これらの御嶽の放つ得も言われぬ崇高な趣にすっかりご満悦。
 はぁ〜、来てよかったかなぁ。僕が今回の旅先を多良間島に決めた理由のひとつが、「あまり観光客が居ない島で、のんびりまったり“島の風情”を堪能する」という、何ともジジイ臭い目的を果たすためだったので、そういう意味では、ここ多良間島は実に最適な場所だったとつくづく感じる。気の利いたビーチがあるわけでも無いし、とびきりイカシた観光スポットがあるわけでも無い。でも、たまにはこういう旅行もイイもんだよねぇ…俺の場合、こんな旅が多すぎ、って気もするけどねぇ…
 
 さて、僕は当初の「海に行く」という目的をすっかり忘れ去り、無意識のうちに『運城御嶽』の先のT字路を、またまた集落方向に向かって曲がってしまった。辺りの様子をボ〜ッと眺めつつ歩きはじめてしばらくして、「あ!俺はナニやってんだ!も〜バカじゃないの?海に行くって決めたじゃん!」と、自分の執った行動に我ながら呆れてしまった。なんだろう?いつも以上にぼんやりしてるよな、俺…やっぱり、頭の片隅に絶えず“台風”のことがあるせいかもしれない。「明日、飛行機が飛ばなかったら…」という不安と、「その場合の(会社に対する)対処法は…」という煩悶が、僕の思考能力をどこかで麻痺させているような気がする。
 空と風の具合を確認する。空は、晴れてるような曇ってるような、非常にファジーな様相を呈している。風は、強いようなそうでも無いような、これまたハッキリとしない。“ザ・グレイトタイフーン”ってな人間だって平気で吹っ飛ばすような暴風が吹き荒れているのであれば、僕だってスッパリとあきらめることが出来る。でも、「紙なら飛ばされちゃうだろうけど、曲がりなりにも飛行機って金属で作成されてるんでしょ?この程度の風で金属製品がどうにかなっちゃう、ってことは無かろうに…」というような程度のこの風では、どうも素人の僕には判断が付かない。
 と、そのとき、僕の頭上で“ゴォォォォ〜ッ”という轟音が聞こえてきた。これは!!僕は空を見上げる。この音は間違いなく飛行機の音だ!どこだ?飛行機はどこだ?!
 しかし、上空は花曇りのような薄雲に覆われた状態で、飛行機の姿を確認することが出来ない。…う〜む、この時間に多良間空港を離発着する飛行機は無いはず…とすると、自衛隊か米軍の飛行機か?いや、今問題なのはどこの飛行機かじゃない!とにかく“多良間島上空を飛行機が飛んでいる”ということが今は一番重要なのだ!
 …ヨ〜シ!正体不明ではあるが、飛行機がゴォォォォ〜ッと飛んで行ったのは、紛れも無い事実だ。この調子だったら、きっと明日の飛行機は飛ぶ!僕のこのモヤモヤとした不安な気持ちは、きっと明日になれば「取り越し苦労もいいところだったよなぁ。台湾辺りをウロチョロしてる台風ごときにビビっちゃってさ。まったく小心者&ウツケものだよなぁ、俺って。ハハハハハ」なんて苦笑いしながら、9人乗りの飛行機の機内で胸を撫で下ろしているに違いない!もう目に浮かぶもん、そうしてる自分が。

 しかし、現実はそう上手くは行かない。それを思い知らされるのは、僕が海岸に出た瞬間だった。
 

ヤギ。何故か小屋の窓に上ってますが。
でも、逃げ出したりはしませんでした。
メェメェと、うるさいぐらいに泣き叫んでます。…暑いから?

  

『ちとせ旅館』全景。
コーラの自販機、とても重宝しました。
僕の部屋は一番手前の2階の角部屋。

     

旅館の前にある廃墟。かなりインパクトあり。
旅館のおばちゃんはこの中に洗濯物を干したりしてる。
…いいのかなぁ?勝手に使って…

  

こういう古〜い家屋は意外と少ないです。
ひょっとすると、これは無人の家かも。
電線が引かれて無いし。…倉庫なのか?

     

島ならではの創意工夫。
雨どいからパイプを引いて、雨水を貯めている模様。
こういうの、あちこちにありました。

   

ヤギが居れば、もちろんこの方たちも。
民家の中に突如出没するので、ちょっとビックリ。
馬だって居ましたよ、この集落には…

  

『アマガー』。かつての島の給水源。
一見、ただの空き地っぽい印象ですけど。
草むらの向こうに、ぽっかりと洞が口を開けて…

   

…中に入れるみたいなんだけど…
懐中電灯とか持ってないと厳しそう。
遠慮しておいたほうがいいような気が…

   


“前泊港”へと続く道。
道の両側には畑と並木と家畜。
この先に『運城御嶽』があります。

  

『運城御嶽』。厳かな気分になりますなぁ。
基本的に、僕はあまり御嶽の中には入りません。
島の人に怒られそうな気がするから…(^_^;)

  
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